ブレイブアフター   作:わしのシアン

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戦闘描写って難しい


第6話 長の天幕―影纏の護符

――焔が消えたあとの大地は、いつも静かだ。

 

先代魔王との大戦が終わり、荒れ地は息を潜めていた。

英雄たちは去り、軍勢は引いた。

だが、戦いの名残は蠢き続ける。

 

白角はただ一人、砂の上に立っていた。

角に乾いた風が当たり、小さな砂粒が流れていく。

 

そのとき、泉に近い岩場で、ひときわ鋭い咆哮が響いた。

 

影纏いの砂狼――

戦火に焼かれ、陽光を拒んだ獣たち。

影に沈み、血を啜り、理性を削ってなお生き延びた群れ。

 

飢えと狂気と、生への執念。

それらが、命の匂いを嗅ぎつけて近づいてくる。

 

「……陽の光は苦しいだろう。

 陽光に焼かれ、影にも堕ちきれず。哀れなり」

 

白角は腰の杖を静かに持ち上げた。

その表情は哀しみと責を帯び、怒りはなかった。

 

「来るがいい。

 その命に終幕を……この手で弔ってやる」

 

影が揺れ、砂が跳ねる。

砂狼たちが一斉に跳びかかった。

 

白角の衣が揺れる。

骨折れる音、光の閃き、砂の赤。

 

「炎よ、渦を描き舞い上がれ、しかして我が手にて槍と成さん……疾走れ、フレイムランス」

 

炸裂した炎の槍が影を裂き、肉を焼く。

陽光に弱い影纏いには、致命の焔。

 

続く一匹が背後の闇から迫る。

白角は杖を反転させ、石突でその顎を砕いた。

詠唱魔術師でありながら、動きは剣士の老練。

 

「……まだ来るか」

 

残った砂狼は、恐怖と飢えの狭間で揺れ、

それでも家族の影を背負って跳び込んできた。

 

戦いは長くはなかった。

戦とは、時にひどく短い。

 

すべてが終わったとき、

白角は膝をついた砂狼の骸に手を添え、静かに祈った。

 

「おまえたちは弱さではなく、生きたいがために影へ落ちた。

 ならば――その骨、無駄にはせぬ」

 

骨を集め、灰を払う。

その動作はまるで、友の亡骸を拾うかのようだった。

 

「かつて影を追い、光に怯えた者たちよ。

 その命の残滓で、願わくば……かの勇者の一族を守れ」

 

白角の指先から、静かな炎がにじむ。

砂漠の夜風がその祈りを包み、消した。

 

――そして時は巡る。

 

影はまた世界のどこかで芽生え、

光はまた誰かの胸に宿る。

 

砂に埋もれた骨が、わずかにきらめいた。

それは眠るように、しかし確かに未来を待つ光だった。

 

* * *

 

焚き火の灯りが、夜風に揺れる。

白角は膝を折り、掌に抱いた骨片をそっと布に包んでいた。

 

その前に立つ少年は、拳を握りしめている。

黒銀の影を背負いながら、瞳にはまだ幼い光。

 

アルトリウス。

 

白角は、かつてブレイブを導いた時と変わらぬ静けさでその名を呼んだ。

 

「……勇者の息子よ。

 おぬしの中にある光は、今の魔王には眩しすぎる」

 

少年は目を伏せる。

自分の中の勇者の血が、魔王を追い払い母の邪魔をするかもしれない恐怖。

胸の奥で、影がそっと揺れる。

 

「しかして希望はある。

 光を消すな。

 光を捨てるな。

 ただ――いまは、これを持ち、光を影に納めて歩け」

 

白角は骨片を指先で結び、小さな匂い袋を形にした。

香草の煙が淡く揺れ、砂色の布から影が滲み溢れる。

 

「これは影纏の骨による影の衣。

 生きるための夜。

 光が歩むための“待つ力”よ」

 

アルトリウスの手のひらに、温もりの残る匂い袋が乗せられる。

 

「いつか、おぬしの光が世界を照らすその時まで。

 必要なのは、焦らぬ心だ」

 

火がひときわ強く揺れ、影が二人を包む。

ローエンはやや離れた場所で、静かに息子を見守っていた。

 

少年の指が、そっと匂い袋を握る。

その小さな手に、未来の重さと優しさが同時に宿る。

 

影を纏い、光を抱いて。

魔王討伐の旅は、この町で――静かに始まったばかりだ。

 




今回は、静かな一幕でしたね。
アルはまだ未熟ですが、それでも前へ進もうとしています。
魔王へ向かう道は険しいけれど――
どうかこれからも、そっと応援してあげてください。
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