冒険者ギルド こーほーぶ! 作:へ、ヘイトスピーチ…!
「一先ず、一先ずはですよ」
言葉がつっかえるのを必死に抑えながら今後の展望を述べる。大丈夫、大丈夫なはず。
だって、手はもう回してる。書類はもう書き上げたし、アルスタさんの話を信じるならあとは調査を待つだけだ。ギルマスの承認だって多少の時間は掛かれど降りるだろう。
だから、だから私たちがやることは、えーっと、えーっと…!
「落ちつけ。一旦深呼吸をしよう。俺達は今、絶対に冷静とは言えない。問題を整理しよう」
「わか、わかりました…」
そうだ。冷静になろう。落ちつけ…落ちつけ私。こういう時こそできることを考えるのだ。
「まず、俺達の目的は新聞だ。冒険者のイメージ改善のために新聞を書かなくちゃあいけない。そこはいいか?」
「えぇ。次に私達は冒険者の現状を知るために取材を開始しました…そういえば、ウィンスターさんの方ではどんな話が聞けたんですか?」
「あぁ、俺の方ではまぁよくある『冒険者は粗暴で粗野』という事と、都会と田舎の冒険者の質を話す者もいた。王都の方まで行く商人だと顕著に感じられるらしい」
「なるほど」
メモしてる場合じゃないと思うが、それでも大事だ。めもめも…
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□冒険者人口低下の原因
・素行不良な人たちが多い
→真面目な人達が損をしている
→冒険者=犯罪者 レッテルがある かも?
→都会と田舎の冒険者の質
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「都会だと犯罪者とは思われないと?」
「あぁ、どちらかと言えば準騎士団と言う立ち位置だった。半公職といった形で、やはり冒険者の中でも精鋭が集まるからか評判はかなり良いと」
「ふむ。となると…いくつか問題点がわかってきますね」
「というと…どんなことだ?」
色々、頭の中だけじゃ足りないので文字に書いて整理してみる。
もちろん、ウィンスターさんにわかりやすいよう手帳を広げてみせてから。
まず、冒険者の人口低下の原因、その理由の一つに冒険者の素行不良がある。
粗暴で粗野、犯罪者予備軍という扱いをされていて、距離を置かれたり疑われたりする。
じゃあそれが全員かと聞かれればそうじゃない。
ちゃんと真面目にやっている人もいる。そういう人達は、粗暴で粗野な一般の人が想像する“冒険者”のレッテルのせいで損をしている。
新しいページを開いて…と、図式としてはこう。
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〇冒険者
├粗暴で粗野な冒険者 大多数 自由気ままにやってる
└真面目な冒険者 少数 ↑のせいで損をしている(一纏めに見られている)
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で、ウィンスターさんの話を含めると、こう。
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〇冒険者
├粗暴で粗野な冒険者 大多数 自由気ままにやってる
└真面目な冒険者 少数 ↑のせいで損をしている(一纏めに見られている)
└実力のある冒険者→王都行き(王都では準騎士の扱い)
~~~
「ふむ。これとは限らないと思うぞ。粗暴で粗野な冒険者でも実力がある冒険者はいる。ソイツ等はどうなる?」
と、ウィンスターさんの確かな言葉に唸りながらもギルド職員の回答を言う。
「うーん、ダメですね。そもそもギルドとしては、実力だけあっても意味ないんですよ。お貴族様も相手にするんですから、礼節や教養もなければいけません。それこそ、お貴族様は結構権力を振りかざす人も居ます。冒険者を守る意味合いでも、実力と合わせて礼節、教養は必須項目なんです」
「なるほど…だが、一部の粗暴な冒険者も真面目な冒険者に移動することはあるだろう。トラウマ、あるいは現実を知るといったものでだ。すると、こうなるんじゃないか?」
ウィンスターさんにペンを渡すと書き足した。
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〇冒険者
├粗暴で粗野な冒険者 大多数 自由気ままにやってる
│ ↓一定数移動(理由:トラウマや現実を知る)
└真面目な冒険者 少数 ↑のせいで損をしている(一纏めに見られている)
└実力のある冒険者→王都行き(王都では準騎士の扱い)
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うーん、冒険者じゃないからそこらへんわからないな…。
「そういう事ってあるんですか?いや、事実としては知っているんですが…こう、いまいち…」
「あぁ、それこそ様々な理由がある。自分の才能に限界を感じた、仲間を失った、後遺症が残るほどの怪我をした…冒険者を辞めていく者も居るが、心を入れ替えて真面目にやる者もいる。いや、真面目にやるしかない者だな」
「真面目にやるしかない者……」
「よくあるのは、後遺症が残る怪我をしてパーティーを組んでいた仲間から捨てられ、しかし帰るアテがない者とかな。最初は自暴自棄で酒に溺れるが…人間、生きるにも金が必要だ。だから、真面目にやるしかなくなる。ソロになるなら猶更だ。自分しか居ないという事実は、人間を思いのほか強くする」
「詳しいんですね…」
「まぁな。俺は万年ソロだが、それでもそういう奴と組むことはあった。悲しいことに結構冒険者生活が長いせいもある…はぁ。」
「あー、そういえばウィンスターさんって」
とたんに肩を落とすウィンスターさんに躊躇いがちに声をかける。確かこの人って…
「ギルド職員は知っているのか。まぁ珍しい経歴だしな。俺は、王立研究所の元研究員だよ。専門は魔法遺伝学」
「えぇ、ホントに珍しい経歴の人でしたし…オフレコでお願いしたいんですけど、ちょくちょく王立研究所から連絡ありましたよ?」
「嘘だろ!?」
今は冒険者をやっているウィンスターさんだが、その経歴はびっくりするものだった。王立研究所所属の元研究員、その肩書がどんなにすごいのかと言うと…
まず、王国一の学院に入らなければいけない。
次に、その学院内でトップレベルの成績又は学院の教授方をうならせる論文を書かなくてはいけない
そして最後、結果を出し続けなければいけない
と言う…まぁ最後がアレだったから冒険者やってるんだろうなという予想はさておき、すごい人なのだ。エリート中のエリート。国の宝レベルだろう。
そんな人がどういう経緯で冒険者やってるんだろうと思ったが…まぁそれはいいや。
そんな異色の経歴のウィンスターさんだが、その古巣とも言える王立研究所からちょくちょく連絡もとい近況を訪ねる手紙が届いていたのは事実だ。なんか手紙からしてツンケンしてる感じの。
「えっとですね『別に心配とは思ってないけど、それはそれとしてちゃんと食べてるかどうかとか、ちゃんと冒険者やっていけてるのかとか色々聞いて酒の肴にしたいから…』みたいな長い文章送ってくる人で」
「セイリィか!!そうか…セイリィか…」
どうやらすぐにわかるほど親しい人らしい。ほぅ?
「憑かぬことをお聞きしますが……どういう関係で?」
おやぁ?ちょっと出歯亀染みた欲がひょっこりしてきた。もしかして…良い関係で?コレ?コレなの?(小指を立てる)
「別にそういう奴じゃない。俺が学院次席でアイツ…セイリィが学院主席なんだ。勉学で必死に競い合った仲でな。セイリィは魔法変異学の方に行ったが…ちょくちょく会話はしていた。そうか…アイツがか」
ほーぅ?これは…気づいてない感じの…
「え、ちなみにその方は女性?それとも男性?」
「女だぞ。エルフだったか。高貴な生まれだと常々言っていたからいい所の令嬢なんだろう」
「へ―…へぇ~~~~~~~~~~」
「……なんだよ」
「いえなにも」
ふーん…ふぅぅぅぅーーーーーーん!!!!!
あぁいや、今は置いといて。
「まぁその人からちょくちょく手紙が届いて近況報告まがいのことをしてたんでウィンスターさんのことはそこそこ知ってますね」
「待て俺についてどんな風に書かれていたんだ」
「……まぁそれはともかく」
「おい…おい!……いや、確かに今はそんなこと言ってる場合じゃないが…!」
ものっそい形相でこちらを見てくるのを目を逸らしてやり過ごす。ヒュッヒュー(下手な口笛)
「あとで聞かせてもらうからな…。知っているとは思うが、俺が冒険者になった理由は研究費の為だ」
「あ、それは知りませんでした」
「これは知らないのか…(困惑)」
えぇまぁ。だって貴方の近況報告の手紙で書いてることって、学院での話とか長ったらしい文章に隠れた心配の言葉とかしかありませんでしたもん。
「俺は王立研究所で固有魔法の研究をしていたんだが…成果が出ないからと研究費を打ち切られた。どれだけ言い募ってもどうにもならなかったから、こうして冒険者として稼ぎながら、貯金を研究費に充てて個人で研究を続けている」
「なるほど…まぁでも冒険者らしからぬ依頼のこなし方しますもんね。堅実で慎重、入念に準備して不測の事態が起きればすぐに撤退する。なんか熟練の工兵とかそういうタイプの」
びっくりするほど入念に準備するからその道のプロなんじゃないかなと思う時はある。予想外のことが起きた時は必ず撤退するし、報告書も書く。そんでめちゃくちゃ堅苦しい形式なのだ。えっ、論文?みたいな
「…臆病なだけさ。俺の本分は冒険者ではなく研究者だ。命は惜しい、だがそれだけじゃあ研究は続けられないから、やれることはすべてやる。そういう性分なだけだよ」
「他の冒険者にも見習ってほしいですねぇ…。そのくらい慎重なのが良いんですよ。冒険者なんて…」
はぁ…と二人ため息。多分ウィンスターさんも現実に戻ってきたんだろう。私も現実に戻ってきた。冒険者の素行不良問題、イメージ改善の為にどうすればいいかを考えなければ…。
「とりあえず、粗野な冒険者も真面目になることがある…なら真面目になるきっかけを見つける必要がありますよね…」
「どれも外的要因が理由だから………いや、そうか。抑止力か!」
おっ、名案かな?ガタっ と立ち上がったウィンスターさんが声を張り上げた。
「犯罪をすれば衛兵に捕まる。だから街の人達は犯罪をしない。悪いことをすれば捕まるという共通認識…衛兵と言う抑止力があるからだ。だが冒険者になると、斬った張ったの命の取り合いで腕っぷしが強くなる。つまり、自分が強くなったと思って上長することが一つの要因なんじゃないか!?」
「あー…、一理ありますね」
確かに。悪いことをすれば捕まるというのは当たり前だ。それは悪いことをすれば衛兵さん方が捕まえに来るという前提がある。そこには公的機関への確かな信頼がある。だけど、冒険者になって魔物という危険な生き物と戦っていると、大なり小なり実力はつく。自分が強いという自信がつく。それに…
「魔物を倒すということ自体、力で解決できることですから、余計に力で解決しようとするんじゃないですかね?」
ナイフを持てば、ナイフで攻撃するという手段を選びたくなるように。一度誰かを殺せば、殺人が手段の一つになるように。暴力で解決できてしまったから、次もその手段に頼ろうとする…なら!
「ウィンスターさん、さっき言いましたよね!?トラウマや現実を見て真面目になる人も居るって。それって暴力って言う解決手段が通じなくなったから…ってのもあるんじゃないですか!?」
思わず言った言葉に刺さるものがあったのか思案した後、手で口を覆って溢れる笑みを隠すように顔を明るくする。
「…ある。あるな。確かにあるだろう。それが出来なくなったから他の手段を模索するようになった。としたらだ。もしかしたら、今はチャンスかもしれない」
「チャンス…というと?」
「私刑をした冒険者達。それって暴力で解決できたという成功体験を得た者達だろう?だから、次も同じ手段に頼ろうとした…。これをへし折る事が出来たら?この話が広まったとしたら…?これがただ衛兵に捕まるのを待っているだけだったらいつもの『冒険者が犯罪行為をした』事例だ。これを俺達が解決したら…どうだ?」
「あっ……少なくとも、暴力に頼ろうと考えている人は踏みとどまる…かもしれない」
「前例を作る。その前例を広めるということに新聞ってのはうってつけなんじゃないか?」
「あぁ…!」
思わず膝を打つ。そうだ。それなら…!
「それにだ。都会と田舎の冒険者の評判…もしこれが広まればさらに酷いことになるだろう。だが、もし俺達が解決したら?この街で活動する俺が、この事件を解決して公表したら……多少の悪評はあるだろうが、田舎の冒険者も捨てたもんじゃないと、そう思われるんじゃないか?」
「評判の低下を押さえるプラス、冒険者の素行不良についての“対応”が広まれば少なくとも今の冒険者達は暴力という手段に増々逃げにくくなる…!それに冒険者はメンツ商売!悪評が広まることは何より避けたいはず…なら!私たちがやることは!」
「あぁ。俺達がやる事。それは」
「「私刑をした冒険者達をボコボコにしてネタにすること!!」」
光明が見えた!!