女性優位世界の【変身】男魔術師 in 崖っぷち戦線   作:回帰

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7話

 

 強い日差しが照りつける王国辺境の地、ヘリーオ平原。

 

 多くの兵が額に汗を浮かべながら、スコップや大工道具を手に懸命に働いている。戦いに勝って上がった戦線を維持するための、陣地構築だ。

 

 魔族との熾烈な戦いを終えた翌日でも、連合軍の兵たちに休息はない――。

 

 

 

「――ふううう……。つ、疲れましたぁ」

 

 疲弊した声に目を向けると。スコップを地面に突き立て、もたれかかって息を吐くアイリさん。

 

 ピンクの髪が汗でうなじに張り付いてる。……よし。

 

「アイリさん! これ、どうぞ」

 

「わっ。ふ、フーガくん……っ」

 

 パタパタと仰いでた胸元を慌てて隠してる。……なんか、余計に気を遣わせちゃったみたいで申し訳ない。

 

 と、そんなことよりも。

 

「こ、これ……水筒とハンカチ?」

 

「はい。今日は暑いし、水分補給しないとって思って。それに、汗で体が濡れたままだと気持ち悪いですから。どうぞ使ってください」

 

「はわわわ。なんてこった、お宝が……」

 

 お宝? まあいいや、受け取ってくれたし。こういう時のために、おっきい水筒と人数分のハンカチを用意してるんだ。

 

(……こういう、気の弱そうな感じでムッツリなのが一番腹立つ)

 

 むっつり? アイリさんのこと? それってどういう……。

 

「な、なんかいい匂いします。これが若い男の子の……っ。それに、す、す、水筒ってことは!」

 

「なあに? ……アイリ、それどうしたの?」

 

「なになに。隊長の私にもおしえて」

 

 あ、カレンさんとサヤ隊長も来た。二人にもハンカチを!

 

「これで、良かったら汗を拭いてくださいね。お水はアイリさんに渡した水筒を後で――」

 

「わ、私が最初ですからねっ! 隊長もカレンさんも後です!」

 

「な、なんでそんなに必死なの? フーガの言う通り、後でいいわ……」

 

「欲望の化身」

 

「そそそ、そんなことないですからぁ!」

 

 な、なんだかすごく賑やかに。

 

 やっぱり三人は僕が来る前から同じ小隊にいただけあって仲がいいなあ。やっぱり新参の僕にだけちょっと壁があるように感じるから羨ましいよ。

 

(別に……仲が深まってないとか、そういう問題じゃないと思うけど。単なる照れでしょ)

 

 照れ? そうかなあ。うーん……。

 

 なんだか納得いかない気持ちで、どうやってみんなと仲良くなるか考えていると。

 

「ねえ、あなたたち、もっとちゃんと働いてよ! みんな必死なんだから!」

 

 わっ。今のは……隣で作業してる小隊の隊長さん! そ、そうだよね。戦闘の翌日ってことで多少の休憩は許可されてるけど、あんまりサボってちゃダメだよね。

 

「あの、すみません! すぐ作業に戻りますから!」

 

「えっ。あ、あの……君に言ったわけじゃないから。そこの、女どもに言っただけで」

 

「いえ、僕も小隊の一員ですから! 戦場では性別なんて関係ないです。精一杯頑張りますね!」

 

「あ、ま、うん……。そうね」

 

 なんだか微妙そうな顔してる、どうしたんだろう。あっ、そうだ。

 

「元気がないのは、やっぱり疲れてるからかな……? 良かったらお水飲んでください! 休憩所に行ったらもらえますけど、移動するにも体力要りますし、僕たくさん持ってきてるので!」

 

「えっ。お水?」

 

「はい、そこに」

 

 隣の小隊長さんは、アイリさんが大事に抱える水筒を見る。

 

「あ、あげませんよ! 一口目は私ですからあ!」

 

「あ、うん……。あの、私軍曹なんだけど……階級で言ったら、私が先じゃない?」

 

「――!」

 

 あ、アイリさん逃げた。でも……なんで一口目にこだわるんだろ? 隣の小隊長さんも。

 

(ここにもいた、ムッツリ……。ほんと救えないね、人間の女って)

 

 レヴィ、なんかすごい呆れてるね。なんで?

 

(フーガのその鈍さにも呆れてるからね。冴えない農夫自称してるけどさ……故郷ではみんなそんなつれない反応してたの……?)

 

 村では、女の子は徴兵されちゃってあんまりいなかったのもあるし、見ての通り芋臭い男だからね。

 

(……)

 

 なんで黙るの!?

 

 と、釈然としない思いを抱えていると。

 

「――いい加減、ちゃんと作業する。今日は王国中央司令部からお偉い方が来てるらしいから」

 

 サヤ隊長。たしかに、そんな話をちらっと聞いたような。

 

「しかもそのお偉方は――かの有名な、連合軍『精兵十傑』の一人。カレンとも、関わりが深い……」

 

「ッ」

 

 精兵十傑って言ったら、連合軍側の最終兵器とも言われる最強の兵士たちだ。カレンさん、そんな人と知り合いだったんだ。

 

 それに、うちの国にたしか一人しかいないって聞いてたけど……。カレンさんが知ってるってことは、その一人が来てるのかな?

 

(十傑、ね。人類側の最強がどんなものかはちょっと興味ある。ねえフーガ、後で探しに行かない?)

 

 えっ、なんで興味持ってるの? きっと凄く怖い人だよ……。人類圏のトップ10だよ?

 

(人類のトップって言われてもね。わたし魔人のトップ層……や、なんでもない。でも興味あるのはホントだから、また後でね)

 

 ええ、僕そんな偉い人会ったことないのに。

 

 ……うーん、でも。ちょっと憂鬱だけど、レヴィの言うことだしなあ。昨日はすごくお世話になったし、できる限りお願いは聞いてあげたいと思ってる。

 

 でも、そんな偉い人どこに行ったら会えるんだろう……。

 

 と。また別のことに頭を悩ませ始めた、その時だった。

 

 ――周囲が、ざわつき始める。

 

「あ、まずい」

 

「ど、どうしたんですか? サヤ隊長」

 

「あそこ。噂をすれば影」

 

「――ッ!?」

 

 うわっ。カレンさん、凄い勢いでサヤ隊長の指差す方を。

 

 遅れて僕も視線を向けると……。

 

 ――大勢の兵の間を割ってやってくる、長身の女軍人さん。

 

 お付きっぽい兵士を二人隣につけて……こっちに向かって歩いて来てる――?

 

 なんで、と一瞬思ったけど。さっきのサヤ隊長の台詞から察したよ。

 

 あの人ぜったい、カレンさんの知り合いだっていう十傑の人だ! カレンさんが目的でこっちに向かって来てるんだ。

 

 そう思ってカレンさんを見ると、なんだか見たことないほど難しい顔してて。どうしたのかなと、心配したその直後。

 

 あ。やっぱり十傑の人、僕たちのところに来て立ち止まった。全員の顔をぐるっと見渡して……ん? なにやら、僕のところで視線を止めたような……。

 

(なんかヤな予感。フーガ、トラブルメーカーだから……)

 

 ちょっと、不吉なこと言わないで……。不安になってきちゃった。何も悪いことはしてないはずだけど、まさかレヴィのことがバレてたり――と。

 

 心を心配が占め始めたその瞬間。

 

 僕を見つめる長身の女軍人さんが、金色の長髪をかきあげながら言った。

 

 

 

「――こんなかわいい男の子がいるだなんて。キミ、いったいどういった事情でここに? 良かったら一緒にお茶でもどうだい?」

 

 

 

(ほら……やっぱり)

 

 

 

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