嘘吐少女ノ魔女愛談   作:アリマリア

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 お待たせしました。
 今章は若干短めです。





薔薇色の時代
薔薇色の時代(1)


 

 

 

 牢屋敷の、ある日の夕方。

 半ば恒例となりつつあるミオンの仕事の手伝いを終え、夕食とお風呂を済ませて部屋に戻ってきたマーゴは、艶めかしい吐息を漏らした。

 そうして装飾華美な椅子に腰を下ろし、細く長い足を組んで机に顎杖を突く。

 

 もはやそれが身に沁みついているため、どうにも艶のある動作になってしまったが……。

 しかし反面、彼女の内心は、あまり明るいものではなかった。

 

 

 

「困ったわねぇ」

 

 マーゴの前には今、一つの大きな問題が立ち塞がっていた。

 

 元より、懸念はあったのだ。

 いつかそれが大きな問題になることはわかっていた。

 それでも解決策は見えないために、自分の手には余ると、先送りにしてきた。

 

 ……いいや、より正確に言えば、未だ解決策は見えない。

 けれど、時は待ってはくれず……いよいよマーゴがそれに向き合わなければならない時が来た。

 

 果たして、その問題とは、即ち……。

 

 

 

「ミオンさん、ちょっと女の子を引っかけ過ぎじゃないかしら……」

 

 彼女が懸想する男性の、恋愛事情だった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 樋口ミオン。

 牢屋敷の管理人、兼マーゴの【愛】を知る旅の同行者……兼、マーゴの初恋の相手。

 

 端的に言って、彼はモテる。

 

 というのも、元魔女候補の少女たちから見て、魅力的な要素が揃いすぎているのだ。

 

 外見はかなり整っており──聞いたところ、その真っ白な外見は「誰とでも打ち解けられる」というコンセプトを元に魔法で精製したのらしく、整っていて当然ではあるのだが──、美人と言って差し支えなく。

 いつも捉えどころのない、ミステリアスな雰囲気を漂わせていて。

 物腰柔らかで、泰然と落ち着いており、相手の心に寄り添うこともでき。

 魔法という超常の力も使え、政府との強い繋がりがあって、恐らくは大量の貯蓄もあって。

 果てには、少女たちが抱えるそれぞれの【禁忌】に真正面から向き合い、抜け出すために支えてくれる。

 

 こんな条件が揃ってモテないわけもない。

 優良物件どころの話ではなく、おおよそ世界最高の巨大豪邸だ。

 

 更に言えば、思春期の少年少女など、しばらく異性と一緒に過ごしただけでも相手を意識してしまう者が多いのだ。

 多くが傷を抱えていた元魔女の少女たちにとって、ミオンの存在は最高の治療薬となるが、同時最高の劇薬にもなってしまうのである。

 

 

 

 ……その結果が、これだ。

 

 

 

『宝生マーゴ……今、いいかしら。訊きたいことがあるのだけれど』

「あら、ナノカちゃん♡ 何かしら? 私で役に立てるならいいのだけれど」

『あ、あの……男の子……いえ、男の人? が、もらって嬉しいものとか……何かないかしら』

「…………お友達へのプレゼント?」

『っ、ええ、まあ、うん、そう。大体そんなところよ。お友達……ええ、そうね。

 ……あ、いえ、やっぱり違うわ。お姉ちゃん。そう、お姉ちゃんがね……彼氏? に、プレゼントする、とか。そんなことを言ってたような気がするの』

「うふふっ、支離滅裂♡ エマちゃんの言う通り、ナノカちゃんに計画性なんてないのかしら?」

『くっ……! 宝生、マーゴ……!』

「自滅を責任転嫁するのはやめましょうね? プレゼントの相談には乗ってあげるから」

 

 

 

『あっ……もしもし。宝生か』

「あらあら、アリサちゃんから連絡をくれるなんて嬉しいわね♡ 何の用かしら?」

『いや、別に用事があるってわけでもねえんだが、なんつうか……樋口、そっちでも上手くやれてるかな、って』

「ミオンさん? ええ、みんなに慕われてるし、良い管理人をやれていると思うわよ」

『そうか。……何か、変わったっつうか、困ったこととかなかったかよ』

「特にないけれど……ああ、ミオンさんの様子が気になるのかしら♡」

『なッ、違ぇ! 別にそんなんじゃねえよ!!』

「ふふっ、可愛い反応ね。そんなアリサちゃんも素敵♡

 ……けど、ミオンさん、【分身】の魔法を使うでしょう? 遠回しに探らなくても、言えば直接会いに来てくれるわよ、きっと」

『……時々会いに来てもらってるし、これ以上は求めらんねぇよ。

 ウチは今もう貰いすぎなんだ。これ以上してもらったら……何も返せねえのに……』

「ミオンさんのことだし、むしろ頼ってあげた方が喜びそうだけれどね」

『それは……わかんなくもねえけどさ』

「ふふ。アリサちゃんったら、変わらないわねぇ。

 でもまあ、こうして私のことを頼ってくれたんだもの。少しは信じてくれてるのかしら?」

『……まあ、な。ウチは1周目で、お前が人を殺そうとしなかったのを、この目で見てるから』

「っ……あらら、思わぬ反撃をもらっちゃった♡」

 

 

 

『マーゴちゃん、ごめんね~こんな夜遅くに』

「別にいいのよ、気にしないで。それより、相談って何?」

『おじさん……じゃない、えっと、私ね。ちょっと前に、ミオン君にとっても助けてもらったんだ。

 いつか言った、流出した映像の話。もしかしたら聞いてるかな』

「ええ、ミオンさんから少しだけ聞いたわ。

 例の映像は完全に消えて、覚えているのは私たちとミオンさん、それから親御さんに、あなたの力になってくれた弁護士さんだけだって」

『そう、そうなんだ! そのことで……うん。

 ……ちょっと私の余裕がなかった時に、私、あの人に八つ当たりしちゃって。

 でもね、ミオン君、全然気にしてないどころか、例の件を解決するためにすごく頑張ってくれたんだ!』

「それは……ええ、あの人らしいわね」

『今はまだちょっと怖いし、友達グループも苦手なままなんだけど……それでも、ミオン君は味方になってくれるって思ったら、ずっと前向きになれて。

 だから、何もできない私だけど、せめて少しでもお返しをしたくて』

「……なるほど、その気持ち、よくわかるわ。いいんじゃないかしら、相談にも乗るわよ」

『あっ、ありがとう! とっても嬉しいし、頼もしいよ!

 お父さんとお母さんにも聞いたんだけど、やっぱりその手の話に詳しそうなマーゴちゃんにも聞いてみたかったんだ!』

「買い被られちゃってるわねぇ。これは頑張らないと」

 

 

 

 ……この半年、監獄島でマーゴが様々な変化を遂げている間、どうやら本土組は本土組で色々あったらしく。

 ここ最近、本土へ戻った元魔女候補の少女たちは、何かとマーゴを頼って通話をかけてくる。

 

 無論、そこに込められた感情が100%色恋だけ、というわけではないだろう。

 単純に世話になったお返しにと、プレゼントを贈りたいと思ったり、恩人の安否確認をしたい。

 そう思っているだけと解釈することもできる。

 

 ……ただし。

 本心からそう信じるには、彼女たちの口調に、やけに熱が籠っていたのだが。

 

 あるいは……本人たちに、その自覚はないのかもしれない。

 もしくは、自分などでは釣り合わないと、あるいは相手は自分に興味はないだろうと、そんなことを思っているかもしれない。

 

 それでも、彼女たちがミオンに向ける感情が、純然たる【親愛】だけではないことは明白だった。

 

 少なくとも、その感情をついに認めた、マーゴから見て。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 コツコツと机を指で突きながら、彼女は独り言を呟く。

 

「エマちゃんにヒロちゃん、レイアちゃんにシェリーちゃん、ハンナちゃん、あとココちゃん。この6人は今のところ、その傾向は見えないのだけれど……いや、ココちゃんは微妙かしら?

 でも、アンアンちゃんはともかく、ノアちゃんも、だものね。これから何があるかわからないか。

 女の敵ねぇ。場合によっては刺されてもおかしくない……いえ、刺されても死にそうにはないけれど。むしろ笑顔で『大丈夫だよ』って抱きしめてきたりしそう」

 

 そこで、ふぅ、とため息一つ。

 マーゴの引き締まっていた表情が、ぱっと明るく緩んで……。

 

「……ふふ。ええ、いいわね、そういうのも。

 まあ、ミオンさんは本当に素敵な男性だし? こうなるのはある種当然の結末かもしれないけれど。

 みんなはミオンさんの【真実】を知らないんだし、尚更かしら?

 それを知っているのは、私だけ……ふふっ、ふふふふっ♪」

 

 非常に彼女らしくない、めちゃくちゃ甘い惚気みたい言葉を吐き出した。

 

 

 

 牢屋敷に囚われたあの日から、元魔女候補の少女たちはそれぞれ大きく変わった。

 

 わかりやすいのは、やはりヒロとナノカだろう。

 

 ヒロはかつて幼馴染のエマに強い憎悪を向けていたが、事件の中でそれがユキに誘導されたものであることに気付き、事件後に仲直りを遂げて。

 今では、ちょっと友人と言うには近すぎる距離感で触れ合い、笑い合っている。

 

 一方ナノカは、事件の際にはミステリアスなクールビューティぶっていたのだが、なれはてから戻った姉と再会して、瞬時に氷解。

 少女たちの中で最年長とは思い難い、天真爛漫な少女らしい一面を見せることが増えた。

 

 どちらも、大切な人と距離が空いたり離れ離れになったことで、これまでに失った時間を取り戻しているのだろう。

 

 

 

 そんな少女たちには少し遅れてしまったが、宝生マーゴもまた、大きく変わることになった。

 

 具体的に言えば。

 

「私が本当に困った時に助けてくれる人……いえ人ではないのだけれど……こんな私ともに一緒に【愛】を目指してくれるし、いざという時には助けてくれるんだもの。

 みんなが惹かれるのも当然というか、むしろ惹かれない方が心配になるくらいよね、ええ。ヒロちゃんったら、珍しく【正しくない】んじゃないかしら?」

 

 甘い溜め息と共に、他人が聞けば砂を吐くような台詞を口にするマーゴ。

 

 防音性を高めた自室の中とはいえとはいえ、かつての彼女ならまずしない行為だ。

 素直な感情は即ち、自らの弱みを晒す行為に他ならないのだから。

 

 特に、ミオンは魔法を使えるのだ。やろうとすれば盗聴なんて簡単にできてしまう。

 かつての彼女なら、ミオンに訊かれるリスクを考慮し、そんな本心は決して口にしなかったはずだ。

 

 

 

 では、何故彼女は今、このように無防備に心を曝け出しているのか?

 

 答えは簡単だ。

 ミオンはそんなことをしないと、心から信頼してしまっているし……。

 その心に抱えきれないくらいに、感情が増幅してしまっているから。

 

「ミオンさんったら、女の子の心はそう簡単に触れたらいけないのよ? それなのに……。

 ……ふふ、いえ。そんなあなただからこそ、私たちの心を守れる、のかしら?

 もう……そうして心を奪うくせに受け取ろうとしないなんて、いじわるな人♡」

 

 もはや悩み事の体面すら捨て去り、彼女は思うままに甘い感情に浸り、ご機嫌に指を組み替える。

 

 

 

 つまり、どういうことかと言えば。

 

 人生で初めての恋を経験し、その恋心を自覚したマーゴは、現在……。

 

 多いに、それはもう本当に、めちゃくちゃ浮かれまくっているのだ。

 

「ふぅ……明日また会える、のよね。

 明日がこんなに待ち遠しく感じるのなんて、いつぶりかしら?

 ……ふふっ、ええ、昨日ぶりね。ああ、もしかして、こういう瞬間を【幸せ】と呼ぶのかしら?」

 

 

 

 恋する乙女の第一フェーズ、恋愛耐性ゼロの初心なよわよわ状態は終了。

 

 彼女は現在、溺愛スイーツ恋愛脳の第二フェーズへと突入していた。

 

 

 







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(雑記)
 ヒロさん、はのうらに続きまのむら続投おめでとうございます。
 この子デスゲームに巻き込まれすぎでは? ちゃんとエマさんのところに生きて戻ってね。
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