護って!いちごちゃん!〜いちごパンティは見えてるか〜   作:ろくさん

30 / 52
第11章:駅前絶叫! 私だけの女性権利(ジャスティス) その1

 

梅雨の中休みだろうか久しぶりに太陽が顔を出した放課後。 アスファルトに残った水たまりがきらきらと光を反射している。 湿気はまだ高いが昨日までのうっとうしさに比べれば天国だった。 桃瀬いちごは駅前の大型書店に来ていた。 もちろんお目当ては今日発売の『月刊スウィートハートファン』最新号だ。

 

「あった! 表紙かわいー!」 いちごは漫画雑誌コーナーで目当ての雑誌を見つけ小躍りした。 今月号の付録は描き下ろしクリアファイル。 これは絶対に見逃せない。 彼女は雑誌を大事そうに抱えレジへと向かった。

 

隣には当然のようにヨウくんが付き添っていた。 彼はといえばライトノベルの新刊コーナーで物憂げな表情の美少女が表紙の文庫本を数冊吟味(ぎんみ)している。 いちごの雑誌購入には全く興味を示さない。 彼の今日の目的はあくまでいちごの「護衛(という名のデータ収集)」であり書店はその経由地に過ぎない。

 

会計を済ませいちごがホクホク顔で店の外に出ると。 駅前ロータリーの方から何やら騒がしい音が聞こえてきた。 演説? 街頭ライブ? いやもっと甲高く耳障りな金切り声に近い何かだ。

 

「……なんだろ?」 いちごは眉をひそめた。 ロータリーはバスやタクシーが行き交い人々が忙しく歩き回る町の中心部だ。 普段から多少の喧騒はあるが今日の音は明らかに異質だった。

 

「(……桃瀬さん。十二時の方向。熱源及び音源確認)」 骨伝導イヤホンからヨウくんの冷静な声が飛ぶ。 彼は既にいちごより数歩先に出て周囲の状況を分析していた。 手にはスマートフォン(カメラモード起動済み)が握られている。 「(……迷惑住民の可能性あり。警戒レベルCで接近する)」

 

「(え? また!?)」 いちごはうんざりした。 せっかく『スウィートハートファン』を買って気分が良かったのに。 (平和な日は続かないなあ……)

 

二人は音のする方ロータリーの中央広場へと向かった。 近づくにつれて金切り声の内容が聞き取れてくる。

 

「……だから! なぜ女性(わたし)が! (おまえ)のために! 道を譲らねばならんのだ!」 「これは明確なミソジニー(女性蔑視)! 社会構造が生んだ性差別だ!」

 

広場の中央。 噴水の前に人だかりができていた。 その中心で一人の女性が拡声器(メガホン)を片手にがなり立てている。 年の頃は四十代後半だろうか。 吊り上がった目にきつく結ばれた唇。 全身からヒステリックなオーラを発散させている。 肩には『女性の権利(=カチコの権利)を守れ!』と書かれた手作りのピンク色のタスキ。 異様な光景だった。

 

彼女の前には困惑した表情の若いサラリーマンが立ち尽くしている。 どうやらぶつかりそうになったかなにかで女性に激しく(なじ)られているらしい。 サラリーマンは何度も「すみません」と頭を下げているが女性は全く聞く耳を持たない。

 

「謝って済む問題か! お前のその無意識の加害性(かがいせい)こそが問題なのだ!」 「男というだけで! この社会で! どれだけ! 優遇(ゆうぐう)されているか! 理解しているのか!」

 

(……うわあ……) いちごは思わず顔をしかめた。 確かにぶつかりそうになったのかもしれない。 でもここまで罵倒(ばとう)されることだろうか。 しかも周囲には大勢の人がいる。 完全な公開処刑だ。

 

「(……対象:平等院 カチコ通称『ひらなりフェミさん』)」 ヨウくんが冷静にターゲット情報をインプットする。 PC(脳内データベース)には既に彼女の過去の「活動記録(迷惑行為)」がいくつか保存されていた。 「(……駅前での無許可演説通行人への恫喝(どうかつ)……常習犯(じょうしゅうはん)だ。脅威レベル:C(心理・騒音)。迷惑レベル:A)」

 

カチコ(フェミさん)の演説(罵倒)は止まらない。 矛先(ほこさき)はサラリーマン個人から社会全体へと移っていく。 「そもそも! なぜ! (わたし)ばかりが! 家事を! 育児を! 押し付けられねばならんのだ!」 「(おまえたち)は! 仕事と称して! 外で! 楽をしているだけではないか!」 「男女平等! 機会均等! 口先ばかり! この男尊女卑(だんそんじょひ)社会め!」

 

(……ん?) いちごは少しだけ考え込んだ。 言っていること自体は一理あるような気もする。 男女の役割分担とかそういう難しい話。 テレビの討論番組で見たことがある。

 

だが。 いちごはカチコの足元を見た。 彼女が立っている場所。 そこは点字ブロックの上だった。 視覚障碍者のための大切な道しるべを彼女は拡声器を振り回しながら完全に塞いでいる。 そして彼女の周りには数人の支援者らしき中高年の男性(通称:親衛隊)が取り囲むように立っていた。 彼らはカチコの演説に「そうだそうだ!」と相槌を打ちながら通行人が近づかないように威圧的な態度で壁を作っていた。

 

(……なんか変) いちごは違和感を覚えた。 女性の権利を主張する人がなぜ他の人の権利(通行の自由や安全)を侵害するのだろう。 なぜ支援者は男性ばかりなのだろう。 そして何より。 なぜ彼女の主張は全て「(カチコ)が」主語なのだろう。 「私が道を譲らされた」「私が家事を押し付けられる」「私の権利」。 そこに他の女性たちの姿は見えなかった。

 

「……あの」 見かねたのか近くにいた女子高生グループの一人がおそるおそる声をかけた。 「すみません……私たち通りたいんですけど……」

 

カチコは演説を中断しギロリとその女子高生を睨みつけた。 「……なんだ小娘」 「女の連帯を乱す気か」

 

「え? いえそういうわけじゃ……」

 

「フン! 男に()びるだけの脳内お花畑が!」 カチコは吐き捨てるように言った。 「その短いスカート! 男性の性的視線(せいてきしせん)(あお)っているだけではないか!」 「自ら『モノ』としての役割を受け入れている(おろ)か者め!」

 

「ひっ……!」 女子高生は顔を真っ青にして後ずさった。 友人たちも怯えた表情で彼女を(かば)うように下がっていく。

 

(…………!) いちごの中で何かがプツンと切れた。 (……ひどい) (同じ女性に対してなんて言い草なの) (しかもあの言い方は言いがかりだ!) (スカートが短いのが悪いみたいに!)

 

いちごは自分のミニスカート(制服)を見下ろした。 確かに短い。 でもそれは校則だし自分が好きで履いているわけでは……いやでも別に恥ずかしいとは思わない。 (私の服装(これ)が誰かに媚びてる?) (冗談じゃない!)

 

カチコの罵詈雑言(ばりぞうごん)は止まらない。 矛先は今度は別のターゲットに移った。 ベビーカーを押した若い母親だ。 「おいそこの母親!」 「なぜ子供を保育園に預けない!」 「女が家庭に(しば)り付けられる元凶(げんきょう)だ!」 「社会進出を自ら放棄(ほうき)する気か!」

 

「(……えええ……)」 母親は呆然としている。 大きなお世話だ。 様々な事情で子供を家で見ているのかもしれない。 それを一方的に断罪する権利がこの女にあるというのか。

 

(……もう我慢できない!) いちごは拳を握りしめた。 これは正当な権利主張ではない。 ただの迷惑行為であり言葉の暴力だ。 自分の歪んだ正義感を他人に押し付け傷つけているだけだ。

 

「(ヨウくん!)」 いちごは通信機に叫んだ。

 

『(……ああ。対象の迷惑行為確定。レベルA+(広範囲への精神攻撃・人権侵害)。……速やかなるお仕置きを承認する)』 ヨウくんの声も心なしか怒りを帯びている。 『(……変身ポイントは三時の方向。書店脇の路地裏。遮蔽率百パーセント。……急げ)』

 

「(うん!)」

 

いちごは頷くとカチコ(と親衛隊)の注意を引かないようにそっと人混みに紛れ書店脇の路地裏へと駆け込んだ。 薄暗く湿った路地。 ゴミ箱の生臭い匂いが鼻を突く。 (最悪の変身場所……!) だが今はそんなことを言っていられない。

 

いちごは抱えていた『スウィートハートファン』最新号を地面に置き(後で回収する!)急いで制服のリボンを解いた。 カバン(※ヨウくんが先回りして配置済み)から純白の戦闘服を取り出す。 (あの女……!) (女性の権利とか言いながら!) (同じ女性を傷つけて!) (絶対に許さない!)

 

いちごの中で怒りの炎が燃え上がる。 コスチュームの冷たい生地が肌に触れる。 力がみなぎってくる。

 

(待ってなさいカチコさん!) (あなたの歪んだ正義(ジャスティス)!) (私が叩き直してあげる!)

 

「……だから! (おまえたち)はもっと反省しろ!」 駅前ロータリー。 カチコの金切り声はまだ響き渡っていた。 サラリーマンは解放されたが今度は別の通行人が捕まっている。 親衛隊の壁も健在だ。 誰も彼女を止められない。 警察も見て見ぬフリをしているのかもしれない。

 

(……誰も止めないなら) (私が止める!)

 

その時だった。 路地裏から突風が吹いた。 いや風ではない。 ピンク色の閃光を纏った何かが猛烈なスピードで飛び出してきたのだ。

 

「(な!?)」 カチコも親衛隊も通行人たちも一瞬何が起こったのかわからなかった。 次の瞬間。 カチコが立っていた噴水の(ふち)。 そのすぐ隣の地面に。 純白のコスチュームに身を包んだ魔法少女が音もなく着地していた。

 

「「「…………!?」」」 広場全体が静まり返った。 カチコの拡声器のハウリング音だけがキーンと響く。

 

プリティストロベリー(いちご)はゆっくりと顔を上げた。 その瞳は怒りに燃えカチコただ一人を真っ直ぐに見据えていた。

 

「……な、なんだ貴様は……」 カチコがようやく絞り出した声は震えていた。 突然現れた非現実的な存在。 そしてその存在が放つ尋常ならざるプレッシャー。 彼女の本能が警鐘を鳴らしていた。

 

いちごは答えない。 ただ静かにカチコに向かって歩き始めた。 コツコツとピンクのショートブーツがアスファルトを打つ。

 

「ひっ……! く、来るな!」 カチコは後ずさる。 親衛隊(おじさんたち)も明らかに怯えている。 壁としての役割を放棄しそうになっている。

 

「暴力反対!」 カチコは最後の武器(拡声器)をいちごに向けた。 「これは言論の自由への弾圧だ! 権力()による不当な介入だ!」

 

いちごは足を止めた。 そして初めて口を開いた。 その声は静かだが怒りに満ちていた。

 

「言論の自由?」 「他の人を傷つける自由はどこにもありません」 「あなたのやっていることはただの迷惑行為です」

 

「な……! 黙れ小娘!」 カチコは逆上した。 「貴様のような男に媚びる格好をした女に! 私の崇高(すうこう)な理念がわかってたまるか!」

 

いちごは悲しげに首を振った。 「わかりません」 「女性を助けるために他の女性を傷つけるあなたの考えは私には全く理解できません」

 

そしていちごはビシッと決めポーズを取った。 その完璧なシルエットに周囲から「おお……」と感嘆の声が漏れた。

 

「愛と正義の! プリティストロベリー!」

 

「ご近所の平和(と女性の本当の尊厳)を乱すあなたに!」

 

いちごがカチコを指差す。

 

「お仕置きです!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。