護って!いちごちゃん!〜いちごパンティは見えてるか〜   作:ろくさん

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劇場版:怪盗女パン3世 VS ノーパン・ジャスティス その2

 

「フヒヒヒ! 極上のお宝ゲットだぜ!」

 

隣のビルから響く下卑た高笑い。 桃瀬いちごはアスファルトの屋上にへたり込んだまま動けなかった。 腰元が寒い。 夜風が吹くたび短いスカートの裾がめくれ上がり素肌を直接撫でていく。 そのたびにいちごの身体が「ひゃっ!」と小さく震えた。

 

(……ない) (……ない……ない……!) (……パンティが……ない!)

 

頭が真っ白だった。 これまでの戦いとは次元が違う。 汚されたことはあった。 破られたこともあった。 だが「盗られた」のは初めてだ。 今この瞬間自分が「ノーパン」であるという厳然たる事実。 それがヒーローとしての使命感よりも強く彼女の思考と身体を縛り付けていた。

 

(……う、動けない……!) (……動いたら……スカートが……!) (……絶対……見えちゃう……!)

 

羞恥と怒りで顔が真っ赤に染まる。 だが女パン3世を追いかけることができない。 彼はまだ屋根の上で月光に「それ」をかざしていた。 いちごが今朝履いてきたばかりの「それ」を。 (やめて……! みんな(ヨウくん)に……見せないで……!)

 

「フヒヒ……この素材……この温もり……! まさに『乙女の聖布』!」 女パン3世は恍惚とした表情で盗んだパンティに顔をうずめている。 その光景がさらなる屈辱をいちごに与えた。

 

(……あいつ……!) (……私の……!)

 

その一部始終を給水塔の陰からヨウくんが完璧に観測していた。 彼の新PCの画面には4K解像度でプリティストロベリー(ノーパン状態)が映し出されている。 ドローンも起動し別アングルからの映像を補足している。

 

(……信じられない……!) ヨウくんは無表情の裏でかつてないほどの興奮に打ち震えていた。 (……戦闘によるコスチューム破損ではない……『装備(パンティ)』そのものの強奪……!) (……結果『ノーパン』状態での戦闘続行不能……!) (……そして何より……!)

 

彼の指がズームスライダーを操作する。 カメラがいちごのスカートの裾ギリギリのラインを捉える。 風が吹きスカートがめくれ上がるたびその奥にあるはずの「聖域」がガードされていない無防備な状態で一瞬だけ垣間見える。

 

(……『聖域』の……ダイレクト観測……!) (……これは……! お宝ショットだ! 劇場版クオリティのデータだ!) (……ホクホク……!)

 

ヨウくんのデータ収集家(コレクター)としての魂が歓喜に打ち震える。 このままいちごが動けずにいてくれればさらに高解像度の無防備ショットが……!

 

だが。 「フヒヒ! 満足満足! アジトに帰ってゆっくり『鑑賞』するとしよう!」 女パン3世が盗んだパンティ(いちごの)を懐にしまいビルの縁から飛び降りようと体勢を低くした。

 

(……! 逃げる!) ヨウくんは我に返った。 (……まずい! このままでは(ターゲット)を取り逃がす!) (……お宝ショットは素晴らしいが本来の目的は迷惑住民の撃退……!) (……そして何より……『サンプルNo.16(脱ぎたて・怪盗汚染)』が持ち去られてしまう!)

 

ヨウくんは一瞬逡巡した。 (……『ノーパン』データ継続か……『戦闘続行・サンプル回収』か……) (……くっ! やむを得ん!) 彼は冷静な判断(※サンプルNo.16の損失は許容できない)に基づき物陰から飛び出した。 その手にはいつもの銀色のポリ(※もちろん常備している)が握られていた。

 

「待て!」 ヨウくんが叫んだ。 「プリティストロベリー! 戦闘続行だ! これを使え!」

 

彼はポリ袋をいちごに向かって全力で投げ渡した。

 

(え?) 女パン3世が飛び降りるのを止めヨウくんを(モヤシが何か投げた)という顔で見た。 いちごは絶望の中から顔を上げた。 銀色のポリ袋がこちらに飛んでくる。 希望の光だ。

 

「(ヨウくん! ナイス!)」 いちごが手を伸ばした。 これでまた戦える。 これで変身できる!

 

だが。 その希望は一瞬で奪われた。

 

「(おっと!)」

 

いちごの手が触れる寸前。 女パン3世が信じられないほどのスピードで横から割り込み。 空中で新品のパンティ(ポリ袋入り)を華麗にキャッチした。

 

いちご「(あ!)」 ヨウくん「(なっ!?)」

 

女パン3世は再び屋根の上に着地しキャッチしたポリ袋を興味深そうに眺めた。 「(ほう? 替えまで持ってるとは……なかなか用意周到なコスプレ女だ)」 「(どれどれ……こちらも『至宝』か……?)」 彼はポリ袋をビリビリに破り中身の新品パンティを取り出した。 真っ新な純白のイチゴ柄。

 

彼はそれを鼻先に近づけクンクンと匂いを嗅いだ。 そして次の瞬間。

 

「(……ペッ!)」

 

彼は心底ガッカリしたような侮蔑したような顔で。 新品のパンティを地面に向かって投げ捨てた。 それはビルの屋上の泥水たまりにバチャリと音を立てて落ちた。

 

いちご「(え!?)」 ヨウくん「(あ! サンプルNo.13(未使用)が!)」

 

女パン3世は懐からさっき盗んだばかりのパンティ(いちごの脱ぎたて)を取り出し。 うっとりと顔に押し当てた。 「(フヒヒ……これだよこれ!)」 「(新品なんかに『(ソウル)』は宿らねえ!)」 「(この! ほんのりとした温もり! わずかな湿り気! そしてこの芳しい処女の香り!)」 「(これこそが至高の『お宝』! 女神(ヴィーナス)の吐息だ!)」 彼は恍惚とした表情で盗んだパンティ(いちごの)を月にかざし愛でている。

 

地面に落ちた新品のパンティが泥水に汚れていく。

 

(…………) (…………魂が宿らない?) (…………新品はゴミ?) (…………私のパンティ(脱ぎたて)の匂い嗅いでる!?) (…………しかも処女とか言った!?)

 

いちごの中で何かが決定的にブチ切れた。 この男はいつもの迷惑住民とは違う。 「子供っぽい」とか「ダサい」とかそういう次元ではない。 これは「パンティ」そのものへの冒涜であり全女性への宣戦布告だ。

 

しかも。 二段変身(バニー)ができない。 新しいパンティ(トリガー)は地面に捨てられた。 いちごはノーパンのまま。 絶望的な状況。

 

(……あいつだけは……!) (……あいつだけは、この私が!) (……パンティを愛する()として! そして! 女の敵として!) (……変身できなくたって! 絶対に許さない!)

 

いちごはスカートを押さえる手を離し。 怒りに震える拳を握りしめた。

 

一方給水塔の陰。 ヨウくんは最高の「ノーパンバトル」データが続行されることに興奮していた。 (……いいぞ。いいぞ桃瀬さん) (……変身できずともその怒りの表情……! 素晴らしい!) (……その無防備な姿でどう戦うのか! データが!)

 

彼はドローンカメラをいちごの顔にズームさせた。 最高の「怒りの表情」を記録するために。

 

そこでヨウくんは見た。

 

いちごの顔。 それはいつものように正義感と怒りに震えていた。 だが。 彼女の瞳には大粒の涙が浮かんでいた。 悔しさ。 恥ずかしさ。 恐怖。 屈辱。 いろんな感情がごちゃ混ぜになって溢れ出していた。

 

いつもはどんなに侮辱されても恥ずかしくても。 怒りが先に立ち輝きを失わなかったあの強い瞳が。 今確かに絶望に揺れていた。 (……だって……パンティないんだもん……) (……戦えないよ……怖いよ……) 声にならない叫びがその瞳から伝わってきた。

 

(…………あ)

 

ヨウくんのキーボードを叩く指が止まった。 録画ボタン(REC)の赤い光が虚しく点滅している。

 

彼の脳内(CPU)から「データ」「サンプル」「聖域」「お宝ショット」「ホクホク」という単語が。 一瞬で消え去った。 高速で回転していた思考が急ブレーキをかける。 高性能プロセッサが未知の感情バグによりフリーズした。

 

(……泣いてる……?) (……桃瀬さんが……?) (……あんな……顔で……?)

 

(……あの猿野郎が……!) (……あいつが……!)

 

(……いちごを……)

 

(…………泣かせた……!)

 

ヨウくんの脳内にこれまで感じたことのない灼けつくような熱――純度百パーセントの「怒り」が奔流となって駆け巡った。 データ収集? 合理性? どうでもいい。 彼の理屈を司る部分が音を立てて焼け切れた。

 

ヨウくん「(…………この、猿野郎が……!)」

 

彼はインカムを引きちぎるように外し地面に叩きつけた。 ドローンの操縦を放棄する。 (※ドローンは自動ホバリングモードに移行し律儀に聖域の撮影を続けていた) そして。 彼が命の次に大事にしていた新しいノートPC(※いちごがまだ壊していない)を。 無造作に給水塔のコンクリートの上に放り投げた。 ガシャンという鈍い音がしたが彼はもう振り向かなかった。

 

そして物陰から飛び出した。 白衣も脱ぎ捨て制服のシャツ一枚で。 運動が得意なわけではない。 格闘技なんか知らない。 鍛えてもいない。 だが彼は走った。 屋上のフェンスを乗り越え隣のビルへと飛び移った。 (……落ちたら死ぬ) そんな計算ももう頭にはなかった。 ただ一心に。 あの猿顔の変態に向かって。 いちごを泣かせた敵に向かって。

 

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