冒険者ギルド こーほーぶ! 作:へ、ヘイトスピーチ…!
「実態…ですか?」
「あぁ、実態だ」
実態と言っても、今言った通りじゃなかろか?それ以外に何が…?と思うがしかし、何かあるんだろう。
背筋を伸ばして拝聴する。どうぞ
「確かに、俺達の冒険者に対する評価はそこまで高いものではない。寧ろ低い方だ。ただ、それは俺達だけの話でもある」
つまるところこうだ。どうして私達がこうも言えてしまうのかが問題であるらしい。確かに私は冒険者の内を知る人間として、ウィンスターさんは冒険者として、それぞれ内情を知っているからアレコレ言えてしまう。
だが、それを知らない者からすればどうだろう?
商人なら?冒険者ギルドに依頼を出す側で、間にギルドが挟まるから実態を知っているかどうかわからない。
町人なら?街に住むものとして冒険者は遠い職業だ。関与できる機会が少ないともいえる。だから、どう見えているかわからない。
私達の『知っている』というアドバンテージは逆に足枷になるかもしれない。
そういうことらしかった。
「ほうほう。納得できますね…」
「寧ろ知らなければいけないのは俺達のような冒険者側の人間ではなく、外の人間の評価だ」
「ふむ。だから実態ですか」
「あぁ。俺たちがまず知らなきゃいけないのは外から見た冒険者だ。何が良くて何が駄目なのか。改めて問題を調査、整理する必要がある」
つまり、冒険者を外から見た時、私達のような内情というフィルターを外した、"ナマの情報”を知らなくてはいけないと。
「なるほど…わかりました。先ず取材ということですね」
「そうだ。アテはあるか?」
そう聞かれて少し悩む。アテ、アテか…。色々脳裏をよぎるが…あっ
「知り合い!衛兵所に知り合いがいます。街の門の警備担当なので話は聞けるかと」
「良いな。衛兵なら冒険者だけじゃなく他の人々も見ているだろう。比較した情報が聞けるはずだ。俺も泊っている宿でそれとなく話を聞いてくる。宿屋は冒険者に限らず多くの者が泊まるからな」
「それじゃ、手分けして行きましょうか」
「あぁ、行こう」
とりあえず、突発の冒険者広報チームの最初の仕事は、冒険者の実情取材だった。
―――――
「おはよ、リリカ!」
「あぁ…あー、カイリじゃないか。おはよう。どうしたんだい?街の外に出るのかい?趣味もほどほどにしなよ…最近物騒なんだから」
街と外をつなぐ門。外から来る人、内から来る人を見て、守ったりするのがお仕事の衛兵。そんな受付嬢とは別ベクトルで忙しい職に就くのは、私の友達、リリカだ。
女性で衛兵というのは珍しいことじゃない。というのも、人間には一人一つの固有魔法と呼ばれるものがある。
その固有魔法の内容次第で、就ける職業が変わったりするんだから、そこに男女の違いはあまりなかったりする。
リリカはいつものように門の横に立ち、私と話しながらも仕事を全うするように、門を通ろうとする人達に鋭い視線を向けている。
門の出入り、出るのは簡単だが入るのは結構な手続きを必要とする。身分の確認、何処から来たのか、色々だ。
仕事途中で悪いのだが、私もやらなければいけない。意を決してリリカに聞いた。
「リリカ、ちょっと時間もらえたりする?」
「ん?あー、別にいいさ。ちょうど交代の時間だからな。……おーい、交代だ!代わってくれー……にしてもアタシに用とは珍しいね」
「あー、ごめん。ちょっと面倒なことになってね」
「ははは、受付嬢の愚痴ばっか吐いてたカイリのことだ。ようやくやめたのかい?」
「やめられるわけないじゃーん…ちょっとね」
そうして、交代で休憩に入ったリリカに事情を説明する。もちろん、喋りすぎるのも駄目だから、こんなことをするよーっていう触りの部分だけだけど。
「なるほどねぇ…それでアタシってことかい」
「うん。衛兵だから冒険者含めて色々見てきたでしょ?」
「まぁな。仕事だからいやというほど」
「だよねぇ…うーん、どう?冒険者」
「そうさなぁ。色々、本当に色々あるんだよ」
そういって、衛兵の仕事で身に着けていた魔道具、まぁるい水晶玉を取り出した。確かそれ…
「犯罪歴がないかを調べる魔道具だよ。手をかざしてもらってどうかを見るんだけど…」
グイッと目の前に付きつけられたソレ、見れば傷やなにか赤いものすら微かに見える。待って…もしかしなくても…
「血だよ。血。冒険者に限らず、犯罪をしてきたやつらはこれを嫌う。バレるからな。だから、追い詰められると壊そうとしたりするから、その過程で傷ついたり血が付く。ちなみに、これは五代目だ。」
「ごだいめ…」
「おう。壊されまくってる。」
リリカは溜息を吐いて、水晶玉をしまうと気の毒そうに言葉を向けた。
「カイリには申し訳ないけどよ。正直うんざりもんだよ。礼儀正しい奴も居るが、全体で見れば少数だ。犯罪だったりなんだったりしてくるんだから、冒険者の評判と言われてもな」
「そうだよねぇ…」
うーむ、やっぱり事実じゃないか()
うへぇと顔を崩して、不安感と不満感を大にする。これをどうやってうまく書けっていうんだ。どれだけ良く書いても誇張になっちゃうよ…。
リリカも申し訳なさそうな顔をする。なになに、どうしたのよ?
「こっちも謝りたいんだよ。真面目な奴すら疑わなくちゃいけないんだからな。アイツらだってうんざりしてるハズさ。でも疑うのが仕事っつーか…まぁ冒険者ってレッテルはどうしても…な」
…なるほどなぁ。
その視点はなかったと言えばうそになる。でも、メインを張るのはやっぱり素行不良の人達だからあまり目に行かなかったというのが本音だ。
真面目な人達が損をしている…か。これは冒険者人口の低下の理由かもしれない。
メモに書き連ねる。
~~~
□冒険者人口の低下の原因
・素行不良な人達が多い
→真面目な人達が損をしている
→冒険者=犯罪者 レッテルがある かも?
~~~
よしっ、一つネタをゲットだ。とっかかりが見つかった。
希望が見つかって少しうれしくなったから、気分を良くして話を続ける。
「他に何かないかな?例えば…冒険者の噂とか?」
「噂ぁ?そうだな…大なり小なりあるが、最近だと。あぁ、そうだ。
「リ、
びっくりするような言葉が出て来た。えっ?
「それもある。ようはアタシ等を挟まないで制裁を加える行為だな。冒険者に歯向かうとその
ふーむ?キナ臭くなってきたな。これはたぶん広報の仕事じゃない。ギルドの体制としての問題だ。きっちり聞く必要がある。
「具体的にはいつごろから?あとは被害に遭ってる人がいるなら知りたい」
「詳しくは知らねぇ。ただ、一か月も経たないモンだ。被害を受けた奴ってのは宿屋区で聞いたな」
「なるほど、ちょっとこっちでも調査してみます」
「おぅ、頼むわ」
~~~
☆冒険者の
・最近の噂として流れて来た
→1か月以内の話
→被害者は宿屋区に居る
→報告する必要アリ
~~~
手帳にサッと書き留める。よし、これでいい。あとはギルドに回そう。法的手続きも進めないといけない。
「リリカ、もし他に被害が出てたり、新たな情報が出てきたらギルドに使いを出してでも教えてほしい。報酬は出すから」
「わぁーった。まぁあくまで噂だから嘘かもしれねぇけど…」
「火のないところに煙は立たない…よね」
「だな」
思ったより大ごとになりそうな話を聞けて、心臓に結構なダメージを与えられたものの…受付嬢として…いや、ギルド職員として対応しなくちゃいけない仕事でもある。しっかりとやらなければ…
「今日はありがと。ちょっとすぐ戻らないといけなくなったから」
「おう。カイリも休めるとき休めよ」
「ふふっ、冒険者が品行方正になったら休めるかも」
「そりゃ遠いわ…。ムリすんなよ」
「わかってる。じゃあね。リリカ」
「じゃあな。カイリ」
私はリリカに手を振ってその場を後にした。
―――――
「アルスタさん、3番資料と4番資料こっちに回してください」
「3と4?冒険者の犯罪絡みでしょ。何かあったのかしら?」
「最近、噂ですけど私刑を行っている冒険者がいるかもしれません。1か月以内の出来立てほやほやの噂で、宿屋区に被害者がいるかもと」
「なるほど、担当と調査員を呼んでおくわ」
「ありがとうございます」
真面目にお仕事モードだ。資料を引き出して本件事案に手を付ける。
受付嬢は別に冒険者に対してにっこり笑うだけがお仕事ではない。他にも方々に提出しなくてはいけない書類手続きといった事務もお仕事になる。ギルドって…半公的機関だから…。
さてさて…自分の机、引き出しから取り出した髪留めを取り出し、髪をまとめる。
インクが出るかを確認して、書類にペンを走らせる。
噂でこんなの必要?と思われるかもしれないけど、大抵こういう噂には火元がある。
それに冒険者が関わっているなら大きくても小さくても、ギルドの責任になるのだ。
だから、調査をする費用や手間よりも、それが嘘でした、ただの噂でしたで終わる方がよっぽどいい。
こういう事務は、他の受付嬢はやりたがらない。だってみんな婚活がメインだし…
私がギルドに入った頃、新人だったのもあって仕事を押し付けられる立場だった私は、メキメキと事務の実力が上がっていった。悲しいスキルアップですよホント…
サッと書き上げ、記入事項は済ませる。あとはギルマスの承認を待つだけだ。まぁ承認されるだろう。冒険者は良くも悪くもメンツが大事だし。
「カイリちゃん、ギルマスには私から渡しておくわ。それより、ウィンスターさんが呼んでいたわよ」
「へぁっ、はい!」
書類に集中していると周りが見えなくなるタイプの私は、言われるがままアルスタさんに仕事を引き継いでもらい、広報の仕事であろうウィンスターさんから結果を聞こうと思ったのだが…
―――――
「マズイことになった」
「マズイこと…?」
嫌 な 予感 が する
「宿屋の主人や女中から話を聞いていたのだが…冒険者達数人が一般人に絡んでいてな。絡まれた方は抵抗していたが武器をちらつかせていた。だから、俺が介入してを打ち負かしたんだが…」
もうすでに終わってた!?
「いや、ここからだ。逃げた冒険者が去り際に『俺達に舐めた真似したことを後悔させてやるッ』と」
「お、おぉぉぉぉぉぉ(喉から絞り出される苦悶の声)」
やばい、やばい…やばいよこれ…。
思わず頭を抱えて蹲る私に焦ったようにウィンスターさんが口を開く。
「待て。大丈夫だ。これは俺の問題で君を巻き込むものでは」
「違うんです…違うんです…」
そうして、消え入りそうな声で何とか説明する。
衛兵であるリリカに取材をしたこと。
真面目な冒険者が損をしていること。
新しい噂として、冒険者が私刑をしているというものがあること。
被害者が宿屋区に居るかもしれないということ。
話を聞くにつれ、どんどん顔を悪くしていくウィンスターさん。そして、最後に同じように頭を抱えて蹲る。
噂が事実であり、そしてもう被害が出ていることから、この噂は事実として伝わっていくだろう。
そうなったらますます冒険者に成ろうと思う人はおろか、真面目な人も危ない人として遠ざけるようになってしまう。
悪い未来しか見えない…えぇ…?なんでぇ~、私が一体なにしたって言うのぉ…。
ウィンスターさんも、色々考えたのだろう。それにプラスして仕返しの問題も過ったのかもしれない。だって絶対やり返す気満々じゃん。
思わず泣きそうになりながら、心の底からの本心を吐いた。
「「どうするん(だ)(ですか)これ…」」
思わずハモったその言葉。
冒険者ギルド広報チームは早速、冒険者の私刑という特大ゴシップをどうにかしなくてはいけないという問題に直面した。