護って!いちごちゃん!〜いちごパンティは見えてるか〜   作:ろくさん

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第7章:水中の女帝! プールサイドのデッドヒート その3

 

(……フィン?)

 

逆さ吊りのままいちごはその飛来物を空中で完璧にキャッチした。 イルカのヒレのような形状をした銀色の「アタッチメントパーツ」。 冷たい金属の感触が怒りで火照った手に伝わる。

 

「(プリティストロベリーッ!)」 「(新しい! 『オルカ・フィン』だよッ!!)」

 

ヨウくんの声が脳内に響く。 (……これがヨウくんの言ってた『装備』!)

 

「……まだ何か小細工を」 ウォーキングオババがいちごの手元を見て怪訝な顔をする。 彼女はいちごの足首を掴んだまま油断なくこちらを睨んでいた。

 

(……イチゴはケーキの上?) (……水着(オルカ)を愚弄?) (……ふざけるな!)

 

いちごの怒りが頂点に達した。 彼女は掴んだオルカ・フィンを自分のブーツ(オルカ標準装備)の(かかと)部分に叩きつけるように装着した。 カシャッ! という硬質な音と共にフィンがブーツと一体化する。

 

その瞬間。

 

「なっ!?」

 

いちごの身体が再び淡いピンク色の光に包まれた。 二段変身(バニー)の光とは違う。 もっとシャープで水のような輝き。 オルカ(水着)の生地全体にプリントされたイチゴ柄がまるで生きているかのように明滅し始めた。 肩の裂け目も光と共に修復されていく。

 

(……力が……!)

 

いちごは光の中で感じていた。 怒りがフィンを通して増幅され水と一体化するような感覚。 (これが……オルカの本当の力!)

 

「(……記録。オルカ・フィンとの同期確認。……スーツ内エネルギー上昇率三百パーセント。……予測以上だ)」 二階のヨウくんが冷静に新PCにデータを打ち込んでいる。

 

「……小娘! 何をした!」 オババはいちごの異変に気づき掴んでいた足首に力を込めた。 いちごを監視台に叩きつけようとする。

 

だが遅い。 「(水の『(ことわり)』ですって?)」 いちご(オルカ・フューリー)は冷たく呟いた。 「(私の『イチゴ(正義)』の方が上です!)」

 

いちごは装着したフィンを思い切り振り抜いた。 それはただの足蹴りではない。 フィンから放たれた水流ジェットの推進力が加わった超高速キックだった。

 

バチンッ! オババの屈強な腕がいちごのキックを受け止める。 だが衝撃はそれだけではなかった。 フィンから放たれた衝撃波のような水流がオババの顔面を直撃した。

 

「ぐっ……!?」 オババはたまらずいちごの足首を離し後方に吹き飛ばされた。 ザッバーン! 盛大な水飛沫を上げてオババがプールの中に落下する。

 

いちごは空中で体勢を立て直すと監視台の手すりに軽やかに着地した。 逆さ吊りの屈辱はもうない。 彼女の瞳は怒りの炎と水の輝きを宿していた。

 

「あ……あ……」 プールサイドの観客たちがその光景に息を飲んでいる。 監視員は笛を口にしたまま完全に固まっていた。

 

「(……すごい。身体が軽い……!)」 いちごは自分の身体の変化に驚いていた。 オルカ・フィンがまるで自分の身体の一部になったようだ。 水に濡れた床の上でも全く滑らない。

 

ザバッ! 水中からオババが再び姿を現した。 ゴーグルが少しズレている。 顔には明らかな怒りが浮かんでいた。 「……小娘……! やってくれる……!」

 

オババは水中でのアドバンテージを確信していた。 「(おか)ではしゃぐな! (ここ)へ来い!」 彼女は水中ウォーキング(進軍)の体勢に入った。 凄まじい水流がいちご(監視台)に向かって押し寄せる。

 

「(……もうその手は喰いません!)」 いちごは監視台から水面に向かって跳躍した。 オルカ・フィンが起動する。 シュオッ! いちごの身体は水面に着水することなく。 フィンから噴射される水流ジェットの力で水面ギリギリを滑るように移動した。 まるで水上スキーだ。

 

「なっ!?」 オババが驚愕に目を見開く。 いちごはその超高速移動でオババの背後に回り込んだ。

 

「遅い!」 いちごはフィンをブレードのように使い横薙ぎに水を蹴り上げた。 凄まじい水しぶきが(やいば)となってオババの背中を襲う。

 

「ぐあああっ!」 オババが水中によろめいた。 背中の褐色の肌に赤いミミズ腫れができている。

 

「(……記録。オルカ・フィンによる水流斬撃。……有効打確認)」 ヨウくんが冷静に戦況を分析する。

 

「……きさま……!」 オババは水中からいちごを睨みつけた。 もはや余裕はない。 本気の殺意がその瞳に宿っていた。 彼女は最後の切り札を使うことにした。

 

オババは両腕を水中で大きく回し始めた。 凄まじい速度で水がかき回されていく。 彼女の足元を中心に巨大な渦潮が発生し始めた。 「これが水の『怒り』! 女帝(じょてい)大渦潮(おうずしお)!」

 

ゴオオオオオ! レーン全体が巨大な洗濯機のように回転し始めた。 凄まじい引力がいちご(水上)を渦の中心へと引きずり込もうとする。 レーンロープがちぎれ飛びプールサイドの手すりがミシミシと軋む。

 

「きゃあああっ!」 いちごは水流ジェットを最大出力にして抵抗する。 だが渦潮の引力はあまりにも強い。 身体が渦の中心へと吸い寄せられていく。 (ダメ……! 飲み込まれる……!)

 

「(桃瀬さん! フィンを信じろ! 水流には水流だ!)」 ヨウくんの声。 (水流には水流!?) いちごはヨウくんの意図を瞬時に理解した。

 

(……やるしかない!) いちごは渦に逆らうのをやめた。 そして自ら渦の中心へと飛び込んだ! フィンを推進力にして渦の回転と同じ方向にさらに加速する! 渦のエネルギーを利用するのだ!

 

「(な!? 自ら死にに来たか!)」 オババが驚く。

 

いちごは渦の中で目を閉じた。 身体に感じる水の流れ。 怒りではなく水と一体化する感覚。 (……これが水の『理』……!) そして目を見開いた。 彼女の身体は渦の中心で静止していた。 いや渦のエネルギーを完全に支配していた。

 

「(……信じられない。対象渦の中心核(コア)と同調した……!)」 ヨウくんもその光景に驚愕していた。

 

「水の『理』は……」 いちご(オルカ・フューリー)は渦の中心から静かに告げた。 「『力』で支配するものじゃない!」 「『流れ』と一つになるものなんです!」

 

「……黙れ小娘が!」 オババは最後の力を振り絞り渦の外側からいちごに向かって突進してきた。 ビート板の破片を槍のように構えている。

 

(……終わりです!) いちごは両足のフィンをクロスさせた。 そして渦のエネルギーを一気に解放する!

 

「必殺!」 彼女の身体が眩い光と共に垂直に跳躍する。 水面が爆発したかのような巨大な水柱が上がった。

 

「ストロベリー! オルカ・ストリーム!!」

 

いちごが天高く舞い上がると同時に。 彼女が解放した渦のエネルギーが逆回転を始めた。 凄まじい水流が渦の外側に向かって放射状に広がり巨大な「波」となってプール全体を襲った。

 

「ぐおおおおおお!?」 オババはその巨大な波に抗うすべもなく。 まるで木の葉のように翻弄され。 ザッバーーーン!!! という盛大な音と共に。 隣の「幼児用プール」(水深三十センチ)へと叩きつけられた。

 

「…………ぷはっ」 幼児用プールで大の字になったオババがようやく顔を出した。 そこはもう彼女の「(ロード)」ではなかった。 黄色いアヒルのおもちゃがぷかぷかと浮かんでいる。

 

「…………」 市民プール全体が静まり返った。 渦潮は消え去り水面は穏やかさを取り戻している。 ただレーンロープはめちゃくちゃになっていたが。

 

いちご(オルカ・フューリー)は幼児用プールの縁に音もなく着地した。 変身の光が収まり水着のイチゴ柄の明滅も止まっている。 彼女はびしょ濡れで呆然としているオババを見下ろした。 そして静かに告げた。

 

「お仕置きです」 「(ここ)はあなたの『道』じゃありません」 「みんなが安心して楽しめる場所なんです」 「……わかりましたか?」

 

「…………」 オババは何も答えなかった。 ただ幼児用プールの浅い水の中で空を見上げていた。 そのゴーグルの奥の瞳にはもう怒りの色はなかった。 何か別の感情が映っているようだった。

 

やがて。 「「「うおおおおお!!」」」 誰からともなく拍手が起こった。 プールサイドで悲しそうにしていたおばあちゃんが手を叩いて叫んだ。 「ありがとう! シャチのお嬢ちゃん!」 「(シャチ……)」 いちごは少し複雑な気持ちになった。 他の利用者たちからも大歓声が沸き起こった。

 

その時ようやく監視員が笛をピーッ!と鳴らした。 「あ、あの! 大丈夫ですか!?」 (……遅いよ!) いちごは心の中でツッコミを入れた。

 

数分後。 現場検証()とレーンロープの修復作業が続くプールサイドの隅。 いちごはヨウくんから受け取ったタオル(イチゴ柄)にくるまっていた。 身体が少し冷えてきた。

 

「ぷはー。疲れた……水着びしょ濡れ」

 

「お疲れ桃瀬さん」

 

ヨウくんがスポーツドリンク(イチゴ味)を差し出した。

 

「わありがと!……ていうか!」 いちごはドリンクを受け取りながらヨウくんのもう片方の手を睨んだ。 そこには見覚えのあるジップロック(サンプルNo.6)が握られていた。 中にはさっきいちごの肩から裂け落ちたオルカ(水着)の小さな布切れが入っていた。

 

「(……また回収した……)」

 

「(……オルカ生地(サンプル)か。貴重なデータだ。……耐久性に課題あり)」 ヨウくんがボソリと呟いた。

 

「『課題あり』言うなー!」

 

いちごはタオルにくるまったままヨウくんに詰め寄った。 「ていうかあの『オルカ・フィン』って何!? 全然聞いてなかったんだけど!」

 

「ああ。対ウォーキングオババ用決戦兵器だ」 ヨウくんは無表情で答えた。 「君の怒り(ブースト)だけでは水中戦は不利と予測し急遽開発した」

 

「(……いつの間に……!)」 (やっぱり妖精さんだ……!)

 

「だがバッテリー(持続時間)と生地強度(耐久性)は今後の改善点だ」 「……それと桃瀬さん」

 

「ん?」

 

「君が(うず)と同調した際の脳波(のうは)データ。……非常に興味深いパターンを示していた」 「……再現性(さいげんせい)検証(けんしょう)のため後日改めて……」

 

「やらないから! 絶対やらないからね!」

 

いちごの絶叫が閉館間際の市民プールに虚しく響き渡った。

 

ご近所の平和(とプールのウォーキングレーン)は今日もかろうじて護られたのだった。

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