護って!いちごちゃん!〜いちごパンティは見えてるか〜   作:ろくさん

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劇場版:怪盗女パン3世 VS ノーパン・ジャスティス その1

七月の蒸し暑い放課後。 オタ研部室にはぬるい風をかき混ぜる扇風機の音だけが虚しく響いていた。 桃瀬いちごは机に突伏し珍しく『スウィートハート』のスケッチブックを開いてもいなかった。 開いているのは現代文の教科書。 だがその文字は全く頭に入ってこない。

 

(……やりすぎ、ちゃったかな……)

 

彼女の脳裏には数日前の記憶がこびりついて離れない。 あの高級ホテルの宴会場。 セクハラ専務の中居が浮かべた下卑た笑み。 そして自分のヒールが彼の手首を砕いたあの鈍い感触と甲高い絶叫。

 

(……自業自得だよ。うん。あのままじゃ女性社員さんが危なかったし私も……) そう自分に言い聞かせる。 (……でも。あんなことまでするのが『ヒーロー』なのかな) (あれは『お仕置き』だった? それともただの『暴力』……?) これまでの迷惑住民たちとは違う。 明確な「傷害」を与えてしまったという事実。 それが鉛のようにいちごの心に重くのしかかっていた。 正義の在り方にわずかな「迷い」が生じていた。

 

「桃瀬さん」 隣の席からヨウくんの声がした。 彼は新PCの画面に集中している。 そこには「サンプルNo.11(セクハラ汚染・デザート付着)」の詳細な成分解析グラフと3Dモデルが映し出されていた。 彼は満足げに(※無表情だが)そのデータを眺めている。

 

「……君の判断は正しかった」 ヨウくんはいちごの内心を見透かしたかのように言った。 「あの状況下において対象(中居)の無力化は最優先事項だった」 「彼の侮辱と狼藉(ろうぜき)は万死に値する。むしろ両手首の複雑骨折だけで済んだのは慈悲(じひ)だ」

 

「(……ヨウくんが言うと説得力あるようなやっぱり怖いような……)」 いちごは苦笑いを浮かべた。 この相棒の倫理観は常人とは違う。 だがその言葉に少しだけ救われた気もした。 (……そうだよ。私は間違ってない……はず) 彼女は無理やり思考を切り替えようと教科書に視線を落とした。

 

その時だった。 ヨウくんがキーボードを叩く音が変わった。 解析作業ではない。 高速の情報検索だ。

 

「……ふむ。興味深い」 ヨウくんが呟いた。 「桃瀬さん。君の『迷い』を吹き飛ばす『わかりやすい悪』が現れたようだ」

 

「え? なに?」 いちごが顔を上げる。

 

ヨウくんはPCの画面をいちごに向けた。 そこにはニュースサイトとSNSの画面が表示されていた。 『【速報】高級住宅街で下着の『神隠し』続発! 犯人は『女パン3世』か!?』 『手口は大胆不敵! セキュリティ突破しクローゼットからパンティだけが消える!』

 

「……なにこれ……下着泥棒?」 いちごの目が変わった。 さっきまでの迷いは一瞬で吹き飛んだ。

 

「ああ。それもただの下着泥棒ではない」 ヨウくんは冷静にデータを分析していく。 「被害はここ数週間で既に三十件以上。すべて高級住宅街や高層マンションの最上階」 「侵入経路不明。指紋指紋一切なし。現場には必ずパンティ型のカードが残されている」 「プロの仕業だ。……パンティ泥棒のプロ」

 

(……下着泥棒……!) (……プロ……!?) いちごの中で怒りの炎が燃え上がった。 中居への制裁のような複雑な感情ではない。 もっと純粋でわかりやすい怒り。 (……女の敵! 変態! 許せない!) これこそが彼女の原点。 ご近所()の平和を乱す迷惑住民だ。 「(……やっぱり! ご近所の平和は私が護らないと!)」

 

いちごは勢いよく立ち上がった。 「ヨウくん! パトロール行くよ!」

 

「……その必要はないかもしれない」 ヨウくんはメガネの奥の目を細めた。 彼はあるSNSの投稿を拡大する。 そこには例のパンティ型のカードの画像がアップされていた。 カードにはこう書かれている。 『今宵、この町で最も『甘酸(あまず)っぱい』至宝(しほう)を頂きに参上する。 女パン3世』

 

「……甘酸っぱい……至宝……?」 いちごは首をかしげた。

 

「……『甘酸っぱい』=イチゴ」 ヨウくんが冷静に数式を解くように言った。 「『至宝』=ヒーローの『聖布(せいふ)』」 「……つまりターゲットは君だ。プリティストロベリー」

 

「(……私!?)」 いちごは自分のスカート(の中)を押さえた。 (なんで私のこと知ってるの!?)

 

「(……おそらく僕が流した『(うわさ)』に食いついたのだろう)」 ヨウくんは内心で呟いた。 (※数日前から彼が管理する裏掲示板で「この町にはイチゴ柄の聖布を(まと)う伝説の少女がいる」という情報をリークし女パン3世を釣り出していたのだ) 「……今夜決着をつける。(おとり)になるぞ桃瀬さん」

 

その夜。 月明かりが照らす高級住宅街。 いちごとヨウくんはとある高層マンションの屋上に潜んでいた。 ここなら町全体が見渡せる。 女パン3世が狙う「甘酸っぱい至宝」が自分だとすれば必ずここに現れるはずだ。 いちごは息を潜め眼下に広がる夜景を見つめていた。 緊張で心臓がドキドキする。 (……本当に来るのかな)

 

『(……来た)』 給水塔の陰に隠れたヨウくんからインカムで冷静な声が届いた。 『(……三時の方向。ビルからビルへ跳躍中。……驚異的な身体能力だ)』

 

いちごはそちらを見た。 月を背に黒い影がアクロバティックにビルからビルへと飛び移ってくる。 まるで猿か忍者か。 その動きは常人離れしていた。

 

黒い影はついにいちごたちのいる屋上に音もなく着地した。 月明かりがその姿を照らし出す。 身体にぴったりとフィットした黒装束。 鼻の下が異様に伸びた猿顔の男。 そして何より。 その頭にはなぜか今日盗んできたばかりと思われる高級そうなピンクのレースのパンティを被っていた。 異様すぎる。

 

「(……あいつが……女パン3世!)」 いちごは怒りを込めて睨みつけた。 (やっぱりパンティ被ってる! 変態!)

 

男――女パン3世は屋上の空気をクンクンと嗅いだ。 その鼻が何かに気づいたようにヒクヒクと動く。 「(……フヒヒ……この香り……間違いない……)」 男は恍惚とした表情で呟いた。 「(……噂は本当だった……! この屋上に『甘酸っぱい至宝』がある!)」 彼の目が獲物を探して爛々と輝き始めた。

 

「そこまでよ! 下着泥棒!」 いちごは物陰から飛び出した。 既に変身を完了させている。 月光を浴びた純白のコスチュームが夜の闇に映えていた。 「愛と正義の! プリティストロベリー! あなたに! お仕置きです!」

 

女パン3世はいちごの姿を見て一瞬驚いた。 だが次の瞬間その驚きは歓喜へと変わった。 彼の目がカッと見開かれ鼻の下がさらに伸びたように見えた。

 

「(な、なんだあのコスチュームは……!)」 「(この俺様の予告に気づき待ち構えていたというのか!)」 「(そしてこの香り……! まさに『完熟(かんじゅく)イチゴ』の芳香(ほうこう)!)」 「(これこそが! 私が追い求めてきた伝説の『乙女(ヴィーナス)聖布(せいふ)』!)」 彼のターゲットは「甘酸っぱい至宝」=プリティストロベリー(のパンティ)へと完全にロックオンされた。

 

「(フヒヒヒヒ! 探す手間が(はぶ)けたぜ!)」 女パン3世は被っていたパンティ(レース)を脱ぎ捨て懐にしまった。 臨戦態勢だ。

 

「覚悟しなさい!」 いちごは突進した。 中居戦での迷いはない。 目の前の敵は(まぎ)れもない「悪」だ。

 

だが女パン3世は尋常ではなかった。 「((おせ)え!)」 彼はいちごのパンチを紙一重でかわすとまるでパルクールのように屋上の障害物(室外機やフェンス)を利用して跳び回り始めた。 その動きは予測不能でアクロバティック。 いちごの攻撃が全く当たらない。

 

「(くっ……! 速い!)」 いちごは焦った。 これまでのどの敵とも違う。 戦闘のプロではない。 「盗む」ことだけに特化した動きだ。 そして彼の攻撃は全ていちごのスカートの中その一点に集中していた。 指先がまるで蛇のようにしなりいちごの聖域を(かす)めていく。

 

「(きゃっ! な、何この動き!?)」 いちごは必死にスカートを押さえながら戦う。 だが女パン3世の手さばきは芸術的()ですらあった。 ガードの隙間を()って指先が何度もスカートの中に侵入しようとする。 「(やめ……! 触らないで!)」 羞恥と怒りでいちごの動きが鈍る。

 

『(桃瀬さん! 敵の動きはトリッキーだ! 動きを読め! データは送っている!)』 ヨウくんの声が飛ぶ。 だがデータが送られてきても身体が追いつかない。 女パン3世はプロ(?)の下着泥棒。 いちごは素人()のヒーロー。 「パンティへの執着」という一点において経験値が違いすぎた。

 

「(フヒヒ! (すき)だらけだぜお嬢ちゃん!)」 女パン3世はいちごのガードを潜り抜け懐に飛び込んできた。 いちごは咄嗟に身を引く。 だが遅かった。 女パン3世は煙幕(えんまく)()いた。 いちごの予想とは裏腹にそれは甘ったるいイチゴの香りがするピンク色の煙幕だった。

 

「(なっ!? なにこれ! 甘い……!?)」 いちごが一瞬怯(ひる)んだ。 その致命的な(すき)を怪盗は見逃さない。

 

「(いただき! 『初物(うぶもの)』!)」 女パン3世の手がいちごのスカートの中に差し込まれた。 指先が布地(パンティ)を捉える感触。 そしてスッ……という軽い抵抗感と共に。 いちごの腰元から何かが奪い去られる感覚。 信じられないほどの早業(はやわざ)

 

「(え?)」

 

いちごの身体から力が抜けた。 腰元が急激にスースーする。 信じられない無防備な感覚。 煙が晴れていく。 目の前にはもう誰もいない。

 

「(……うそ……)」 いちごは恐る恐る自分のスカートの(すそ)に手を当てた。 何もない。 コスチューム(レオタード)の(なめ)らかな生地があるだけ。 その下は…… 何もない。

 

「(あ……あ……!)」 いちごの顔がカッと赤くなった。

 

「(フヒヒヒヒ! 極上(ごくじょう)のお(たから)ゲットだぜ!)」 声は隣のビルの屋上から聞こえた。 見上げると月を背に女パン3世が立っていた。 その手には高々と(かか)げられた「白地に小粒赤イチゴ柄」のパンティが。 いちごが今朝履いてきたばかりの勝負()下着。

 

「(この素材(そざい)……この(ぬく)もり……! 間違(まちが)いない! これぞ伝説(でんせつ)の『乙女(ヴィーナス)聖布(せいふ)』!)」 女パン3世は恍惚(こうこつ)とした表情でパンティに顔をうずめている。

 

「(あ……あ……! ()られた……! (わたし)の……パンティが……!)」 いちごはスカートを押さえたままその場にへたり込んだ。 衆人環視(※ヨウくんのドローンのみ)の中。 プリティストロベリー史上最大の屈辱。 まさかの「ノーパン」状態に(おちい)ってしまった。

 

『(…………)』 給水塔の陰。 ヨウくんは無言だった。 彼の新PCは4K高画質でプリティストロベリー(ノーパン状態)を記録し続けている。 だが彼の指は震えていなかった。 その代わりに何かがプツリと切れる音がした。 彼の脳内で。

 

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