嘘吐少女ノ魔女愛談   作:アリマリア

32 / 44

 次章はもうちょっと時間がかかりそうなので、閑話を一つ。
 ゲーム本編と同じようなBAD ENDです。当然鬱な話なので注意。





二つの人でなしと、一人の少女
BAD END【二つの人でなしと、一人の少女】


 

 

 

 ────全ての終わり、その続きの夢を見る。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 500年前。

 人類によって、魔女たちが殺された。

 

 殺され、殺され、殺され、殺され、殺された。

 

 何もできずに殺された者もいた。

 説得を試みて殺された者もいた。

 慈悲を乞うて殺された者もいた。

 逃げようとして殺された者もいた。

 誰かを守ろうとして殺された者もいた。

 無力化を試みて殺された者もいた。

 反撃しようとして殺された者もいた。

 命乞いを聞いて殺された者もいた。

 

 人類は最初から、和解や共生の意思など持ってはいなかった。

 自分たちより優れた種族を皆殺しにしなければ、安心して生きてはいけなかった。

 

 だから、「言葉を語る獣畜生」と呼び、魔女たちを殺し続けた。

 

 

 

 その戦いを生き残った魔女はたった二人。

 

 一人は辛うじて即死を免れ、腹を槍に貫かれつつも必死に命を繋ぎ……。

 けれど何もできないまま、慰み者にされ、爛れた命を産み落として死んだ。

 

 一人は大魔女たちによって逃がされ、人類の中に隠れ潜み……。

 孤独の寂しさを胸に、呪いとなった人類への憎悪を燃やし続けた。

 

 

 

 ……そうして、実に500年。

 最後の大魔女の煮え滾る悪意は、果たして、成った。

 

 その呪いの名を、【魔女殺し】。

 

 幸せに暮らしていた少女たちを言葉も聞かず殺し尽くした、醜悪な絶対悪。

 物語で【魔女】と謳われるそれに等しい、斬られ、叩かれ、引きちぎられ、焼かれ、沈められ、埋められ、蔑まれ、厭われ、殺されるべき対象。

 

 彼ら彼女ら、おおよそ80億。

 それらを一様に【魔女】として殺す、怨嗟の呪詛だ。

 

 

 

 ……けれど。

 結局のところ、最後の大魔女は、心優しい少女だった。

 

 人の中に悪性だけでないものを見出し、その鉄槌を振り下ろすべきか、迷ってしまった。

 

 故に彼女は、最も眩かった少女に、それを振り下ろす権利を委ねた。

 

 あなたが望むのなら、みんなを殺せばいい。

 あなたが望まないのなら、みんなと生きればいい。

 

 呪われた少女に寄り添う、優しい■■。

 迫害された少女を気遣う、良い子の■■。

 人の悪性に揉まれる、可愛い■■。

 

 純粋無垢で、如何様にも染まりやすい、とても真っ直ぐな……私の友達。

 あなたが選んだ道こそ、きっと正しいのだと。

 

 

 

 それはある種の祈りであったのかもしれない。

 人の中に隠れ潜む■■■が望んだような、彼女が【愛】を獲得する、唯一の機会だったのかもしれない。

 

 ……けれど。

 その祈りは、絶望を以て答えとされた。

 

 疑い合い、殺し合い、それでも助け合い、支え合おうとして。

 よりにもよって、信じていた相手に裏切られた。

 

 大魔女の【家族】であった少女は、何も知らないまま、知ろうとしないまま。

 大魔女が選んだ少女を、裏切ったのだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「みんなが死ねばいい」

 

 その言葉が、始まりだった。

 

 

 

 ■■を殺そうとしたなれはても。

 最後の魔女の【家族】も。

 逃げようとした使い魔も。

 

「死ね」

 

 そのたった一言で、命を絶たれた。

 

 

 

『■■。

 ……よく、できました』

 

 

 

 【魔女殺し】。

 

 ■■■■の宿すその魔法は、最後の魔女の断片である魔女因子に干渉するもの。

 因子の中に、魔法の素質と共に仕込まれた、自殺を強制するスイッチをカチリと上げるだけの魔法。

 

 それだけで、魔女に劣る人類は、抵抗すらできずに死ぬ。

 

 何もできずに死ぬ。

 説得に意味はない。

 慈悲などかけられない。

 逃れることはできない。

 誰も守れない。

 無力化などできない。

 反撃の意味はない。

 命乞いは受け入れられない。

 

 あの日、魔女が尽く殺されたように。

 人類も、尽く殺されるだけ。

 

 

 

 500年の憎悪に心を染められた■■は、素直になった。

 

 故に、その骨の翼を用いて、飛び立った。

 

 いつか■■の足を止めた塀など、もはや障害にもならない。

 一人きりになった■■は、ようやく完全な自由を手に入れた。

 

 故に、殺す。

 【魔女(ひと)】を、もっと殺す。

 

 500年の間堆積した憎悪は、15歳の少女の心を、容易く染め尽くした。

 

 もはやそこにいるのは、■■■■ではない。

 ■■の記憶と人格の残滓を残した、【魔女(ひと)殺し】の魔法。

 

 人類を皆殺しにした後に、最後の人類として自らの命を絶つ……。

 そんな、自動的に稼働する機構に過ぎない。

 

 

 

 ソレが飛ぶ中で、人は次々死んでいった。

 

 村が死ぬ。

 

 街が死ぬ。

 

 国が死ぬ。

 

 世界が死ぬ。

 

 

 

 ……人類が皆、死に絶える。

 

 それはもう、覆らない。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ある意味でこれは、小さな島で起こった悲劇の再演だった。

 他種族による、一つの種族の殺戮。

 

 違うのは、舞台の大きさと、役の逆転だけ。

 

 であれば、そう。

 その結末もまた、あの日と変わらない。

 

 人類の遺伝子を引く者は、地球上にただ二人だけ残された。

 

 ……ただし、どちらも、真っ当な人間とは言えなかったが。

 

 

 

 茜の日差しが差し込み、カラスが夕暮れを告げる中。

 

「ああ……結局、こうなったか」

 

 空っぽの声が、無人の村に響く。

 

 ■■■■■が長く隠れ潜んでいた、片田舎の集落。

 遥か昔に救ったことで縁ができ、自分などを崇拝してくれた村。

 

 その中の一員として暮らしていた彼は、日本という国家が破綻し、次々に人が死んでいく光景を見て、世界のおしまいを悟った。

 

 即ち、自分の願いは通らず、大魔女は【愛】を得ることがなかったのだと。

 

 自らの望んだ未来が成らなかったことに、無念を抱くこと刹那。

 

 彼は、目の前に降り立ったモノに目を向けた。

 

 

 

 白の髪に、桜色のメッシュの入った髪。

 虚ろに宙を見つめる瞳。

 だらりと垂らされた腕に、骨で形作られた翼。

 

 憎悪に心も、魂までも焼き焦がされた、空っぽの抜け殻。

 【魔女殺し】の魔法、そのもの。

 

 その抜け殻は、赤すぎる夕陽を背に、ゆっくりと彼の元へと歩いて来る。

 

 

 

「……間に合わなかったなぁ」

 

 誰に語りかけるでもない、気遣いのない言葉。

 それは酷く空虚に乾き、無力感だけを滲ませていた。

 

 魔法で人が死に始めていると知って、彼はすぐ、それに対策しようとした。

 【魔女殺し】を封じ込める、否定する、覆す魔法を開発しようとし……。

 

 ……けれど、間に合わなかった。

 

 彼の魔法技術は、大魔女のそれよりも劣っている。

 500年の憎悪の結晶たるその魔法を解析・研究・対策するよりも早く……。

 この地球全体まで、効果範囲が及んでしまった。

 

 誰一人、救うことはできなかった。

 人類は全員、死に絶えた。

 

 この地球に残ったのは、唯一魔法の例外とされた抜け殻と、彼だけ。

 

 

 

 赤く染まった抜け殻は、焦点すら合わせることなく、彼を指差して言った。

 

「しね」

 

 ……しかし、彼は人類と違って、死ぬことはなかった。

 

 抜け殻の魔法は、効果を発揮しない。

 彼は魔女因子を持ち合わせていないが故に、それに起因して起こる自殺の影響を受けることもない。

 

 けれど……。

 

「しね、しね、しね」

 

 抜け殻はそんなこと意にも介さなかった。

 

 ……いいや、違う。

 そんなことも、認識していないのだ。

 

 抜け殻は、ただ目の前に人らしいナニカがいると思い、呻いているだけ。

 相手が生きているか死んでいるか、本当に人なのかそうでないのか、そんなことを考える力すら喪った。

 

 言うならば、脳死と同じだ。

 抜け殻は、生きてこそいるが、もはや人間的な活動はしていない。

 

 

 

 しね、しね、しね、しね、しね……と。

 その口から無尽蔵の憎悪を吐き出し、こちらに歩いて来る抜け殻に……。

 

 彼はただ、両腕を広げる。

 

 それでも抜け殻の前進は止まらず……。

 その内、ぼすりと、彼の胸の中に収まった。

 

 彼はきゅっと、冷たい抜け殻を抱きしめ、呟く。

 

「……安心していい。人類は滅んだ。もう、君一人しか残っていない」

 

 

 

 あるいはそれで、抜け殻はようやく、彼が人類ではないことに気付いたのか。

 

 その体から力が抜ける。

 

「……ああ、よかった」

 

 そうして、その乾いた唇から、言葉が漏れ落ちた。

 

 

 

「ぼくも、しねる」

 

 その言葉が、終わりだった。

 

 

 

 こてん、と。

 その首が、倒れる。

 

 抜け殻に残された魔女因子、その自殺のスイッチが、ようやく押されたのだ。

 

 

 

 これにて、この世界から、正しく人類は滅びた。

 

 残ったのは、人でなしの化け物が一匹だけ。

 

 

 

 

 

 

 ……最後に、抜け殻に寄り添った彼の耳に。

 

「『……ごめんなさい』」

 

 一人の、あるいは二人の少女の、沈痛な言葉が届いた気がした。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 最後の人間の死体を埋葬した後。

 ■■■は地面に仰向けに転がり、空を見上げる。

 

 人がいなくなった後も、時の流れは変わりはしない。

 赤らんでいた空は、太陽が地平線に沈むことで、少しずつ陰り始めている。

 

 

 

 赤く、黒い空を見上げ……彼はゆっくりと、そのまぶたを閉じた。

 

 そうすれば、今も耳の奥に響き続ける声のみが意識を占める。

 

【人を憎んではなりません】

【人を愛し、人に愛されなさい】

 

 彼の母に当たる魔女が遺した、【愛】の言葉。

 彼が胸に抱いて来た行動原理。

 

「……ごめんなさい。あなたが愛した【人類】を、僕は救えはしなかった」

 

 前者はともかく、後者は叶えられなかった。

 彼は愛する人を見つけ出せず、愛されることもなかった。

 

 魔女が愛し、救おうとしたのだろう人類を、見殺しにした。

 

 それだけが、彼にとって唯一の心残りだった。

 

 

 

「ああ……けれど」

 

 日が沈み、夜が来て、昏くなる世界に。

 

 誰にも届かない、虚ろな戯言が響く。

 

「最期くらいは、静かに眠らせてほしいかなぁ」

 

 

 







 この世界の1周目(■■魔女化)のその後のお話。

 ■■は自分も含む人類80億の鏖殺達成。
 ■■■は目的を喪って、酷い耳鳴りの中で生命活動停止。

 最後の魔女は、最後の瞬間に■■■の正体に気付くが、万年筆のような想いの結晶がないため干渉不可。



 地獄かな?

 まぁ「──戻った、ということか」で遡ることになるんですけどね。こんな結末は正しくない。

 それと、3周目の元魔女候補たちはここまでの記憶は持っていません。取り戻した記憶は原作同様、魔女化した■■が塀を越えるところまでです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。