護って!いちごちゃん!〜いちごパンティは見えてるか〜 作:ろくさん
春の陽気が初夏へと移り変わる五月下旬。 オタ研部室の窓から吹き込む風はもう生暖かい。 桃瀬いちごは机に広げたファッション雑誌を眺めていた。 夏服への衣替えを前に新しい私服が欲しい年頃だ。
「うーんこのワンピース可愛いなあ」 「でもこっちのTシャツも捨てがたい……」
隣の席ではヨウくんが新PCに向かい何かのプログラミング作業に没頭していた。 画面には意味不明な文字列が高速で流れていく。 彼の頬のアザはもうすっかり消えていた。 先日の「忘れろパンチ」事件以来二人の間には微妙な距離感が生まれていた。 いちごはヨウくんの
(……なんか気まずい) いちごは雑誌から顔を上げた。 ヨウくんは相変わらず無表情で画面を睨んでいる。 (……でもあの『良いスジ』発言は絶対許さないんだから!) (……パソコン代はちゃんと分割で返すし!) いちごは心の中で固く誓った。
「桃瀬さん」 ヨウくんが突然口を開いた。 画面からは目を離さない。
「今日のパトロールだが」 「対象地域を変更する」
「え? 今日パトロールあるの?」 いちごはうんざりした顔になった。 コートおじさん事件のトラウマからまだ立ち直れていない。
「データ分析の結果この時期保育園周辺での『異常観測値』が増加している」 ヨウくんは地図データを表示させた。 いちごたちが通う学園と例のいちごパークの中間地点にある『ひまわり保育園』。 その周辺が赤くマーキングされていた。
「異常観測値?」
「ああ。具体的には『成人男性による不自然な
「(……保育園に不審者……!?)」 いちごの顔色が変わった。 子供たちに危険が迫っているかもしれない。 (……パトロール行かなきゃ!) さっきまでの面倒くさそうな態度は消え去っていた。
「わかった! 行こうヨウくん!」
「ああ」 ヨウくんは冷静にPCをシャットダウンすると白衣を羽織りカメラ
ひまわり保育園は住宅街の中にあるこぢんまりとした施設だった。 ちょうどお昼寝の時間なのか園庭は静まり返っている。 平和そのものだ。
「……ヨウくん。本当に異常なんてあるの?」 いちごは保育園のフェンスの外から中の様子を窺いながら小声で尋ねた。
「データは嘘をつかない」 ヨウくんはいちごと少し距離を取り電柱の陰に隠れながら
「発生条件?」
その時だった。 キィ……と保育園の通用門が開いた。 中から一人の若い女性が出てきた。 年の頃は二十代前半だろうか。 フリルのついた可愛らしいエプロン姿。 新人保育士といった雰囲気だ。 彼女は門の外に置かれたゴミ袋を回収しようとしているようだった。
「(……あ、あの人かな?)」 いちごは特に何も感じなかった。 ごく普通の保育士さんだ。
だがヨウくんの反応は違った。 彼はPC画面に映るその女性の姿を凝視し息を飲んだ。 (……間違いない) (あの圧倒的な『質量』……!) (あの『不安定な重心』……!) (伝説の……!)
女性保育士はゴミ袋を二つ抱えよいしょと声を上げた。 そして園内に戻ろうと振り返った瞬間。 彼女は自分の足元にある小さな石につまずいた。
「あっ!」
短い悲鳴。 スローモーションのように彼女の身体が傾ぐ。 抱えていたゴミ袋が宙を舞う。 そして彼女自身もバランスを崩し。 まるで計算されたかのように前方へ派手に転倒した。
ドサッ! ゴミ袋が地面に散乱する音。 そして柔らかいものが地面に叩きつけられる鈍い音。
「(……わわっ! 大丈夫かな!?)」 いちごが駆け寄ろうとした。 だがそれよりも早く。
ザワッ……! どこからともなく現れたのだ。 十数人の成人男性たちが。
彼らは皆一様に小綺麗だがどこか冴えない服装をしていた。 手にはデジタルカメラやスマートフォンを構えている。 そしてその目は異様な熱気を帯びていた。 彼らは蜘蛛の子を散らすように保育園の門の前いちごたちがいた場所へと殺到した。 転倒した女性保育士を取り囲むように。
「「「おおおおお!」」」 一斉にシャッター音が鳴り響く。 カシャカシャカシャカシャ! フラッシュが焚かれる。
「(……な、なに!?)」 いちごは突然現れた男たちの異様な光景に完全に呆気に取られていた。
転倒した女性保育士は幸い怪我はないようだった。 だが彼女の体勢は最悪だった。 うつ伏せに倒れた衝撃でエプロンの紐が緩み。 胸元が大きくはだけてしまっていたのだ。 推定Gカップ以上はあろうかという豊かな胸の谷間が白日の下に晒されている。 さらに転倒した勢いでスカートもわずかにめくれ上がり白い太ももが覗いていた。
「……あ……」 女性保育士は自分の状況に気づき顔を真っ赤にした。 慌てて胸元を押さえスカートを直そうとする。 だが遅い。 男たち(通称:見学者)は狂ったようにシャッターを切り続けていた。
「ナイスハプニング!」 「先生今日も最高っス!」 「こっち向いてくださーい!」
(……ひどい) いちごは絶句した。 これはもうファンとかそういうレベルではない。 完全に集団でのぞき見そして盗撮だ。
女性保育士――ボイン
「(……これが『異常観測値』の正体か)」 電柱の陰でヨウくんは冷静に分析していた。 PCは既にボイン先生の転倒からの一部始終そして見学者たちの顔と行動を高画質で記録済みだ。 (対象:ボイン先生。脅威レベル:
「(……しかし)」 ヨウくんは内心で葛藤していた。 (……あの『谷間』……。計算上ありえない『深度』だ……) (……あのスカート下の『絶対領域』……黄金比……) (……
「いい加減にしてください!」 いちごはもう我慢できなかった。 彼女は見学者たちの前に飛び出した。 「何やってるんですか! 盗撮ですよ!」
「あ?」 見学者たちがいちごを一瞥した。 その目は「邪魔すんな」と明確に語っていた。
「なんだこのガキ」 「関係ねえだろ引っ込んでろ」 「こっちは先生の『奇跡の瞬間』を記録してるんだよ」
(奇跡の瞬間!?) いちごは怒りで震えた。 (ただの事故だよ! 人が転んだのを面白がって!)
「やめてください! 警察呼びますよ!」 いちごはスマホを取り出すフリをした。 だが男たちは全く動じない。
「呼べば? 別に悪いことしてねーし」 「写真撮ってるだけじゃん」 「先生だって『アイドル』みたいなもんなんだからさー」 彼らは完全に自分たちの行為を正当化していた。
その時。 ボイン先生がいちごの後ろからおずおずと声をかけた。 「あ、あの……大丈夫です……」 「私……慣れてますから……」
「え?」 いちごは振り返った。 ボイン先生は困ったように眉を下げていた。 「私ドジで……よくこういうこと……」 「だから皆さんも悪気は……」
(慣れてる!?) (悪気がない!?) いちごは信じられない思いだった。 この先生は自分がどれだけ危険な状況にいるか分かっていないのだろうか。 そしてこの「慣れ」がさらに見学者たちを増長させているのだ。
「ほら先生もこう言ってるぜ?」 見学者の一人がニヤリと笑った。 「俺たちは先生の『応援団』なんだよなー!」 「「「そうだそうだ!」」」 他の男たちも同調する。
(ダメだ……!) (この人たちには何を言っても通じない!) (そして先生自身も……!)
いちごは決意した。 (こうなったら……!)
『(ヨウくん!)』 通信機に叫ぶ。
『(……ああ。判断を支持する)』 ヨウくんの声。 彼は既にいちごが変身するための最適な「死角」をPC上で割り出していた。 『(……保育園の裏手。用具倉庫の陰。遮蔽率百パーセント)』
『(うん!)』
いちごは見学者たちに向かって叫んだ。 「……す、すいません! お腹痛くて!」 (またこのパターンか!) いちごは内心で自分にツッコミを入れながら腹を押さえるフリをして走り出した。
「あ? なんだアイツ」 見学者たちは一瞬いちごに気を取られた。 その隙にボイン先生はそそくさと園内に戻っていった。 (……これで先生は安全)
いちごは保育園の裏手に回り込み用具倉庫の陰に飛び込んだ。 カバン(※ヨウくんが事前に配置済み)から純白の戦闘服を取り出す。 (……あの人たち絶対に許さない!) (先生の優しさ(鈍感さ?)につけ込んで!) (絶対に懲らしめてやる!)