護って!いちごちゃん!〜いちごパンティは見えてるか〜   作:ろくさん

5 / 52
Origin:誕生!ご近所おせっかいヒーロー! その2

 

「その衣装で……僕と、ショーをしないか?」

 

ヨウくんの、いつも通りの無表情から放たれた言葉を、桃瀬いちごは最初、理解できなかった。

 

「え……ショー?」

 

「ああ。ボランティアの、ヒーローショーだ」

 

ヨウくんは、ツー、と流れたままだった鼻血を、ようやく白衣の袖で拭うと、PCデスクに戻り、キーボードを数回叩いた。

ディスプレイに映し出されたのは、見慣れた町の地図。

その中心にある、緑色の区画が、赤くマーキングされていた。

 

「ここだ。通称『いちごパーク』」

 

「わ! 私が昔よく遊んでた公園だ! なんで『いちごパーク』って知ってるの?」

 

「……この辺りの子供たちが、そう呼んでいる。理由は知らないが」

 

(本当は、君がいつもその公園のイチゴ型の遊具で遊んでいたのを、僕が知っているからだ、とは言えない)

ヨウくんは、無表情の裏で、過去の膨大な「桃瀬いちご観察データ」を反芻していた。

 

「そこで、ヒーローショー……」

 

いちごの目が、ゆっくりと輝き始めた。

自分が作った(ヨウくんに作ってもらった)最高の衣装で、ヒーローショー。

それは、ニチアサアニメを見て育った彼女にとって、最高の夢の一つだった。

 

「やる! やるよ、ヨウくん!」

 

「……そう言うと思った」

 

ヨウくんは、メガネの奥で、瞳を細めた。

彼の内心は、いちごの純粋な動機とは、まったく別の欲望で燃え上がっていた。

(この完璧な作品(プリティストロベリー)を、薄暗い部室でマネキンに着せておくだけなど、宝の持ち腐れだ)

(白日の下に晒し、あらゆる角度から、光量の変化、動きによる布地の揺らぎ、そして何より、あの計算され尽くしたスカートの『奇跡の瞬間』を、記録(データ)に残さなくてはならない)

(ヒーローショー。なんと素晴らしい大義名分だろうか)

 

「でも、ショーって言っても、私一人じゃ……あ、もしかして、ヨウくんもコスプレするの!?」

 

「……僕の仕事は、裏方だ」

 

ヨウくんは、無表情のまま、不敵に(見えなくもない感じで)口の端を上げた。

 

「ヒーローには、(ヴィラン)が必要だろう?」

 

その週末は、瞬く間にやってきた。

土曜日の早朝。いちごが、まだ眠い目をこすりながら「いちごパーク」に到着すると、そこには、信じられない光景が広がっていた。

 

「よ、ヨウくん……これ……」

 

公園の中央広場に、即席のステージ(ブルーシート)が敷かれ、その背後には、段ボールとガムテープで作られたとは思えない、精巧な「悪のアジト(背景)」がそびえ立っていた。

スピーカーとラジカセ(BGM用)までセッティングされている。

そして、その脇に、一体の「怪人」が立っていた。

 

銀色のスプレーで塗られた、寸胴のボディ。

胸には、大きく「氷」のマーク。

頭部は、自動販売機のお釣りの取り出し口を模したような、不気味なデザイン。

 

「すごい! 何これ! めっちゃクオリティ高い!」

 

「……昨夜、徹夜で仕上げた」

 

その怪人の着ぐるみの中から、ヨウくんの、いつも通りのくぐもった声がした。

 

「そいつの名は、『怪人ワルソーダ』。いちごパークの自動販売機を占拠し、子供たちから『お釣り』を奪い、世界を氷河期に陥れようと企む、悪の組織の尖兵だ」

 

「(設定が細かい!)」

 

いちごは、段ボールとは思えない完成度に、感動していた。

(ヨウくん、本当に妖精さんだ……!)

彼女は気づいていなかった。

その「怪人ワルソーダ」の、自動販売機のお釣りの取り出し口を模した「目」の部分が、いちごの身長に合わせて、完璧な「ローアングル」を捉える位置に、設計されていることなど。

 

「さあ、桃瀬さん。着替えてくれ。観客が来る前に」

 

「うん!」

 

いちごは、公園のトイレ(多目的用)に駆け込み、カバンから愛用のコスチュームを取り出した。

生地が肌に触れるたび、高揚感で胸が高鳴る。

(ヒーローショー……本物の、ヒーローショーだ!)

(『スウィートハート』みたいに、うまくできるかな……)

(ううん、やるんだ! 子供たちを、笑顔にするんだから!)

 

プリティストロベリーへの変身を終えたいちごが、トイレから飛び出すと、公園には、すでに数人の子供たちと、その親たちが、遠巻きに「何が始まるんだろう?」という顔で集まり始めていた。

 

「わ……」

 

「プリティストロベリー。時間だ」

 

怪人ワルソーダ(ヨウくん)が、無機質な動きで、ラジカセの再生ボタンを押した。

ジャジャーン!

どこかで聞いたことのある(『スウィートハート』のBGMを、ヨウくんがそれっぽくアレンジした)勇ましい音楽が、公園に鳴り響く。

 

「み、みんなー! こんにちはー!」

 

いちごは、緊張で声が裏返りそうになるのを必死にこらえ、ステージ(ブルーシート)の上に飛び出した。

 

「「「…………」」」

 

子供たちが、ポカン、とした顔で、いちごを見ている。

(う、ウケてない……!?)

 

「(桃瀬さん、アドリブが弱い。台本通りに)」

 

怪人ワルソーダが、背後からボソッと呟いた。

 

「(あ、そうだった!)」

 

いちごは、コホン、と咳払いをすると、練習した完璧なポーズを決めた。

 

「愛と正義の! プリティストロベリー!」

 

その、あまりにも完璧なコスチュームと、本物(テレビ)と見紛うばかりの決めポーズに、子供たちの目の色が、変わった。

 

「「「わああああ!!」」」

「プリティストロベリーだ!」

「本物!?」

 

さっきまでの静けさが嘘のように、子供たちがステージ(ブルーシート)の前に殺到する。

 

「(よし! 掴んだ!)」

 

いちごの緊張が、一気に「役者」としての快感に変わる。

 

「みんなの笑顔は、いちごが護るよ!」

 

「キャー! がんばれー!」

 

その時、ステージの(背景の裏)から、怪人ワルソーダが、わざとらしい足取りで登場した。

 

「ウガーッ! 邪魔ヲスルナ、プリティストロベリー!」

 

「(ヨウくん、声作った! すごい!)」

 

「コノ公園ノ自販機ヲ、全部ブラックコーヒーニシテヤル! オ釣リハ全部、俺様ノモノダ!」

 

「「「えー! やだー!」」」

「ブラックコーヒーきらい!」

子供たちから、本気のブーイングが飛ぶ。

 

「(よし、完璧な流れだ……!)」

怪人ワルソーダ(ヨウくん)は、満足していた。

彼の視界(ローアングル)には、今、完璧な光線状態で、プリティストロベリーのスカートの内部、その聖域が、映し出されていた。

(素晴らしい……! これが、これこそが、僕の求めた芸術(アート)だ……!)

彼は、着ぐるみの目の(カメラ穴)に仕込んだ、超小型カメラの録画ボタンを、バレないように押した。

 

「させません! ワルソーダ!」

 

いちごが、ワルソーダに向かって走り出す。

二人の、練習(という名の撮影会)通りの、アトラクションバトルが始まった。

 

いちごが、華麗な回し蹴り(もちろんパンティは見えないギリギリの角度)を繰り出せば、

「ウガーッ!」

ワルソーダが、大げさに吹飛ぶ。

 

「(桃瀬さん、今のキック、軸足が五度ブレた。だが、スカートの翻り方は、九十二点だ)」

 

「(ありがとう! ヨウくん!)」

 

(※テレパシーではなく、ただの阿吽の呼吸である)

 

子供たちのボルテージは、最高潮に達していた。

「いけー! プリティストロベリー!」

「やっちゃえー!」

 

「(よし、クライマックスだ!)」

いちごは、台本通り、必殺技のポーズに入る。

 

「みんな! 私に力を貸して!」

 

「「「がんばれーーー!!」」」

 

「とどめです! ストロベリッシュ……」

 

いちごが、必殺技の名前を叫ぼうとした、その瞬間だった。

 

「どけよ、ガキども!」

 

怒号。

それまで、幸せな声援だけが響いていた空間に、不協和音が突き刺さった。

 

「アングル入んだよ! どけ!」

 

ドン!

人垣をかき分け、異様に巨大な望遠レンズをつけた一眼レフカメラを構えた(迷惑カメコ)が、最前列にいた小さな男の子を、乱暴に突き飛ばした。

 

「うわっ!」

 

男の子は、避けきれずに、ブルーシートの上に尻餅をつき、驚きと痛みで、わあっ、と泣き出した。

 

「「「…………」」」

 

公園の空気が、一瞬で、凍りついた。

BGMだけが、間抜けに鳴り響いている。

いちごの、必殺技のポーズのまま、固まった。

怪人ワルソーダ(ヨウくん)も、吹飛ばされたポーズのまま、固まった。

 

「な……」

 

いちごが、呆然と呟く。

カメコは、泣き出した子供には目もくれず、いちごに向かって、カシャ、カシャ、とシャッターを切り始めた。

 

「チッ、ピントが合わねえな……」

 

カメコは、レンズを構えたまま、いちごに向かって、唾を飛ばすように言った。

 

「おい、そこのコスプレ」

 

「え……」

 

「ポーズとれよ、ポーズ。さっきのキック、もう一回やれ。今度はもっと足開け。パンティ見えるようにな」

 

下品な笑い声。

シャッター音。

子供の、泣き声。

 

いちごの中で、何かが、プツン、と切れる音がした。

 

(足、開け……?)

(パンティ、見えるように……?)

(この、子供たちが、見てる前で……?)

(この、子供を、突き飛ばして、泣かせて……?)

 

さっきまで「プリティストロベリー(役)」だった彼女の意識が、急速に「桃瀬いちご(本人)」の怒りに塗り替えられていく。

アホ毛が、怒りに、ピーン! と逆立った。

 

「(……桃瀬さん?)」

ワルソーダ(ヨウくん)が、ただならぬ気配を感じ取る。

(空気が……変わった。これは、台本にない……)

 

いちごは、ゆっくりと、必殺技のポーズを解いた。

そして、泣いている男の子に、ゆっくりと歩み寄る。

 

「だ、大丈夫……?」

 

「う……うわあああん! プリティストロベリー!」

 

男の子は、いちごの衣装に抱きついて、泣きじゃくる。

 

「(チッ、クソガキが……! 邪魔だ……!)」

カメコが、舌打ちするのが聞こえた。

 

いちごは、男の子の頭を優しく撫でると、そっと母親の元へ返し、再び、カメコに向き直った。

その目は、もう「ヒーローショーのお姉さん」の目ではなかった。

 

「……あなた」

 

「あ?」

 

「子供を泣かせて。みんなの楽しい時間を邪魔して」

 

いちごは、一歩、カメコに詰め寄る。

その気迫に、カメコは、思わず一歩、後ずさった。

 

「な、なんだよ……営業妨害かよ……」(※営業ではない)

 

「許しませんっ!!」

 

いちごの叫びが、公園中に響き渡った。

それは、彼女が愛してやまないニチアサアニメ『スウィートハート』の主人公が、怒りを爆発させるときの、決めゼリフだった。

 

「(……来た!)」

ワルソーダ(ヨウくん)は、怪人の着ぐるみの中で、録画ボタンを押す指に、力を込めた。

(これだ! これこそが、本物の「感情(データ)」だ!)

 

「な、なんだと、このアマ……!」

 

カメコは、逆ギレし、馬鹿でかい望遠レンズを、いちごに向かって振り回した。

威嚇のつもりだった。

 

「危ない!」

親たちが叫ぶ。

だが。

 

いちごは、その大振りな一撃を、まるで練習(ショー)殺陣(たて)のように、最小限の動きで、ひらりとかわした。

 

「なっ!?」

 

「そんなもので!」

 

いちごは、カメコの懐に飛び込むと、ショーで練習した通りの、完璧な「手刀」を、カメコの首筋(寸止め)に叩き込んだ。

 

「ひぃっ!」

 

カメコは、本当に殴られたかのように、驚いて尻餅をついた。

 

「(すごい……! あの殺陣の動きを、実戦で……!)」

ヨウくんが、興奮に震える。

 

いちごは、尻餅をついたカメコを、冷たく見下ろした。

そして、集まった子供たちと親たちに向かって、ビシッと、今日一番の決めポーズを取った。

 

「愛と正義の! プリティストロベリー!」

 

子供たちが、息を飲む。

 

「ご近所の平和を乱すあなたに!」

 

いちごの視線が、カメコを射抜く。

 

「お仕置き、です!」

 

「「「うおおおおおーーー!!」」」

 

さっきまでのショーとは比べ物にならない、地鳴りのような大歓声が、公園を包んだ。

「すげえ!」

「かっこいい!」

「やっちまえー!」

 

「ひ……!」

 

カメコは、その異様な熱気に、完全に気圧されていた。

いちごは、カメコの目の前にしゃがみ込むと、ニコリ、と(ただし目は笑っていない)微笑んだ。

 

「二度と、子供たちを泣かせないでくださいね?」

 

「は、はいぃ……!」

 

その時、カメコが振り回したはずみで、彼のカメラのレンズキャップが、ブルーシートの上に転がっているのが見えた。

いちごは、それを拾い上げると、カメコの巨大な望遠レンズの先端に、優しく、しかし、ギリギリと音を立てるほどの力で、ねじ込んだ。

 

「(あ、レンズキャップ……フィルターごと、いってる……)」

ヨウくんだけが、その破壊行為に気づいていた。

 

「さあ、もう、帰ってください」

 

「は、はい! すいませんでした!」

 

カメコは、高価なカメラを抱えると、這うようにして、公園から逃げ出していった。

その背中に、子供たちからの「ざまーみろ!」という声が飛ぶ。

 

カメコが完全に走り去った後。

公園は、一瞬の静寂の後、爆発するような拍手と歓声に包まれた。

 

「ありがとう! プリティストロベリー!」

「かっこよかった!」

泣いていた男の子も、もうすっかり笑顔に戻り、いちごに駆け寄ってきた。

 

「(……あ)」

いちごは、子供たちに囲まれ、頭を撫でたり、ハイタッチをしたりしながら、感じていた。

(『スウィートハート』の受け売りじゃない……)

(私、今、本当に、誰かを助けられた……?)

(……すごい。気持ち、いい……!)

アドレナリンが、全身を駆け巡っていた。

 

その光景を、怪人ワルソーダ(ヨウくん)は、少し離れた場所から、静かに見つめていた。

(……ショーは、台無しになった)

(だが、それ以上の『データ』が取れた)

彼のカメラ(小型)は、いちごがカメコに「お仕置きです!」と宣言した、奇跡のローアングルを、完璧に捉えていた。

 

その日の夕方。

オタ研の部室は、いつになく熱気に包まれていた。

 

「ヨウくん! 私、決めた!」

 

いちごは、制服姿に戻っても、興奮冷めやらぬ様子で、机をバン! と叩いた。

 

「私、やるよ! この(コスプレ)で、困ってる人を助ける! ご近所の平和を護る、本物のヒーローになる!」

 

アホ毛が、決意に、ビンビンに立っている。

ヨウくんは、PCのディスプレイから目を離さずに、静かに応えた。

ディスプレイには、今日の「奇跡のローアングル(動画)」が、何度もリピート再生されていた。

 

「……そうか」

 

「うん! だから、ヨウくん! これからも、私をサポートして!」

 

「(……サポート)」

 

ヨウくんは、ゆっくりと、いちごの方を振り向いた。

その無表情な顔の裏で、彼もまた、一つの「決意」を固めていた。

 

(桃瀬さん。君は、まだ気づいていない)

(君が「正義(ジャスティス)」に目覚めた時、君のスカートの翻り(あおり)アングルは、平常時の百五十パーセント増しになるという、この驚異的なデータに)

(君の「お仕置き」は、僕の「芸術(データ収集)」と、完全に一致する)

 

「……ああ。決めた」

 

ヨウくんは、立ち上がり、白衣を羽織った。

 

「僕が、君の活動を、全力でサポート(撮影)する」

 

「やったー! ありがとう、ヨウくん!」

 

こうして、町の平和を護る「プリティストロベリー」と。

その活動を、あらゆる意味で記録し続ける「(自称)妖精」。

二人の、ご近所の平和を護る戦い(とパンティ回収の日々)が、今、本当に始まったのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。