嘘吐少女ノ魔女愛談   作:アリマリア

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牢屋敷の新管理人(6)

 

 

 

 3つの世界、それぞれの魔女裁判の光景が、マーゴの脳内に過る。

 ……あの時のことを思い出して、この少年の使う魔法の正体を暴かなければならない。

 

 であれば、まず必要なのは……仮説だろう。

 

 主にシェリーやレイアが担当することの多かった、最初の仮説提唱。

 それは十中八九間違ったもので、穴や破綻も多かったが……。

 なんだかんだ言って、そこから話が発展することも多いのである。

 

「【今も魔女因子を持っている】、とか?」

 

 故に、まず挙げた可能性がそれ。

 当然というべきか、ミオンはすぐに首を振って【反論】した。

 

「【魔女因子はもう存在しない】。それは君たちが一番よく知るところだろうし、改めて僕……国からも、太鼓判を押させてもらう。悲劇はもう起こらないよ。

 それに、魔女因子──【最後の魔女の破片】は、彼女の所有した膨大な数の魔法を1つずつ切り分けたもの。

 つまりは、魔女因子を持つ魔女は、あくまでも【単一の魔法しか使えない】んだ」

「それはそうねぇ」

 

 マーゴはその言葉に【賛成】する。

 

 彼女たちを含む、この牢屋敷の少女たちは、かつて十人十色の魔法を有していたが……。

 誰一人として、2種類以上の魔法を使えた者はいなかった。

 

 ユキから後天的に魔法を与えられたと思しきエマでさえ、どれだけ精神的に疲弊しても、【魔女殺し】以外の魔法が使えなかったのだ。

 魔女因子による魔法は、【一人につき一種類だけ】。

 そういったシステムになっている、と解釈するのが自然だろう。

 

 

 

 しかし現実的に、管理人である樋口ミオンは、2つ以上の魔法を使っていた。

 

 初日に見せた、アリサのそれと同じ【発火】。

 そしてノームを従える【使役】。

 他にもいくつか、マーゴはミオンの魔法を目撃していた。

 

 そこから考えれば、自然と推論が出て来る。

 

「管理人さんは複数の魔法を使っている。つまり、魔法は【魔女因子によるものじゃない】?」

「ああ、真偽は一旦伏せるとして、そう考えるのが自然だろうね。

 そもそも最初に言ったと思うけれど、【魔女因子の活性化から魔女と認定され、監獄に囚われた上で生き残ったのは君たちだけ】なんだ。

 もしも僕が君たちと同じ境遇なら、矛盾してるだろう?」

 

 そういえば、初日にそんなことを言っていたのを思い出す。

 あの時は激情で頭が固まってしまったが……どうやら、最初からヒントは出されていたらしい。

 

 とはいえ、このまま話を進めるのは、どうにも誘導されている気がしてならない。

 一度、多少無理筋にでも【反論】した方が良いだろうか、と。

 マーゴは歪めた唇を、指先で覆い隠した。

 

「私の知り合いに、検査を潜り抜けたっていう子もいたわ。あなたが魔女と認定されずに済んだ【非認定魔女】なら、話は通るんじゃない?」

 

 しかし、どうやらその【反論】は甘かったらしい。

 ミオンは表情を歪めることなく、即座に返してきた。

 

「それだと今、僕が日本政府のエージェントになっていることに説明が付かないね。

 君たちが魔女因子の諸々を解決してから、僕が派遣されるまで、たった1か月しか時間がない。

 更に言えば、魔女因子以外の要因で魔法が使える僕は、それが消えたタイミングを知ることができないから、実質的なタイムリミットはもっと短くなるね。

 この間に、わざわざ政府に自身の存在を知らせて、なおかつ君たちを任される程の信頼を得るなんて、どうやったって不可能だろう。

 時系列に矛盾が生じる……君たち風に言うならば、【アリバイがある】ってところかな。……少し違うか。ごめん、格好つけようと思ったんだけど失敗した」

 

 ……しまった。むしろ相手にペースを握られちゃったわね。

 

 マーゴは心の中でそう吐き捨て……改めて考える。

 

 

 

 樋口ミオンは、【複数の魔法を使うことができる】。

 そして、それは魔女因子による魔法ではあり得ないため、【魔法は魔女因子によるものではない】。

 

 それらから考えられることは……。

 

 

 

 仮説。【魔女因子をたくさん植え付けられている】

 ……違う。

 たくさん植え付けられたから複数の魔法が使えるという【証拠】はない。

 それに、もしそうなら、最初に魔女になったという氷上メルルは、より多くの因子を植え付けられ、色々な魔法が使えただろう。

 

 仮説。【原初の魔女の生き残り】

 ……違う。

 確かに原初の魔女は複数の魔法が使えるようだったが……月代ユキが断言していたのだ、【魔女という種族はユキ以外全員殺された】と。

 魔法を自在に使いこなす原初の魔女たちは、もうこの世界に残っていないはず。

 

 仮説。【【発火】の魔法は炙りビンによるもの】

 ……違う!

 なんだ炙りビンって。どこかで聞いたような気もするが、新しい珍味の名前か何かだろうか?

 あれは間違いなく、魔法によるものだった。アリサの【発火】を目の前で何度も見たからこそ、マーゴは断言できる。

 

 

 

 では、他の仮説は、何か、何かないだろうか……と、考えていた時。

 

「……!」

 

 不意に。

 マーゴの脳内で、答えまでの道筋を閉ざす、薄いガラスのような壁が割れた気がした。

 

 

 

 

 

 

「もしかして、あなたは…………【原初の魔女の子孫】?」

 

 

 

 

 

 

 そもそもの話。

 原初の魔女も、生物であるというのなら、生殖や増殖の概念があったはずだ。

 

 月代ユキは、大魔女の尽くが殺されたと、そう語っていたが……。

 何かの間違いで、ユキの知らないところに原初の魔女の次世代、子孫が残っていたのなら。

 【魔女因子がなくても魔法が使える】ことも、【複数の魔法を自在に操る】ことも、説明が付く。

 

 

 

 そして、何より、時折ミオンが口にする言葉……。

 

『君たちを丸っと幸せにするため、政府に結構無理言って、ここに来させてもらった。

 ……身内の不始末、きちんと片付けさせてもらうよ』

 

 身内の不始末。

 それは、日本政府による魔女処刑ではなく、月代ユキによる魔女因子の拡散のことになるし。

 

『ははは、お金や欲望じゃなく責任の問題さ。

 ……ま、給料は振り込まれてるんだろうけど、この島にいたら個人のお金を使う機会はないだろうしね。あまり興味がない』

 

 責任。

 それは、単にマーゴたち少女の面倒を見ることではなく、この一連の騒動の始末を付けることになる。

 

 

 

 果たして、マーゴの呟いた言葉に対して……。

 

「うん、正解」

 

 樋口ミオンは、月代ユキと同じ【白色の髪】を揺らして、気安く頷いた。

 

 そのまま、相変わらず人好きのする笑顔を浮かべ、語り始める。

 

「知りたがりで理性的な君には、正直に伝えておこう。

 僕は、原初の魔女の子。

 より正確に言えば、この島を滅ぼした人間と、原始の魔女のハーフだよ」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 それから語られた話は……。

 マーゴをして、悲惨と表現するしかないものだった。

 

 かつてこの島に暮らしていた、原始の魔女たち。

 しかし、人間がこの島を攻めた時、殆どの魔女は殺され……。

 最後の魔女【月代ユキ】は、せめてあなただけでもと、逃がされた。

 

 故に、彼女はその悲惨な光景を、最後までは見ていない。

 かろうじて致命傷を避けて生き長らえ、人間に拿捕され……慰み者にされた魔女がいたことなど、知らなかったのだ。

 

 本来、別種族たる人間と魔女の間に、子供などできようはずもない。

 けれど……それは果たして、如何なる奇跡か、あるいは悲劇か、もしくは魔法か。

 

 一つの爛れ歪んだ命が、魔女の胎内に宿ってしまった。

 

 本来あり得るべからざる出産は、ただでさえ衰弱していた母体に致命的な負荷をかけ、赤子を生むと同時に魔女は死亡し。

 そこに残されたのは魔女の死体と、人間かどうかも判別できない、肉塊のようなものだけだった。

 

 

 

「とまあ、それが僕のルーツだ。

 以後は、あまり明るい話でもないし、大胆にカットさせていただいて……。

 しばらく前、僕は【魔女因子】の存在を知って、日本政府と密約を交わすことにした。

 僕の日本での生存を許容し、最後の魔女の撒いた魔女因子に関して情報を回してもらう代わり……もしも魔女が本土に解き放たれた場合は、僕が眠らせるって約束だよ」

 

 そこで彼は一度、カップに残ったココアを啜り、若干の間を置いて言う。

 

「要するに僕は、万一のための暴力装置として存在を許容してもらっていたんだ。

 そして今は、この件の……半分同種である月代ユキのやらかしの責任を取るため、こうしてここに来させてもらった。

 ……ちょっとショッキングな話だから、これ、みんなには教えないようにお願いね」

 

 

 

 ミオンが語り終える頃には、マーゴの手の中のカップは、殆ど空になっていた。

 

「なるほどねぇ……」

 

 呟きながら、必死に頭を回す。

 

 彼女は年齢の割に頭の回る方ではあるが……それでも、若干15歳の少女だ。

 こんな話を聞いて、すぐさま理性的に情報を整理できるはずもない。

 この情報は一度持ち帰り、ゆっくりと考える必要があるだろう。

 

 けれど、それは後の話。

 今、彼女の脳内は、大きな混乱と当惑に満ちている。

 そんな混乱(よわみ)を、他人に見せられるわけもない。

 

 

 

 ただ守るばかりでは、形勢は不利になるばかり。

 だからこそ、逆に攻勢に出る。

 

 マーゴは物憂げな表情を繕い……。

 せめてもと、最後にもう一本の矢を放った。

 

「もう一つ、質問させてもらうわ。

 あなたの最終的な目的は何なのかしら。

 月代ユキの後始末? 人間への復讐? ただ平穏に暮らすこと?

 それとも……他に、何かあるのかしら?」

 

 妖艶な笑みを口端に添え、紫苑の色の目を細めて、彼女は問うた。

 

 正直に答えられるとは思っていない。

 知りたいのは、どう嘘を吐くか、何をどう表現するのか。

 それは樋口ミオンという少年を……いいや、少年のカタチをした誰かを測るための、重要な【証拠】だ。

 

 詐欺師である彼女にとって、【偽証】は相手を測るための【証拠】になり得る。

 故にこそ、次の答えに、自らの心を隠した言葉に期待し……。

 

 

 

 けれど。

 

「ああ、言っていなかったかな。別に隠すことでもないんだけど。

 僕はただ、君たちを【愛したい】だけだよ。

 僕の母親の同胞が、とんでもない面倒をかけてしまったからね。それがせめてもの務めだし、すべきことだし、そして僕自身の望みでもあるんだ」

 

 

 

 ……ああ、その主張に。

 【愛したい】という、彼の言葉に。

 

 

 

 嘘は、なかった。

 

 

 







記録【樋口ミオン】

 本人曰く、樋口ミオンは原初の魔女と人間のハーフ。
 様々な魔法を使うことができるが、それは魔女の遺伝故であり、月代ユキの魔女因子による魔女──所謂【人間魔女】ではない。
 日本政府と取引し、魔女因子の情報を追っていたが、エマ、ヒロたちが事件を解決したことで、責任を取るため牢屋敷の新管理人になった。
 その目的は、元魔女である少女たちを【愛する】ため、らしい。



 * * *



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