護って!いちごちゃん!〜いちごパンティは見えてるか〜   作:ろくさん

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第3章:回る寿司! 止まらない迷惑(バズ)らせ屋 その1

 

「――というわけで、だ」

 

放課後のオタ研部室。

ヨウくんが、白衣の胸ポケットから取り出したレーザーポインターで、壁に貼り出された巨大なグラフ(※ヨウくんが徹夜で作った)の一点を指し示した。

 

「先日の『山田(撮り鉄)』案件における、『プリティストロベリー・バニー』への二段変身。そのトリガーとなったのは、君の『お気に入り(イチゴ柄)』への直接的な『汚損』および『侮辱』だった」

 

「うう……あの時のこと、思い出させないでよ……」

 

桃瀬いちごは、机に突っ伏し、耳を塞いだ。

あの、油まみれの黒い(一脚)が、純白のイチゴ柄に突き立てられた悪夢の瞬間。思い出すだけで、怒りでアホ毛が逆立つ。

 

「だが、重要なデータだ。つまり、君の戦闘能力のブーストには、『精神的ストレス(パンティへの罵倒)』が不可欠である、という仮説が成り立つ」

 

「えー! やだよそんなの! 私だって、好きでパンティ汚されたり、バカにされたりしてるわけじゃないんだから!」

 

「わかってる。だから、今後の活動においては、いかに効率よく『パンティ被害』を誘発し、敵に『侮辱』させるか。そのシミュレーションが必要だと……」

 

「ヨウくんっ!」

 

いちごが、ガタッと椅子から立ち上がった。

その勢いで、ミニスカートの制服が、ふわりと危険な角度で舞う。

 

「(……仰角、三十五度。本日は、ピンク地に白の水玉。良好なデータだ)」

 

ヨウくんは、メガネの奥で冷静にその挙動を記録しながら、何事もなかったかのように続けた。

 

「……まあ、それはそれとして。桃瀬さん。君、腹、減ってないか?」

 

「え?」

 

唐突な話題転換に、いちごは目をパチクリさせた。

途端、彼女のお腹が、きゅるるる~、と、非常に可愛らしい音を立てた。

 

「あう……」

 

「……そのようだ。今日の活動報告(という名のデータ分析)は終了。夕食にしに行こう」

 

「夕食!? ヨウくんのおごり!?」

 

「ああ。先日の『山田(撮撮)案件』のデータ(※奇跡のローアングル写真)が、某所に高く売れ……いや、なんでもない。とにかく、僕が出す」

 

「やったー! さすがヨウくん、妖精さんだ! 太っ腹!」

 

「(……太っ腹、か。物理的な意味では、むしろ逆だが)」

ヨウくんは、自分の細身の腹を見下ろしながら、小さく呟いた。

 

「なに食べるの!? ラーメン!? ハンバーグ!?」

 

「いや。今日は、こいつのテストも兼ねている」

 

ヨウくんが、カバンから取り出したのは、黒縁の、何の変哲もない「メガネ」だった。

 

「……ただのメガネ?」

 

「表向きはな。だが、これには、最新鋭の『視線追尾型・超小型カメラ』が内蔵されている。僕のメインカメラ(スマホ)が使えない状況下での、補助的なデータ収集(盗撮)用だ」

 

「(よくわかんないけど、ヨウくんの新しいオモチャってことね!)」

いちごは、深く考えずにそう結論付けた。

 

「このカメラの『流体予測(※回転する物体を追う)』性能を試すのに、最適な場所がある」

 

「最適な場所?」

 

「ああ」

 

ヨウくんは、無表情のまま、その場所を告げた。

 

「『回転寿司』だ」

 

「お寿司! やったー!!」

 

いちごのテンションは、最高潮に達した。

 

駅前の、大手チェーン回転寿司『スシ・ユニバース』。

週末でもないのに、店内は、家族連れや、学校帰りの学生たちで賑わっていた。

酢飯の匂い、威勢のいい店員の声、そして、皿がカチカチと流れていく機械音。

いちごは、その活気ある空気に、目を輝かせていた。

 

「わー! お寿司久しぶり! ヨウくん、私、今日はイクラとサーモンとエンガワと……!」

 

「落ち着け、桃瀬さん。まずは席だ」

 

二人は、カウンター席の端に案内された。

隣のボックス席では、小さな男の子が「マグロだー!」とはしゃぎ、その両親が「こら、大きな声出さないの」と苦笑している。

平和な、日常の光景だった。

 

「さて。テストを開始する」

 

ヨウくんは、おもむろに、例の「カメラ付きメガネ」を装着した。

 

「(ふむ……。レンズのキャリブレーションは完璧だ。桃瀬さんの横顔も、クリアに映る)」

彼の視界の隅には、小さな録画(REC)マークが点灯していた。

 

「(……どれ。まずは、流体予測を)」

ヨウくんの視線が、目の前を流れていく寿司のレーンを捉える。

(マグロ、通過。イカ、通過。……桃瀬さんの大好物、サーモン、接近)

 

「あ! サーモン来た!」

 

いちごが、手を伸ばす。

その指が、皿を掴む瞬間を、ヨウくんの「視線」は、完璧に追尾していた。

(……よし。性能に問題なし。これなら、いかなる『パンティが翻る瞬間』も、見逃すことはない)

 

「いただきまーす! んー! とろけるー!」

 

幸せそうにサーモンを頬張るいちご。

ヨウくんも、とりあえず、目の前を流れていた「ガリ」の皿を取った。

 

(さて、次は、音声(マイク)のテストだ。周囲のノイズキャンセリングは……)

ヨウくんが、意識を「耳」に集中させようとした、その時だった。

 

「――ねえ、ちょっと! 聞いてる!? マジありえないんだけど!」

 

隣の、いちごたちの背中合わせになっているボックス席から、やけに甲高い、ヒステリックな女の声が響いてきた。

 

「(……うるさいな)」

いちごは、イクラの軍艦巻きに手を伸ばしながら、わずかに眉をひそめた。

 

「だからさー! ミミがこーんなに可愛く『かわちいポーズ』してあげたのに、あの店員、マジ、シカトすんの! ウケる!」

 

声の主は、スマートフォンの画面に向かって、一人で喋り続けているようだった。

どうやら、生配信でもしているらしい。

 

「『ミミしか勝たん』、ありがとー! あ、『今日のミミもかわちい』、そーだよ、わかってるじゃん!」

 

(うわ……)

いちごは、ドン引きした。

その声援は、どう聞いても、本人がキーボードを叩いて打ち込んでいるようにしか聞こえない、不自然な()があったからだ。

 

「まあ、いいや! みんな、見て見て! スシ・ユニバースなう! ミミ、お寿司食べちゃいまーす!」

 

いちごは、気を取り直して、次のネタ(エンガワ)に集中しようとした。

だが、その迷惑な声は、さらにボリュームを上げる。

 

「えー、何食べよっかなー。あ、これにしよ!」

 

ガタン!

大きな音がして、いちごが思わず振り返ると。

そこには、衝撃的な光景が広がっていた。

 

ピンク色の、ツインテール。

フリフリの、黒い地雷系の服。

やけに濃いメイクの少女――自称「ミミ」が、ボックス席で、スマートフォンを自撮り棒に固定し、満面の笑みで、レーンを流れる「プリンの皿」を掴んでいた。

……掴んでいたのだが。

 

「あ、やっべ。これ、ミミのじゃないわ」

 

ミミは、プリンの皿を、一度、自分の手元に引き寄せた。

そして、それが、後ろの(※彼女よりレーンの手前側)の客が注文した「注文品」の札が乗っていることに気づくと、チッと舌打ちした。

 

「ま、いっか。はい、これあげるー」

 

ミミは、あろうことか、一度手元に取ったプリンの皿を、そのまま、再び、回転レーンに戻したのだ。

 

「「…………」」

 

いちごとヨウくんは、固まった。

隣のボックス席で、子供に寿司を食べさせていた母親も、その光景を目の当たりにし、「え……」と絶句している。

 

「(……今の、見たか、桃瀬さん)」

 

「(……うん、見ちゃった)」

 

二人は、アイコンタクトだけで、そう会話した。

回転寿司において、「一度取った皿をレーンに戻す」のは、最も重い罪の一つだ。

もちろん、食品衛生法にも、店のルールにも、明確に違反している。

 

「さーて、ミミは、これにしよっかな!」

 

ミミは、周囲の凍りついた空気など一切気づかず、今度は「鉄火巻き」の皿を取った。

そして、カメラに向かって、ウインクする。

 

「はい、あーん! ……なーんてね、ミミが食べちゃうんだから!」

 

彼女は、鉄火巻きを一つ、指で掴むと、カメラの前に突き出した。

そして、次の瞬間。

いちごは、自分の目を疑った。

 

ミミは、その鉄火巻きを、食べるのかと思いきや。

ぺろり、と。

寿司の、シャリの部分だけを、舌で、舐めたのだ。

 

「んー、テイスティング! ……あ、やっぱ、マグロの気分じゃなーい」

 

そして。

その、舐めた鉄火巻きを。

こともなげに、皿に、戻した。

 

「…………」

 

いちごの手が、湯呑みを握る力で、ミシリ、と音を立てた。

アホ毛が、怒りで、小刻みに震え始めている。

 

「(桃瀬さん、落ち着け。まだだ。……まだ、証拠が弱い)」

ヨウくんが、メガネ(カメラ)の角度を微調整しながら、冷静に呟く。

(この距離、この角度。完璧だ。ミミの舌と、シャリの接触、明確に記録完了)

 

ミミの暴挙は、止まらない。

「あー、喉乾いたなー」

彼女は、テーブルに備え付けられている、粉末緑茶の入った「湯呑み」を手に取った。

まだ、使っていない、まっさらな湯呑みだ。

 

「これ、みんな同じの使って、キモくね?」

 

ミミは、そう言うと。

あろうことか、その湯呑みの「飲み口」の部分を。

ぺろり、と、一周、舐めた。

 

「こうしとけば、ミミ専用っしょ! ミミの、間接キッス、ゲットだぜ!」

 

そして、その舐めた湯呑みを、元の、未使用の湯呑みが積まれている棚に、戻したのだ。

 

「「「…………」」」

 

もう、誰も何も言えない。

隣の家族連れの母親は、子供の目を、慌てて手で覆っている。

父親は、怒りで顔を真っ赤にして、店員を呼ぶボタンを連打していた。

 

「(……悪質だ)」

ヨウくんの、いつもは冷静な声に、明らかな「嫌悪」が混じる。

(これは、もはや、コメディの範疇を超えた、明確な『犯罪行為』だ)

 

「(ヨウくん……)」

いちごは、怒りで、唇を噛み締めていた。

(食べ物を、なんだと思ってるの……)

(みんなが、楽しく、美味しく食べに来てる場所で……)

(なんで、こんな……ひどいこと、できるの……!)

 

だが、ミミの「炎上劇場」は、まだクライマックスを迎えていなかった。

 

「あ、ミミ、ガリ食べたーい」

 

彼女は、テーブルの中央に置かれた、共有の「ガリ」のトングに、手を伸ばした。

そして。

トングを、使わなかった。

 

あろうことか、自分の、今しがた鉄火巻きを口に入れたばかりの「直箸(じかばし)」を、共有のガリの容器に、ズブリと突っ込んだのだ。

 

「んー! ガリ、うまー!」

 

周囲の客が、何人も、同時に「あっ」と声を上げた。

もう、限界だった。

隣の席の父親が、ついに立ち上がった。

 

「おい、君!」

 

「え? あ、なに? ミミのファン?」

 

「ふざけるな! 今、何したかわかってんのか! お前のせいで、誰もこのガリが食えなくなっただろうが!」

 

「はあ? ちょ、何キレてんの、このオッサン。ウケる」

 

ミミは、スマホのカメラを、その父親に向けた。

 

「みんなー、見てー! このオッサン、ミミに説教なう! こわーい!」

 

「貴様……!」

 

「今、生配信中なんで! 暴力ふるうんですかー? 肖像権の侵害で訴えますよー?」

 

父親は、カメラを向けられ、ぐっ、と拳を握りしめたまま、動けなくなった。

家族を守る手前、下手に手を出して、ネットに晒されるわけにはいかない。

その「弱み」を、ミミは、完全に理解して、煽っていた。

 

「ダッサ。正義のヒーロー気取り? マジ、キモいんだけど」

 

ミミは、勝ち誇ったように、鼻で笑った。

 

(……正義の、ヒーロー、気取り)

(……キモい)

 

その言葉が、いちごの、最後の堪忍袋の緒を、断ち切った。

 

(……あの人は、間違ってない)

(子供の前で、勇気を出して、注意してくれた)

(なのに、あの女は……!)

(あの(ヒーロー)を、バカにした!)

(食べ物を、みんなの場所を、めちゃくちゃにして!)

 

いちごは、静かに、湯呑みを置いた。

その目は、第1(VS山田)の時と同じ、怒りの炎に燃えていた。

 

「(ヨウくん)」

 

「(……ああ。もう、十分だ)」

 

ヨウくんは、メガネ(カメラ)で、ミミの犯罪行為の全てを、完璧に記録し終えていた。

彼は、冷静に、自分のスマホを取り出し、ある番号(※警察)に、メッセージ(通報)を送った。

 

「(……桃瀬さん。トイレだ。個室は、一番奥がいい。遮蔽率が高い)」

 

「(うん……!)」

 

いちごは、怒りで引き締まった顔で、スッと席を立った。

ミミと、父親の言い争い(一方的な煽り)が続く中、いちごは、誰にも気づかれずに、すっと、トイレの暖簾(のれん)をくぐった。

 

「なんなの、マジで。ミミ、もう帰るし。この店マジサイアク」

 

ミミが、自撮り棒を畳み、会計のために立ち上がろうとした、その時だった。

 

「そこまでです、この迷惑インフルエンサーさん!」

 

凛とした、少女の声が、店内に響き渡った。

ミミも、父親も、店員も、すべての客が、声のした方を見る。

 

そこに、立っていた。

トイレの暖簾(のれん)の前。

酢飯と生魚の匂いが充満する店内に、あまりにも場違いな、純白の魔法少女が。

 

「な……」

 

ミミの顔が、驚愕に固まる。

(コスプレ……? なんで、こんなとこに……?)

 

プリティストロベリーとなったいちごは、ミミを、まっすぐに見据えていた。

その瞳は、怒りで、燃えていた。

 

「あなたがやったこと、全部、見ていました」

 

「は、はあ!? な、なんなのアンタ!」

 

「食べ物を粗末にし、みんなの場所を汚し、勇気ある人を笑い者にした……」

 

いちごは、一歩、ミミに詰め寄る。

 

「愛と正義の! プリティストロベリー!」

 

彼女は、寿司のレーンを背に、完璧な決めポーズを取った。

その瞬間、少し離れたカウンター席で、ヨウくんのメガネ(カメラ)が、その「決めポーズ」と「流れる寿司」の、奇跡的なコラボレーションを、完璧な構図で記録していた。

 

「ご近所の平和を乱すあなたに!」

 

いちごが、ビシッと、ミミを指差す。

 

「お仕置き、です!」

 

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