護って!いちごちゃん!〜いちごパンティは見えてるか〜   作:ろくさん

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第16章:決戦! いちごパークを取り戻せ! その1

 

すっかり秋めいた日差しが埃っぽいオタ研部室に斜めに差し込んでいる。 窓の外では色づき始めた街路樹の葉がはらはらと舞い落ちていた。 どこか物寂しい季節の訪れ。 桃瀬いちごは机に向かっていたが集中力は完全に途切れていた。 目の前のノートには意味不明な数式が並んでいるだけ。 夏休みの宿題は何とか終わらせたものの学業成績が向上する兆しは一向に見られない。

 

(……なんか最近平和だなあ……)

 

先日の駅前での邪教おばさんとの一戦以来町は嘘のように静かだった。 パトロールに出ても迷惑住民の影はなくただ穏やかな時間が流れている。 それはとても良いことだ。 いちごがプリティストロベリーとして戦ってきた成果なのだろう。 でも。 あまりに平和すぎるとそれはそれで少しだけ手持ち無沙汰で落ち着かない。 まるで大きな嵐が来る前の不気味な静けさのようで胸がざわつくのだ。 ヒーローとしての勘だろうか。

 

(考えすぎかな……) いちごはため息をつきノートの数式を睨みつけた。 やはり頭に入ってこない。

 

ふと数日前のことを思い出す。 久々にいちごパークでボランティアのヒーローショーを開催したのだ。 ヨウくんが徹夜で作った新しい怪人(※今度は公園のゴミ箱がモチーフ『怪人ナマゴミン』)も子供たちに大ウケだった。 ショーが終わった後子供たちに囲まれて「ありがとうプリティストロベリー!」「かっこよかった!」とキラキラした目で見上げられた時の高揚感。 あれがあるからやめられないのだ。

 

(やっぱりヒーローショーは楽しいな) (またやりたいねってヨウくんとも話したっけ) 始まりと同じヒーローショー。 それがきっかけでこれまでの戦いが次々と思い出される。

 

公道に櫓を組んだ撮り鉄の山田さん。 回転寿司で迷惑配信していたミミちゃん。 砂場の王様だったショータくんは最近公園で会うと「プリティストロベリー様!」と敬礼してくるようになった。可愛い。 銭湯の神田川兄妹一番風呂は譲らないけど開店前の行列整理を手伝うようになったらしい。 暴走老人だったプリウスのおじいさんは免許返納して今は元気にシルバーカーを押している。 商店街をディスで支配していたラップおばさんは最近は孫と一緒にフリースタイルラップの練習をしているとか。微笑ましい。 市民プールの女帝ウォーキングオババは幼児用プールで水中歩行教室を開き子供たちに大人気らしい。ちょっと意外。 春の珍事コート(一丁)おじさんは……まああれは通報して正解だった。うん。 保育園のボイン先生は相変わらずだけど見学者(おじさん軍団)の数は激減したと聞いた。ヨウくんの情報操作のおかげだろうか。 カフェのアヌスソムリエ勇人くんは顎の治療後なぜか健康食ブログを始めて一部で人気らしい。方向性はともかく更生したなら良かった。 迷惑外国人イジュウ・シャーさんは鈴木さんの熱心な指導(と監視?)のおかげでゴミ出しルールを(渋々)守るようになったとか。 駅前のフェミさんことカチコさんは拡声器を失ってからは少し大人しくなったと聞く。 クマ騒動のピースケさんは……今は動物園でボランティアをしているらしい。直接触れ合わない距離で。それがいい。 セクハラ専務の中居さんは……両手首骨折(全治半年)で会社を休職中だと風の噂で聞いた。まあ自業自得だ。

 

(……みんな……変わったのかな) いちごは少しだけ胸が温かくなった。 自分の戦いが無駄じゃなかったのかもしれない。 この町が少しだけ良い方向に変わったのかもしれない。 そう思うとまたヒーローショーをやって子供たちを笑顔にしたいという気持ちが湧いてくる。 (よし! 次のショーの構成考えよう!) いちごはノート(数学用)の隅に新しい必殺技のアイデアを描き始めた。完全に現実逃避だ。

 

隣の席ではヨウくんが黙々と新PCに向かっていた。 画面にはいちごには理解不能な複雑な回路図のようなものが表示されている。 時折カチカチとキーボードを叩き設計データを修正しているようだ。 (ヨウくんも何か新しいの作ってるんだ) (どうせまた私のスカートの中撮るための新しいカメラとかでしょ) いちごはジト目でヨウくんの横顔を見た。 彼の足元の自作ヒーター付き冷風扇が静かに稼働している。

 

(……ん?) いちごはふと自分の思考に引っかかりを覚えた。 (……『どうせ私のスカートの中撮るため』……?) (……あれ? 私なんでそんなこと当たり前みたいに思ってるんだろ……?)

 

思考がぐるぐると回り始める。 そうだ。 ヨウくんはいつも私のスカートの中を狙っている。 それは知っている。 彼は私の使用済みパンティを毎回律儀に回収している。 それも知っている。というかさっき思い出した。

 

(…………) (…………あれ?) (…………回収されてる……?) (…………私の……パンティ……?)

 

いちごの顔から急速に血の気が引いていく。 今まで戦闘の興奮や羞恥心で流してしまっていた事実。 そのおぞましさに今更ながら気づいてしまった。

 

(え? え? え?) (あの時脱いだやつ……) (あの時の泥まみれのやつ……) (赤飯って言われたやつ……) (水玉のやつ……) (邪教ばばあの顔面に叩きつけたやつ……)

 

(……ぜ、全部……ヨウくんが……!?)

 

いちごは恐る恐るヨウくんの手元を見た。 彼は相変わらず無表情でPC作業に没頭している。 だがその白衣のポケットが不自然に膨らんでいる気がする。 (まさか……今も……!?)

 

(……ど、どうしてるの!?) (私の……お古のパンティ……!) (……な、何されてるの……!?)

 

最悪の想像(実験? 解析? 標本? まさか着用!?)が頭の中を駆け巡りいちごは全身から汗が噴き出した。 部室の暑さとは違う種類の熱。

 

(……ていうか!) いちごはさらに重大な事実に気づき戦慄した。 (『どうせ私のスカートの中撮りたいだけだろう』って……!) (なんで私そんなこと当然みたいに受け入れてるの!?) (見られて当たり前? 撮られて当たり前?) (……だ、ダメじゃん! それ!) (……それじゃまるで……私が……痴女みたいじゃん!?)

 

「うわああああああ!」 いちごは突然奇声を上げ頭を抱えて机に突伏した。 羞恥と自己嫌悪と恐怖が一気に押し寄せてきた。 アホ毛が限界まで逆立っている。

 

「……どうした桃瀬さん」 ヨウくんがようやく画面から顔を上げ怪訝そうにいちごを見た。 「ついに宿題のプレッシャーで精神が崩壊したか」

 

「ち、違う!」 いちごは顔を真っ赤にして勢いよく立ち上がった。 そして震える指でヨウくんを指差した。

 

「よ、ヨウくん!」

 

「なんだ」

 

「……み、見ちゃダメ! 絶対!」

 

「……何をだ?」 ヨウくんは心底わからないという顔をしている。 (この男……! とぼける気だ!)

 

「私! 私のスカートの中とか! パンティとか!」 いちごはもう羞恥心をかなぐり捨てて叫んだ。 「見るのもダメ! 撮るのもダメ! 回収するのも絶対ダメ!」 「もし! もし次やったら……!」 いちごは拳を握りしめた。 「……問答無用で忘れろ攻撃(パンチorビームorクラッシュ)だからね!」

 

「…………」 ヨウくんは数秒間黙考した。 そして冷静に分析結果(言い訳)を述べ始めた。 「桃瀬さん君は誤解している」

 

「誤解じゃない!」

 

「僕のデータ収集は決して君個人の『下着』を対象としているわけではない」 「あくまでプリティストロベリーという『ヒーロー』の戦闘行動における身体(からだ)挙動(きょどう)空気抵抗被弾(ひだん)時の素材(そざい)の変化そして何より変身(バニー化)プロセスにおけるエネルギー変換効率(へんかんこうりつ)を計測記録しているに過ぎない」 彼は新PCの画面にいくつかのグラフや3Dモデル(※もちろんハイレグ形態)を表示させた。 「その副産物(ふくさんぶつ)として『パンティ』と一般的に呼称(こしょう)される部位(ぶい)のデータが記録されることは否定しない。だがそれは目的ではなくあくまで結果だ」

 

「(……なんかすごいそれっぽいこと言ってる……!)」 いちごは一瞬丸め込まれそうになった。 だが騙されない。

 

「じゃあ! 回収したパンティはどう説明するの!?」 「あれだってデータ収集の『結果』なの!?」

 

「……あれは」 ヨウくんは少しだけ言い淀んだ。 そして苦し紛れ(?)の言い訳を捻り出した。 「……あれは『サンプル』だ」

 

「サンプル!?」

 

「そうだ。戦闘によって付着した敵性因子(てきせいいんし)(泥油唾液聖水?クマ成分?等)が君の身体(からだ)や変身能力に与える影響(えいきょう)を分析するための貴重なサンプルだ」 「決して僕個人の趣味や嗜好(しこう)によるものではない。……科学的探求心(たんきゅうしん)の結果だ」 彼はメガネをクイと上げ断言した。 その目は(いちごには)どこまでも真剣に見えた。

 

「(……かがくてき……たんきゅうしん……?)」 いちごは完全に混乱した。 ヨウくんの言っていることは意味不明だ。 だがそのあまりの堂々とした態度に自分の怒りの方が間違っているような気さえしてきた。 (……え? もしかして私のパンティってそんなに重要な研究対象なの……?) (……私の知らないところで世界の平和とかに関わってるの……?)

 

「……と、とにかく!」 いちごは気を取り直し叫んだ。 「それでもダメ! 見るのも撮るのも回収も禁止!」 「わかった!?」

 

「……善処(ぜんしょ)しよう」 ヨウくんは曖昧(あいまい)に頷くと再びPC画面に向き直った。 彼の指が素早くキーボードを叩く。 (※今しがたの会話データ及びいちごの表情変化データを『対桃瀬いちご用言い訳データベースVer.2.0』に記録更新している)

 

「(……ぜんしょ……って絶対わかってないやつ……!)」 いちごは脱力した。 この男に常識は通用しない。 だが今はこれ以上追及する気力もなかった。 (……とりあえず(くぎ)は刺した……はず)

 

平和な日常。 それはご近所の迷惑住民だけでなくすぐ隣にいるこの変態紳士()との終わらない戦いの日々でもあるのかもしれない。 いちごは大きなため息をつき再び宿題(羅生門)へと意識を戻そうと努力するのだった。 だが頭の中は回収された自分のパンティの行方でいっぱいだった。

 

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