護って!いちごちゃん!〜いちごパンティは見えてるか〜   作:ろくさん

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第14章:撃つな撃つな! クマより迷惑な動物愛護 その2

 

(私が! このプリティストロベリーが!)(クマも! あの人も! そしてみんなも!)(まとめて! 護ってみせる!)(絶対に!)

 

消防車の冷たい金属の陰。 いちごの中で覚悟が決まった。 恐怖はない。 あるのは燃えるような使命感だけだ。 彼女は素早く制服を脱ぎ捨て純白の戦闘服(プリティストロベリー)を装着した。 生地が肌に触れる。 いつもの力がみなぎる感覚。 だが今日はそれだけではない。 守るべき命がたくさんある。 その重みがコスチュームを通してずっしりと伝わってくるようだった。

 

変身完了。 いちごは消防車の陰から飛び出すタイミングを窺った。 広場では依然として混乱が続いている。 パニックになったクマが巨体を揺らしながら走り回り警察官や猟友会の人間を翻弄していた。 麻酔銃を撃つチャンスがない。 野次馬たちは規制線のさらに外側へと後退しているがまだ危険な距離だ。 そして元凶である鳩山ピースケは「クマさん落ち着いて! 僕だよ!」などと的外れな呼びかけを続けながらクマの後を追いかけ回し状況をさらに悪化させていた。

 

(……行くしかない!) いちごは地面を強く蹴った。 消防車の陰から閃光のように飛び出す。 一直線に暴走するクマの真正面へ。

 

「「「!?」」」 突然現れた魔法少女の姿に警察官も猟友会もピースケもそしてクマ自身も一瞬動きを止めた。

 

「そこまで!」 いちigoはクマの数メートル手前で両手を広げ立ちはだかった。 その声は凛としており不思議な説得力を持っていた。 「もうやめて! 大丈夫だから! 誰もあなたを傷つけないから!」 彼女はクマの目を見つめ必死に呼びかける。 動物と話す能力などない。 だが心で伝えようとした。 あなたは悪くない。 ただ迷い込んだだけ。 もう争う必要はないのだと。

 

グルル…… クマの動きが止まった。 充血していた目がわずかに理性を取り戻したように見える。 いちごの放つ尋常ならざるオーラと優しい声に混乱が少しだけ収まったのかもしれない。

 

(……通じた……?) いちごは息を呑んだ。 このまま落ち着かせることができれば……!

 

だがその希望は一瞬で打ち砕かれた。 「待て!」 ピースケがいちごとクマの間に割って入ったのだ。 彼は両手を広げクマを庇うようにいちごの前に立ちはだかる。 その目は敵意と猜疑心(さいぎしん)で燃えていた。 「貴様! 何をする気だ!」 「その怪しい格好……クマさんを捕まえに来たのか!」 「それとも見世物(みせもの)にするつもりか!」

 

(……は!?) いちごは呆気に取られた。 (この人私がクマを助けようとしてるのがわからないの!?) (というか私のこと敵だと思ってる!?)

 

「違う! 私はこの子を落ち着かせようと……!」 いちごが説明しようとする。

 

「黙れ!」 ピースケは聞く耳を持たない。 彼は自分の「正義」に反する者は全て「悪」だと信じ込んでいる。 「動物への暴力は許さん! たとえ相手が非力な少女()であろうとも!」 彼はプラカード(動物は友達!)を捨てると身構えた。 どうやら実力行使も辞さない構えらしい。

 

グルオオオ……! その時いちごたちの背後で再びクマが唸り声を上げた。 せっかく収まりかけていた混乱がピースケの乱入によって再燃してしまったのだ。 クマはいちごだけでなくピースケをも「敵」と認識し始めたようだった。 じりじりと後退りし再び突進の体勢に入る。

 

「(……まずい! クマがまたパニックに!)」 いちごは焦った。 ピースケの相手をしている場合ではない。 クマを止めなければ!

 

「どいてください!」 いちごはピースケを押しのけクマに向き直ろうとした。

 

「させるか!」 ピースケはいちごの腕を掴み引き留めようとする。 「この子が怖がっているだろう!」 (怖がらせてるのはあなたでしょ!) いちごは心の中で絶叫した。

 

二人がもみ合いになる。 いちごはピースケを振りほどこうとするが彼は意外にしつこく食い下がってくる。 「暴力反対!」「動物を愛せ!」などと叫びながらいちごの動きを封じようとする。 その間にもクマは苛立ちを募らせ鼻息荒く地面を掻いている。 突進は時間の問題だ。

 

『(桃瀬さん! (ピースケ)を無力化しろ! クマの突進まであと五秒!)』 ヨウくんの緊迫した声が響く。 (無力化って!) (でもこの人ただの一般人だし!) いちごは躊躇した。

 

だがその躊躇が命取りになった。 グルオオオオオオオオッ!!!! クマが咆哮を上げついに突進を開始した。 狙いはいちごともみ合っているピースケその人だった!

 

「危ない!」 いちごは咄嗟にピースケを突き飛ばした。 ピースケは尻餅をつき呆然と迫り来るクマを見上げている。

 

いちごはクマの前に立ちはだかった。 真正面から受け止めるのは不可能だ。 (いなすしかない!) 彼女は突進してくるクマの巨体をギリギリでかわしその勢いを利用して体勢を崩させようとした。 アトラクションショーで練習した対大型怪人用のアクション。

 

だが相手は着ぐるみではない。 本物の野生動物だ。 その動きは予測不能だった。 クマはいちごにかわされる寸前その巨大な前足(まえあし)()ぎ払うように振るった。 鋭い爪が閃く。

 

「きゃあっ!」 いちごは咄嗟に身をかがめたが避けきれない。 ザンッ! という鈍い音。 衝撃が走りいちごは数メートル吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。

 

「(……いっ……!)」 受け身は取ったが全身を強打する。 息が詰まる。 幸い爪による裂傷(れっしょう)は浅いようだ。 コスチュームの特殊繊維(ヨウくん開発)がある程度防御してくれたらしい。 だが。

 

ビリビリッ! いちごは自分の身体を見て息を呑んだ。 純白のコスチューム。 その脇腹からスカートの裾にかけてがクマの爪によって無惨にも引き裂かれていたのだ。 破れた布地がだらりと垂れ下がりそこから白い肌と下着の一部が覗いている。

 

「(……うそ……! スカートが……!)」 いちごは顔面蒼白になった。 最悪の事態。 またしても衆人環視の中でのコスチューム破損。 そして下着の露出。

 

「「「…………」」」 広場の空気が凍りついた。 警察官も猟友会もそして尻餅をついたままのピースケも呆然といちごの姿を見つめている。 クマだけが「敵」を排除したと判断したのか少し落ち着きを取り戻し再びケヤキの木の方へと戻ろうとしていた。

 

『(……記録。コスチューム破損確認。レベル3。……下着(イチゴ柄・白地に小粒赤)露出確認。……これは……!)』 ヨウくんの声がわずかに上擦っているように聞こえた。 彼のカメラはもちろんその一部始終を高画質高フレームレートで記録していた。

 

いちごは羞恥と痛みで立ち上がれずにいた。 破れたスカートを押さえようとするが傷ついた脇腹が痛む。 (……最悪……また見られた……!) (……しかもクマにやられた……!) 涙が滲んできた。

 

その時だった。 尻餅をついていたピースケがゆっくりと立ち上がった。 彼は目の前で起こった衝撃的な光景(クマの攻撃とコスチューム破損)をようやく理解し始めたようだった。 そして彼の視線はいちごの破れたスカートの下晒されたイチゴ柄のパンティに注がれた。

 

「…………ほう」 ピースケは興味深そうに呟いた。 その目には先ほどの狂信的な光はなく代わりに別の種類の奇妙な「納得」の色が浮かんでいた。 彼はゆっくりといちごに近づいてきた。

 

「(……な、なに……?)」 いちごは警戒した。 この男まだ何かする気なのか。

 

ピースケはいちごの目の前で立ち止まると破れたコスチュームと露出したパンティをじっくりと観察した。 そしてまるで長年の疑問が解けたかのように深く頷いた。

 

「……なるほど」 彼は静かに言った。 その声には奇妙なほどの落ち着きがあった。 「……そういうことか」

 

「(……え? なにが……?)」 いちごは混乱した。

 

ピースケはいちごを見下ろし諭すように言った。 その表情は真剣そのものだった。 「君のような『不自然』な存在がいるから彼ら(動物)は苦しむのだ」

 

「(……は? 不自然……?)」

 

ピースケはいちごのイチゴ柄パンティを指差した。 その指には侮蔑(ぶべつ)の色がはっきりと浮かんでいた。 「その下着……イチゴの柄か」 彼はため息をついた。

 

「なんと浅はかで人間中心的なデザインだろう」 彼は心底残念そうな顔で首を振った。

 

「(……やっぱり来た!)」 いちごは身構えた。 「子供っぽい」「ダサい」いつもの罵倒が来る。

 

だがピースケの指摘は予想の斜め上を行っていた。

 

「イチゴ……ね」 彼はまるで汚物でも見るかのように眉をひそめた。 「それは農薬(のうやく)化学肥料(かがくひりょう)品種改良(ひんしゅかいりょう)……人間の『(ごう)』によって(ゆが)められた自然の姿だ」 彼は人差し指を立ていちごに説教を始めた。

 

「そのパンティ(イチゴ柄)を身につけるということは!」 「君自身が自然への冒涜(ぼうとく)加担(かたん)していることの証左(しょうさ)に他ならない!」 「動物たちはそんな君の『(けが)れ』を感じ取り(おび)え苦しんでいるのだ!」 「君の存在そのものが! 動物たちへの『暴力』なのだ!」

 

(…………) (…………農薬?) (…………人間の業?) (…………自然への冒涜?) (…………穢れ?) (…………私が暴力?)

 

いちごの頭の中でピースケの奇妙奇天烈(きみょうきてれつ)(きわ)まる「パンティ診断」が反響した。 怒りが沸点を超え一周して呆れかえり脳が理解を拒否しそうになる。 だが侮辱は侮辱だ。 彼女の「好き」と「正義」の象徴(イチゴ柄)を自然破壊や動物虐待()にまでこじつけ存在そのものを否定されたのだ。

 

(……この) (……この動物愛誤(あいご)クレーマーがああああああっ!!!!)

 

いちごのアホ毛が怒りで限界まで逆立った。 彼女の全身から凄まじいピンク色のオーラが立ち上る。 脇腹の傷の痛みも羞恥心も吹き飛んでいた。 地面のアスファルトがその熱量で陽炎のように揺らぎ始めた。

 

「(……来た! トリガー成立! しかも『存在否定』レベルの侮辱! これは過去最高値を大幅に更新するブーストが!)」 木陰のヨウくんが新PCの発熱を気にしながらも興奮に打ち震え記録を続けていた。

 

「ヨウくんっ!!!!」

 

いちごの絶叫が混乱する広場に響き渡った。 (※スカート破れパンティ丸見え存在否定され状態で絶叫している)

 

その声に応えヨウくんが木陰から飛び出してきた。 彼の手にいつもの銀色のポリ袋が握られていた。

 

「プリティストロベリーッ!」 今度ばかりはヨウくんも感情を抑えきれないのかわずかに声量を上げて叫んだ。

 

「その『穢れ(けがれ)』を浄化(じょうか)しろ! 新しいパンティだ!」

 

銀色のポリ(新品)が宙を舞った。 それは呆然と立ち尽くす警察官や猟友会の頭上を越えいちごの手元へと正確に飛んでいく。

 

「(……な、なんだアレ……!? またパンツか!? しかも今度は木陰から!?)」 ピースケが空飛ぶポリ袋を見て呆然としている。

 

いちごはそのポリ(新品)を怒りに震える手で掴み取った。 (……この動物愛護の皮を被った偽善者!) (……絶対に許さない!) (……お仕置きタイムです!)

 

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