TSメスガキ転生者がオタクくんをからかいたかった話   作:ソーラン節

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【挿絵表示】



即落ち

 出久くんがオールマイトの個性を受け継いだということが判明してから、私の立てた出久くんヒーロー化計画は大きく全貌を変えたかに思えた。

 しかし、実際のところそこまで大きな変化はない。

 

 出久くんはオールマイトの持っていた個性を「継承」した。つまりこのまま鍛えていけば将来はオールマイトと同じレベルの活躍が確実……とは、残念ながらいかない。

 オールマイトの肉体を触ってみて理解したことだが、あの人は何かおかしい。いや、それで言ったら経歴から実績まで全部おかしいんだけどね。

 

 医学的観点からオールマイトの肉体を見ると、骨密度筋密度柔軟性が有り得ないほど高く、理屈は分からないが何故か内臓も血管も丈夫だった。

 もはやあれは「オールマイト」という異形系の個性だと説明された方が納得できる。ヒトヒトの実モデルヒーローみたいなものだ。

 

 ……まあオールマイトの異常性については一旦置いておこう。本気で語ったらそれこそ論文が何本も書けてしまう。

 

 オールマイトは出久くんを後継者にすると言っていたが、それは自分と同じ役割をさせるということではなく単純な個性の引き継ぎを意味しているらしかった。

 つまり、オールマイトは出久くんを「二代目平和の象徴」にする予定はないらしい。

 

 そしてそれについては私も同意見だ。

 たった一人のヒーローに責任が集中する構造は褒められたものではない……という尤もな理由もあるが、それ以前の問題として出久くんにはワンマンチームが似合わない。そういうのはかっちゃんの方が向いてる。

 

 出久くんの強さは、たった一人で先頭に出て皆を牽引するようなものではない。

 出久くんが前に出ると自然と皆が付いてくる、そんな「助けてあげたくなるヒーロー」が出久くんだ。結果としては同じでも過程が全く違う。

 

 そういう目指すべくヒーロー像的にも、出久くんの今後の方針は今まで予定したものと変わらない。

 出久くんには雄英高校に入学しヒーローとして必要なものを学びつつ、同じヒーローの卵である学友達と繋がりを作ってもらう。

 

 今の出久くんの実力なら、オールマイトのようにさっさとヒーロー免許を取って海外留学して、ヴィランを片っ端から捕まえまくって実績を積むというやり方もできる。

 ただ、それは如何せん急ぎすぎとも言える。オールマイトの時代と比べ治安がかなり安定してきている今の時代、そこまでしてヒーローになることを急ぐ必要性は薄い。

 それよりかは、雄英高校でしっかりとしたヒーローとしての土台を築くのが良いように思えた。

 

 そんなわけで、あれから私と出久くん、ついでにかっちゃんの特訓内容は特に変わっていない。私の個性をぶん回して筋トレと戦闘訓練を効率よくやりまくる。これに尽きた。

 

 今では出久くんもかっちゃんも、純粋な戦闘能力に関してはプロでも通用するくらいだ。心配要らないだろう。

 勉強方面に関しても特に不安はない。前世知識分のアドバンテージがある私に、日々真面目に勉強に取り組んできた出久くん、あと謎に頭がいいかっちゃん。みんな揃って模試はA判定だ。

 

 いよいよ入試本番を控えた今、できるだけの対策はした。あとは受けるだけだ。

 

「やってやろうじゃん♡」

 

 

「落ちた……」

 

 いやさ、確かに即落ちはメスガキの伝統芸能だけど……まさか入試で即落ちするとは思わないじゃん。

 帰りの電車の中、ニッコリ笑顔だった出久くんとドヤ顔だったかっちゃんの表情が私の言葉に凍りつく。和気あいあいといった雰囲気が一変、お通夜だ。

 

「……まだ分かンねェだろが」

 

 あのかっちゃんですら珍しく気を使ってくれる始末だった。

 

「……ヒーローに必要な能力は、純粋な戦闘能力以外にも色々ある。何もヴィランを倒すだけがヒーローの仕事じゃない。市民をヴィランから守る能力、救出する能力、見つからずに敵地に侵入する能力、他のヒーローを補助する能力、他にも色々ある。だから、情報が世に出回っていない完全ブラックボックスな雄英の実技試験も、そういったヒーローに必要な能力を多角的に測るものだと思ってた……」

「……おう」

「あー、うん」

 

 突然長々と話しだした私に少し引きつつ、二人が相槌を打つ。

 

「それに、もしも純粋な戦闘を行うだけの実技試験だとしても、私の個性を自分自身に使ってフル稼働すれば何とかなると思ってた……。相手の攻撃を完全に無視して、ゾンビアタックでチマチマダメージを与えれば少なくとも負けはしないし……。仮に試験官と戦うような入試形態だったら私の個性の有用性を示せば加点になるし……」

「……だが、蓋を開けてみりゃ対雑魚ロボの単純な殲滅戦だったと」

「うん。私、攻撃力低いし機動力低いし、敵を拘束できる個性でもないし……絶望的に噛み合いが悪かった」

 

 いやほんと、どうしようもないくらい噛み合わなかった。私のぺちぺちパンチじゃどうやってもロボットを倒せない。

 一応、相手の攻撃をフル無視で全部くらいながら攻撃できるという利点はあったけど……いかんせん、この幼女ボディじゃまともな攻撃ができない。

 

「その……何ポイントだったの、治優さん」

「3ポイント」

「……」

「……」

 

 沈黙が訪れる。

 一応、そこら辺に落ちてる金属片を武器に、無限回復によるゾンビアタックでチマチマダメージを与えて何体か敵を倒したけど……明らかに処理速度が足りていない。

 

「……普通科の方は多分受かってるから、同じ高校には行けると思う」

「……ええと、普通科からヒーローになった人も沢山いるし、なんなら雄英は有用な人材ならヒーロー科編入もあるし、治優さんなら何も問題ないよ!」

「……ありがとう出久くん……」

 

 出久くんの優しさが染みる。

 まあ、ポジティブに行かないとだよね。どうせ卒業したら私、出久くんのサイドキックになる予定だし。別に普通科でも一緒にお昼ご飯食べたり登下校デートしたり保健室でイケナイことしたりできるし。

 別に気にしてなんかないし。別に。

 

「まあ、お前も出久もどうせ俺の事務所に入るンだから関係ねェだろ」

「はあああ? 出久くんがヒーローとして独立しないとか解釈違いなんだけど?? かっちゃんの方こそ出久くんの下に付きなよ♡」

「俺が出久の下ァ? 有り得ねェだろが。おいデク、てめェ調子乗ってんじゃねェか?」

「えっ僕!? 今の流れで僕にヘイトが向くの!?」

 

 まあ、なるようになるよね♡

 結局いつも通りの賑やかさが戻ってきた三人でかっちゃんと出久くんの争いを眺める。争いというか、かっちゃんが一方的にふっかけてるだけだけど。

 

 さて、そろそろ実技試験のポイント数で出久くんに勝ってドヤ顔をするかっちゃんを筆記試験の解けた問題の数で煽りに行かなくちゃね♡

 

 

「実技総合成績出ました」

 

 雄英高校の教師陣にして、現役のトップヒーロー達が会議室に集まりズラリと並ぶ。

 

「今年の生徒達は活きがいいなあ!!」

「活きがよすぎると言った方がいい気もするがな」

 

 プレゼントマイクの大声にイレイザーヘッドが返す。

 会議室のモニターには(ヴィラン)P*1が44、救助(レスキュー)P*2が77、総合ポイント121という異次元の成績を出した入試成績一位の生徒()()()()と、敵P120、救助P0で入試成績二位となった異色な生徒爆豪勝己が映し出されていた。

 

「入試成績一位の緑谷出久と二位の爆豪勝己、どちらも非常に強力な個性、そして戦闘能力があることは確かだが……怪我を顧みなさ()()()

 

 画面に映し出された二人は、どちらも全身がボロボロになっている。それらはどちらも仮想敵に付けられた傷ではなく、自分の個性の反動でできた傷だった。

 緑谷出久は全身の筋肉から煙が立ち上がり、酷い筋肉痛と筋断裂、捻挫に打撲が確認され、爆豪勝己は度重なる爆発の反動により両手がズタボロになっていた。

 自己犠牲の精神と呼んで褒め称えるには自暴自棄すぎる。少なくとも、ヒーローとして長く活動することを見据えているのであれば取るべき行動ではない。

 

「あー、それなんですが」

 

 そこで、オールマイトが細い腕を挙げながら口を開いた。

 

「実はその二人とは個人的に少し面識があるのですが、彼らはどちらも修善寺少女と同じ中学に通う学友であり、修善寺少女が二人の戦闘訓練に付き添っているため、その影響もあるかと」

「……修善寺治優、か」

 

 オールマイトの発言によってモニターに映し出される人物が変化する。ピンク色のツインテールに、つり目がチャームポイントな整った童顔。そして幼女のような小さい体躯。

 敵P3、救助P27の()()()()()、修善寺治優。個性『治癒』。

 

 何を隠そう、彼女の合否を決めることがこの集まりの目的の一つであった。

 

「彼女の獲得したポイントは合計30。合格基準を満たしていないため本来なら不合格なのさ。ただしそれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()、ね」

 

 そう言った根津校長がモニターに映し出すのは、試験()の映像だった。

 そこには、試験後に怪我人の下に駆け寄り瞬時に怪我を治療する修善寺治優の姿があった。

 

「試験が終わった後のこの行為を救助Pに加算すると、彼女の救助Pは57。ポイント合計60、しっかり合格基準を満たすのさ」

 

 問題は、試験時間外での行動をポイント評価に含めるかどうかだった。

 

「もちろん、本来なら試験時間外での行動は試験内容に影響しない。だけど、こと救助Pに関しては話が変わってくるのさ。そもそも存在が秘匿されている評価指標で、内容も完全審査制。つまり試験外の出来事を評価に入れようと入れまいと自由。完全に私達のさじ加減次第なのさ!」

 

 教師陣の中でも意見は割れていた。

 個性の有用性と精神性から治優を評価し、ヒーロー科に入れるべきだと主張する教師。事前に定めていた評価基準では不合格である彼女が入学することにより、本来入学できる生徒が入学できなくなることから彼女の受け入れを反対する教師。

 様々な立場と思想から、議論は白熱した。

 

「そもそも、普通科でいいんじゃないのか。彼女の個性なら無理にヒーローをやらなくても、サイドキックとして裏方でヒーローの治癒に専念してもいいだろう」

 

 しかし、誰かが発したその意見に、会議の結論はまとまりかけていた。

 そんな時、オールマイトがまた発言した。

 

「その……彼女の個性は、対象への好意によって効力が変化します。その振れ幅はかなり大きく、見ず知らずの人には軽い擦り傷を治す程度しかできないのに対して、強い好意を抱いている相手には瞬時に骨折や内臓負傷を治すことができるくらい強力です」

「……オールマイト、それは確かなのかい?」

「はい。……あまり口外すべきではないのですが、実際彼女が私に個性を使用した際、衰えていた筋肉が勢いを取り戻し、負傷していた呼吸器系が完治し、全摘した胃が生えました。どうやら彼女は私のファンだったらしいです」

「胃が生えたのかい!?」

「生えました」

 

 驚いてつぶらな瞳が飛び出てしまった根津校長に対し、今では少し力むだけでトゥルーフォームの維持ができなくなってしまったと笑うオールマイト。教師陣にざわめきが起きる。

 しかし、実際最近のオールマイトはくしゃみをした拍子にマッチョフォームに戻る様子が何回か目撃されていたため、信憑性は高かった。

 

「つまり、彼女の個性の性質上、予めヒーロー科の生徒と交流を持たせておいた方が良いと」

「はい」

 

 再び教師陣が唸った。

 骨折や内臓負傷の瞬時回復は、痛いほど欲しい。この時点で修善寺治優という人材を逃してはならないという意見で教師陣が一致した。

 ヒーロー科の生徒と仲を深めてもらえたのなら、在学中の怪我治療はもちろん、将来生徒たちがプロヒーローになった際の連携で直ぐに治癒能力を発揮できる。是非ともその能力は欲しかった。

 しかし、その理由で安易にヒーロー科に迎え入れるのは入試の公正性に反する。

 

 実利と公正の狭間で揺れる教師陣に対し、ついに根津校長が決定的な提案をした。

 

「では、こういうのはどうかな。普通科の中に、新たに''ヒーロー補助枠''を設けて、そこに彼女を招待するというのは」

「ヒーロー補助枠とは、具体的にどういったものなんですか?」

「ヒーロー補助枠の生徒には、普段、午前中は一般の普通科生徒に混じって普通科クラスで通常の授業を受けてもらう。そして、午後、ヒーロー科でヒーロー基礎学が行われる時、補助枠の生徒はそれに同行してヒーロー科生徒の補助を行ってもらう。修善寺さんの場合は訓練時の治療がこの補助に当たるのさ」

「……なるほど。それなら、ヒーロー科生徒との交流ができますね」

 

 こうして、雄英高校は普通科に新たな枠を設ける事が決まった。

*1
仮想敵であるロボットの撃破に応じて増えるポイント

*2
他の受験者を助けるなどヒーローらしい行動をした際に増えるポイント




ヒーロー科に行って峰田くんをいじる。普通科に行って心操くんをいじる。「両方」やらなくっちゃあならないってのが「メスガキ」のつらいところだな。
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