嘘吐少女ノ魔女愛談   作:アリマリア

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牢屋敷の新管理人(4)

 

 

 

「あら」

 

 ある日の深夜。

 どうにも寝付けず、暇潰しに散策でもしようと部屋を出たマーゴは、思わず声を挙げた。

 

 その視線の先を、小人が歩いていたからだ。

 

 身長おおよそ30センチメートル程度で、三等身のデフォルメされた可愛らしい姿をしたそれは、【ノーム】と呼ばれるもの。

 牢屋敷の新たな管理人、樋口ミオンの使う【魔法】による使い魔である。

 

 牢屋敷はただでさえ広い上、今は数十人の少女たちが暮らすため、ミオンの手により更に拡張された。

 その拡張工事も、そして広くなった敷地の管理も、当然ではあるがミオン一人では人手が足りない。

 

 それを担うのが、このノームたちだ。

 実に100以上いるとも言われるこの使い魔たちは、普段から牢屋敷内外を忙しなく行ったり来たりしている。

 少女たちに代わって食事を用意したり、掃除をしてくれたり、工事をしてくれたり、あるいはミオンに伝言を伝えてくれたりする、働き者の子たちなのである。

 

 

 

 かつて魔女と呼ばれ、この牢屋敷に囚われていた少女たちは、使い魔というものに恐れがあった。

 氷上メルルが使役していたらしい──あの事件の後、いつの間にかいなくなっていた──ゴクチョーは、彼女たちに非常に大きなストレスを与えていたのだ。

 使い魔や魔法そのものに嫌悪感が波及するのは、至極当然の流れであった。

 

 では何故、そんな彼女たちが、ノームの存在を受け入れられるかと言えば……。

 

 ひとえに、可愛げ故だ。

 

 視線の先にいたノームは、恐らくマーゴの存在に気付いたのだろう、くるんと振り返り。

 びっくりしたように僅かに飛び上がった後、ぺこりと、その大きな頭を下げる。

 そうしてぽてぽてと、短い脚で頑張ってマーゴの足元に近付いてきて……こてんと、その首を傾げた。

 どうしたの? と言わんばかりに。

 

「心配してくれるの? ありがとう。大丈夫よ、ちょっと眠れなくて夜歩きしてるだけ。

 あなたたちのおかげで、この島には危険なんてないんだから、大丈夫よね?」

 

 少しいじわるなマーゴの言葉に、ノームは困ったようにあたふたした後、ためらいがちにコクリと頷く。

 それから、「その代わりに」と言わんばかりに、マーゴの傍に寄り添った。

 

「一緒に来てくれるのね。ふふ、心強いわ」

 

 小さな体で胸を張る、ナイト気取りのノーム。

 元来可愛いもの好きなマーゴは、その姿に思わず笑みを漏らしてしまう。

 

 言葉を発さず、けれどコメディチックな動きで可愛らしさをアピールし。

 そして、決して少女たちを傷つけず、むしろ危険から遠ざけようと頑張る。

 

 そんな日々の積み重ねによって、ノームはミオンと共に、今では一定以上の市民権を得ていた。

 むしろ一部の少女は、この可愛い使い魔の熱狂的なファンになっている程である。

 

 

 

「それじゃあ、行きましょうか。みんなを起こさないようにね」

 

 少女と小人の深夜の散歩は、密やかに行われた。

 

 既に周囲の部屋からは少女たちの寝息が聞こえて来る時分。

 うるさくするわけにもいかず、すぐにそこを離れ……。

 彼女が足を向けたは、他の世界線のマーゴもよく親しんでいた、図書室だ。

 

 かつて部屋の中央で咲いていた木は、一時期は魔法の力を失い、枯れかけていたが……。

 今はノームやミオンによって管理され、再び元気を取り戻している。

 

 「ここに何か用が?」とでもいうように小首を傾げるノームに微笑みかけ、マーゴが向かったのは部屋の奥。

 本棚の中に、まるで隠すように置かれた、一冊の本だった。

 

 マーゴには、2つの異なる世界の記憶がある。

 そのどちらの世界でも、彼女は牢屋敷からの脱出を目指し、図書館に入り浸り……この本を解読していた。

 

 それらの記憶を統合しているこの世界のマーゴは、本の内容をおおよそ理解できていた。

 彼女は椅子に座り、見慣れた本を読みながら、【魔女】と【魔法】について、思いを馳せる。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 かつてこの島には、人間とは異なる、魔女──【原初の魔女】と呼ばれる種族が生きていた。

 【魔法】という不可思議な力を振るう彼女たちは、この島の中で静かに暮らしていたが……。

 

 ある時、人類がこの島に攻め入り、魔女たちを攻め滅ぼしてしまった。

 

 その惨劇の中、ただ一人生き残った魔女──どうやらエマやヒロの親友であったらしい【月代ユキ】は、人類に復讐するために計画を立てた。

 

 自らの持つ魔法の力を細かく分割し、人を処刑されるべき【魔女】にする【魔女因子】という呪いとして、人類にばら撒き、広め……。

 全人類に広まったところで、【魔女殺し】の魔法によって、殺し尽くす。

 

 ……結論から言えば、桜羽エマや二階堂ヒロ、氷上メルルらの説得により、この計画は取り下げられ。

 月代ユキは【魔女因子】による呪いを自らの命と共に断とうとし、氷上メルルも共に逝ったことによって、長きにわたる憎悪の歴史は終わりを告げたのだった。

 

 

 

 魔女因子によって少女たちに宿っていた魔法の力は、その際に喪われた。

 かつて【モノマネ】の魔法を使っていたマーゴもまた例外でなく、どれだけ意識したところで、もはや他者の声を真似ることはできない。

 

 しかし、魔法を失ったことで、少女たちが悲しんだかと言えば……一様に否とは言えない。

 アンアンはむしろほっとした様子で、以前より自分の言葉を口にすることが格段に増えたし。

 ノアはアーティストとしての力を削がれて、けれどむしろ、吹っ切れたように明るくなったくらいだ。

 

 マーゴとしては……正直に言えば、少々残念な思いはあった。

 他の世界では、エマに「自分の魔法は取るに足らない」などと言っていたが、それは嘘だ。

 詐欺師という彼女の職業において、「他者の声をほぼ完璧に再現できる」という技術はこれ以上ない程に役立っていた。

 

 ……が。マーゴとて、感情がないわけではない。

 月代ユキの想いを、魔法という呪いを、魔女の悲惨な結末を知った上で、まだこの力を望むのかと言われると、それは否。

 

 心の中で、決別は済ませている。

 彼女にとって【モノマネ】の魔法は、既に過去のものとなっていた。

 

 

 

 ……しかし、何故、このようなことを思い出していたのか?

 

 マーゴがちらりと、その視線を本から横に逸らせば……。

 隣の椅子の上で、いつしかコクリコクリと舟をこぎ始めている、ノームの姿がある。

 

 魔法は喪われた。

 月代ユキが、自らの未練や希望と引き換えに、その歪みを正してくれた。

 

 そのはず、なのだが……。

 

 

 

 証言。【魔法は魔女因子と共に喪われた】

 

 ──反論。【ノームは魔法で動いている】

 

 

 

 樋口ミオン自身が言っていた。

 自分は恐らく、日本で唯一、今でも魔法が使えるのだと。

 

 どうなっているのかしら。

 そう、ノームを起こさないよう、口の中だけで呟いて……。

 

 マーゴはため息一つ、可能な限り音を立てないよう、立ち上がった。

 

 宝生マーゴは思慮深く、けれど行動力もある少女だ。

 他者からの視線を気にして飄々としつつも、現状の打破のために仮面の裏で策を練り、目に付かないよう情報を集める……。

 これは彼女にとって、生きる上での習性であり、習慣。

 昏い世界に生きていた頃の経験が、彼女の背を押すように急かしている。

 

 だからこそ、今回も。

 自らの優位を確保するため、最も情報を持つ存在に取り入ることを選んだ。

 

 

 







 魔法【使役】

 精霊や妖精(?)を使役する魔法。
 樋口ミオンはこれを使い、人間好きの妖精たちを人形に宿らせ、【ノーム】という名前の使い魔にしている。
 牢屋敷の呪いの品や魔法の残滓をこっそり処分するのもノームたちのお仕事。もうダストシュートに落ちたら並行世界に行って自分と無限に殺し合うこともないので安心。
 労働の対価として、1日につき角砂糖1つが要求される。人件費激安。
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