女性優位世界の【変身】男魔術師 in 崖っぷち戦線 作:回帰
ということで。
ブシャブシャ水を飛ばしながら空飛んでるんだけど、めちゃくちゃ目立ってます……。
「――ね、ねえなにあれ!? 高速で空をっ」
「なんて魔力!? あれ、人間じゃ……ッ!」
「きゃあ! なんか大量の液体が! 毒!? 触れたらまずいやつ!?」
なんか地上がえらい騒ぎに。
(そりゃそうでしょ。さっきの木っ端魔人でもあんな騒ぎになるんだから。知らないやつからしたら、増援の強力な魔族が現れたとしか思えない)
えー。僕は人類の味方なのに。
(そんなこと分かるわけないから。フーガはさ、ちょっと周りの視線を考えたほうが――)
――あ! いた、魔人! 姿は見えないけど、あれ、竜巻じゃない!? こんな……!
(……無視、しないでよね。あんなの大したことないじゃない)
いやいや、大したことあるから! 人間の魔術師じゃ竜巻なんて作れる人めったにいないよ!?
(魔人なんだからそれくらい余裕でしょ)
さらっと言うね……。改めて魔人のむちゃくちゃ加減を思い知らされるよ。
でもだからこそ、早く助けないと!
――と、いうことで。
「これ。どうやって降りたらいいのかな……?」
(締まらない……)
し、仕方ないでしょ! この姿でまともに魔術使うの初めてだし、そもそもこの移動方法レヴィが教えてくれたんだからね! お願いだから、ちゃんと着地の方法は教えてくださいっ。
(着地の方法、ね。残念だけど――そんなのないよ)
ええ!?
(べつに、これくらいの高さから落ちたくらいじゃ、わたしの体は傷つきっこないし。下のお仲間が心配だったら、進行方向に向かってもう一度水出して、勢い殺してから落ちたら? そしたら勝手にどいてくれるでしょ)
ええ、それほんとに大丈夫? けっこう高さあるよ?
(絶対問題ない。逆にこんな高さから落ちて死ぬ魔人がいたら見てみたいくらい)
そ、そう? そんなに? だったらまあ……方法がないって言うならそうするしかないか。びゅんびゅん進んでて、もう魔人のところまですぐだし。
とにかく今は、あの魔人を止めないと。
そうと決まれば。
(……そういう思い切りのいいところ、ちょっとびっくりする。フーガってほんとに数か月前までただの農夫だった?)
もちろんただの農夫です。でも、農夫ってけっこう大変なんだよ。
幼い妹たちの面倒見ながら毎日家事から農作業まで。いたずらしてくる近所の悪ガキ叱ったり、農作物を狙う動物や、ときには魔物を追い返したり。肝っ玉がすわってないとできないんだから。
――だから、これだって。
「そろそろ……よし、いま! 【水】ッ!」
ちょうど敵魔人の上空で、正面に大量の水を噴出する! 急に速度を落としたことでかかる力は、レヴィの体がなんなく受け止めてくれる。
あとは。
「――全員、離れて! 上から降りまーす!」
大声でアピール。潰しちゃったらまずいから! もちろん連合軍の味方だけじゃなく、敵の魔人にまで僕の接近を知らせることになっちゃうけど。
そうして、頭を下にして落下してると――あ、目が合った。
「この魔力は……同胞!? なんでアタイの持ち場に!」
僕のことを仲間と勘違いしたその魔人は……両手が白い羽に覆われた翼になってる。足はまるで鳥みたいで、鋭い爪を生やし、そして地面に横たわる誰かを押さえつけていて――って、あれは。カレンさん!?
「ぐ……新、手?」
力をかけられ苦しいのか、カレンさんは顔を歪めながら僕を見上げてる。
額からは一筋血も流れていて――。
ああ。この感覚、懐かしい。
大切な家族、あるいは大事な農作物を、不逞の輩に傷つけられた時と同じ。
ふつふつと湧き上がるこの――怒り。
「……よくも、僕の仲間を」
呟きながら、落下の最中に体をねじって蹴りの準備。こっちを見上げてくる魔人は、まだ自分が何されるか理解してないみたい。
「ちょっとッ、今日の担当はアタイのはず……ってあんた、もしかして男!? わかった、アタイに惚れていいところ見せに――」
それなら都合がいいよ。だったらこのまま、その下品な表情のまま吹っ飛んで。
ほら……その痛そうな足、どけて――ッ!
直後。
「ッカ、ふ……!」
「なっ……」
ドォンと。生物から鳴ったとは思えないほどの、轟音。
空を見上げる有翼の魔人が、目にもとまらぬ速さで吹き飛んでいった。
さっき僕が言った通りにみんな離れてくれたから、幸い魔人は誰にも衝突することなく、地面を数度バウンドしてその動きを止めた。
ついでに僕も落下の勢いと蹴りの反動でけっこうな速さのまま地面を転がるけど、固い外殻のおかげでなんともない。
ただ、なんだろう。
今まで暴れてた魔人と、突然空から降ってきた魔人。双方が急に吹っ飛んで地面に横たわってるっていうシュールさに、戦場全体が数秒間固まった。
(冷静に分析してるフーガが一番シュールなんだけど。これでただの農夫だったって、ぜったい誰も信じないから)
信じてくれなくたって、ほんとに農夫なんだけどね……。