護って!いちごちゃん!〜いちごパンティは見えてるか〜 作:ろくさん
(……お仕置きタイムです!)
いちごは怒りに震える手で新品のイチゴパンティ(ポリ袋入り)を雨の中で掴み取った。 コスチュームは泥水でずぶ濡れになり肌に張り付いている。 スカートの下からは汚れて透けたパンティ(幼稚でクールじゃないヤツ)が見えているかもしれない。 だがもうどうでもよかった。 目の前の男イジュウ・シャーの嘲笑う顔。 「Childish」「Not Cool」「Not International Standard」。 その言葉が脳内で繰り返し再生され怒りの炎を燃え上がらせる。
「(……な、なんだアレ……!? Flying Pantsu!?)」 シャーはまだ空(くう)を飛んできたポリ袋(新品)に気を取られ呆然としている。 彼はいちごの中で何が起ころうとしているのか全く理解していない。
(……幼稚?) (……クールじゃない?) (……国際基準じゃない?)
(……上等じゃない!) (……見せてあげる!) (……日本のKawaii(カワイイ)と正義(ジャスティス)の本当の『国際基準』を!)
いちごは意を決した。 彼女は握りしめたポリ袋を怒りを込めてビリビリに引き裂いた。 濡れたビニール片がベランダの床に散らばる。 中から現れたのは汚れなき純白の生地に鮮やかな赤いイチゴが散りばめられた新品の「それ」だった。 雨粒を弾き神々しいまでに白く輝いている。
「(……これが私の!)
いちごの瞳が燃えている。 (ここで履き替える!) (この男の目の前で!) (この雨のベランダで!) (ヨウくんのカメラの前で!)
羞恥心が鎌首をもたげる。 泥水で透けた下着。 それを脱ぎ捨て裸になる瞬間。 だがシャーのあの侮蔑に満ちた目が脳裏をよぎり羞恥心を焼き尽くした。 これは「儀式」なのだ。 怒りを真の力に変えるための神聖な「変身(チェンジ)」なのだ。
(見てなさい……!)
いちごは震える手で。 今まさに晒されている泥水まみれのイチゴ柄パンティ。 その濡れて重くなったゴム紐に指をかけた。
「Hey Girl? What are you――?」 シャーがいちごの異様な行動に気づき怪訝な声を上げた。 だが遅い。
「(桃瀬さん! 光が隠してる! 今だ!)」 ヨウくんの声が骨伝導イヤホンから鋭く響いた。 いちごは頷く。 今しかない。
彼女が握りしめた新品のイチゴパンティから淡いピンク色の光が溢れ始めた。 雨粒がその光を浴びてキラキラと輝く。
「Whoa!? Light!?」 シャーがその神秘的な光景に目を奪われた。
その光を目眩ましにするように。 いちごは素早くしかし確実な動きで。 汚されたパンティを一気に引きずり下ろした。 冷たい泥水と汗で湿った布地が肌から離れる不快な感触。 雨に濡れた冷たい風が彼女のあらわになった聖域を撫でる。 完全な「丸出し」の状態。 ベランダの硬い床の感触が足裏に伝わる。
(……恥ずかしいけど!) (……負けない!)
彼女は汚れたパンティ(幼稚でクールじゃないヤツ)を憎しみを込めて丸めると。 まだ燻っている七輪の燃えカスの中に叩き込んだ。 ジュッ! という小さな音と一瞬の黒煙。 (※後でヨウくんが消し炭の中から「サンプルNo.9(国際基準外・焼却済)」として回収する)
そして。 新品のイチゴ柄を両手で広げ足を通し。 一気に装着した。
清潔な真新しい布地が彼女の濡れた肌に吸い付くように触れた。 力が全身にみなぎる感覚。
その瞬間。
「なっ!?」
「うおっ!?」 「ま、眩しい……!」
いちごの身体が爆発的な光を放った。 さっきまでの淡い光ではない。 梅雨空を吹き飛ばすかのような強烈な閃光。 光源はプリティストロベリー。 いや彼女が今まさに装着した「イチゴ柄」のパンティその一点から凄まじいピンク色の光が奔流となって溢れ出したのだ。 雨粒さえもその光の中で蒸発していくように見える。
「My Eyes! My Eyes!」 シャーはあまりの眩しさに咄嗟に腕で目を覆った。 「Again!? またか!?」 彼は光の中でよろめきベランダの手すりに背中を打ち付けた。
窓の外電柱の陰でヨウくんの新PC(カメラ)だけが特殊フィルター(Ver.4・対雨天強化版)越しにその神々しい「変身(換装)」の一部始終を高解像度で記録していた。 新PCのファンが高速回転を始める。 (……変身シーケンス突入。生体エネルギー反応最大。……換装時のパンティ食い込み角度と出力の関係性……雨天時データ取得成功……)
光の中でいちごの身体が変貌していく。 泥水まみれのコスチュームが光の粒子となって一度霧散する。 物理法則を超えた現象。 そして再構築される。
変身の「核」は今履き替えたばかりのイチゴ柄のパンティ。
(……っ!!!)
いちごは光の中で信じられない「感覚」に息を飲んだ。 履いたばかりのパンティが熱を帯びる。 まるでそれ自体が命を持ったかのように彼女の身体に合わせて変形し締め付け変異していく。 怒りのエネルギーがパンティを通して全身に流れ込む。 雨の冷たさなど全く感じない。
「あぁ……っ!」
パンティのサイドライン。 その布地がありえないほどの張力で物理的に吊り上げられていく。 腰骨を遥かに越え彼女の脇腹のラインに沿って鋭角的に上へ上へと。 皮膚にくい込むほどの圧迫感。 だがそれは痛みではなく力への昇華だった。
「(んぁ…食い込む……!)」
純白のイチゴ柄の布地が彼女の太ももの付け根その柔らかい内側に深く深く食い込んでいく。 それはもはや「パンティ」というより肌に張り付いた「第二の皮膚」であり「装甲」だった。 極限まで切り詰められた超ハイレグスタイル。 怒りの紋章。 Kawaii(カワイイ)とJustice(ジャスティス)の融合。
その変異した「イチゴ柄」を中心(コア)として。 残りのコスチュームが一瞬で再構築された。 光の糸が雨粒を弾きながら身体に巻き付き形を成していく。
胸元のリボンは戦闘機のようにシャープな形状に。 スカートは短く切り詰められたチュチュに変わりその下から食い込むハイレグのラインが惜しげもなく晒されている。 手には肘上までのロンググローブ。 指先まで力がみなぎる感覚。 足は膝上までの鋭いピンヒールのロングブーツ。 濡れたベランダの床をしっかりと踏みしめる。 そして頭。 イチゴのカチューシャではなく天を突くように伸びたシャープな「ウサギの耳」。 雨音の中からシャーの恐怖に満ちた呼吸音だけを正確に拾い上げている。
光が収束していく。 いちごはゆっくりと立ち上がった。 ベランダの手すりにもたれかかり目を押さえている男を見下ろす。 彼女の姿は怒りをその食い込むハイレグのラインにまで宿した苛烈な「執行者」だった。 雨に濡れたその姿は神々しくも恐ろしかった。
「プリティストロベリー・バニー!」
地を這うような冷たい声。 さっきまでの必死だった少女の声ではない。 怒りと決意に満ちた声。
「な、なんなんだ……いったい……Youは誰だ……?」 シャーは光で焼かれた目をしばたかせながらかろうじていちご(バニー)のシルエットを捉えた。 さっきまでのただのコスプレ少女とは明らかに違う。 圧倒的な存在感。 神々しさすら感じる。 だがそれ以上に恐ろしい気迫。 本能が危険信号(デンジャー)を発している。
「(……対象『混乱』および『恐怖』モードへ最大レベルで移行。……完璧な変身(データ)だ。心拍数急上昇確認)」 ヨウくんが通信機をそっと閉じた。 カメラは回し続ける。
「あなたの言う『インターナショナル・スタンダード』は……」
いちご(バニー)は冷たく男(迷惑ボーイ)を見下ろした。 雨が彼女の頬を伝う。
「ただの『自分勝手(セルフィッシュ)』です」
「あ……あ……」
シャーは起き上がろうとするが腰が抜けて動けない。 目の前の「バニー」が放つプレッシャーが彼をベランダの床に縫い付けている。 雨に打たれ派手なアロハシャツが肌に張り付いている。
「ひっ!」
いちご(バニー)はゆっくりとその男に歩み寄った。 ピンヒールが濡れた床を打つ硬質な音が響く。 コツコツという音が死神の足音のように聞こえた。
(この男に物理的な『お仕置き』は当然!) (でもそれだけじゃ足りない!) (こいつの『自由(フリーダム)』とやらをへし折ってやる!) (日本の『ルール(平和)』の尊さを!) (この身体(からだ)に刻み込んでやる!)
いちご(バニー)の狙いはシャー本人。 そして彼が象徴する「自分勝手な自由」。 彼女はその男の目の前に立つとゆっくりと右足のヒールを高々と振り上げた。 空中で静止するブーツ。 食い込んだハイレグのラインが雨の中で妖しく光る。 ブーツの先端に怒りのエネルギーがピンク色の光となって収束していく。
(私の『イチゴ柄』を幼稚と言った!) (クールじゃない国際基準じゃないと言った!) (だったら見せてあげる!) (これが日本のKawaii(カワイイ)とJustice(ジャスティス)の!) (真のインターナショナル・スタンダードだ!)
「さようならあなたの歪んだ『自由(フリーダム)』」
「ま、待て! Stop! プリーズ!」 シャーが初めて恐怖に歪んだ声で命乞いをした。 だが遅い。 いちご(バニー)の心はもう凍り付いていた。
いちご(バニー)のヒールがシャーの腹部その一点を目掛けて正確に振り下ろされた。 雨粒を切り裂く速度。
「ストロベリッシュ・バニー……!」
「カルチャー・ショック・クラッシュ!!」
ゴッ!!!! という肉を打つ音とは思えない鈍く重い破壊音が雨のベランダに響き渡る。 シャーの身体が「く」の字に折れ曲がった。 「アッ……ガ……!」 カエルが潰れたような悲鳴にならない声が漏れる。 衝撃波がベランダの手すりを揺らし干してあった洗濯物が吹き飛んだ。 シャーは白目を剥き口から僅かに煙(※胃液?)を吐き完全に意識を失った。 その表情には恐怖と苦悶そして理解不能なものへの畏怖が張り付いていた。
「…………」
ベランダが静まり返った。 雨音だけが虚しく響いている。 いちご(バニー)は気絶した男を見下ろし冷たく言い放った。 「お仕置き完了です」
そして彼女はまだ燻っている七輪に目をやった。 (火事の元はちゃんと消さないと) いちご(バニー)はベランダの蛇口を捻りシャーが使っていたホースを掴んだ。 そして七輪に向かって勢いよく水をかけた。 ジュワアアアッ! という激しい音と共に大量の水蒸気が立ち昇る。 火は完全に消えた。
ついでに。 いちご(バニー)はホースの先端を気絶しているシャーの顔面に向けた。 そして最大水量で水を浴びせかけた。 「……少しは頭を冷やしなさい」 冷たい雨水(+泥水)がシャーの意識のない身体を洗い流していく。
ウー、ウー、ウー…… その時ようやく遠くからパトカーのサイレンが近づいてきた。 (※ヨウくんが不法投棄・不審火・暴行(?)で通報済みだった)
「……ふぅ」 いちご(バニー)はその光景を見届けると静かに変身を解いた。 (※実際は変身の光と共にハイレグの食い込みが元のパンティのラインに戻りチュチュも元のスカート丈に戻った)
そして元のプリティストロベリーの姿に戻ると駆けつけた警察官にベランダで伸びているシャー(ずぶ濡れ)と消火済みの七輪を指差した。
「お巡りさん! この人です! ゴミ燃やしてました! あと暴行(?)も!」
「(……え? なにこの子? え? 外国人? ずぶ濡れ? 七輪?)」 警察官は混乱していた。
数分後。 現場検証とシャーの介抱(※救急車も来た)が続くアパートの前。 いちごはヨウくんから受け取ったタオル(イチゴ柄)にくるまり管理人室で雨宿りさせてもらっていた。 コスチュームは泥水まみれだがもう気にする余裕もない。
「ぷはー。疲れた……異文化交流って難しい」 いちごはぐったりと椅子に座り込んだ。
「お疲れ桃瀬さん」 ヨウくんが温かい缶のお茶(※近くの自販機で買った)を差し出した。 彼の目は興奮で爛々と輝いていた。
「わありがと!……ていうか!」 いちごはお茶を受け取りながらヨウくんのもう片方の手を睨んだ。 そこには見覚えのあるジップロック(サンプルNo.9・焼却済?)が握られていた。 (※さっきいちごが七輪に叩き込んだ泥水パンティ)
「(……また回収した……! しかも燃えカスの中から!)」
「(……焼却汚染(インターナショナル)サンプルか。これも貴重なデータだ。……異文化(いぶんか)が付着(ふちゃく)したパンティの変身(へんしん)への影響(えいきょう)……興味深い(きょうみぶかい)……)」 ヨウくんがボソリと呟いた。
「『興味深い』言うなー!」
いちごはお茶の缶をヨウくんに叩きつけようとして思いとどまった。 (……あ。パソコン新しくなったんだった) (……殴ったらまた弁償させられる……!) (……でも!) 「ねえヨウくん! あのシャーさんどうなるのかな? 国に帰っちゃうのかな?」
「いや。強制送還(きょうせいそうかん)にはならないだろう。だが不法投棄と火災予防条例違反(かさいよぼうじょうれい いはん)……しばらくは大人しくなるはずだ」 ヨウくんは冷静に分析した。 「……それに来週からは鈴木さんが彼に『日本のゴミ出しルール』をマンツーマンで教えることになったらしい」
「えええ! 鈴木さん大丈夫かな……」
ご近所の平和(と国際交流の難しさ)は今日もかろうじて護られたのだった。 いちごのコスチュームの汚れと共に。