今日も当番に呼ばれるカヨコ

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放課後スイーツ部と便利屋68ってなんか似てる気がします


持てる者の恋愛

「おはよう先生……て、また溜め込んだね」

「助かるよ。本当に……」

 シャーレの扉を開けると、いつも通り先生がデスクに突っ伏している。

「寝癖、ついちゃうよ?」

 先生の髪の毛は中途半端に固くて、変な体勢で寝るとすぐにその形の癖がついてしまう。だからこうやって、私が手で髪を梳いてるんだけど、最近の先生は私が当番の時、起きていながらいつも変な癖つけてるから、もしかしたら私の手櫛が好きなのかな?なんて思ったりする。

「カヨコの手つきって眠くなっちゃうんだよなぁ」

 先生の言葉で私の心臓が跳ね上がりつい確認をとりそうになるが、くっと飲み込んで別の返答を探す。

「そうやって寝たふりしようとしてもだめだよ先生。ほら、私も手伝うから」

「やっぱり通用しないか……」

 項垂れる先生の後ろに立ち、両手で彼の目を塞ぐ。

「ッ!?つっめた!!」

「目は覚めた?」

 このまましれっと胸に抱き寄せられたらいいなと思う。でも、私は社長ほど豊かなモノは持ってないから、そういう誘惑じみたことはできない。

「なっ先生、いきなりつかんでどうしたの?」

 心の中でため息をついていると、彼がいきなり手を握ってきた。私と違って暖かい手だ。彼の熱が私の冷たさと混ざっていく。

「大事なカヨコの手が冷えてるというのに仕事なんてやってられるか!てことで私はコーヒーを淹れてくるね。どこでもいいから休んでて」

 バッと立ち上がった彼はさっきまでだらけてたのが嘘みたいにキビキビと動き始めた。

“かっこいいなぁ……”なんて、微笑を浮かべながらお湯を沸かす彼を見て、誰にも聞こえないようぽそりと呟く。彼から目線を移して、さっきまで先生がいた椅子に座る。椅子には先生のスーツがかかっており、私が背もたれに背中をつけ目を閉じると、なんだか後ろから抱きしめられてるように感じられた。

「その椅子好きかい?」

 びくっとして振り返ると、両手でゆげを燻らせる先生が立っていた。

「初めて当番に来た時から座ってみたかったんだ」

「座り心地はいかがかな?」

「無理やり大人にされそうな感じがする。私にはまだ早かったかな」

 私たちはソファに移り、軽く談笑した。話題は専ら便利屋の仲間達が起こすトラブルと尽きない心労の話だったが、先生はずっと笑っていて、私が話し終わると毎回「カヨコは便利屋が大好きだね」と言って締め括った。私はその度に「あなたのことも大好きよ」と言いたくなるので、何か話して解消するたびにまた心労が増える。

 雑談の後はきっちり仕事をして、何事もなく当番を終えた。

「次からはちゃんと余裕を持って仕事してね」

「本当に助かったよカヨコ、ありがとう」

 私は手を振りながらシャーレを出た。

 ポケットに手を入れながら歩く。先生がくれた熱を逃がさないようにギュッと握りしめる。私の手は冷たくて、自分で熱を生み出せないから、誰かの熱を頼りにするしかない。

 逃げないように、逃がさないように、絶対に逃さないように……

 

「あ!カヨコっち帰ってきた!おかえりぃ〜」

「おかえりなさいませ……」

「あらカヨコ、手が冷たいのかしら?貸してみなさい」

「え、うん」

 社長に手を見せると、私の手を優しく包み込んでくれた。

「アルちゃんいいね〜♪ムツキちゃんもカヨコちゃん温めちゃおーっと♪」

 そう言ってムツキが私に抱きついてくると、ハルカも続いて私に抱きついてきた。

「わ、私の体温で良ければ、カヨコ課長に差し上げます……」

「……ありがとうみんな。もう大丈夫」

「あらそう?私がみんなのストーブになってあげても良いのだけれど?」

 と社長が胸を張って言うので、

「さっすがアルちゃん!ムツキちゃんのこともあっためて〜」

 とムツキがノって、

「アル様の体温を奪うなんてそんな烏滸がましいことは私にはできません……!」

 とハルカが自分を卑下するようなことを言う。いつも通りの景色で、心が暖たまると同時に、ここが居場所なんだと痛感する。

 

 社長が私たちの暖房になって数ヶ月が経った。その間も高頻度でシャーレに通った。シャーレの扉を開けるたびに先生の寝癖を直したし、シャーレに訪れる回数が重なるたびに、私の好意も積み重なっていった。

 そんなある日。便利屋の任務中、と言うよりは、ハルカの暴走をサポートしに行く際中。視界の端にチラリと先生が見えた。隣にはおしゃれしたミレニアムの会計の人もいて、二人きりでどこかに歩いて行った。見えたのは私だけだったのか、社長とムツキは全く反応を見せない。だから私も反応しなかった。

 しかし、その日は一日中いやに早く鼓動した。次の当番は二日後だ。今すぐ会いたい。会って問い質したい。自然と呼吸も浅くなる。先生の隣に居られなくなるということ、先生を失うことが怖くて横になっても全然眠れない。泥のような不安が体にまとわりつき、底なし沼に落ちていく錯覚さえした。自分にくれた熱に縋るように、私は体を丸めていた。

「隣失礼するわねカヨコ」

「え、どうしたの社長」

「部下が寒そうにしているんだもの。見過ごせないでしょ?」

「それにほら、私一応みんなの暖房係でもあるし……」

 顔を赤らめながら不服そうに言う彼女に、私は寝たまま寄りかかる。

「言葉には責任を持たないとだよ社長」

 

 二日後。私はいつも通りの時間にシャーレの扉を開ける。するとやっぱり書類は溜まっていたが、先生は起きない。近づいて見ると、目を閉じてすやすやと眠っていた。

「勘違いだったのかな」

 そう独りごちる私の目に、ぴょこんと跳ねた寝癖を見つけた。私は直してあげようと手を伸ばし、何もせずにその手を引っ込めた。

「もう、寝癖は自分で直すんだよ先生」

「……よかった…………」

 ……寝言だろうか?返事を期待せずに放った言葉だったので、かなりびっくりした。

 はぁ、とひとつため息をついて私は溜まった書類を請け負う。

 今、私は失恋した。勝手に恋して、勝手に振られて。なんだか無意味に思えるけれど、今の私は失恋してかなり気分が良いから、これは必要な恋だったと宣言しよう。

 

「あら、おかえりカヨコ。今日はみんなでラーメンを食べに行くわよ!」

「うん。行こうか。みんなで」




私的にはカヨコとは良い夫婦になれそうなんですけどね


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