護って!いちごちゃん!〜いちごパンティは見えてるか〜   作:ろくさん

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第3章:回る寿司! 止まらない迷惑(バズ)らせ屋 その2

 

「お仕置き、です!」

 

凛とした声が、店内に響き渡った。

酢飯の匂いと、店員の威勢のいい掛け声。その全てが、一瞬、止まった。

さっきまで、ミミに詰め寄っていた父親も、慌てて駆けつけようとしていた店員も、レーンの寿司を眺めていた他の客たちも、全員が、その場違いな、しかし、あまりにも完璧なコスチュームの少女に、釘付けになっていた。

 

「な……」

 

ミミの、甲高い声が、上擦る。

「な、なんなのアンタ……コスプレ?」

 

その驚愕は、しかし、すぐに、別の種類の興奮に取って代わられた。

(え、ヤバ。何コイツ。ウケる)

(これ、生配信中。ってことは……)

 

ミミは、自称インフルエンサーとしての「勘」で、これが「バズる」チャンスだと瞬時に理解した。

彼女は、慌てて自撮り棒を伸ばし、スマートフォンのインカメラを、自分と、その後ろに立つプリティストロベリーが同時に映る、完璧な「画角」に収めた。

 

「ちょ、みんな、ヤバいの来たんだけど!」

 

甲高い声が、再び店内に響き渡る。

カメラ(配信)が回っていると理解した途端、彼女は「強者」に戻った。

 

「見て見て! コスプレおばさん(笑)が、ミミに説教しに来たんだけど! マジ、ウケる!」

 

「おばさんじゃありません!」

 

いちごは、律儀に訂正した。

その真面目さが、かえってミミの嘲笑を誘う。

 

「あはは! キレてるし! てか、アンタ、さっきのオッサンの仲間? 正義のヒーローごっこ? イタすぎ!」

 

「ごっこじゃありません!」

 

いちごは、ミミに一歩詰め寄る。

その瞳は、怒りで真剣だった。

 

「あなたが、お店の中でやったこと、全部、見ていました」

 

「はあ? やったことって、何?」

 

ミミは、わざとらしく小首をかしげ、カメラに向かって「わかんない」とアピールする。

 

「一度取ったプリンを、レーンに戻しました」

「お寿司を、舐めて、皿に戻しました」

「みんなが使う湯呑みを、舐めて、棚に戻しました」

「そして、共有のガリに、直箸(じかばし)を入れました」

 

いちごが、その「罪状」を一つ一つ数え上げるたびに、周囲の客たちの顔が、怒りと嫌悪に歪んでいく。

「ひどい……」

「全部やってたのかよ……」

「警察呼べよ、もう!」

 

「(……いいぞ、桃瀬さん。完璧な弾劾(だんがい)だ。証拠映像は、僕のメガネ(カメラ)にすべて保存済みだ)」

カウンター席で、ヨウくんが、冷静に(カメラのピントを合わせながら)ガリをかじっていた。

 

「ぜ、全部、事実無根なんですけど!」

 

ミミは、さすがに焦ったのか、大声で否定した。

 

「ミミ、そんなことしてないし! 証拠あんの!?」

 

「証拠なら、ここに!」

 

いちごは、ビシッと、自分の「目」を指差した。

「プリティストロベリーの目が、全部見ていました!」

 

「はあ?(笑) 目が証拠? アホらし。裁判で言ってろ、バーカ」

 

ミミは、完全に、いちごを「頭のおかしなコスプレイヤー」と断定し、煽り始めた。

 

「てか、アンタ、ミミの配信を妨害する気? これ、威力業務妨害だから。ミミ、フォロワー33人もいんだからね? 炎上させてもいいんだよ?」

 

「炎上……? 業務妨害……?」

 

いちごは、思わぬ反撃に、一瞬、たじろいだ。

(う……。た、確かに、人の配信を邪魔してる、ことに、なるの……?)

 

その、わずかな「迷い」を、ミミは見逃さなかった。

「あ、図星?(笑)」

 

ミミは、勝ち誇ったように、自撮り棒を、いちごの目の前に突き出した。

カメラのレンズが、いちごの顔をドアップで捉える。

 

「ほら、見てみなよ、アンタの顔! 配信にバッチリ映ってんよ!」

 

「ひゃっ!」

 

いちごは、咄嗟に手で顔を隠そうとする。

自分が、今、不特定多数の(33人の)人間に、晒されている。

その事実に、頭が真っ白になった。

 

「(まずい、桃瀬さんが、現代の『ネットリンチ』という攻撃(ロジック)に、対応できていない!)」

ヨウくんが、カウンター席で歯噛みする。

 

「なに? 手、出せないの? ダッサ(笑)」

 

ミミは、調子に乗って、さらに自撮り棒をいちごの顔に押し付ける。

 

「くっ……! やめてください!」

 

いちごは、その自撮り棒を、手で振り払おうとする。

だが、ミミは、それを待っていたかのように、大げさに叫んだ。

 

「キャー! 暴力! 暴力ふるわれたー!」

 

「え!?」

 

いちごは、慌てて手を引っ込める。

(ち、違う! 払おうとしただけで……!)

 

「みんな、見た!? このコスプレおばさん、ミミのこと殴ろうとした! ヤバくない!?」

 

スマホの向こう(に、いるかもしれない33人)に、必死にアピールする。

いちごは、完全に、ミミの「掌」の上で転がされていた。

(どうしよう……! このスマホがある限り、私が何をしても、全部、捻じ曲げられて……!)

(私が、悪者に、なっちゃう……!)

 

「もう、いいでしょ! どきなさいよ!」

 

いちごは、ミミの横をすり抜けて、彼女を捕まえようと、腕を伸ばした。

だが、ミミは、それを予測していたかのように、いちごの腕を掴み、逆に、突き飛ばしてきた。

 

「しつこいんだよ!」

 

「きゃあっ!」

 

いちごは、体幹の強さで、なんとか転倒は免れようとした。

だが、バランスを崩し、よろめいた背中が、さっきの、父親と子供がいたボックス席のテーブルに、激突してしまった。

 

ガシャン!

鈍い音がして、何かが倒れる。

 

「あ……」

 

いちごの背中に、冷たい、液体の感触が広がった。

そして、甘ったるい、メロンの匂い。

さっき、子供が飲んでいた「メロンソーダ」の、大きなグラスが倒れ、その中身が、いちごの背中から、純白のスカートにかけて、派手にぶちまけられたのだ。

 

「「「あーーーーっ!!」」」

 

店中の客から、悲鳴とも、溜息ともつかない声が上がった。

ヨウくんが、カウンター席で、ガリを掴んだまま、固まった。

(……被害(ダメージ)、確認。メロンソーダ(糖分・着色料含有)による、広範囲の汚損……!)

 

「きゃっ! つ、冷たっ……!」

 

いちごが、自分の背中とスカートを見て、絶句した。

ヨウくんが、徹夜で(趣味と欲望を詰め込んで)作り上げた、純白のコスチュームが。

今、鮮やかすぎる、毒々しい「緑色」に、染まっていた。

ソーダの糖分が、すぐに、ベトベトとした不快感に変わる。

 

「(うう……最悪……。ベトベトする……。緑色……イチゴなのに……)」

 

いちごが、その現実に打ちのめされていると。

背後から、けたたましい、甲高い笑い声が、響き渡った。

 

「ヤバ! マジ、ウケるんだけど!」

 

ミミだった。

彼女は、その「決定的瞬間」を、もちろん、カメラに収めていた。

彼女は、腹を抱えて、笑い転げている。

 

「あははは! コスプレおばさん、メロンソーダでびしょ濡れ! ダッサ!」

 

「(……この女……!)」

いちごは、怒りに、ベトベトのスカートの裾を、強く握りしめた。

 

だが、ミミの嘲笑は、まだ終わらない。

彼女は、いちごが、ソーダを振り払おうと、身をよじった瞬間を、見逃さなかった。

濡れたスカートが、肌に張り付き、そして、よろけた拍子に、ふわりと、めくれ上がった、一瞬。

 

ミミは、インフルエンサー(自称)としての本能で、スマートフォンのズーム機能を、最大にした。

カメラのレンズが、いちごのスカートの下――

メロンソーダで、同じく、無惨に濡れてしまった「イチゴ柄」を、バッチリと、ドアップで捉えた。

 

「え、ちょ、待って……(笑)」

 

ミミの笑いが、一瞬、止まる。

そして、次の瞬間、今日一番の、腹の底からの大爆笑が、店内に響き渡った。

 

「うっそ、あはははは! うわ、キモっ! 見てみんな!」

 

彼女は、スマホの画面を、周囲の客に、見せびらかすように振り回す。

 

「アンダル(下着)、イチゴ柄なんだけど! ヤバすぎ!」

 

「「「…………」」」

 

店内の空気が、先ほどとは違う意味で、凍りついた。

(イチゴ……柄……?)

(あの、コスプレで……?)

(うわぁ……)

 

周囲の客たちの、同情と、わずかな軽蔑が入り混じった、生温かい視線が、いちごに突き刺さる。

 

「(あ……あ……)」

 

いちごは、顔から、一気に血の気が引くのを感じた。

メロンソーダの冷たさではない。

魂が、凍りつくような、羞恥。

 

「イタすぎ! イタすぎだって!」

 

ミミは、涙を流して笑いながら、配信を続ける。

「イチゴ柄とか、小学生までだよね、普通! ぷぷっ、コスプレ(笑)にイチゴ()、センス終わってる! マジ、終わってるわ、このおばさん!」

 

(センス……終わってる……?)

 

いちごの頭の中で、ミミの甲高い笑い声と、「イチゴ柄」という罵倒が、反響した。

 

(この女……!)

 

(お店を汚して、食べ物を粗末にして、勇気ある人をバカにして……)

(それだけじゃなく……!)

 

(私の、プリティストロベリー(衣装)を、汚して……!)

(私の、一番の『大好き』で『正義(しるし)』の、イチゴ柄を……!)

 

(……子供っぽい?)

(……センス、ない?)

 

怒りが、羞恥を、完全に塗りつぶしていく。

いちごは、ベトベトに濡れたスカートを、怒りにわななく指で、強く、強く、握りしめた。

 

「(ヨウくんっ……!)」

 

心の叫びが、カウンター席の相棒に届く。

ヨウくんは、その瞬間を、待っていた。

彼は、冷静に頷くと、自分のスマホ(ハッキング用)の、エンターキーを押した。

(……ミミの配信アカウント、乗っ取り(ジャック)完了。配信映像の掌握、完了)

(……だが、桃瀬さん。このままでは、君の『怒り』が、足りない)

 

「(ううん、まだ……!)」

 

いちごの心が、叫ぶ。

(このままじゃ、ダメだ! この、ベトベトに濡れた、緑色の、馬鹿にされたパンティのままじゃ……!)

(私の、本当の『力』が出ない……!)

 

ミミが、なおも、カメラを向けて笑い続けている。

「ほら、なんか言えよ、イチゴパンティおばさーん!」

 

その時だった。

店のBGM(寿司のテーマソング)を、完全に遮って。

カウンター席から、張りのある、冷静な声が、響き渡った。

 

「プリティストロベリーッ!」

 

「は?」

 

ミミが、声のした方を、怪訝な顔で振り向く。

そこには、黒縁メガネの、地味な男子学生(ヨウくん)が、無表情で、こちらを……いや、プリティストロベリーを、まっすぐに見ていた。

 

そのヨウくんの手から、何かが、銀色の(※新品のポリ袋)を放ちながら、宙を舞った。

 

それは、回転寿司のレーンの上を、滑るように飛んだ。

カチカチと流れていく、マグロの()と、サーモンの(オレンジ)の、その間を、完璧な軌道ですり抜けて。

 

ベトベトのスカートを握りしめ、怒りに震える、いちごの、その手元に向かって。

 

「新しい! イチゴパンティだよッ!!」

 

パシッ。

いちごは、その、ポリ(新品)に入った「ブツ」を、空中で、完璧にキャッチした。

 

「は……? 何、アレ……」

 

ミミが、呆然と呟く。

「……パンティ?(笑)」

 

いちごは、新品のイチゴパンティ(純白・赤粒)が入った袋を、強く、強く握りしめた。

その瞳には、メロンソーダの緑色ではなく、イチゴの赤よりも鮮烈な、怒りの炎が、燃え盛っていた。

 

(……お仕置きの時間、です!)

 

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