嘘吐少女ノ魔女愛談   作:アリマリア

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 または、────





宝生マーゴの世界が終わる日
宝生マーゴの世界が終わる日(1)


 

 

 

 共に魔女裁判を終わらせた仲間たちが、マーゴに時折言うことがある。

 

「お~、マーゴちゃん、妖艶なのもいいけど、そういうのも似合うよ~!! おじさん良いと思う!!」

「ほーん。マーゴってなんか黒い印象あったわ。あれ、紫だっけ? 蝶の印象が強いんだよなぁ」

「マーゴ君、フェミニンな装いも良いが、ガーリーも似合うね! どうだい、今度一緒に舞台に立ってみないかい? 君なら私の隣でも輝きを損なうことはないよ! え、誰にでも言ってるでしょうって? いやいやそんなことはないよ! 今の君はまさしく姫君! お城の中に囚われた君を救い出す私は、きっと絵に……あれ、ちょっと待ってくれたまえよマーゴ君、ねえ! ねえってばあ!」

 

 言い方はそれぞれ違っているが……。

 要約すれば、少々意外な装いをしている、というものだ。

 

 

 

 というのも、彼女たちの中ではやはり、マーゴといえば和装のイメージが付いているのだろう。

 

 牢屋敷の日々で身に付けていた彼女の衣装は、白黒紫をベースにした、蝶の飾りの付いた華美な和装。

 15歳の少女が着るにはやや大人びているそれを、マーゴは艶美に着崩していた。

 

 彼女の年齢にそぐわぬ豊満な体付きもあって、少女たちからは、年上の大人のように思えたのだろう。

 実際には、ミステリアスクール美女風ポンコツ妹系美少女こと、黒部ナノカが最年長だったのだが。

 

 しかしそもそも、その和装はメルルが用意したものに過ぎないし。

 着崩していたのは、外部に向けた強気のアピールに過ぎなかった。

 

 疑いの日々が終わった今、牢屋敷は気を張る必要もない平和の中にある。

 マーゴもまた、多少なりとも気を緩め、定期便で取り寄せてもらった私服に身を包んでいるのだが……。

 

 その大半が、白を基調とする、ワンピースやブラウス、プリーツスカートを使ったガーリーな年相応のもの。

 

 それらを身に纏う彼女は、魔女裁判の日々よりもずっと幼く……。

 いいや、ようやく年相応の少女のように見えただろう。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そうしてその日もまた、マーゴは白とブラウンに彩られた長袖ワンピースを纏い、自室でノアやアンアンと過ごしていた。

 

 本日3人が興じているのは、ボードゲーム。

 最近牢屋敷でひっそりと流行っている、リソース管理型の対人ゲームだった。

 

 3人の中だと、特にアンアンはこれをやり込んでおり、牢屋敷の少女たちを誘っては無双したり運負けしたり、毎日楽しそうにしている。

 両親が完治して以来かなり明るくなった彼女は、そこそこ外向的に活動し始めていた。

 

 ちなみにアンアンは何度かミオンも誘ったことがあるらしいが、「100%読み負けするから勝ち目がない」と悔しそうにしていた。

 更に腕を磨いてリベンジする予定、とのことだった。

 

 

 

 そんな、熟練者と言っていいだろうアンアンに対し。

 ノアはプレイしたこと自体は少ないものの、その天性の直感で上手く立ち回ることができ。

 マーゴは心理戦に強く、特に相手の行動の先読みと心理誘導に長けている。

 

 そんなわけで、彼女たちの勝負は、割と五分五分の戦況に落ち着いていた。

 

 ……マーゴが変なことをしなければ、だが。

 

「……おいマーゴ、お前、先程から6ばかり出てないか?」

「運が良いだけよ♡」

「む~~~、アンアンちゃん、マーゴちゃん今嘘吐いた!」

「やっぱりな! マーゴ、イカサマしているなッ!?」

「あら、心外ね。ただ6が出やすい振り方をしてるだけなのに」

「詐欺師時代のスキルか。それではイカサマではな……いや待て、ダイスの結果が運以外で決まっては不公平だろう!?」

「ずるだー! マーゴちゃんずるっこだー!」

「あらあら、技術を振るうこともできないなんて、寂しいわねぇ」

 

 

 

 マーゴが少しだけズルをして、アンアンとノアが結託してぶーぶー責め立てる。

 

 勿論、お互い本気ではない。じゃれ合いの範疇である。

 人の困った顔や怒った顔の好きなマーゴだ。牢屋敷にいる間もいたずらすること枚挙に暇がなく、それがノアやアンアンに向くことも決して珍しくはない。

 

 しかしそこにあるのは、詐欺師という彼女の生業故の、自らを超然的に見せるための示威ではなく……。

 この程度のからかいは許してくれるだろうという、相手の寛容さへの甘え。

 

 仲を深めたからこそ垣間見える、マーゴの悪戯っぽい側面を、ノアもアンアンも受け入れ、むしろ嬉しく思っていた。

 誰も信じないと言って孤独に生きていた彼女が、無意識にではあれど、寄りかかってくれているのだ。嬉しくないわけがない。

 

 

 

「はい、それじゃあノアちゃんの番よ」

「ん~……じゃあこれ! お薬もらう!」

「む、そう来たか。ノアは的確にわがはいのやりたいことを潰して来るな……。流石だ」

「えへへぇ~」

「じゃあ、私はこっちかしら? そろそろ移動したいしね」

「ふっ、その選択は甘いぞマーゴ! 喰らうがいい、伏せていたわがはいのデストラップ!!」

「甘いのはどっちかしら? 手札からブースト発動でトラップ回避♡」

「なんだとぉーっ!?」

 

 そうして3人は、今日も平穏な日常を送っていたのだが……。

 

 その時。

 

 

 

『マーゴさん、聞こえるかな』

 

 

 

 唐突に。

 マーゴの脳内に、ここにはいないはずのミオンの声が響いた。

 

「あら?」

「ん? どうかしたか、マーゴ」

「マーゴちゃん?」

 

 不思議そうに目を向けて来る2人の様子からして、ノアやアンアンには聞こえていないらしい。

 魔法によるものか、と得心がいったマーゴに対し、更に声が続く。

 

『【伝言】の魔法だ。これは君にしか聞こえていない。

 さて、マーゴさん。悪いんだが、可能な限りすぐに牢屋敷の正面玄関前に来てほしい』

 

 ……ミオンにしては珍しく、少し余裕を乱しているような言い回しと声音。

 マーゴは内心で当惑しながらも、2人に笑顔を向けて言う。

 

「ごめんなさい、管理人さんに呼び出されちゃったみたい」

「む……勝負はお預けか」

「のあたちも行く?」

「そうだな。ミオンが呼び出す以上、何か大きい用件かもしれん。

 わがはいたちで手伝えることがあればいいが」

「ありがとね、2人とも。それじゃあ行きましょうか」

 

 そうして3人は急いで身支度を整え、玄関前へと向かった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 部屋を出れば、肌に刺さるような寒気を感じた。

 いよいよ冬が迫り、気温が下がっている頃合い。

 引きこもりがちなアンアンなんて、ぶるりと震えて今にも部屋に戻りたそうな顔をしている。

 

 その一方で、マーゴとしては、気温以上にミオンの言葉が気にかかっていた。

 

 「可能な限りすぐに来てほしい」……。

 常に穏やかなミオンが言うには、少しばかり余裕を欠いているように聞こえた。

 いつもなら「〇時に来てほしい」とか「急がなくていいからね」とか、そんな言葉を添えて来るだろうに。

 

 少々、不穏なものを感じないでもない。

 気持ち早足で、彼女は目的地に向かった。

 

 

 

 歩くこと数分。

 牢屋敷の玄関ドアを開けた先に、果たして彼はいた。

 

 ミルクのような白い髪に、少し垂れ目がちな目元。

 いつも通りの、冬の朝に立ち込める霧のような、掴みどころのない雰囲気で……。

 

 しかし、いつも柔らかな微笑が浮かんでいたその顔には、今、微かに他の感情が浮かんでいた。

 

「マーゴさん。それに、ノアさんとアンアンさんも来てくれたんだね」

 

 人の顔色を窺うのに長けたマーゴをしても、正確に推し量るのが難しい程の微細な変化だったが……。

 その感情の名は恐らく、【罪悪感】や【申し訳なさ】だろうか。

 

「急に時間を取らせてしまって申し訳ない。それも、今回は恐らく、こちらの不手際だ」

「不手際?」

「ああ、お恥ずかしいことに……ちょっとばかり、行き違いがあったようでね」

 

 ミオンはどうにも困ったように表情を歪め、事情を語り始めた。

 

 

 

「結論から言うと、今からこの島に、ゲストがいらっしゃるんだ」

「ゲスト……定期便ではないのよね?」

「ああ。本来ここに来るはずのないお客様、だね」

 

 それは、今の監獄島としても滅多にない……というか、マーゴにとっては初めてのことだった。

 

 ミオン曰く。

 彼女たちのいる牢屋敷は、魔女因子による被害を受けた少女たちの安息地だ。

 

 自分たちを裏切った国に不信感を抱き、本土へ帰ることを拒む少女たち。

 彼女たちは、日本にとって償うべき被害者であると同時、秘すべき情報を知る弱点でもある。

 日本政府の敵対存在や、現行の政権打破を目指す輩にとって、少女たちは狙う価値のある標的になり得るわけだ。

 

 そんな不逞の輩から少女たちを隠し、守る。

 そのためにも、この島は外部から秘匿され、切り離されているのである。

 

 勿論、外部から人間が一切入ってこないわけではないが……。

 日本政府との折衝やトラブル解決に関しても、管理人であるミオンがこなしているため、住人である少女たちが外部の人間に出くわすことは殆どない。

 むしろ、ミオンは少女たちを守るためだろう、極力そんな機会を減らそうとしているように見えた。

 

 

 

 それなのに今、マーゴは、お客様が来るという現場に呼ばれた。

 そこには、何かしら理由があるはずだ。

 

「私はなんで呼ばれたのかしら?

 一応、多少話が上手な自負はあるけれど……それも管理人さんに勝てる気はしないのだけれど」

 

 ここに呼ばれた意味を問うマーゴに対し、ミオンは一瞬眉を寄せて。

 

 そして、言った。

 

「君に、会いたいという人がいるらしい」

「……え?」

 

 

 

 ……宝生マーゴは、流れる平和な日々の中で、忘れてしまっていたのかもしれない。

 

 黒い服を脱ぎ去り、純白の衣装に身を包んで。

 あの日を境に生まれ変わって、これからは穏やかに暮らしていけると、新しい自分になったと、錯覚していたのかもしれない。

 

 けれど。

 

 グロテスクな暗い過去は。

 そして、彼女の恐れる【愛】は。

 振り払おうとして、振り払えるものではない。

 

 それは、足掻けば足掻く程にはまり込む、底無し沼のように。

 彼女の足と背に纏わりついて、離さないのだ。

 

 

 

 

「君の父親を名乗る男性が、今、ここに向かっているらしい」

 

 

 

 その言葉に。

 

 マーゴの思考は、完全に停止した。

 

 

 







 今章、ちょっと重めの話になります。



(余談)
 カットインボイス熱すぎる!!!
 困ったことにもう3周する時間がないのが苦しい……!

 でもツインバレルなのちゃんが修正されちゃったのはちょっと悲しいな……。
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