海外版のエンディングで少しだけ聞けるククールのその後についての散文。 pixivにも投稿しています。

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見返り半生、未来は手を掴んで

半生を振り返ってみると、今の状況は奇妙なもんだと思わないか。

 

本当に幼い時分、オレは家族に愛されていた。

屈託なく近寄れば父親の手で抱き上げられ、それを見て母はオレを見て幸せそうに笑った。

幼すぎて、もはや両親の顔や声さえはっきりと思い出せないが、少なくともあの頃のオレは不幸なことなんてなにも知らなかった。

 

すべてを一変をさせた死病の流行はこのマイエラ地方を何度も襲っているという。

何十年も前にも流行ったとか。

打ち寄せる波のように善人も悪人も関係なくたくさんの命を拐っていく。

たしか、十数年前にも何人も倒れたらしい。

当時はまだ幼すぎてよく覚えていない、というのが正直なところだけどな。

 

曇り空の続いたある日、呆気なく父が死んだ。

幼かったオレにとって、抱き上げられた数しか顔を見れない大男が病気ひとつで呆気なく儚くなり、その日のうちに土に埋められた。

その頃にはとっくに母も死んでいた。

当然使用人もバタバタと倒れ、出入りする商人は寄り付かなくなり、何人かはオレと同じく病気にかからなかったが日を追う事に屋敷から逃げるように姿を消した。

あっという間に人の寄り付かなくなった屋敷にはぽつんと残されたオレと、古くからの使用人だけが残った。

さて、その人が「じいや」だったのか「ばあや」だったのかさえ最早定かではないが。

今更再就職のあてもなく残らざるを得なかったのか、長年仕えてきた情がそうさせたのか、それとも幼いオレが不憫だったのか、もはや分かりはしない。

 

父が死んだのを確認し、母が眠る近くに埋葬した年老いた使用人はオレに棚の奥に分けてあった荷物を渡すと道中では決して振り返らずに修道院に行くように言って、オレを屋敷から追い出した。

それは主人を失った使用人の横暴ではなかった。

その後、古くから家に仕えたあの老人は人のいなくなった屋敷に火をつけ、病に侵された己ごと焼いて全てを終わらせてくれたという。

あの一帯の建物がまともに残っていないのはそういうわけだ。

 

逃げるように修道院へ向かって歩いていたオレは素直に振り向かず、一体の屋敷が全て焼け落ちて基礎の石積みだけを残した廃墟の群れになったことをある程度ものの分かる年齢になるまで知らなかったのさ。

 

今にして思えば年老いたあの使用人は本来領主として果たすべきだった父親の代わりに最期の始末をつけてくれたんだろう。

オレの荷物が分けてあったのも、万が一を考慮したのかもしれない。

たまたま病気にかからなかったオレは今更病気になりはしないだろうが、「行った先」で病が出れば間違いなく運んできたのは誰だ、ということになる。

 

もしかするとあの人は前回の「流行病」の中心地である旧修道院の無惨な噂を耳にしていたのかもしれなかった。

朽ちて滅びた場所に名残のアンデッドがさまよい続ける、永遠の地獄を阻止してくれたのかもしれなかった。

 

さて。

幼いオレは兄の存在を知らなかった。

父親は「正妻の子」が生まれた途端にマルチェロと母親を追い出すくらいに情がなかったし、母親からすれば正妻の立場を長年脅かされていたようなもので、使用人たちからしてもわざわざ正妻の子に余計なことを吹き込みたくはなかっただろう。

だから、「疫病神」は割を食った相手を知らなかったのさ。

 

マルチェロに優しくされたのは出会ってすぐのあの瞬間だけ。

俺が「弟」だと分かった途端に蛇蝎のごとく嫌われて、修道院内の味方といえばオディロ院長くらいなもので、可哀想な「元お坊ちゃん」を比較的受け入れてくれたドニに入り浸るようになるのはまぁ自然だろ?

 

最初は意味が分からなかった。

悲しんで、疑問に思って。

ククール少年は目の前にあるお勉強だのなんだのを頑張ってみたものさ、結果は出来が良かろうが悪かろうが冷笑と罵倒。

 

そのうちに反抗して、やさぐれ、厭世、逃避。

僧侶としてはありえない、堕落した態度は良くしてくれるオディロ院長に申し訳なさがなかったわけじゃないが。

どうせ真面目にやっていたってあいつは何としてでもこっちのアラを見つけてくるものさ。

むしろ真っ当に努力することさえ冷笑し、オディロ院長に媚びを売るためだと決めつけて見下しせせら笑う。

「お兄ちゃん」に突き放され傷ついた幼気なククール少年だって最初の最初から不真面目だったわけじゃないけどよ、叩き潰したのはそっちだろ?

俺の努力は下賎、俺の不真面目は怠惰、どう転んでも貶されるしかない……さて、人は楽な方に流れるものさ。

 

俺は「顔だけ」の男だとみなされた。

不真面目にも外に遊びに行っては折檻を受ける、そんな問題児だと認識されたのさ。

 

赤い衣装は見せしめ、マルチェロは俺と「同じ」なんて身体に流れた半分の血以外は全部捨て去ろうと躍起だからな。

身体に流れる血さえも、抜き取って無くなるならばきっと喜んでナイフでも何でも己と俺に突き刺したに違いない。

 

それでも聖堂騎士になってしばらく。

前を歩き続ける兄の背に健気にも手を伸ばして、何度も何度も叩き落とされ。

すっかり出来上がったのはひねくれ曲がった生臭坊主。

きっと兄貴は大満足だろうな。

 

焦っても嘆いてもなんの意味もないのさ。

太く短く生きる、なんて言えば多少聞こえもいいがそういうわけでもなく。

単に投げやりで短絡的。

先のことなんてどうでもいいかのように。

ただ、今はまだ、尊敬する唯一の人物の目が黒いうちは最後の一線は踏み外さない。

その点では兄弟仲良く方向の違う不良坊主程度に踏みとどまっていたってわけだな。

 

月日は流れ、おまえが田舎者丸出しでトランプをのぞきこんできた日にゃ、とっくにオレは腐っていたね。

オディロ院長がいるうちはまだ騎士の形をしていよう、だが、高齢の院長がいなくなったなら。

修道院を出てったっていい。

その先でそうそうに死んだって構わない。

やりたいことをやりたいだけやって、そして呆気なく死ぬ。

短く、少しばかり派手に生きられたらいい。

どうせ誰も歓迎していないんだから。

そんな気持ちでいたんだよ、俺は。

 

ま、あれよあれよと出来事に流されて、気づけば全部終わっていて。

「出ていく」どころか「体良く追い出された」んだがね。

知っての通り。

 

追い出されて、ヘンテコな一行の仲間入りを果たして。

おっと、「ヘンテコ」には違いねぇだろ?

魔物にしか見えないおっさん、魔物の姫としか思えない扱いをされている白馬、美人だが勝気が過ぎる魔法使いのレディ、どう見ても山賊崩れの強面、そして一見ぼーっとしているが身のこなしが一般人には見えない男は良く見りゃ軍人だ。

なんの集団だよ。

わかんねぇよ。

 

そんな一行と旅をしていて……気づけば、命が惜しかったんだ。

徳がなかろうが、骨折り損だろうが、思うままに「優しく」したって、相手を思いやったっていいって思えるようになっていたんだ。

 

何でだろうな?

 

目の前を一生懸命に走っていたお人よしに毒されたのかもしれない。

あるいは、燃える復讐心を持ちながらも焼き尽くされなかった人間を見たからかもしれない。

案外、「ひたむき」で「一途」な人情者の影響かもな。

 

あの旅はたくさんの悲劇を俺たちに見せたが、得たものも沢山ある。

得がたい日々が終わればまた同じように腐っちまうかと思いきや、案外俺は前を向けるようになっていて。

 

「院長先生!」

 

子どもたちの手が伸ばされる。

手の先にいる俺は、小さな手を握ってやって、両手が足りなければ背負ってやる。

どうしても無理ならあとは押し合いへし合い、ひとかたまりになって大移動だ。

 

あの不良坊主が「院長先生」とは笑わせる。

だけど、なんとかやれちまっているんだからもっと笑えるぜ。

 

「エイト、悪いな。かわいいお迎えだ」

 

「ううん。今回も元気そうでよかった。じゃあ僕、次はゼシカのところを見てくるね」

 

俺たちの「転機」はあの時と同じ色彩をまとっている。

時々、その鮮やかな色彩が順々に来訪するのが密かな楽しみで、だけど日常はそれに思いを馳せる暇なく忙殺されている。

嬉しい忙しさってやつだ。

 

あくせく働くのは斜に構えた半生よりは生きているという実感があるものだった。

 

これでよかったか?

なんて、今は分かりはしないけれども。

 

まぁ、旅の終着点がこの日々ならオディロ院長にも胸が張れるってもんだろ。


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