護って!いちごちゃん!〜いちごパンティは見えてるか〜   作:ろくさん

15 / 52
第6章:商店街炎上! MCオババのディスリスペクト その1

埃っぽいオタ研の部室に気まずい沈黙が満ちていた。 桃瀬いちごはパイプ椅子に座ったまま指先で自分のミニスカートの裾をいじくり回している。 視線は床の一点に固定されたままだ。

 

彼女の隣。 ヨウくんの机の上には昨日導入されたばかりの真新しいハイスペックなノートパソコンが鎮座している。 その滑らかなキーボードを打つヨウくんの横顔。 彼の右頬にはうっすらとだが確かに赤アザが残っていた。 先日のいちごの「忘れろパンチ」の爪痕である。

 

(……気まずい)

 

いちごは昨日の自分の拳の感触を思い出していた。 (……いくらあんな……『良いスジ』とかセクハラ発言されたからって……) (……殴っちゃったのはやりすぎだったかも……)

 

だがそれ以上に。 (……お嫁にいけないって泣きわめいちゃったし……) (……一番恥ずかしいとこ見られたし……) もうどんな顔をして相棒(ヨウくん)と接すればいいのかわからない。

 

当のヨウくんはいちごのそんな乙女心など一切意に介さず。 新PCの超高速CPUをフル回転させ失われた(と旧PCと共に破壊されたとヨウくんが主張している)データの「復元(※クラウドサーバーからのダウンロード)」作業に没頭していた。

 

「(……ふむ。転送速度良好。『サンプルNo.4(赤飯・油汚染)』の3Dスキャンデータ移行完了)」

 

カチカチと心地よい打鍵音だけが部室に響く。 いちごはその「作業音」すら (……また私の恥ずかしいデータ見てるんじゃ……) と疑心暗鬼に陥っていた。

 

「……あのさ。ヨウくん」

 

「なんだ桃瀬さん」

 

ヨウくんは画面から目を離さない。

 

「……昨日はその……ごめん。……なさい」

 

「……何がだ?」

 

「え?」 いちごは顔を上げた。 (殴ったことに決まってるじゃん!)

 

ヨウくんはそこでようやくキーボードの手を止めいちごの方へと振り向いた。 その黒縁メガネの奥の瞳はいつも通りの無表情。 (※頬のアザが痛々しい)

 

「君の『忘れろパンチ』の物理的衝撃(インパクト)データは採取済みだ」

 

「(……またデータ……!)」

 

「それよりも問題は別にある」

 

「え? なに?」

 

「君の昨日の戦闘(バトル)だ」 ヨウくんは新PCの大画面にある「波形グラフ」を表示させた。

 

「君は二段変身(バニー)した直後必殺技『免許返納(ジャスティス)・クラッシュ』を使用した」

 

「ううん。だってあのおじいさんアクセル踏みっぱなしで……」

 

「これを見ろ」 ヨウくんが指し示したグラフ。

 

「これは君の怒りゲージ(ブースト)の推移だ」 「『赤飯(せきはん)』と侮辱された瞬間ゲージは振り切れている。……完璧だ」 「だがその直後」

 

グラフは最大値に達したわずか数秒後急速に低下していた。

 

「……変身(バニー)の持続時間が極端に短い」

 

「え? あ、そういえば……。エンジン引っこ抜いたらすぐ変身解けちゃったかも……」

 

「そうだ。第一章(VS山田)や第三章(VSミミ)の時と比較してもエネルギー効率が悪すぎる」 ヨウくんはメガネをクイと押し上げた。

 

「……なぜだかわかるか?」

 

「えー? えーっと……。相手がおじいさんだったから?」

 

「違う」 ヨウくんは断言した。

 

「……『羞恥心』だ」

 

「(……っ!)」 いちごの心臓が跳ねた。

 

「君は『丸見え(パンティ換装)』の極度の羞恥心に意識を割かれすぎた」 「その結果怒りの『純度』が下がり変身(ブースト)の維持に失敗した」

 

「(……う、うそ……!)」 (図星だ……!) (あの時私「お嫁にいけない」ってそればっかり考えて……!)

 

「ヒーローが羞恥心に負けるな桃瀬さん」

 

「むむりだよ! 恥ずかしいものは恥ずかしいもん!」

 

「……ふむ。では今後の課題だな」 ヨウくんは冷静に「(対策:羞恥心に慣れさせるための特殊訓練(※ハイレグフィッティング等)の導入)」とキーボードに打ち込んだ。

 

「(……なんか今すっごく嫌なこと入力しなかった!?)」

 

いちごが詰め寄ろうとしたその時だった。

 

「……それより桃瀬さん。パトロールの時間だ」

 

「えー! 今日は休みたいよう……頬も痛いみたいだし……」 いちごはヨウくんのアザをチラリと見た。

 

「問題ない。この程度の痛みはデータ採取の対価として許容範囲内だ」 「それより新しい相棒(PC)のデータ収集(フィールドテスト)を兼ねている」

 

ヨウくんは有無を言わさず白衣を羽織るといちごのカバンを強引に押し付けてきた。

 

「(うう……。殴っちゃった手前……)」 (……逆らえない……!)

 

いちごは重い足取りで新PC(ヨウくん)のお供として部室を後にしたのだった。

 

ザワザワガヤガヤ…… 放課後の商店街。 昨日「シルバーミサイル」が暴走したアーケードの入り口はまだ警察の黄色いテープが張られている。 だがその奥。 商店街の中心部はいつも通りの活気を取り戻していた。

 

「(……はぁ。平和が一番だね)」

 

いちごはコロッケ屋から漂う香ばしい匂いにお腹がきゅるると鳴るのを感じていた。 (ヨウくんコロッケ買ってくれないかな……)

 

「(……桃瀬さん。前方三十メートル。熱源多数。……人だかりだ)」

 

いちごの隣。 ヨウくんは新しいPC(ノート型)を胸に抱えるように持ち。 その内蔵カメラ(※超高性能)を起動させながら冷静に分析を始めていた。 (※もちろんいちごの歩くスカートの揺れも同時に録画している)

 

「え? 人だかり?」

 

いちごが視線を上げる。 確かに八百屋の店先。 『本日! 大根 一本 百円!』のノボリの真下に十数人の野次馬が集っていた。

 

(……あ。あの八百屋……) いちごは思い出した。 (確か序章(Origin)で迷惑カメコをやっつけた帰り道に挨拶した……) (……いや違う。この前の『敬老プリウス』が突っ込む直前にも挨拶したっけ……) (……あれ? もしかしてあの八百屋のおばちゃんって……)

 

いちごが記憶を辿っていると。 人だかりの中心から異様な「音」が聞こえてきた。

 

ドンドン ドンチキ。 ドンドン ドンチキ。

 

(……え? 音楽?)(なんか古い感じの……)

 

それは野太いベース音と乾いたドラムのビート。 いちごにはよくわからなかったがヨウくんは即座に反応した。

 

「(……ビート:九十BPM。……オールドスクール・ヒップホップ。……いわゆるブーム・バップか)」

 

「(……またヨウくんの早口オタクが……)」

 

いちごがジト目でヨウくんを見ていると。 そのビートに乗せてダミ声の女の「声」が割り込んできた。

 

「Yo! Yo! Yo! Check it out!」

 

(……え!?)

 

いちごは慌てて人垣の隙間から中を覗き込んだ。

 

そこには巨大な銀色のラジカセ(※八十年代モノ)がミカンの段ボール箱の上に鎮座し。 その横で。 八百屋の女将であるエプロン姿のおばさん(推定六十代)が。 キャベツを片手にマイク(※なぜか本物)を握りしめ身体を揺らしていた。

 

「(……う、うそ……!)」 いちごは絶句した。 (あのおばちゃん……ラッパー!?)

 

「(……対象:ラップおばさん。脅威レベル:C(心理)。……分析開始)」 ヨウくんが冷静にPC(カメラ)のズーム倍率を上げた。

 

野次馬の中心。 そこには明らかに困惑している若い夫婦が立っていた。 どうやら二人はさっきまで些細な夫婦喧嘩をしていたらしい。 「……だからお前が醤油買い忘れたのが悪いんだろ!」 「……あなたこそ昨日飲み会遅かったじゃない!」

 

そこへこの八百屋の女将が巨大ラジカセを担いで割って入ったのだ。

 

「Yo! Yo! 待ちな若いの!」 おばさんは夫婦の間に仁王立ちしビートに乗せて即興のラップを叩きつけた。

 

「醤油がなんだ! 飲み会なんだ!」 「どっちもどっちだ! この馬鹿チンが! Yeah!」

 

「「(……えええ!?)」」 夫婦が同時に素で驚きの声を上げた。

 

だがおばさんの勢いは止まらない。 「旦那! お前は嫁さんに感謝が足りねえ!」 「嫁! お前は旦Sを立てる気がねえ!」 「どっちもどっち! わかるかコラ!」

 

「(……ひ、ひどい……!)」 いちごはドン引きした。 (仲裁じゃない! ただの悪口だ!)

 

だが恐ろしいことに周囲の野次馬たちはノリノリだった。 「「おおおおー!」」 「「Yeah!」「Check it out!」」 (※近所の商店街の仲間たちが手拍子で煽っている)

 

「……ちょっとおばさんやめてよ! 恥ずかしい!」 若い奥さんが顔を真っ赤にして抗議する。

 

だがおばさんはマイクをビシッと奥さんに向けた。 「Ha!? 恥ずかしい!? 何だと!」 「夫婦喧嘩を人前でやるほうが恥ずかしいだろが!」 「そんな顔してるから旦那も浮気するんだ! Yo!」

 

「(……ひっ!)」 奥さんの目に涙が浮かんだ。

 

「(……最低だ……!)」 いちごは拳を握りしめた。 (あのおばさん……! 人の心の傷をえぐってる!)

 

「さあ! わかったか二人!」 おばさんはビートが止まるのと同時にラップを締めた。

 

「ワシの説教ラップで解決だ!」 「ほら握手しろ! そしてこのキャベツ(※百五十円)を買ってけ!」

 

「(……買わせるんだ……!)」 いちごはもうツッコミを入れる気力もなかった。 夫婦は泣きながら握手しキャベツ(※買わされた)を持って逃げるように去っていった。

 

「(……あ、行っちゃった……)」 いちごはその悲しい背中を見送った。 (……ひどい。ひどすぎる) (あれじゃご近所の平和じゃなくてただの公開処刑だ)

 

「(……桃瀬さん。対象、次の獲物(ターゲット)を探し始めた。……警戒しろ)」 ヨウくんが冷静に分析を続ける。

 

「(え?)」 いちごは慌ててその場を去ろうとした。 (関わったら負けだ! 私は今日PCのお供で……!)

 

だが遅かった。 八百屋の女将(ラッパー)がいちごの姿を完璧に捕捉した。

 

「Yo! 止まりなそこの嬢ちゃん!」

 

「(……げ!)」 いちごの足が止まる。

 

ドンドン ドンチキ。 再びラジカセからビートが鳴り響く。 野次馬たちがニヤニヤしながらいちごを取り囲む。 退路はない。

 

おばさんはいちごの頭のてっぺんから足の爪先までをじろりと舐め回すように見た。 そしてマイクを握りしめラップを始めた。

 

「Yo! Yo! 見たかみんなこの格好!」 「スカート短けえ! これじゃまるで赤ちゃんだぞ!」

 

「(……は!?)」 いちごの顔が一瞬で怒りに染まる。 (私の制服が赤ちゃん!?)

 

「髪も茶色に染めやがって!」 「親から貰った大事な黒髪!」 「それを捨てるとは不良の証!」 「Yeah! Ah!」

 

「(……地毛ですけど!?)」 いちごは心の中で絶叫した。

 

野次馬たちがドッと沸く。 「「おおおー!」「言ってやれ女将!」」

 

「(……くっ!)」 いちごは悔しさに唇を噛んだ。 (このおばさん……! 言いたい放題……!)

 

「(……桃瀬さん。対象の韻(ライム)の精度三十五パーセント。……だが野次馬への扇動能力はAレベルだ。……反論は危険だ)」 ヨウくんが冷静にPCに打ち込んでいる。

 

「何だ嬢ちゃん! 黙りこくって!」 おばさんはいちごの頭のアホ毛を指差した。

 

「そのアホ毛! ピコピコさせやがって!」 「馬鹿のアンテナ! 立ってるぜ!」 「中身空っぽ! だからピコピコ! Yo!」

 

「「「ぎゃはははは!」」」 野次馬たちが腹を抱えて笑い転げている。

 

(……アホ毛を……!) (……馬鹿のアンテナ……!?)

 

いちごの堪忍袋の緒が音を立てて切れた。

 

(……このおばさん……!) (……さっきの夫婦だけじゃ足りなくて……!) (……通りすがりの私のアホ毛まで侮辱するなんて!)

 

(……許せない……!)

 

いちごのアホ毛が怒りでビビビビ! と震える。 おばさんはトドメを刺しに来た。

 

「Yo! Yo! わかったらさっさと帰りな!」 おばさんは野次馬たちと一緒になってコールを始めた。

 

「「引っ越ーし! 引っ越ーし! はーやーく引っ越ーし!」」 「「(そうだ! そうだ!)」」

 

(……なんなのこれ……!) いちごは戦慄した。 (これがこの商店街の『平和』……?) (……こんなのただのイジメじゃない!)

 

(……もう我慢できない!)

 

いちごは怒りに燃える瞳でヨウくんを睨みつけた。 「(ヨウくん!)」

 

「(……ああ。対象の迷惑行為認定。レベルB+。……お仕置きを許可する)」

 

ヨウくんは冷静にPCを閉じるといちごの進路を示した。 「……あそこだ。商店街の公衆トイレ。遮蔽率九十五パーセント」

 

「(……うん!)」

 

いちごは頷くと野次馬たちに向かって叫んだ。 「……す、すいません! お腹が痛くて……!」

 

いちごは腹を押さえるフリをして人垣を強引にかき分けトイレに向かってダッシュした。

 

「あ! おい待て! 逃げるなコラ!」 おばさんがマイクで怒鳴る。

 

「ぎゃはは! 説教ラップ効きすぎだろ!」 「(うんこ漏れちゃうぞー!)」 野次馬たちの下品な笑い声が背中に突き刺さる。

 

(……覚えてなさいよあんたたち……!)

 

いちごは悔し涙を拭いトイレの個室に飛び込んだ。 そしてカバン(※ヨウくんがいつの間にか持たせていた)から純白の戦闘服を取り出した。

 

(……アホ毛を馬鹿のアンテナですって?) (……いいでしょう!) (……私の本当の『アンテナ』の感度を見せてあげる!)

 

「……おいおい。出てこねえぞ」 「(マジでうんこしてんじゃねえか?)」 野次馬たちが下らない噂をしている。 おばさんもラジカセのビートを止めて腕組をしていた。

 

「チッ……。気の弱いガキだぜ……」

 

おばさんがそう吐き捨てたその時。 トイレのドアがバァン! と勢いよく開いた。

 

「(……ん?)」

 

逆光の中。 そこにはさっきまでの制服の少女ではない。 純白のコスチュームに身を包んだ魔法少女が立っていた。

 

「(……な、なんだアレ……?)」 おばさんが怪訝な顔をする。 野次馬たちもざわめいた。

 

プリティストロベリー(いちご)はラジカセの方へまっすぐ歩いていく。 そしておばさんの目の前に仁王立ちした。

 

「……嬢ちゃん。なんの真似だいその格好……」

 

おばさんがマイクを向けた。 いちごはそのマイクをフッと手で払いのけた。

 

「(……!)」

 

そしてヨウくん(※いつの間にか物陰で新しいPCを起動し録画を始めていた)に向かって頷いた。

 

ドンドン ドンチキ。 おばさんのラジカSEではない。 ヨウくんのPCからもっと新しくもっと攻撃的なビート(※ニチアサアニメ『スウィートハート』の戦闘BGM・リミックス)が鳴り響いた。

 

「(な!?)」 おばさんの顔色が変わった。

 

いちごはそのビートに乗って。 完璧なポーズを決めた。

 

「(Yo! Yo!)」 いちごはラップを始めた。 (※『スウィートハート』の決めゼリフ ラップ調アレンジ)

 

「愛と正義の!(Check it out!)」 「プリティストロベリー!(Yeah!)」

 

「(……な、こ、このガキ……!)」

 

「あなたの『古い』ライム!」 「私が『止める』タイム!」 「ご近所の平和を乱すMCおばさん!」 「覚悟はいい? お仕置きだぜ!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。