嘘吐少女ノ魔女愛談   作:アリマリア

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牢屋敷の新管理人(2)

 

 

 

 樋口ミオン。

 そう名乗った、牢屋敷の管理人になるという少年は、穏やかな笑顔で語った。

 

「まず最初に言っておくと、だ。

 僕は国から遣わされたエージェントなわけだけど、国も僕個人も、君たちを害そうって気は欠片もない。

 国のためとはいえ、君たちを理不尽に傷つけてしまったことは、僕らの罪。僕らが10割悪い。

 それを少しでも償うため、君たちには可能な限りの便宜を払うことになっている。

 この屋敷に残った君たちにも、ぶっちゃけ言えば、働かずしても楽しく生きていけるくらいには補助が入るようになってる。その点は安心してほしい」

 

 その言葉に、幾人かの少女たちが胸を撫で下ろす。

 最悪の展開……つまりは、再び問答無用で国が殺しに来るようなことはなかった、と。

 

 だがその一方で。

 大半の少女たちは、厳しい表情を崩さなかった。

 

 その理由は単純で……。

 彼の発言には、全くと言っていい程に【証拠】も【信頼】もないからだ。

 

「とはいえ、みんな国に殺されたかけた被害者だ。国から来た僕の言葉も、信用なんかできないと思う。

 ま、だからこそ、頑張って信頼してもらえるよう、これから頑張るよ。

 ひとまず、炊事洗濯掃除はお任せあれ。今日からお嬢様たちには、遊んで暮らせる毎日をプレゼントするよ」

 

 そう冗談めかし、白髪を揺らして笑う彼は……。

 身に纏ったスーツや、どこか落ち着いて見える立ち振る舞いに反し、年齢の程はマーゴたちと変わらないように思えた。

 

 

 

 そのギャップに内心で困惑しながらも、余裕の態度は崩さないまま、マーゴは口を開く。

 

「なるほど、わかったわ。改めていらっしゃい、新しい管理人さん。

 私の名前は、宝生マーゴ。

 あなたみたいな可愛い子が管理人になってくれて、嬉しいわ♡ これからよろしくね」

 

 無論、それは嘘だ。

 

 歓迎などしていない。

 ただ、自分たちの害になるかを見極め……必要であれば排除する、と。

 後ろ手に隠された、儀礼剣の柄を握る手が、その意志を示している。

 

 宝生マーゴは、人を信じない。

 ……それこそ、本当に超え難い大きな困難を、共に乗り越えでもしない限りは。

 

 

 

 一方、マーゴの背後の少女たちはと言えば。

 

「のあはね、のあだよー。よろしくー」

『夏目アンアン だ』

 

 ノアは持ち前の人好きのする笑顔で、ぱっと手を挙げ。

 一方でアンアンは、その小さな背中に隠れるよう、ノアの後ろに回ってスケッチブックと顔の半分だけを覗かせる。

 

 それからも、多くの元魔女の少女たちもそれぞれ名を名乗って……。

 ミオンは一人一人に対して頷き、「これからよろしく」と告げていった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 一連の自己紹介と挨拶が終わった後。

 

 マーゴは平静を保った口調で、ふと思いついたというように、口を開いた。

 

「けど……この牢屋敷の管理人として、まさか、こんな小さな男の子が来るとは思わなかったわ」

 

 年齢相応以上に成熟した体付きをしているマーゴ。

 対し、ミオンのそれは、10代前半で通じるだろう年若いものだ。

 マーゴから見れば、ミオンは十分「小さな男の子」に見えるだろう。

 

 そんな少年が、国からのエージェント兼窓口、そしてこの牢屋敷の管理人などできるのだろうか、と。

 そして、女の子しかいなかったここに、何故異性の男性を送って来たのか、と。

 

 彼女は言外に、そう疑っている。

 

 

 

 秘められた棘のある言葉に、ミオンは……。

 果たして、笑って応えた。

 

「あはは! いやぁ、若く見られるってのは気分が良いね。

 こんなナリではあるけど、これでも色々役立つ自負はあるとも。でなければ、【国】が今最も力を入れる元魔女因子持ちへの支援に回されるはずもないだろう?」

「申し訳ないけれど、私たちはその国に信頼を置き辛い立場なのよねぇ」

「うん、それもまた然り。だからこそ、国に代わって僕が信頼を勝ち取るため、頑張るともさ」

 

 マーゴが相手の出方を見るために打った【反論】も、感情も見せずに躱してみせる。

 国のエージェントを名乗りながらも、殊更の愛国心を持っていないのか、あるいはそれを理性的に抑え込んでいるのか。

 

 少なくともマーゴの目から見て、これまでのミオンの言葉に嘘はなかったし……。

 一瞬だけチラリと目を向けても、直感の鋭いノアが、何かしらの嘘に気付いた様子はなかった。

 

 【偽証は行われていない】と、考えていいだろう。

 ただし……【真実を語っていない】可能性は、十分にあるが。

 

 

 

「さて、ところで、君たちみんな気になってるだろうこと……なんで管理人が女ではなく男なのか。

 変な誤解や混乱を生まないよう、そこについても話しておこうかな」

 

 残った疑問について、ミオンが言及する。

 

 この牢屋敷に集められたのは、大魔女の疑いがかかった者たち。

 つまりは全員が女性であり、男性は一人も含まれていない。

 更に言えば、全員が殺し合いを半強制させられるという、絶望的で過酷な体験をした直後の状態だ。

 ストレスによる魔女化がなくなったところで、心の傷まで塞がるわけではない。1か月の時間が経過した今も、疑心暗鬼に囚われている者も多い程だ。

 

 そんな環境に突然、信頼のおけない異性を放り込んだところで、ろくなことにはならないだろう。

 

 かつてマーゴが信じた桜羽エマや、マーゴを信じた二階堂ヒロ。

 彼女たちを筆頭とする、既に本土に帰還した者たちは、この島の惨状をしっかりと国へ伝えているはず。

 それならばこのような──下手をすると、溜め込まれていたフラストレーションが爆発しかねない愚挙は犯すまいと。

 

 マーゴは、そう思っていたのだが……。

 

 

 

「まず前提として、だ。

 これは君たちにとって非常に不名誉で、何言ってんだこの野郎と思うかもしれないことだが……。

 日本という国家、少なくとも政府は、君たちを恐れていることを理解してほしい」

 

 その言葉で、彼女はある程度の事情を汲むことができた。

 

「……私たちが【大魔女を打倒】して、魔女因子を巡る騒動を収めたから……ね?」

「いや、それだけじゃない」

 

 ミオンマーゴの言葉に首を振り……彼は、明るかった表情を、沈痛なものに染めた。

 

「本当に、残酷なことを言うけれど。

 この日本という国に……牢に囚われた上で生還した魔女は、君たちしかいない」

「な……っ、それは!」

 

 思わずという様子でアンアンが顔を出し、言葉を吐きかけ。

 そのグロテスクな真実を言わせまいとするかのように、ミオンは食い気味に続けた。

 

「君たちも聞いたことがあると思う。

 そもそも【魔女の牢獄】は、本来そこに閉じ込めた魔女を例外なく処刑するための待合室だ。

 この牢屋敷は、収容した魔女を生かしていた、ただ一つの例外。

 だから……日本において、魔女因子の活性化から魔女と認定された上で生き残ったのは、君たちだけ。

 そのただ一つの例外を、日本政府は恐れている。

 反逆の刃を、憎悪の銃弾を、復讐の怨嗟を……【魔女】の復活を、恐れているんだ。

 本当に、何様だって感じだけどね」

 

 

 

 自分たちと同じような少女たちが、殺されていた。

 数えきれない程、まるで家畜のように、処理、されていた。

 そんなことをした国が……今更、手前勝手に復讐を恐れている。

 

 その事実を告げられ、元は魔女と呼ばれた少女たちの中に、濁った憎悪が渦巻いた。

 もはやそれによって魔法が放たれることも、人外の魔女となることもないが……。

 それでも少女の憎悪は、敵意のこもった視線へと形を変え、ミオンの体を貫く。

 

 少女たちの先頭に立つマーゴは、内なる激憤を、けれど笑顔の仮面で覆い隠して口を開いた。

 

「…………それで?

 それが、どう繋がるのかしら? あなたが管理人に選ばれたことに」

「うん、ありがとう。……その苛立ちは、後で僕にでもぶつけてくれていいから、今はひとまず話を続けさせてほしい。

 政府は君たちを恐れている。が、同時に間違いなく、心底より申し訳なくも思ってるんだ。

 危険因子であったとはいえ、ただの少女であり、人権を持つ国民である少女たちを不法に、理不尽に攻めたことを。

 故に、その危険がなくなった今、国は全力で君たちに尽くす必要があり。

 そのためにも、この牢屋敷の管理人は、2つの要綱を満たす必要があった」

 

 ミオンは指を2本立て、言う。

 

「1つ。この牢屋敷を、君たち被害者を、ごく少数の人員で完璧にサポートできること。

 2つ。……仮に君たちが、何かの拍子に力を取り戻して憎悪に囚われたとしても、君たちを傷つけることなく制圧し、治療できること。

 この二点を満たす人員は、日本に僕しかいなかった」

 

 

 

 それは、自分の有能さをアピールするというよりは、当然のことを語るような口調で。

 鼻持ちならない態度に対し、皮肉の一つでも言おうとしたマーゴの目の前で、彼は右手の人差し指を立てる。

 

「さて、少々驚くようなことをするけど、落ち着いて見ていてほしい」

「ふふ。魔法を知っている私たちに、それを言うのかしら?」

「魔法を知っているからこそ言うのさ」

 

 意味深な言葉に、少女たちは何が起きても驚くものかと、内心で身構え……。

 

 

 

 ……けれど、その身構えは、いともたやすく崩されることとなる。

 

 ボッ、と。

 音を立てて、彼の指先に、炎が宿ったことで。

 

 

 

「改めて、自己紹介をしよう。

 諸事情あって未だに魔法を使える、多分日本唯一の存在、樋口ミオンだよ。

 君たちを丸っと幸せにするため、政府に結構無理言って、ここに来させてもらった。

 ……身内の不始末、きちんと片付けさせてもらうよ」

 

 

 







 樋口ミオン(ヒグチ ミオン)

 管理人プロフィール
 一人称が「僕」の、穏やかな少年。
 常に凪いだ海のように落ち着いており、動揺することは滅多にないが、周囲の人間が精神的に追い詰められると辛そうな様子を見せる。
 日本政府が送り込んできたエージェントであり、牢屋敷の新管理人。
 魔女因子が消えたはずの世界で、何故か魔法を行使することができるらしい。

 魔法
 【発火】?

 トラウマ
 ■■■■■

 誕生日
 不明

 原罪
 無知なる博愛者

 身長
 169cm

 体重
 59kg
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