次章はもうちょっと時間がかかりそうなので、閑話を一つ。
ゲーム本編と同じようなBAD ENDです。当然鬱な話なので注意。
BAD END【二つの人でなしと、一人の少女】
────全ての終わり、その続きの夢を見る。
* * *
500年前。
人類によって、魔女たちが殺された。
殺され、殺され、殺され、殺され、殺された。
何もできずに殺された者もいた。
説得を試みて殺された者もいた。
慈悲を乞うて殺された者もいた。
逃げようとして殺された者もいた。
誰かを守ろうとして殺された者もいた。
無力化を試みて殺された者もいた。
反撃しようとして殺された者もいた。
命乞いを聞いて殺された者もいた。
人類は最初から、和解や共生の意思など持ってはいなかった。
自分たちより優れた種族を皆殺しにしなければ、安心して生きてはいけなかった。
だから、「言葉を語る獣畜生」と呼び、魔女たちを殺し続けた。
その戦いを生き残った魔女はたった二人。
一人は辛うじて即死を免れ、腹を槍に貫かれつつも必死に命を繋ぎ……。
けれど何もできないまま、慰み者にされ、爛れた命を産み落として死んだ。
一人は大魔女たちによって逃がされ、人類の中に隠れ潜み……。
孤独の寂しさを胸に、呪いとなった人類への憎悪を燃やし続けた。
……そうして、実に500年。
最後の大魔女の煮え滾る悪意は、果たして、成った。
その呪いの名を、【魔女殺し】。
幸せに暮らしていた少女たちを言葉も聞かず殺し尽くした、醜悪な絶対悪。
物語で【魔女】と謳われるそれに等しい、斬られ、叩かれ、引きちぎられ、焼かれ、沈められ、埋められ、蔑まれ、厭われ、殺されるべき対象。
彼ら彼女ら、おおよそ80億。
それらを一様に【魔女】として殺す、怨嗟の呪詛だ。
……けれど。
結局のところ、最後の大魔女は、心優しい少女だった。
人の中に悪性だけでないものを見出し、その鉄槌を振り下ろすべきか、迷ってしまった。
故に彼女は、最も眩かった少女に、それを振り下ろす権利を委ねた。
あなたが望むのなら、みんなを殺せばいい。
あなたが望まないのなら、みんなと生きればいい。
呪われた少女に寄り添う、優しい■■。
迫害された少女を気遣う、良い子の■■。
人の悪性に揉まれる、可愛い■■。
純粋無垢で、如何様にも染まりやすい、とても真っ直ぐな……私の友達。
あなたが選んだ道こそ、きっと正しいのだと。
それはある種の祈りであったのかもしれない。
人の中に隠れ潜む■■■が望んだような、彼女が【愛】を獲得する、唯一の機会だったのかもしれない。
……けれど。
その祈りは、絶望を以て答えとされた。
疑い合い、殺し合い、それでも助け合い、支え合おうとして。
よりにもよって、信じていた相手に裏切られた。
大魔女の【家族】であった少女は、何も知らないまま、知ろうとしないまま。
大魔女が選んだ少女を、裏切ったのだ。
* * *
「みんなが死ねばいい」
その言葉が、始まりだった。
■■を殺そうとしたなれはても。
最後の魔女の【家族】も。
逃げようとした使い魔も。
「死ね」
そのたった一言で、命を絶たれた。
『■■。
……よく、できました』
【魔女殺し】。
■■■■の宿すその魔法は、最後の魔女の断片である魔女因子に干渉するもの。
因子の中に、魔法の素質と共に仕込まれた、自殺を強制するスイッチをカチリと上げるだけの魔法。
それだけで、魔女に劣る人類は、抵抗すらできずに死ぬ。
何もできずに死ぬ。
説得に意味はない。
慈悲などかけられない。
逃れることはできない。
誰も守れない。
無力化などできない。
反撃の意味はない。
命乞いは受け入れられない。
あの日、魔女が尽く殺されたように。
人類も、尽く殺されるだけ。
500年の憎悪に心を染められた■■は、素直になった。
故に、その骨の翼を用いて、飛び立った。
いつか■■の足を止めた塀など、もはや障害にもならない。
一人きりになった■■は、ようやく完全な自由を手に入れた。
故に、殺す。
【
500年の間堆積した憎悪は、15歳の少女の心を、容易く染め尽くした。
もはやそこにいるのは、■■■■ではない。
■■の記憶と人格の残滓を残した、【
人類を皆殺しにした後に、最後の人類として自らの命を絶つ……。
そんな、自動的に稼働する機構に過ぎない。
ソレが飛ぶ中で、人は次々死んでいった。
村が死ぬ。
街が死ぬ。
国が死ぬ。
世界が死ぬ。
……人類が皆、死に絶える。
それはもう、覆らない。
* * *
ある意味でこれは、小さな島で起こった悲劇の再演だった。
他種族による、一つの種族の殺戮。
違うのは、舞台の大きさと、役の逆転だけ。
であれば、そう。
その結末もまた、あの日と変わらない。
人類の遺伝子を引く者は、地球上にただ二人だけ残された。
……ただし、どちらも、真っ当な人間とは言えなかったが。
茜の日差しが差し込み、カラスが夕暮れを告げる中。
「ああ……結局、こうなったか」
空っぽの声が、無人の村に響く。
■■■■■が長く隠れ潜んでいた、片田舎の集落。
遥か昔に救ったことで縁ができ、自分などを崇拝してくれた村。
その中の一員として暮らしていた彼は、日本という国家が破綻し、次々に人が死んでいく光景を見て、世界のおしまいを悟った。
即ち、自分の願いは通らず、大魔女は【愛】を得ることがなかったのだと。
自らの望んだ未来が成らなかったことに、無念を抱くこと刹那。
彼は、目の前に降り立ったモノに目を向けた。
白の髪に、桜色のメッシュの入った髪。
虚ろに宙を見つめる瞳。
だらりと垂らされた腕に、骨で形作られた翼。
憎悪に心も、魂までも焼き焦がされた、空っぽの抜け殻。
【魔女殺し】の魔法、そのもの。
その抜け殻は、赤すぎる夕陽を背に、ゆっくりと彼の元へと歩いて来る。
「……間に合わなかったなぁ」
誰に語りかけるでもない、気遣いのない言葉。
それは酷く空虚に乾き、無力感だけを滲ませていた。
魔法で人が死に始めていると知って、彼はすぐ、それに対策しようとした。
【魔女殺し】を封じ込める、否定する、覆す魔法を開発しようとし……。
……けれど、間に合わなかった。
彼の魔法技術は、大魔女のそれよりも劣っている。
500年の憎悪の結晶たるその魔法を解析・研究・対策するよりも早く……。
この地球全体まで、効果範囲が及んでしまった。
誰一人、救うことはできなかった。
人類は全員、死に絶えた。
この地球に残ったのは、唯一魔法の例外とされた抜け殻と、彼だけ。
赤く染まった抜け殻は、焦点すら合わせることなく、彼を指差して言った。
「しね」
……しかし、彼は人類と違って、死ぬことはなかった。
抜け殻の魔法は、効果を発揮しない。
彼は魔女因子を持ち合わせていないが故に、それに起因して起こる自殺の影響を受けることもない。
けれど……。
「しね、しね、しね」
抜け殻はそんなこと意にも介さなかった。
……いいや、違う。
そんなことも、認識していないのだ。
抜け殻は、ただ目の前に人らしいナニカがいると思い、呻いているだけ。
相手が生きているか死んでいるか、本当に人なのかそうでないのか、そんなことを考える力すら喪った。
言うならば、脳死と同じだ。
抜け殻は、生きてこそいるが、もはや人間的な活動はしていない。
しね、しね、しね、しね、しね……と。
その口から無尽蔵の憎悪を吐き出し、こちらに歩いて来る抜け殻に……。
彼はただ、両腕を広げる。
それでも抜け殻の前進は止まらず……。
その内、ぼすりと、彼の胸の中に収まった。
彼はきゅっと、冷たい抜け殻を抱きしめ、呟く。
「……安心していい。人類は滅んだ。もう、君一人しか残っていない」
あるいはそれで、抜け殻はようやく、彼が人類ではないことに気付いたのか。
その体から力が抜ける。
「……ああ、よかった」
そうして、その乾いた唇から、言葉が漏れ落ちた。
「ぼくも、しねる」
その言葉が、終わりだった。
こてん、と。
その首が、倒れる。
抜け殻に残された魔女因子、その自殺のスイッチが、ようやく押されたのだ。
これにて、この世界から、正しく人類は滅びた。
残ったのは、人でなしの化け物が一匹だけ。
……最後に、抜け殻に寄り添った彼の耳に。
「『……ごめんなさい』」
一人の、あるいは二人の少女の、沈痛な言葉が届いた気がした。
* * *
最後の人間の死体を埋葬した後。
■■■は地面に仰向けに転がり、空を見上げる。
人がいなくなった後も、時の流れは変わりはしない。
赤らんでいた空は、太陽が地平線に沈むことで、少しずつ陰り始めている。
赤く、黒い空を見上げ……彼はゆっくりと、そのまぶたを閉じた。
そうすれば、今も耳の奥に響き続ける声のみが意識を占める。
【人を憎んではなりません】
【人を愛し、人に愛されなさい】
彼の母に当たる魔女が遺した、【愛】の言葉。
彼が胸に抱いて来た行動原理。
「……ごめんなさい。あなたが愛した【人類】を、僕は救えはしなかった」
前者はともかく、後者は叶えられなかった。
彼は愛する人を見つけ出せず、愛されることもなかった。
魔女が愛し、救おうとしたのだろう人類を、見殺しにした。
それだけが、彼にとって唯一の心残りだった。
「ああ……けれど」
日が沈み、夜が来て、昏くなる世界に。
誰にも届かない、虚ろな戯言が響く。
「最期くらいは、静かに眠らせてほしいかなぁ」
この世界の1周目(■■魔女化)のその後のお話。
■■は自分も含む人類80億の鏖殺達成。
■■■は目的を喪って、酷い耳鳴りの中で生命活動停止。
最後の魔女は、最後の瞬間に■■■の正体に気付くが、万年筆のような想いの結晶がないため干渉不可。
地獄かな?
まぁ「──戻った、ということか」で遡ることになるんですけどね。こんな結末は正しくない。
それと、3周目の元魔女候補たちはここまでの記憶は持っていません。取り戻した記憶は原作同様、魔女化した■■が塀を越えるところまでです。