護って!いちごちゃん!〜いちごパンティは見えてるか〜   作:ろくさん

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第1章:公道の無法地帯! 激写(とる)ぞテツ! その3

 

「……お仕置きの時間、です」

 

地獄の底から響くような、冷たい声だった。

櫓のベニヤ板の上に、いちごが、ゆっくりと、しかし確実な力強さで身体を引き上げる。

その表情から、さっきまでの「困惑」や「羞恥」は完全に消え失せていた。

あるのは、静かな、それでいて燃え盛るような怒りの炎だけだった。

 

「おおお! 撮れた! 完璧だァ! これで俺の歴史にまた一ページ!」

 

櫓の最上段。山田は、通過し去っていく列車「ナナロク」の赤いテールランプに夢中で、足元で起きている変化に、まだ気づいていなかった。

彼は、至福の表情でカメラの小さな液晶を覗き込み、「チッ、ピントが甘えな」などと独りごちている。

眼下の大渋滞も、自分が引き起こした混乱も、彼の頭からは完全に消去されていた。

 

(ダサい……)

(子供っぽい……)

 

いちごの脳内で、先ほどの罵倒が反響する。

(この……お気に入りのイチゴ柄を……)

(この……私の「好き」を……!)

(この男は……! 土足で! 油まみれの棒で! 踏みにじった!)

 

いちごは、片手で掴んでいた「新しいイチゴパンティ」を、怒りにわななく指で、強く握りしめた。

そして、もう片方の手で、無惨にも汚されたパンティのゴム紐に、指をかける。

 

(許さない)

 

下界では、野次馬たちが固唾を飲んで、その光景を見守っていた。

「お、おい……あの子、何する気だ……」

「まさか……ここで!?」

 

ヨウくんは、その一連の動作を、一切の動揺も見せず、ただ冷静に、スマートフォンのレンズ越しに見つめていた。

(来る……! 換装(チェンジ)の瞬間だ……!)

彼の指が、録画中の画面をタップし、デジタルズームを最大(マックス)にする。

 

いちごは、意を決した。

山田がカメラの液晶に夢中になっている、今、この一瞬しかない。

彼女は、汚されたパンティを、怒りを込めて引きずり下ろした。

秋の冷たい風が、一瞬、彼女の素肌を撫でる。

羞恥。だが、それ以上に、怒りが(まさ)る。

 

そして、ヨウくんから投げ渡された、新品の、汚れなき純白のイチゴ柄を、素早い動作で装着する。

汚れた古いパンティは、とりあえず衣装のポケットにねじ込んだ。(※後でヨウくんに回収される運命である)

 

新品の布地が、肌に触れた、その瞬間。

 

パァァァァァッ!

 

いちごの身体が、淡いピンク色の光に包まれた。

 

「うおっ!?」

「ま、眩しい!」

 

交差点の野次馬たちが、一斉に腕で目を覆う。

カメラの液晶に夢中だった山田も、さすがにその異変に気づいた。

 

「な、なんだァ!? ストロボか!?」

 

山田が、慌てて光の中心――いちご――を見下ろす。

光が、収まっていく。

そして、そこに立っていたのは、先ほどまでの「プリティストロベリー」とは、明らかに違う姿だった。

 

「な……」

 

山田の目が、驚愕に見開かれる。

ヨウくんは、その姿をレンズ越しに捉え、無表情のまま、ゴクリと喉を鳴らした。

(来た……! 二段変身……!)

 

白とピンクと水色。

その基調は変わらない。

だが、胸元のリボンは一回りも二回りも大きくなり、フリルだったスカートは、バレエのチュチュのように短く、鋭角的に切り詰められていた。

 

そして、何よりも異様な、その下半身。

さっき履いたばかりの、新品の「イチゴ柄」のパンティ。その布地が、ありえないほどの張力で、変身の光と共に、変異を遂げていた。

パンティのサイドラインが、まるで吊り上げられるように、腰骨の、その遥か上まで、鋭角的に持ち上がる。

純白のイチゴ柄の布地が、彼女の太ももの付け根、その内側に、深く、深く、食い込んでいた。

それは、もはや「パンティ」というより、肌に張り付いた「装甲」のようであり、極限まで切り詰められた、超ハイレグスタイルそのものだった。

 

手首までのショートグローブは、肘上までのロンググローブに。

ピンクのショートブーツは、膝上までの、鋭いヒールを持つロングブーツへと変貌していた。

そして、最大の変化は、頭部。

イチゴの飾りがついていたカチューシャから、まるで戦闘機(F-15)の翼のように、シャープなデザインの、ピンク色の「ウサギの耳」が、天に向かって伸びていた。

 

「プリティストロベリー……バニー……」

 

いちごが、冷たく、変身後の名前を呟く。

その瞳は、怒りの炎を宿したまま、まっすぐに、目の前の敵を捉えていた。

 

「な、なんだそりゃあ! さっきと……格好が違うじゃねえか!」

 

山田が、困惑と、わずかな恐怖をにじませた声で叫ぶ。

特に、あの、食い込むほどにハイレグになった、異様なパンティのラインに、目が釘付けになっていた。

 

「さっきまでの私は、子供たちの笑顔を護る、プリティストロベリー」

 

ウサギの耳を揺らしながら、いちごは、ゆっくりとベニヤ板の足場を歩き、山田との距離を詰める。

ヒールの硬い音が、カン、カン、と金属の櫓に響く。

 

「今の私は……」

 

いちごの視線が、一瞬、山田の足元に落ちている「油で汚れた一脚(いっきゃく)」に移る。

 

「私の『大好き(イチゴ柄)』を侮辱したあなたを……絶対に許さない、『正義(ジャスティス)の執行者』です」

 

「ひっ……!」

 

その気迫に、山田は思わず後ずさる。

だが、ここは櫓の上。すぐに背中が、三脚に据えたカメラにぶつかった。

 

「く、来るな! この……この、コスプレ女ァ!」

 

山田は、パニックになり、手元の巨大な三脚を掴み、槍のように振り回した。

さっき、いちごを櫓から落としかけた、凶器だ。

 

しかし。

「プリティストロベリー・バニー」は、その先端を、迫り来る風圧ごと、片手で、いとも容易く掴み止めた。

 

「え……」

 

山田の顔が、信じられない、という表情で固まる。

三脚は、いちごの手の中で、ピクリとも動かない。

 

「そんなもので、私の怒りは止められません」

 

いちごは、掴んだ三脚を、そのまま、ゆっくりと、横に薙ぎ払った。

山田は、三脚ごと、なすすべもなく振り回される。

 

「うわあああっ!?」

 

山田の手から三脚がすっぽ抜け、交差点の遥か彼方へと、キリモミ回転しながら飛んでいった。

 

「(データ分析。筋出力、平常時の推定3.5倍。変身による物理的ブーストを確認。……そして、あのパンティの食い込み角度、四十五度。素晴らしい)」

 

ヨウくんが、冷静に分析のコメントを脳内で呟く。

 

「お、俺の……俺の三脚(スリック)が……!」

 

武器を失った山田が、尻餅をつく。

いちごは、その山田を、冷たく見下ろした。

 

「あなたの『趣味』は、そこまでです」

 

「ま、待て! やめろ! 俺の……俺のカメラが! 撮影したばっかりの、伝説のナナロクのデータが!」

 

いちごは、山田の言葉を無視し、彼の命よりも大事そうな、三脚に固定された巨大な望遠カメラに目をやった。

そして、その横に立ち、ゆっくりと、ロングブーツに包まれた右足を、高く、高く、振り上げた。

 

その動きは、天を突くようにしなやかで、美しい。

食い込んだハイレグのラインが、その可動域を、限界まで見せつけていた。

足先に込められた怒りは、凄まじいエネルギーとなって、ピンク色のオーラを放っていた。

 

「さようなら、あなたの迷惑な『一瞬(シャッターチャンス)』」

 

「や、やめろおおおおお!」

 

山田の絶叫と同時。

いちごのヒールが、櫓の土台であるベニヤ板の中心に、叩き落とされた。

 

「ストロベリッシュ・バニー・クラッシュ!!」

 

ゴッ!!!!

という、もはや打撃音とは思えない、鈍い破壊音が響き渡る。

いちごのヒールが突き立った一点から、蜘蛛の巣状に、ベニヤ板が粉砕された。

 

「え……?」

 

山田が、自分の足元を見る。

そして、ベニヤ板だけではないことに気づいた。

ベニヤ板を支えていた、金属製のパイプ。その溶接部分が、凄まじい衝撃波によって、ミシミシと、軋む音を立てていた。

 

「う、うわ……うわああああ!」

 

いちごが、再び、左足で、無慈悲な追撃のヒールを叩き込む。

「クラッシュ!」

三度、右足。

「クラッシュ!」

 

破壊音と共に、交差点の中心にそびえ立っていた、三メートルを超える違法建築物は、その均衡を失い、ガラガラと、凄まじい音を立てて崩壊を始めた。

 

「あああああーーーーーっ!!」

 

山田の、断末魔のような悲鳴が響き渡る。

カメラも、彼自身も、重力に従って、崩れ落ちる瓦礫と共に、地上へと落下していく。

 

いちごは、その光景を、冷たく見下ろしていた。

彼女は、崩れる足場から、軽やかに跳躍し、交差点の真ん中に、音もなく着地した。

その着地の衝撃で、彼女の短いチュチュが、ふわりと舞う。

その下で、変異を遂げた、食い込むイチゴ柄が、誇らしげに輝いていた。

 

「(……完璧な、着地だ)」

 

ヨウくんが、その瞬間のデータを、永久保存フォルダに格納した。

 

ドッシャアアアン!

轟音と共に、櫓は完全に崩壊し、道路に鉄パイプの山を築いた。

山田は、幸運にも(あるいは、いちごの手加減か)、麓にあったコンビニのゴミ袋の山の上に落下し、生ゴミの匂いにまみれながら、気絶していた。

彼の愛機だったカメラは、無惨にもレンズが割れ、再起不能となっていた。

 

「…………」

 

交差点は、静まり返った。

クラクションの音も、野次馬のざわめきも、すべてが止まっている。

誰もが、目の前で起こった、あまりに現実離れした「破壊」と、その中心に立つ「ウサギ耳のハイレグ少女」を、呆然と見つめていた。

 

やがて。

「「「うおおおおおお!!」」」

誰からともなく、大歓声が沸き起こった。

「すげえ!」

「あの櫓が、一瞬で!」

「ありがとう、魔法少女!」

 

渋滞に巻き込まれていたドライバーたちも、窓から身を乗り出し、拍手を送っている。

尻餅をついていたおばあちゃんも、保育園のバスの子供たちも、目を輝かせて、いちごに手を振っていた。

 

「(……ふぅ)」

 

いちごは、そこで、ふっと「プリティストロベリー・バニー」の戦闘モードを解いた。

(※実際は、変身の光と共に、ハイレグの食い込みが元のパンティのラインに戻り、チュチュも元のスカート丈に戻った)

いつもの「桃瀬いちご」の、明るい笑顔に戻る。

彼女は、歓声に応えるように、ビシッと、決めポーズ(ニチアサアニメ版)を取った。

 

「ご近所の平和は、プリティストロベリーが護りました!」

 

その時、遠くから、ようやく、ウーウーというサイレンの音が近づいてくるのが聞こえた。

 

「あ、やば。お巡りさん」

 

「桃瀬さん、こっちだ。撤収する」

 

いつの間にか、ヨウくんが、いちごの制服が入ったカバンを背負い、路地の影から手招きしていた。

彼のもう片方の手には、しっかりと、例のジップロック(※油まみれのパンティを回収済み)が握られていたが、いちごは気づかない。

 

「うん!」

 

いちごは、群衆に一礼すると、警察が到着する直前に、ひらりと身を翻し、雑踏の中へと消えていった。

あとに残ったのは、崩壊した鉄パイプの山と、「イチゴ柄のウサギ耳の少女」という、強烈な都市伝説だけだった。

 

数十分後。

オタ研の部室。

 

「ぷはーっ! 疲れたー!」

 

制服に着替え直したいちごが、部室の長机に突っ伏した。

すっかり日は暮れ、窓の外は暗くなっている。

 

「うう……数学の宿題、やる元気ないよう……」

 

「お疲れ、桃瀬さん」

 

ヨウくんが、自販機で買ってきたイチゴミルク(いちご専用)を、コトリと机に置いた。

 

「わ、ありがと! ヨウくん、気が利く!」

 

いちごは、嬉しそうにストローを刺す。

ヨウくんは、自分のPCデスクに戻り、無表情でキーボードを叩き始めた。

 

「しかし、すごかったね、さっき!」

 

いちごは、興奮冷めやらぬ様子で、イチゴミルクを飲みながら語る。

 

「あの、新しいパンティ履いた瞬間! なんか、こう、力が『グワッ』って!」

 

「ああ。分析中だ」

 

「ストロベリッシュ・バニー・クラッシュ! かっこよかったでしょ!」

 

「ああ。ネーミングセンスは……まあ、及第点だ」

 

「む、また及第点! でも、あの櫓、壊しすぎちゃったかなあ……」

 

「問題ない。あれは違法建築物であり、交通妨害だ。むしろ、警察の仕事を減らしてやったことになる」

 

ヨウくんのPC画面には、先ほどの戦闘データが、膨大な数値とグラフになって表示されていた。

特に、「プリティストロベリー・バニー」への変身シーケンスにおける、「パンティの食い込み角度と筋出力の相関関係」についてのグラフが、詳細に解析されていた。

 

「そっか! それなら良かった!」

 

いちごは、ケラケラと笑う。

 

「あ。でも……」

 

いちごは、ふと、何かを思い出したように、自分のカバンをごそごそと漁った。

 

「あれ? おかしいな……」

 

「どうした」

 

「あの、汚されちゃった方のパンティ……確かポケットに入れたはずなんだけど……」

 

いちごは、不思議そうに首をかしげる。

「落としちゃったかなあ。あーあ、お気に入りだったのに……」

 

ヨウくんは、PC画面から目を離さない。

無表情。

 

「……さあな。だが、桃瀬さん」

 

「ん?」

 

「イチゴ柄のストックなら、部室のロッカー(ヨウくん管理)に、まだ十二枚ある」

 

「え!? 本当!?」

 

いちごは、パアッと顔を輝かせた。

「やったー! さすがヨウくん! 妖精さんだ!」

 

ヨウくんは、その言葉に、メガネの奥の瞳を、ほんのわずかに細めた。

彼のPC画面の隅。

そこには、例の「油まみれのイチゴ(回収済み)」が、厳重に密閉されたガラスケースの中で、あらゆる角度からスキャンされている3Dモデルが、ゆっくりと回転していた。

ファイル名:「サンプルNo.1(山田・油性グリース汚染)」。

 

「(……今日も、平和だな)」

 

ヨウくんが、心の中で、誰にともなく呟いた。

 

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