乙女ゲームのバッドエンド世界線で、断罪された悪役令嬢が俺の遺書を拾ったら【病みルート】に突入した 作:メソポ・たみあ
「シャルロッテ、怪我は!? どこか怪我はない……!?」
「アハハっ、くすぐったいってばメーディア。心配しすぎよ、私なら平気!」
心配そうにシャルロッテの身体をペタペタと触り、怪我がないかチェックするメーディア。
そんな彼女のボディチェックを嫌がりもせず、シャルロッテはくすぐったそうに笑う。
まさに気心の知れた友人同士のやり取りといった感じだ。
シャルロッテとメーディアは数年前に
社交界で出会った際に意気投合し、以来気の置けない親友同士として付き合いが続いている。
これは『黒のアネモネ』のディード攻略ルートで語られることだが、かつてメーディアは軍人家系に生まれながら気が弱く引っ込み思案で、親族からあまりいい印象を持たれていなかったそうだ。
それ故に塞ぎ込みがちな日々を送っていたそうだが、そんな折に社交界でシャルロッテと出会う。
丁度同い年であった二人は、すぐに意気投合。
シャルロッテの快活で奔放な性格、それでいて心の強さと優しさを併せ持つ姿にメーディアは感化され、以来友人として付き合い初めてからは少しずつ明るい性格となっていったそうだ。
どちらかと言うと他者を率先して引っ張りたがる性分のシャルロッテと引っ込み思案なメーディアは相性もよかったのだろう。
今ではすっかりシャルロッテに影響されたメーディアは立派な軍人となり、兄であるディードと共に軍務をこなしている。
ちなみにシャルロッテが俺と共にダニア・パスティスの魔の手から生還した際、一番最初にシャルロッテに会いに来てくれたのもメーディアだった。
シャルロッテの屋敷に火が放たれ生死不明となっていた際、メーディアはずっとシャルロッテの行方を探し回っていたらしい。
それだけ固い絆で結ばれているのだろう。
メーディアはひと通りシャルロッテの身体をチェックして怪我がないとわかると、俺の方にも視線を向けてくる。
「え、えっと……アドニス様も、お怪我はございませんか……?」
若干気恥ずかしそうに、しどろもどろ気味に心配してくれるメーディア。
シャルロッテと違い、俺と彼女は特別親しいワケではない。
勿論お互いに見知ってはいるが、俺からすればメーディアはシャルロッテの親友、メーディアからすれば俺はシャルロッテの幼馴染。
明け透けに言えば、知り合いの知り合いにすぎない。
なのでまだ些か人見知りが残るメーディアは、俺と会話する時は若干ぎこちなくなる。
だから俺だけ他人行儀に様付けで呼ぶワケで。
逆を言えば、気安く会話できるシャルロッテがそれだけ特別ってことだな。
「ああ、無傷だよ。ディードのお陰だ」
俺が彼女の兄であるディードへ目配せすると、さも当然のことをしたまでと言わんばかりに彼はツンとした表情をする。
妹と違って相変わらず気高いというかプライドが高いというか。
メーディアはシャルロッテの方を見て、
「……ところで、聞いてもいい?」
「うん? なあに?」
「どうしてシャルロッテが……アドニス様と一緒にいるの?」
「? どうしてって……」
「
「それはそうよ! だって私、わかっちゃったんだもの!」
シャルロッテは元気よくそう答え、俺に抱き着く。
「私には
「…………そう、なんだ」
「あ、勿論メーディアはメーディアで大事な友達よ! だから安心してね!」
屈託のない笑顔を見せるシャルロッテに対し、どこか引き攣ったような笑みを浮かべるメーディア。
直後にディードが「コホン」と咳払いし、
「メーディア、立ち話はこれくらいにしておきましょう。上官へ報告を終え次第、パレードを再開せねば」
「……はい、ディード兄様……」
「ではお二方、我々はこれにて失礼致します」
俺たちの前から去っていくマクスウェル兄妹。
その後ディードが斬り捨てた軍馬の亡骸は処理され、パレードは無事再開。
観衆たちも落ち着きを取り戻し、何事もなかったようにパレードは終わった。
それにしても……何故あの軍馬は、シャルロッテを襲ったのだろう?
▲ ▲ ▲
「――やれやれ、とんだハプニングに見舞われたが、無事パレードも終わったな」
軍事パレードの見物を終えた俺とシャルロッテは、見晴らしのいい街の高台まで登って風に当たっていた。
空は夕焼けに染まり始めており、昼間に比べて風も少し涼しくなってきている。
周囲には人の姿もなく、エギナの街を一望できる絶景スポットを二人で独占している状態。
いいタイミングで訪れることができたな。
「今日は一日楽しかったな、シャルロッテ」
「う、うん……」
「? どうした?」
「えっと……昨日も言ったけれど、私、アドニスに話さなきゃいけないことが……」
――ああ、そういえばそうだった。
俺からデートに誘ったのに、うっかり忘れるところだったな。
彼女は俺に、なにか言わなきゃいけないことがあるらしい。
だがどうも言い難いことのようなので、少しでも打ち明けやすくなるようにと気分転換目的でデートしたのだ。
そして――シャルロッテはバッと頭を下げる。
「ご……ごめんなさい! 私、アドニスの〝手帳〟を盗んでしまったの!」
「え――?」
「ハンナの隠れ家にいた頃、アドニスの部屋で見つけて……それでどうしてもなにが書いてあるか気になって……!」
「まさか……読んだのか? あの手帳の中身を?」
俺が呆然となりながら訪ねると、シャルロッテはコクリと小さく頷いた。
「私、読んじゃった……アドニスの〝遺書〟……」
「っ……!」
「でも、書いてあることの半分はよくわからなくて……だけどアドニスが私を愛してくれていることだけは伝わったの!」
悲痛な面持ちのまま、彼女は打ち明けてくれる。
「本当にごめんなさいっ! 私、アドニスの物を盗んで、こっそり読んで……あなたに嘘まで吐いた……っ。だから、怒るなら遠慮なく怒って!」
「……」
俺は少しの間、言葉を詰まらせる。
なんと言うべきか悩んで。
――そうか、あの時無くした手帳はシャルロッテが持っていたのか。
どうりで見つからなかったはずだ。
しかし……彼女は知ってしまったんだな。
この世界の、この
「……あの手帳に書いてあった〝遺書〟を読んで、どう思った?」
「え?」
「俺の頭がおかしくなったと、そう思うか?」
「そ、そんなこと思うワケない! 私は――アドニスが言うなら、どんなことでも信じるものっ!」
シャルロッテは力強い声色で言う。
「この世界が乙女ゲームとか、バッドエンドとか、よくわからないけれど……アドニスが言うなら、全部真実だって信じる!」
「シャルロッテ……」
「頭がおかしいどうかなんて関係ない! 私にとってはアドニスこそ世界だもの! もしもおかしいとしたら、それはアドニスじゃなくて世界の方よ!」
彼女は俺の下へと駆け寄ってきて、ギュッと手を握ってくれる。
「私は――私はただ、アドニスと一緒にいたい! アドニスに死んでほしくない! あなたの〝遺書〟なんて……読みたくないよっ……」
シャルロッテは俺の〝遺書〟を読んでしまったことを、深く悔やんでいるようだった。
……確かに、他人がこっそり書いた〝遺書〟を盗み見るなんて関心できる行為じゃない。
けれど――
「……大丈夫だよ、シャルロッテ」
「アドニス……?」
「俺は死んでない。ここにいる。それにキミを責めたりもしない」
「で、でも……」
「もう全部終わったことなんだ。それにキミはちゃんとこうして謝ってくれた。なら俺はそれでいい」
そう、あの〝遺書〟で俺が書いた憂慮すべき事態は、既に過ぎ去った。
なら気にすべきではないし、シャルロッテのことだって責めるべきじゃない。
全ては過去なのだ。終わったことなのだ。
――
――――
――――――ただ、
「……だがシャルロッテ、
「な、なあに?」
「あの手帳は、今どこにある?」
「! じ、実は、その、無くしてしまって……」
「……キミは――あの手帳に、なにか書き加えたかい?」
俺が尋ねる。
するとシャルロッテは驚いたような困惑したような顔をして、こちらを見つめ返してきた。
「そ、そんなことするはずないじゃない! 私は中身を読む以外、あの手帳に一切なにもしていないわ!」
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