嘘吐少女ノ魔女愛談   作:アリマリア

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 今回ちょっと時間がなくてあまりできなかったので不安。
 文章的におかしいところとかあれば、是非ご指摘お願いしたいです……。





宛て先不明のお手紙(5)

 

 

 

 日が落ちるのも早くなった冬。

 マーゴが温泉を出る頃には、既に日が傾き始めていた。

 

 とはいえ、そこは予定通り。

 旅館に辿り着いた今日は、穏やかに自然を見に歩く程度に留め、市街地の観光やお土産の選定は一度身を休めて明日に回すプランであった。

 

 そんなわけでマーゴは、マッサージチェアに揺られるミオンと合流した後、知り合いとなった旅行客の女性のニヤニヤとした目線を背中に感じながら、夕食を取りに行くこととなった。

 

 

 

 座敷に通された先で運ばれてきたのは、しゃぶしゃぶ鍋を中心とする豪華な料理群。

 明らかにお高めな肉、旬のものが揃った野菜に、豆腐やつみれなども山盛りだ。

 2人は1時間半ほどゆっくりと時間をかけ、それらに舌鼓を打った。

 

「これ……すごいわね。野菜がこんなに美味しいって感じたのは、久しぶりかも」

「相変わらず良い仕事だ。食材の目利きが良いんだよ、江川さんはね」

 

 あまり美食というものに縁がなかったマーゴではあるが、この1年弱でミオンの手料理を食べ慣れていたため、幸か不幸か多少の耐性はできている。

 想いを寄せる男性に酷い動揺は見せるようなこともなく、精々思わぬ食感に目を見開く程度で済んだ。

 

「ふふっ、ミオンさんと会う前の私なら、あまりの美味しさに固まってたかもね♡」

 

 

 

 そうして、表面上はにこやかな笑みを浮かべながらも……。

 同時、彼女の内心には、恐れ戦く思いもあった。

 

 ミオンが普段、牢屋敷で振舞っている料理。

 アレは、旅館のお高めなのだろう食事と、同レベルのクオリティなのだ。

 

 令和の今、男女の性差で家庭内の役割が分けられるわけではないが……それでもやはり、自分が作ったものを美味しく食べてほしいと思う程度の乙女心はマーゴにもあるわけで。

 

 自らの手で料理という料理を作ったことのないマーゴが、ミオンを唸らせる料理を作れるようになるのは、果たして何年後のことになるだろうか。

 

 

 

 ……というか、このままのんべんだらりと暮らしているままでは、そんな日は夢のまた夢だろう。

 最近、夢に向かってそこそこちゃんと努力をしているアンアンに倣わなくてはなるまい。

 

「ミオンさん、良ければ今度、料理を教えてくれない?

 私も少しくらいは……いえ、いつかはあなたを満足させるような料理がしてみたいのよ」

 

 振舞いたい相手に弟子入りするのは、少々本末転倒な気もしなくもないが……。

 

 自分ができないことは、他人に頼る。

 それもまた一つの道なのだと、今の彼女ならそう判断できた。

 

「ふむ。僕の舌はかなり肥えているから、なかなか難易度が高いよ、その目標は」

「ふふ、望むところよ。

 これからも、きっと長いこと隣にいるんだもの。長期的な目標の1つや2つ、あってもいいでしょう?」

「……なるほど、うん、わかった。それなら今度時間を取ろうじゃないか」

 

 マーゴのその選択は、きっと正解だっただろう。

 肩をすくめたミオンの顔は、確かに綻んでいたのだから。

 

「1年半……いや、1年で手に職を付けられるくらいに育て上げてみせよう。

 2年あればプロフェッショナルと言えるレベルに。3年で伝説のシェフを目指そう」

「いやあの、ええと、そこまで本気でなくてもいいのだけれどね? あなたに美味しいって思ってもらえれば、私、それでいいから」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 未来を語りながら食事を終えて。

 2人はそのまま、部屋に戻ることにした。

 

 今更ながら、ミオンが取ったのは2つの部屋ではなく、1つの大部屋だ。

 

 明らかに2人一緒に泊まる想定のそれは、マーゴの意思を汲んでのもの。

 可能な限りミオンと共に過ごしたいマーゴとしては、当然ながら別の部屋ではなく同じ部屋に泊まりたいというもので……。

 ミオンはそんな、口に出せそうもない欲求を察し、この采配を取ってくれた。

 

 ……これが普通の耳年増の少女であれば、これからのことを考えて顔を赤らめたり、挙動不審になったりしていたかもしれない。

 しかしながら、マーゴはただ小耳に挟んだレベルではなく、そちら側の事情をよくよく知っているし、今更無様な動揺など晒すわけもなく。

 

 そして何より、樋口ミオンをきっと誰より知るマーゴは、今回、【そのようなこと】にならないことも理解していた。

 

 マーゴが彼に求めたのは、確かに感じる【温かさ】と共に過ごす時間であり。

 マーゴが彼に贈りたいのもまた、同じなのだ。

 

 ただ指が、肩が、背が触れ合うような距離で、同じ時を共にしたい。

 

 それは彼と彼女にとって、あるいはその先にものより、ずっと得難いものなのだから。

 

 

 

 ……だが、それと同時に。

 

 マーゴは、この旅行の中で一つ、ミオンに尋ねようと思っていたことがあった。

 

 これから彼と、彼の【禁忌】と付き合う上で。

 少しでも、樋口ミオンという男性について知るために。

 

 

 

 幸いにして、二人きりで落ち着いた時間を過ごせている今は、それを尋ねる好機でもある。

 

 まるで砂時計のように淡々と過ぎていく、静かで満ち足りた時間。

 エアコンを付けても肌寒いはずの真冬、それでも確かな温かさを心と体に感じる一時の中。

 

 ある程度お互いの話が落ち着いた辺りで、マーゴは切り出した。

 

「ミオンさん、訊きたいことがあるの」

 

 部屋に備え付けられた椅子を並べ、少しだけ……ほんの少しだけ、体重を預けるように並んで。

 

 マーゴは、彼に、ずっと気になっていたそれを尋ねた。

 

「……あなたの母親からの、遺言。あなたはそれを、どう捉えているの?」

 

 

 

 

【人を憎んではなりません】

【人を愛し、人に愛されなさい】

 

 それは、ユキの他にただ一人残された原初の魔女が、彼を産み、命を落とす際に残した遺言。

 

 500年前に生まれた怪物の牙を削ぎ落した命令であり。

 人類が滅亡を免れた遠因ともなった因果であり。

 そして、ミオンが唯一知ることのできた、【愛】からもたらされたもの。

 

 かつてそれをマーゴに語った際、ミオンはそれに、特に思うところがない様子だった。

 無論、あの頃と今では2人の関係は大きく変わっている。あの時マーゴに本当の気持ちを見せていたとは限らないが……。

 

 そもそも、昏い話だからと、ミオンはあまり過去を語りたがらない。

 マーゴだって、彼が父に当たる人間を「処理」してから日本政府と密約を結ぶまでの何十年を、そしてそれからマーゴと出会うまでの数百年を、殆ど知らない。

 彼がどこかの村に定住していたことだって、ついさっき聞いて知った程だ。

 

 だから、その日々ががどんな色に満ちていたのかも知る由もなく。

 500年なんて途轍もない時間が、彼の中に響く言葉をどう歪めたのかも、わからない。

 

 だからこそ、マーゴは知りたがった。

 

 もしかしたらその先に、彼の求める【答え】があるかもしれないから。

 

 

 

 穏やかに、けれど真剣に尋ねるマーゴに対し。

 果たしてミオンは、少し驚いたように目を見開き、答える。

 

「うーん……どう捉えるか、か。

 とは言っても、文字通りの遺言だ。僕にどうして欲しいかの指示。それ以上の解釈の余地はないと思う」

「そうね、それは確かに。

 でも、短い文章だからこそ、そこに込められた想いには解釈の余地がある……そう思わない?」

 

 彼が知る母の情報は、そのたった二文だけ。

 それは最後の魔女の片割れの想いを知るには、あまりに少ない資料だった。

 

 もつれがあるとすればそこだろう。

 

 

 

「そうだね……母の感情。何を考えていたのか、か」

 

 ミオンはマーゴの言葉に、少し考え込み。

 しかし、ある程度彼の中で考えはあったのか、すぐにそれを言葉にした。

 

「……きっと母のそれは、【愛】を込めた遺言だったのだと思う。

 僕と人類が争わないようにと、優しかったんだろうその人は願ったんだ」

 

 集中するように、まぶたを閉じて語るミオン。

 

 かつての彼曰く。

 魔女は生まれたばかりだった彼に、【伝言】【記憶】の魔法を使って遺言を遺した。

 

 直接言葉を交わさずとも脳内に文言を送り込む【伝言】。

 言語を介さない赤子に、言葉を覚えるまでそれを忘れさせないようにする【記憶】。

 それらを以て、彼の脳内には、今でもその言葉が残っている。

 ……更に言うのなら、その言葉は今なお、響き渡り続けている。

 

 恐らくは、それを聞きながらの言葉だったのだろう。

 もはや窺い知れない過去に、彼は思いを馳せ……。

 

 その所感と考察を、口にした。

 

 

 

「そう。きっと母は、【人類を】愛していた。

 あそこまで追い詰められ、殺され、凌辱されてなお、人類を愛する程に【優しい魔女】だった。

 僕と争えば人類は滅ぶだけだと、そうわかっていたからこそ、【僕を止めた】んだ」

 

 

 

 それを聞いて。

 マーゴの心に、悲しみとも寂しさともつかない感情が湧き上がる。

 

 そこにあった確かな、けれど本人には見えていない【捻じれ】。

 それはきっと【禁忌】に端を発するものなのだろう。

 

 かつてマーゴが【愛】を語った時、少女たちも、そしてミオンも、同じ感情を抱いたのかもしれない。

 

 この世界は、なんて残酷なのだろう、と。

 目の前の人にも、救いがあるべきなのではないか、と。

 

 

 

 ……そして、それを知れたのであれば。

 

 今、彼女がすべきことは一つ。

 

 

 

「それは違うわ」

 

 

 

 その言葉の解釈についての、【真偽の追究】だ。

 

 

 







 次回、気持ち久々の【追究審議】。
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