護って!いちごちゃん!〜いちごパンティは見えてるか〜 作:ろくさん
梅雨の中休みだろうか久しぶりに太陽が顔を出した放課後。 アスファルトに残った水たまりがきらきらと光を反射している。 湿気はまだ高いが昨日までのうっとうしさに比べれば天国だった。 桃瀬いちごは駅前の大型書店に来ていた。 もちろんお目当ては今日発売の『月刊スウィートハートファン』最新号だ。
「あった! 表紙かわいー!」 いちごは漫画雑誌コーナーで目当ての雑誌を見つけ小躍りした。 今月号の付録は描き下ろしクリアファイル。 これは絶対に見逃せない。 彼女は雑誌を大事そうに抱えレジへと向かった。
隣には当然のようにヨウくんが付き添っていた。 彼はといえばライトノベルの新刊コーナーで物憂げな表情の美少女が表紙の文庫本を
会計を済ませいちごがホクホク顔で店の外に出ると。 駅前ロータリーの方から何やら騒がしい音が聞こえてきた。 演説? 街頭ライブ? いやもっと甲高く耳障りな金切り声に近い何かだ。
「……なんだろ?」 いちごは眉をひそめた。 ロータリーはバスやタクシーが行き交い人々が忙しく歩き回る町の中心部だ。 普段から多少の喧騒はあるが今日の音は明らかに異質だった。
「(……桃瀬さん。十二時の方向。熱源及び音源確認)」 骨伝導イヤホンからヨウくんの冷静な声が飛ぶ。 彼は既にいちごより数歩先に出て周囲の状況を分析していた。 手にはスマートフォン(カメラモード起動済み)が握られている。 「(……迷惑住民の可能性あり。警戒レベルCで接近する)」
「(え? また!?)」 いちごはうんざりした。 せっかく『スウィートハートファン』を買って気分が良かったのに。 (平和な日は続かないなあ……)
二人は音のする方ロータリーの中央広場へと向かった。 近づくにつれて金切り声の内容が聞き取れてくる。
「……だから! なぜ
広場の中央。 噴水の前に人だかりができていた。 その中心で一人の女性が
彼女の前には困惑した表情の若いサラリーマンが立ち尽くしている。 どうやらぶつかりそうになったかなにかで女性に激しく
「謝って済む問題か! お前のその無意識の
(……うわあ……) いちごは思わず顔をしかめた。 確かにぶつかりそうになったのかもしれない。 でもここまで
「(……対象:平等院 カチコ通称『ひらなりフェミさん』)」 ヨウくんが冷静にターゲット情報をインプットする。
カチコ(フェミさん)の
(……ん?) いちごは少しだけ考え込んだ。 言っていること自体は一理あるような気もする。 男女の役割分担とかそういう難しい話。 テレビの討論番組で見たことがある。
だが。 いちごはカチコの足元を見た。 彼女が立っている場所。 そこは点字ブロックの上だった。 視覚障碍者のための大切な道しるべを彼女は拡声器を振り回しながら完全に塞いでいる。 そして彼女の周りには数人の支援者らしき中高年の
(……なんか変) いちごは違和感を覚えた。 女性の権利を主張する人がなぜ他の人の
「……あの」 見かねたのか近くにいた女子高生グループの一人がおそるおそる声をかけた。 「すみません……私たち通りたいんですけど……」
カチコは演説を中断しギロリとその女子高生を睨みつけた。 「……なんだ小娘」 「女の連帯を乱す気か」
「え? いえそういうわけじゃ……」
「フン! 男に
「ひっ……!」 女子高生は顔を真っ青にして後ずさった。 友人たちも怯えた表情で彼女を
(…………!) いちごの中で何かがプツンと切れた。 (……ひどい) (同じ女性に対してなんて言い草なの) (しかもあの言い方は言いがかりだ!) (スカートが短いのが悪いみたいに!)
いちごは自分のミニスカート(制服)を見下ろした。 確かに短い。 でもそれは校則だし自分が好きで履いているわけでは……いやでも別に恥ずかしいとは思わない。 (私の
カチコの
「(……えええ……)」 母親は呆然としている。 大きなお世話だ。 様々な事情で子供を家で見ているのかもしれない。 それを一方的に断罪する権利がこの女にあるというのか。
(……もう我慢できない!) いちごは拳を握りしめた。 これは正当な権利主張ではない。 ただの迷惑行為であり言葉の暴力だ。 自分の歪んだ正義感を他人に押し付け傷つけているだけだ。
「(ヨウくん!)」 いちごは通信機に叫んだ。
『(……ああ。対象の迷惑行為確定。レベルA+(広範囲への精神攻撃・人権侵害)。……速やかなるお仕置きを承認する)』 ヨウくんの声も心なしか怒りを帯びている。 『(……変身ポイントは三時の方向。書店脇の路地裏。遮蔽率百パーセント。……急げ)』
「(うん!)」
いちごは頷くとカチコ(と親衛隊)の注意を引かないようにそっと人混みに紛れ書店脇の路地裏へと駆け込んだ。 薄暗く湿った路地。 ゴミ箱の生臭い匂いが鼻を突く。 (最悪の変身場所……!) だが今はそんなことを言っていられない。
いちごは抱えていた『スウィートハートファン』最新号を地面に置き(後で回収する!)急いで制服のリボンを解いた。 カバン(※ヨウくんが先回りして配置済み)から純白の戦闘服を取り出す。 (あの女……!) (女性の権利とか言いながら!) (同じ女性を傷つけて!) (絶対に許さない!)
いちごの中で怒りの炎が燃え上がる。 コスチュームの冷たい生地が肌に触れる。 力がみなぎってくる。
(待ってなさいカチコさん!) (あなたの歪んだ
「……だから!
(……誰も止めないなら) (私が止める!)
その時だった。 路地裏から突風が吹いた。 いや風ではない。 ピンク色の閃光を纏った何かが猛烈なスピードで飛び出してきたのだ。
「(な!?)」 カチコも親衛隊も通行人たちも一瞬何が起こったのかわからなかった。 次の瞬間。 カチコが立っていた噴水の
「「「…………!?」」」 広場全体が静まり返った。 カチコの拡声器のハウリング音だけがキーンと響く。
プリティストロベリー(いちご)はゆっくりと顔を上げた。 その瞳は怒りに燃えカチコただ一人を真っ直ぐに見据えていた。
「……な、なんだ貴様は……」 カチコがようやく絞り出した声は震えていた。 突然現れた非現実的な存在。 そしてその存在が放つ尋常ならざるプレッシャー。 彼女の本能が警鐘を鳴らしていた。
いちごは答えない。 ただ静かにカチコに向かって歩き始めた。 コツコツとピンクのショートブーツがアスファルトを打つ。
「ひっ……! く、来るな!」 カチコは後ずさる。
「暴力反対!」 カチコは最後の
いちごは足を止めた。 そして初めて口を開いた。 その声は静かだが怒りに満ちていた。
「言論の自由?」 「他の人を傷つける自由はどこにもありません」 「あなたのやっていることはただの迷惑行為です」
「な……! 黙れ小娘!」 カチコは逆上した。 「貴様のような男に媚びる格好をした女に! 私の
いちごは悲しげに首を振った。 「わかりません」 「女性を助けるために他の女性を傷つけるあなたの考えは私には全く理解できません」
そしていちごはビシッと決めポーズを取った。 その完璧なシルエットに周囲から「おお……」と感嘆の声が漏れた。
「愛と正義の! プリティストロベリー!」
「ご近所の
いちごがカチコを指差す。
「お仕置きです!」