とある娘が狐になってしまう話。


 (性癖100%ですので閲覧にはご注意ください‼︎)
 (R-18ではないはずです‼︎)

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きつねのみわざ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一匹の狐が鏡台に前脚を着いて、鏡を覗き込んでいる。

 毛並みが良く大柄な狐だ。

 

 

「(──は、春姫は)」

 

 

 ──()()()()()()()()

 狐の毛皮の、その中で。

 

 

「(()()()()()()()()()()()〜〜〜⁈」

 

 

 一人の狐人(ルナール)の娘がおかしに感情を爆発させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 狐人という獣人の種族がある。

 狐の耳と狐の尻尾を生やしてはいるが、当然狐そのものではない。

 

 

「な、なんでしょう、これは……」

 

 

 だからサンジョウノ・春姫が寂れた倉庫の片隅の寂れた箪笥の、気付きにくい隠し戸に詰められていた()()を見つけて引っ張り出した時も、困惑が(まさ)った。

 

 

「狐の、毛皮…………?」

 

 

 色は背が黄土色、腹は白。

 細身の身体つきに尖り気味の顔と尖った耳。

 中程で膨らみ先で尖る特徴的な尾を持った()()はまさしく──、──『狐』と呼ばれる動物の毛皮に見えた。

 

 

「……でも違う?なんで……?」

 

 

 しかしそれは何処か違和感を感じる代物だった。

 『サンジョウノ』はこの極東では高貴な家柄故に春姫も動物から剥いだ毛皮というものを進物という形で見知る経験はあったが……、大抵は腹から切れ目を入れて開かれたものだ。

 こんな風に切れ目無く空っぽになったものは無かった筈だ。

 かと言って空っぽである以上剥製の類とも違う。

 ……そしてそもそも狐の毛皮がこの家に有るという事自体がおかしい。

 いくら狐人(ルナール)が狐そのものではないとしても、その死骸から剥ぎ取ったものを送りつけられなどしたら喧嘩を売っていると取られてもおかしくはない。

 狐人(ルナール)が狩猟に長けているなどすれば別だろうが……、……生憎と狐人(ルナール)が長けているのは『妖術』とも呼ばれる魔法であり『サンジョウノ』も祭祀を司る家だ。

 祭祀で使うものなら……、……と言ってもそうであるならこんな使われ難い倉庫ではなく宝物庫にでもしまわれているだろう。

 

 

「──、──」

 

「──」

 

「……はっ⁉︎」

 

 

 ……そう、此処は『使われ難い』倉庫であっても『使われない』倉庫ではないのだ。

 使用人の声に気付いた春姫は自室に戻る事にした。

 ──件の毛皮を携えて。

 

 

 

 

 

 

 

「それでこれはどういうものなのでしょうか……」

 

 

 自室に戻った春姫は件の毛皮を改めて検分する。

 大きさは春姫と同じくらいはあろうか。

 いや、少し大きいかもしれない、狐としてはかなり大きなものだ。

 毛艶は……、……春姫には上手く言い表せないが『生きている』ように感じられる程艶やかだ。

 だが中身はすかすかだ。

 頭や尻尾の形こそ崩れてはいないが、多少力を入れれば容易く小さく畳めるので自室まで見咎められずに持ち込めた。

 しかし完全に皮だけである訳ではなく、足先には肉球と爪が備わり、肉のような柔らかい内張りの感触も感じる。

 本物のような目も嵌り、口の中など舌まで──。

 

 

「…………?なにか、入ってる?」

 

 

 ここで春姫は上顎の内が小さな収納となっており、何かが入っている事に気が付いた。

 

 

「紙……?」

 

 

 それは小さな袋に入れられ畳まれた、紙であった。

 紙には文字が書いてあり──。

 

 

「──『・口から入る事を勧める。・肌着には気を付けるべし。・ある程度は拭われるが長着は清潔を損なう。留意せよ』……、⁈これって、()()()()⁈」

 

 

 ──それによって春姫は毛皮の正体を悟った。

 空っぽの中身には人間を詰め込んで、人が狐になりきる為に着込む衣装。

 それがこの毛皮の正体だった。

 

 

「ど、どうしましょう……」

 

 

 ……と口にしながらも……。

 春姫の心中には興味が湧いていた。

 迷宮神聖譚も含まれる昔話や民話に時折現れる変身道具。

 この毛皮はそれに近いものなのでは、と。

 

 

「…………、」

 

 

 ……そしてそれが目の前にあるのなら……、自分も、……変身、してみたいと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………着てしまい、ましょうか」

 

 

 そうして春姫は、着物を脱ぎ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……脱いで、しまいましたが」

 

 

 着物を脱ぎ、肌着一枚となった春姫はどきどきしながら毛皮を手に取った。

 

 

「『口から』、と書いてありましたが……。……足から、でよろしいのでしょうか」

 

 

 毛皮の顎を開き、口の中を覗いてみる。

 ……喉の奥はぽっかりと暗かった。

 

 

「ええと……、こちら側で……」

 

 

 向きを間違えないように気を付け……。

 開いた口の中に、春姫は右足を入れた。

 

 

「──っ⁈」

 

 

 ──そしてその感触に驚いた。

 柔らかいその触感は、肉そっくりだった。

 

 

「〜〜〜っ、……っ、っ……。…………座りながらの方が良いですね……」

 

 

 立ちながら着ていた春姫は驚いて片足で跳ね回り……、……音を立てて家中に気付かれないように座りながら着込む事に決めた。

 

 

「……っ(左足も入れないと、足先まで入らない……!)」

 

 

 そうして毛皮を引っ張ってみたが……、……右足を通すであろう右後脚まで足が届かない。

 春姫は左足も毛皮の口の中に入れた。

 そうして毛皮を引き上げていく。

 

 

「うぅ……(尻尾がきつい……)」

 

 

 しかしそうすると腰に付いた尻尾が毛皮の中で圧迫されてしまう。

 春姫は圧迫感に耐えきれず尻尾をぐりずりと毛皮の中で動かす。

 

 

 

 

「──ぅっ⁉︎」

 

 

 すると、──ずりゅん、と。

 尻尾がどこかに飲み込まれ、嘘のように圧迫感が無くなった。

 

 

「(嘘!尻尾は……⁉︎…………あれ?)」

 

 

 急な変化に春姫は慌てて飲み込まれた尻尾を探し、…………()()()()()()()()()()

 尻尾は消えてなどおらず……、──毛皮の中に収まっていた。

 

 

「っ⁉︎」

 

 

 ここで春姫は気が付いた。

 毛皮に包まれた足にも何も違和感を感じない事に。

 ……そして外目から見た足が真っ直ぐ伸びる人のものとは違う、関節で曲がった獣の──狐の脚と化している事に。

 

 

「……‼︎」

 

 

 春姫の中で感情が鬩ぎ合う。

 一つは『恐怖』。

 毛皮の中に尻尾がずりゅんと収められる感触が飲み込まれるようで……、……口から入る事といい肉の感触といい今更ながらこの毛皮の狐の腹の中に飲み込まれ、食べられているように感じられたから。

 

 

「……」

 

 

 一つは……、……『興味』。

 足だけで狐そっくりとなってしまった変身を終えた時自分はどうなってしまうのか……、……じわじわと興味が湧いてくる。

 鬩ぎ合った末に──。

 

 

 

 

「……よい、しょ」

 

 

 ──春姫は着替えを続けた。

 右手、左手を口の中に入れ、毛皮をずり上げる。

 

 

「──んっ‼︎」

 

 

 育って来た乳房もぐにゅん、と飲み込みながら、腹、胸、肩と毛皮はずり上がり──、──春姫の首元までずずず、と毛皮は飲み込んだ。

 

 

「あっ」

 

 

 小さく畳まれていたのが形を取り戻した時のように、毛皮は止まらない。

 喉、うなじ、頭頂部の狐耳まで柔らかい肉の感触が包み込む。

 あとはずり上がるまま、口型の囲いが視界を閉ざし──、春姫はすっぽりと、毛皮に包まれた。

 

 

「(うぅっ……、……耳も、……入るはず……!)」

 

 

 思わず目をつぶってしまった春姫は、それでも狐耳を尻尾と同じように毛皮に収め──、──目を開いた。

 

 

 

 

「(え?)」

 

 

 しかしあまりにも──、──変わり無かった。

 視界の中央下には前に突き出した顎が見えている事から、あの作り物の目の奥から外を見ている筈なのに──、毛皮に包まれる前のように見えている。

 手を出せば、それは肉球の付いた狐の前脚に変わっているのだが──、……いまいち『変身した』という実感が湧かない。

 

 

「(鏡を……)……きゃっ⁈」

 

 

 鏡を見て確かめようと春姫は歩き出し──、脱いで置いた着物で足を滑らせた。

 

 

「……、え?」

 

 

 ()()()()()()()()()()

 

 

「え?」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ……()()()()()()()()()()()

 

 

「っ、……!」

 

 

 声を上げそうになるのを堪えながら、春姫は、一歩を踏み出す。

 二歩、三歩……。

 ……春姫は狐がするように、四足歩行でとととと、と歩き回れていた。

 

 

「〜〜〜っ!」

 

 

 鏡台へと走り寄り、前脚を着いて覗き込む。

 

 

「(──は、春姫は)」

 

 

 鏡に映るのは驚く狐そのもので、

 

 

「(狐になってしまいました〜〜〜⁈)」

 

 

 ──自分がどう変身したかを、春姫は否応なく分からされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ど、どうしましょう⁈どうやって戻ったら……!)」

 

 

 狐人(ルナール)から純然たる狐になってしまった、と春姫は焦りに焦り──、

 

 

 

 

「……くち?」

 

 

 ──口元に外気を感じた。

 

 

「……」

 

 

 狐の前脚を顎の中に突っ込んでみると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ……そうして春姫は人としての自分が鏡に写る狐の中にいると気が付いて落ち着いた。

 

 

「……んー、んーっ……」

 

 

 ……しかしそれを鏡で確かめようにも前脚と角度が邪魔で上手く見られない。

 

 

「あっ、……」

 

 

 ……そこでふと、思い至った。

 

 

「(……『()()』なら……)」

 

 

 顎を抑えてぐいぐい、と毛皮を押しやり、

 

 

「……ぷは、っ‼︎」

 

 

 ──翠の眼、金の前髪が垂れた春姫の顔を狐の口の中に出した。

 

 

「ふぅ〜……」

 

 

 焦りから汗ばみ、紅潮した自分の顔を鏡で見ながら春姫は『これは脱げない呪いの毛皮ではない』とようやく落ち着いた。

 この毛皮、四足歩行を違和感無く助けるなど相当高位のマジックアイテムなのではと思いながら。

 

 

「……」

 

 

 ……しかし鏡を見る内に別の思いがもたげてくる。

 鏡に映る春姫の顔は大きく開かれた狐の口の中、喉の穴を押し広げて顔をはめる事で外に出されている。

 

 

「……、んんっ」

 

 

 そこをぐりぐりと身をよじり、再び毛皮の中に頭を戻して行く。

 ──身じろぎして獲物(春姫)を丸呑みする狐のように。

 

 

「……、」

 

 

 毛皮がせり上がり、喉の穴が縮まる毎に、口が閉じて行く。

 どこか恨めしそうな春姫の顔は喉の奥に消えて行き──。

 ──ばくん、と。

 春姫は狐に食べられ、飲み込まれてしまった。

 

 

「……」

 

 

 ……鏡に映る狐は顎を開き中のものを押し出して行く。

 

 

「……んぅっ、……」

 

 

 口の中に収められたのは、狐の餌食になった愚かな娘の顔。

 食べて、飲み込んだ獲物の悲しげなその顔は見せ物にすべく、吐き出された。

 

 

「……」

 

 

 ……春姫はまたすぐに飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぺたん、と前脚を立てて、後脚を曲げて、狐は座り込む。

 人と同じように立てていたのだから、人と同じように座る事だって出来る筈だ。

 ──己を、狐の毛皮を着込んだ人間だと思えていれば。

 

 

「(……やっぱり私は食べられてしまったのですね)」

 

 

 狐の中──、──()()()()春姫は思う。

 春姫はあの狐を自分が毛皮を着て動かしている姿だとは既に思っていない。

 ──あの狐は毛皮のふりをして待ち構えていたのだ。

 己を着れる、と勘違いした者をぱっくり食べて、自由を取り戻す為に。

 まんまと春姫は引っ掛かって、その柔肌を口に入れてしまった。

 ……途中で自分が食べられていると気が付けたのに、その口から抜け出さなかった。

 あとは後の祭り。

 狐はごくり、と春姫を飲み干し自由の身に。

 春姫は飲み込まれて腹の中。

 胃袋に閉じ込められた幽霊のようなものに成り果てた。

 

 

「……」

 

 

 今や前脚で触る腹の中、狐の中に春姫はすっぽり閉じ込められてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「命……」

 

 

 命、桜花、千草……。

 かけがえのない友達ならこの狐も退治してくれただろうか。

 寂れた倉庫の中で舌舐めずりして待ち構えていた狐を、ただの狐ごっこに。

 それともぶかぶかで着れなくて、ただの笑い話になっていただろうか。

 

 

 

 

 ……この屋敷の裏手の山には『神様』がみなしごを引き取っている社がある。

 一人で居た自分はそこの子供達に連れ出されて、ほんの一、二年前までは野山を遊び回っていた。

 ……いつからか社の生活が苦しくなりだして、働きに出たみんなはここには来なくなった。

 ……自分の世界は大きく狭まってしまったのだと、春姫は今、気付かされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、…………」

 

 

 畳んだ毛皮を元の隠し戸の中に返す。

 ……こうして特に用事も無い寂れた倉庫に来たのも友達と過ごした何もかもがわくわくした世界の一端を、なんとかまた感じたかったから馴染みの無い場所に来たのではないか。

 ──そうして、狐に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(……んっ……)

 

 

 ……脱いだ筈の狐の中に、春姫は囚われたままだ。

 ……もう、戻る事はできない。

 

 

 

 

 夕闇迫る、暗い、戸口を。

 春姫は通り抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『狐の御業』
『狐の身業』
『狐 飲み技』

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