護って!いちごちゃん!〜いちごパンティは見えてるか〜   作:ろくさん

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第4章:砂場の王! 5歳の暴君(キング) その3

 

「ぎゃはははは! だせー! うんこイチゴパンツだー!」

 

ショータくんの、無邪気で、残酷な嘲笑が、平和だったはずの公園に響き渡る。

滑り台の陰から、ことの成り行きを見守っていた女の子たちも、さすがに、その光景には、ドン引きしていた。

(……プリティストロベリー、が……)

(……パンツ、丸見え……)

(……しかも、うんこ(泥)ついてる……)

子供たちの、純粋な「憧れ」が、「困惑」へと変わっていくのが、空気で伝わってくる。

 

いちごは、固まっていた。

スカートがない。

パンティは、丸見え。

そのパンティは、泥で汚され、「ダサい」と笑われている。

ヒーローとして、いや、一人の「女の子」として、これ以上の屈辱があるだろうか。

 

(……あ)

(……ああああ……)

 

羞恥と、怒りで、目の前が、真っ赤に染まっていく。

涙が、滲み出てきた。

悔しい。

この、クソガキ(暴君)が。

私の「正義」の衣装(コスチューム)を、泥まみれにして。

私の「大好き」の(イチゴ柄)を、うんこ呼ばわりして。

 

(……許さない)

 

いちごの、全身が、怒りで、わなわなと震えた。

 

「ヨウくんっ!!!!」

 

地獄の底から絞り出すような、絶叫だった。

(※パンティ丸見えのままの、絶叫である)

 

その声に応え、木陰に隠れていた、偵察ドローン(ヨウくん操縦)が、いちごの真上まで、急上昇した。

 

「(桃瀬さん! 受け取れ!)」

 

通信機(生徒手帳)から、冷静な声が飛ぶ。

ドローンの、下部ハッチが、開く。

そこから、銀色の、(※ポリ袋)が、投下された。

 

「ぎゃははは! うんこイチゴ……ん?」

 

笑い転げていたショータくんが、空からの「補給物資」に、気づいた。

いちごは、その、ポリ(新品)を、空中で、完璧に、キャッチした。

 

(……来た!)

 

いちごは、新品のイチゴパンティを、強く、強く、握りしめた。

袋の上からでもわかる、清潔な、布の感触。

 

(……これを、履く)

(今、ここで)

 

(え? でも……)

いちごの、怒りに染まった頭脳の、片隅。

まだ、冷静な「女子高生(桃瀬いちご)」の部分が、警鐘を鳴らす。

(ダメ! だって、スカート、ないんだよ!?)

(丸見えの、この状態で、履き替える……?)

(あの、クソガキ(ショータくん)だけじゃない!)

(滑り台の、女の子たちも、見てる!)

(そして、何より……!)

 

いちごの視線が、木陰で、ドローンを操縦しながら、こちらにメガネ(カメラ)を向けている、ヨウくんの姿を、捉えた。

 

(……ヨウくんも、見てる!!!)

 

羞恥が、怒りを、上回りそうになる。

顔が、カッと、沸騰した。

 

「(桃瀬さん! ためらうな!)」

 

通信機から、ヨウくんの、(げき)が飛ぶ。

 

「((ショータくん)は、君の『イチゴ柄』を侮辱した! あの子供たちの前で!)」

「(君は、ヒーローなんだろう! プリティストロベリーなんだろう!)」

「(その『(イチゴ柄)』が、汚されたままで、どうする!)」

 

「(……っ!)」

 

ヨウくんの言葉が、いちごの、最後の「羞恥心(ブレーキ)」を、粉砕した。

(……そう、だ)

(私は、プリティストロベリー!)

(この、クソガキ(暴君)に、本当の『正義』を、教えてあげるんだ!)

(この、汚された『うんこイチゴパンツ』のまま、負けるわけには、いかない!)

 

「ぎゃははは! なに、それ? また、パンツ?」

 

ショータくんが、まだ、嘲笑を続けている。

その、無邪気な「悪意」が、いちごの決意を、固めた。

 

「(見てなさい……!)」

 

いちごは、意を決した。

彼女は、ポリ袋を、怒りを込めて、ビリビリに破り捨てた。

中から現れたのは、汚れなき、純白の生地に、鮮やかな赤いイチゴが散りばめられた、新品の「それ」だった。

 

「(……これが、私の……!)」

 

いちごは、震える手で。

泥に汚れた、イチゴ柄のパンティの、ゴム紐に、指をかけた。

(大丈夫。私は、今、変身(チェンジ)するんだ)

(これは、神聖な、儀式(ぎしき)なんだ)

(『スウィートハート』だって、変身シーンは、ちょっと、エッチだ!)

 

そう、自分に、強く、強く、言い聞かせて。

 

いちごは、汚されたパンティを、一気に、引きずり下ろした。

秋風が、彼女の、あらわになった、聖域を、撫でる。

「「(……あっ)」」

滑り台の女の子たちが、息を飲む、気配がした。

 

「(……記録(レック)。桃瀬さん、換装(チェンジ)シーケンス、移行。……アングル、完璧)」

ヨウくんが、メガネ(カメラ)のピントを、最大解像度に、設定した。

 

ショータくんは、目の前で、突然、パンティを下ろし始めた「魔女(おばさん)」の、その、あまりに、現実離れした光景に、笑うのを、忘れていた。

「(……え?)」

「(……ぬ、ぬいでる……?)」

 

いちごは、顔を、怒りと羞恥で、真っ赤に染め上げながらも。

その手は、()めない。

汚れたパンティを、衣装のポケット(※ヨウくん回収用)に、ねじ込む。

 

そして。

新品の、イチゴ柄を。

両手で、広げ、足を通し……

素早く、装着する。

 

清潔な、真新しい布地が、彼女の、火照った肌に、触れた。

 

その、瞬間。

 

「なっ!?」

 

「うおっ!?」

「ま、眩しい……!」

 

いちごの身体が、爆発的な光を放った。

さっきまでの、淡い光ではない。

公園の、西日が、一瞬、停電したかのように、意味を失う。

光源は、プリティストロベリー。

彼女が、今まさに装着した「イチゴ柄」のパンティ、その一点から、凄まじいピンク色の光が、奔流となって溢れ出したのだ。

 

ショータくんは、あまりの眩しさに、咄嗟に腕で目を覆った。

滑り台の女の子たちも、目を閉じる。

ヨウくんの、メガネ(カメラ)と、ドローン(カメラ)だけが、特殊なフィルター(※ヨウくん開発)越しに、その、神々しい「変身(換装)」の、一部始終を、記録していた。

 

光の中で、いちごの身体が、変貌していく。

泥まみれの、白いコスチューム(スカート無し)が、光の粒子となって、一度、霧散する。

そして、再構築される。

 

変身の「核」は、今、履き替えたばかりの、イチゴ柄のパンティ。

 

(……っ!!!)

 

いちごは、光の中で、信じられない「感覚」に、息を飲んだ。

履いたばかりのパンティが、熱を帯び、まるで、それ自体が、命を持ったかのように、彼女の身体を締め付け、変異していく。

 

「あ……っ!」

 

パンティの、サイドライン。

その布地が、ありえないほどの張力で、物理的に、吊り上げられていく。

腰骨を、遥かに越え、彼女の脇腹、そのラインに沿って、鋭角的に、上へ、上へ、と。

 

「(食い込んで……る……!)」

 

純白のイチゴ柄の布地が、彼女の太ももの付け根、その柔らかい内側に、深く、深く、食い込んでいく。

それは、もはや「パンティ」というより、肌に張り付いた「第二の皮膚」であり、「装甲」だった。

極限まで切り詰められた、超ハイレグスタイル。

 

その、変異した「イチゴ柄」を、中心(コア)として。

残りのコスチュームが、一瞬で、再構築された。

 

胸元のリボンは、戦闘機のようにシャープな形状に。

スカートは、短く切り詰められたチュチュに変わり、その下から、食い込むハイレグのラインが、惜しげもなく晒されている。

(※さっき剥ぎ取られたスカートも、光の力で、再構成されたのだ)

手には、肘上までのロンググローブ。

足は、膝上までの、鋭いピンヒールのロングブーツ。

そして、頭。

イチゴのカチューシャではなく、天を突くように伸びた、シャープな「ウサギの耳」。

 

光が、収束していく。

ショータくんが、おそるおそる腕を下ろすと、そこに立っていた「プリティストロベリー」の姿に、絶句した。

 

「は……? え……?」

 

さっきまでの、泥まみれの「魔女(おばさん)」は、どこにもいなかった。

そこにあったのは、怒りを、その食い込むハイレグのラインにまで宿した、苛烈な「執行者」の姿だった。

 

「プリティストロベリー……バニー」

 

地を這うような、冷たい声。

さっきまでの、必死だった少女の声ではない。

 

「…………」

 

ショータくんは、完全に、言葉を失っていた。

口を、ぽかん、と開けたまま。

その「本物」の、オーラに、圧倒されていた。

(……かっこ、いい……)

5歳児の、脳裏に。

「だせー」とか「うんこ」とかいう、罵倒の言葉は、もう、欠片も、残っていなかった。

 

「(……対象(ショータくん)、『侮辱』から『心酔』モードへ、移行。……完璧な、変身(データ)だ)」

ヨウくんが、通信機(生徒手帳)を、そっと、閉じた。

 

「あなたの、『王国(ごっこあそび)』は……」

 

いちご(バニー)は、冷たく、ショータくん(元・王様)を、見下ろした。

 

「もう、おしまいです」

 

「あ……あ……」

 

ショータくんは、尻餅をついたまま、後ずさろうとする。

だが、腰が、抜けて、動けない。

目の前の「バニー」が、あまりにも、恐ろしく、そして、あまりにも、美しかったから。

 

「ひっ!」

 

いちご(バニー)は、ゆっくりと、右足のヒールを、高々と、振り上げた。

その動きは、天を突くようにしなやかで、美しい。

食い込んだハイレグのラインが、その可動域を、限界まで見せつけていた。

 

(この、クソガキ(暴君)に、物理的な『お仕置き』は、できない)

(でも!)

(この子が、一番、大事にしている『プライド』は、壊してあげる!)

 

いちご(バニー)の、狙いは、ショータくん、本人ではない。

彼が、築き上げた「王国」。

その、象徴。

砂場の、真ん中にそびえ立つ、お菓子の空き箱と、バケツで作られた「玉座」だった。

 

「さようなら、あなたの、小さな『王国』」

 

「あ! やめ……!」

 

ショータくんが、制止の声を上げるよりも、早く。

いちご(バニー)のヒールが、玉座(バケツ)の中心に、叩き落とされた。

 

「ストロベリッシュ・バニー・クラッシュ!!」

 

バキイイイイン!

という、プラスチックが、粉々に砕け散る、甲高い、破壊音が響き渡る。

玉座(バケツ)は、一撃で、粉砕された。

 

だが、いちご(バニー)の「お仕置き」は、それだけでは、終わらない。

 

「そして!」

 

彼女は、素早く、砂場を囲む、泥の「城壁」の前に、移動する。

 

「こんな、もので、女の子たちを、閉じ込めることは、許しません!」

 

「ストロベリッシュ! バニー! キック!」

 

彼女の、鋭いヒールキックが、連続で、泥の城壁に、叩き込まれる。

ダン! ダン! ダン!

乾いた泥が、凄まじい勢いで、粉砕され、砂埃(すなぼこり)となって、舞い上がる。

ほんの数十秒で、ショータくんが、何日もかけて築き上げた「王国」は、跡形も、なくなっていた。

 

あとに残ったのは。

ただの、平和な、誰もが遊べる「砂場」と。

粉々になった、バケツの残骸。

そして、その中心に、美しく、仁王立ちする、「プリティストロベリー・バニー」の姿だけだった。

 

「…………」

 

ショータくんは、その、あまりの、圧倒的な「力」の、光景を。

ただ、呆然と、見つめていた。

自分が「王様」だったことなど、もう、すっかり、忘れてしまっていた。

 

「……ふぅ」

いちご(バニー)は、その光景を見届けると、静かに、変身を解いた。

(※実際は、変身の光と共に、ハイレグの食い込みが元のパンティのラインに戻り、チュチュも元のスカート丈に戻った)

 

そして、元の、プリティストロベリーの姿に戻ると、尻餅をついたままの、ショータくんの前に、ゆっくりと、しゃがみ込んだ。

その表情は、もう「執行者」ではなく、いつもの、優しい「お姉さん」の、顔だった。

 

「……ねえ、ショータくん」

 

「……は、はい……」

ショータくんは、涙目で、ビクビクしながら、頷いた。

 

「『王様』はね、いばる人のことじゃないんだよ」

 

いちごは、ニコリと、微笑んだ。

 

「みんなを、笑顔にして、みんなを、護ってあげる人のこと、なんだよ」

「『スウィートハート』だって、そうでしょ?」

 

「……『すいーとはーと』……」

ショータくんが、呟く。

 

「そうだよ。だからね……」

 

いちごは、滑り台の陰で、まだ、こちらを見ている、女の子たちに、手招きをした。

 

「……ウサギさん、壊して、ごめんなさい、だよね?」

 

「…………」

 

ショータくんは、いちごの、まっすぐな目と、女の子たちの、不安そうな目を、交互に、見た。

そして、数秒後。

こわばっていた顔が、ふにゃり、と歪み。

 

「……う……うわあああああん!」

 

ついに、泣き出した。

「ご、ごめんなさああああい!」

 

(……よし!)

いちごは、心の中で、ガッツポーズをした。

 

その日の夕方。

オタ研の部室。

 

「ぷはー! 疲れたー!」

 

制服に、着替え直した、いちごが、机に突伏していた。

(子供、マジ、疲れる……)

 

「お疲れ、桃瀬さん」

 

ヨウくんが、イチゴミルク(いちご専用)を、コトリと置いた。

 

「わ、ありがと!……ていうか!」

いちごは、ガバッと、顔を上げた。

 

「ヨウくん! あの、スカートの『パージ(分離)機能』、何!? 初めて聞いたんだけど!」

 

「ああ。あれか」

 

ヨウくんは、無表情のまま、PCの、キーボードを叩いていた。

画面には、例の「サンプルNo.3(泥汚染・スカート無し)」の、3Dデータが、回転していた。

 

「あれは、万が一、敵にスカートを掴まれた際の、緊急脱出(だっしゅつ)機能だ。……まさか、五歳児の、スコップ(エクスカリバー)で、作動するとは、計算外だったが」

 

「(……絶対、私のパンティを、撮りやすくするためでしょ……!)」

いちごは、ジト(じめ)で、ヨウくんを、睨んだ。

 

「だが、結果として、素晴らしい『データ』が取れた」

 

ヨウくんは、満足げに、頷いた。

 

「……桃瀬さん。君は、自分の『イチゴ柄』が、白日の下に(さら)され、かつ、『侮辱』されることで、変身(ブースト)の効率が、最大化する、ということが、証明された」

 

「え? な、なんだか、よくわかんないけど……」

 

いちごは、ヨウくんの(何を言っているのかさっぱりわからない)真剣な分析に、きょとん、と首をかしげた。 アホ毛が、ぴこ、と揺れる。

 

「(ま、いっか!)」

 

いちごは、深く考えるのを、一秒でやめた。 難しいことは、全部、妖精さん(ヨウくん)に任せておけばいいのだ。

 

「それより、イチゴミルク美味しい!」

 

いちごは、もう、反論する気力も(というか、分析の意味がわからなかったので)、目の前のイチゴミルクの、甘酸っぱい美味しさに、意識を集中させた。

ストローを、ちゅー、と吸う。

 

(……うん! あの子たち、最後は、ショータくんと、仲良く、新しい『ひっSつうんこ(泥団子)』、作ってたし!)

(めでたし、めでたし! 結果オーライだね!)

 

いちごは、ニコニコと、窓の外の、きれいな夕焼けを、見つめた。

そして、イチゴミルクを、もう一口。

……と、吸い込んだ、その時だった。

 

(…………)

(…………あれ?)

 

いちごの、ストローを吸う、口が、止まった。

さっきまでの、戦闘の記憶が、アドレナリン(興奮)の霧が晴れると共に、急速に、鮮明な「映像」となって、脳内に、蘇ってきた。

 

(あれ? でも、私……)

(あの時……)

 

(スカート、なくて……)

(パンツ、丸見えで……)

(しかも、それ、脱いで……)

(新しいの、履いて……)

 

(…………)

 

(……はっ!!!!)

 

いちごの、顔から、一気に、血の気が引いていく。

いや、違う。

次の瞬間、羞恥と怒りで、首筋まで、一気に、真っ赤に、染め上がった。

 

(ぜ、ぜ、全部、見えちゃってたよね!?)

(あの、泣いてた女の子たちだけじゃなくて!)

(笑ってた、ショータくんだけじゃなくて!)

(木陰にいた、ヨウくんに、見られたよね!?)

(ってか、あのドローンと、メガネで、撮ってないよね!?)

 

いちごは、ギギギ……と、油の切れたブリキ人形のように、首を、ヨウくんの、方へと、向けた。

アホ毛が、羞恥と、怒りで、小刻みに、ビビビビビ! と震えている。

その顔は、夕焼けよりも、赤かった。

 

「あ、あのさぁ……ヨウくん……」

 

かろうじて、絞り出した声は、低く、震えていた。

 

「なんだ、桃瀬さん」

 

ヨウくんは、PCの画面から、目を離さない。

その画面には、ドローンが、真上から撮影した、例の「換装(チェンジ)シーケンス」が、コマ送りで、再生されていた。

(……換装所要時間、推定3.5秒。素晴らしい。だが、次回は、2.8秒を、目標に……)

 

「『なんだ』、じゃ、ない!!」

 

バンッ!

いちごは、イチゴミルクのパックを、机に、叩きつけた!

(中身が、少し、こぼれた)

 

「さっき! あの時! 私、スカートなくて、その……! は、履き替えた時!」

(恥ずかしくて「パンティ」って言えない!)

 

「み、見てたでしょ! ていうか、ドローン(あれ)と、メガネ(それ)で、撮ってた(・・・・・)でしょ!!」

 

ヨウくんは、そこで、ようやく、ゆっくりと、キーボードの手を、止めた。

そして、椅子を、ゆっくりと、いちごの、方へと、回す。

その、黒縁メガネの奥の瞳は、いつも通り、無表情だった。

 

「……何を、言っているんだ」

 

「え?」

 

「桃瀬さん。君は、プリティストロベリー・バニーへの『二段変身』という、最も重要な『儀式(ぎしき)』を、執行した」

 

「ぎ、儀式!?」

 

「そうだ。あの瞬間、君は『桃瀬いちご(個人)』ではなく、『正義の執行者(ヒーロー)』だった」

 

ヨウくんは、立ち上がり、白衣の胸ポケットに、手を入れながら、厳かに、続けた。

 

「僕は、ヒーローの、神聖な『変身(トランスフォーム)』のプロセスを、データとして、忠実に『記録』していたに過ぎない」

 

「き、記録……」

 

「そうだ。そこに、『羞恥』だの『スケベ』だの、そういった、低俗な感情(ノイズ)を、持ち込むべきではない」

 

「(な、なんか、すごい、いいこと言ってるっぽく、聞こえる……!)」

いちごはヨウくんの完璧な(それでいて、完全にズレている)論理に一瞬、気圧された。

 

「そ、そうかもしれないけど……! でも! やっぱり、恥ずかしいのは、恥ずかしいの!」

 

「……理解不能だ」

 

ヨウくんは心底わからない、という顔で首をかしげた。

 

「あの『食い込み角度(ハイレグ)』の、変異データは、今後の、君の戦闘(コスチューム)の、強化(アップデート)に、不可欠なものだ」

 

「やっぱりデータ取ってるんじゃない! 消して! 今すぐ消してえええ!」

 

いちごの、絶叫が、放課後の、誰もいない旧館に、虚しく、響き渡った。

 

「(……断る。これは、人類の、(データ)だ)」

 

ヨウくんは心の中で静かに呟くと、無言で椅子をPCデスクの方へと戻した。 そして、今しがた取得したばかりの「Sample_03_Change_Sequence.mp4」のファイルに、二重、三重の、厳重なパスワードロックをかけたのだった。

 

いちごはその無言の「拒絶」と、カチカチという明らかに「保存」しているキーボードの音を、聞き逃さなかった。

 

「あ……」 (ロック、かけてる……!) (消す気ゼロだ……!)

 

全身の血が逆流する。 さっきまでの夕焼けよりも赤い羞恥(しゅうち)が、今度は青ざめた「絶望」へと変わっていく。

 

(あんな、あんな……! まるだしで、履き替えてるところ……!) (女の子たちだけじゃなくて、ショータくんにまで見られて……!) (そ、それを、ヨウくんに、コマ送りでデータとして、保存、された……!?)

 

(……お、お嫁に、いけない……っ!!)

 

「うわあああああああん!!」

 

いちごはもはや、言葉での説得を諦めた。 (こうなったら、力ずくで……!) 彼女は床を強く蹴った!

 

「え? ちょ、桃瀬さ――」

 

ヨウくんが振り向いた、その瞬間。 いちごは部室の隅にあった金属製の「パイプ椅子」を両手で高々と振り上げていた! (※序章(Origin)で、ワルソーダ(ヨウくん)が、アジトの背景に使った、小道具の残りである)

 

「ぜんぶ、消えちゃえええええ!」

 

「待て! それは学校の備品! あと僕の私物(データ)――!」

 

ガッシャアアアアアン!!!

 

いちごの渾身の(※ヒーロー補正)で振り下ろされたパイプ椅子が、ヨウくんの愛用のノートパソコン(データバンク)の液晶画面を直撃した。 バチバチッ! と火花が散り、画面は無惨に黒く沈黙した。

 

「あ……あ……」

 

ヨウくんが崩れ落ちるノートPCの残骸を、呆然と見つめている。

 

「……ぼくの、データ(たからもの)が……」

 

ヨウくんはゆっくりと椅子ごと床に崩れ落ちていく。 ぜえ、ぜえ、と、肩で息をするいちご。 (や、やった……。これで、データは……)

 

床に沈んでいくヨウくん。 彼は、最期(さいご)の力を振り絞るように、いちごに向かって右手の親指を、スッ……と、立てた。 そして、メガネの奥の瞳でいちごの、その神聖な聖域(※さっき見た)を思い浮かべながら、消え入るような声で呟いた。

 

「……ナイス……パイパン……」

 

「へ? いま、なんか言った?」

 

いちごが聞き返す。 だが、ヨウくんはそのまま白い(※比喩)になって、動かなくなった。

 

「……ふぅ。ふぅ」 いちごはパイプ椅子を、カラン、と床に落とした。 (……と、とりあえず、PC、壊したから、データは、消えた、よね……?) (……よ、よし! これで、お嫁にいける! 結果オーライだ!)

 

いちごは物理的な「証拠隠滅」にひとまず安堵(あんど)の息をついた。

 

彼女は知らない。 ヨウくんがいちごの「絶叫」を聞いたあの瞬間。 彼女がパイプ椅子を振り上げる、その、わずか0.8秒の間に。 『Sample_03_Change_Sequence.mp4(Ultra-HD 4K)』の、バックアップ(コピー)を、部室のルーター経由で。

 

ちゃっかりと、自宅の大容量(ペタバイト)サーバーへと転送済み(アップロード)であったことを。

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