護って!いちごちゃん!〜いちごパンティは見えてるか〜   作:ろくさん

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第3章:回る寿司! 止まらない迷惑(バズ)らせ屋 その3

 

「新しい! イチゴパンティだよッ!!」

 

ヨウくんの、感情を排した、しかし張りのある声が、店内に響き渡った。

それは、BGMも、客たちのひそひそ話も、ミミの甲高い嘲笑も、すべてを切り裂く、狼煙(のろし)の一声だった。

 

パシッ。

いちごの右手に、ポリ(新品)に包まれた「それ」が、寸分違わず収まる。

寿司レーンの上を、マグロとイカの間をすり抜けてきた、奇跡の軌道。

 

「は……?」

 

ミミの笑い声が、止まった。

その目は、いちごがキャッチした「ブツ」に釘付けになっている。

 

「な、何アレ……。袋? え、まさか……」

 

ミミの視線が、いちごの手元()と、いちごの濡れた、メロンソーダまみれのスカート(その下)を、下品に行き来する。

 

「うそ……パンティ?(笑) また?」

 

ミミは、この状況が理解できず、しかし、目の前のコスプレイヤーが「さらに頭のおかしなこと」を始めたと察し、再び、嘲笑のボルテージを上げた。

スマートフォンのカメラを、いちごの手元にズームさせる。

 

「ちょ、みんな、ヤバ! このおばさん、ここで履き替える気!? マジで!?」

 

ミミの配信(フォロワー33人)に向かって、最大の「スクープ」を伝えようと、その口が、下品に歪む。

 

「キモすぎ! 痴女じゃん! 通報し……」

 

ミミが、その言葉を言い終わる前に。

いちごの、メロンソーダでベトベトになった身体から、凄まじい「怒り」のオーラが、湯気のように立ち上った。

 

(センス、終わってる……)

(小学生までだよね……)

 

侮辱の言葉が、脳内で反響する。

いちごは、握りしめた「新しいイチゴパンティ」の袋を、怒りを込めて、ビリビリに破り捨てた。

中から現れたのは、汚れなき、純白の生地に、鮮やかな赤いイチゴが散りばめられた、新品の「それ」だった。

 

「(……これが、私の)」

 

いちごの瞳が、燃えている。

 

「(これが、私の『大好き』で、『正義』の……しるし……!)」

 

(ここで、履き替える?)

(こんな、みんなが見てる前で?)

(この、配信カメラが回ってる前で?)

 

羞恥が、一瞬、怒りにブレーキをかける。

だが、ミミの、嘲笑う顔が、脳裏をよぎる。

 

(……うるさい)

(うるさいうるさいうるさい!)

(馬鹿にした! この女は、私の『イチゴ柄』を、笑った!)

(だったら……!)

 

「(見せてあげる……!)」

 

いちごは、意を決した。

その決意と同時。

彼女が握りしめた、新品のイチゴパンティから、淡い、ピンク色の光が、溢れ始めた。

 

「な、なに……? 光っ……」

 

ミミが、その異変に気づき、カメラを向ける。

 

「(今……!)」

 

いちごは、その光を「目眩まし」にするように、素早い、しかし、どこか官能的な動きで、濡れたスカートの裾に、手をかけた。

メロンソーダでベトベトになった、純白のコスチューム。

その下で、同じく、無惨に濡れそぼった「イチゴ柄」のパンティのゴム紐に、指をかける。

 

「(……っ!)」

 

いちごは、顔を真っ赤にしながらも、怒りの表情は崩さない。

光が、彼女の羞恥心を隠すように、さらに輝きを増す。

 

(こんな、汚れたままの(パンティ)じゃ、終われない!)

 

彼女は、汚されたパンティを、一気に、引きずり下ろした。

そして、それを、衣装のポケット(※ヨウくん回収用)に、ねじ込む。

一瞬、秋風(エアコンの風)が、彼女の素肌を撫でた。

 

そして。

光を放つ、新品の「イチゴ柄」を。

素早く、装着する。

 

清潔な、真新しい布地が、彼女の肌に、触れた。

 

その、瞬間。

 

「なっ!?」

 

「うおっ!?」

「ま、眩しい……!」

 

いちごの身体が、爆発的な光を放った。

さっきまでの、淡い光ではない。

店中の照明が、一瞬、停電したかのように、意味を失う。

光源は、プリティストロベリー。

彼女が、今まさに装着した「イチゴ柄」のパンティ、その一点から、凄まじいピンク色の光が、奔流となって溢れ出したのだ。

 

ミミは、あまりの眩しさに、咄嗟に腕で目を覆った。

スマートフォンのカメラも、露出オーバーで、画面が真っ白に飛んでいる。

 

光の中で、いちごの身体が、変貌していく。

メロンソーダで汚れた、白いコスチュームが、光の粒子となって、一度、霧散する。

そして、再構築される。

 

変身の「核」は、今、履き替えたばかりの、イチゴ柄のパンティ。

 

(……っ!!!)

 

いちごは、光の中で、信じられない「感覚」に、息を飲んだ。

履いたばかりのパンティが、熱を帯び、まるで、それ自体が、命を持ったかのように、彼女の身体を締め付け、変異していく。

 

「あ……っ!」

 

パンティの、サイドライン。

その布地が、ありえないほどの張力で、物理的に、吊り上げられていく。

腰骨を、遥かに越え、彼女の脇腹、そのラインに沿って、鋭角的に、上へ、上へ、と。

 

「(食い込んで……る……!)」

 

純白のイチゴ柄の布地が、彼女の太ももの付け根、その柔らかい内側に、深く、深く、食い込んでいく。

それは、もはや「パンティ」というより、肌に張り付いた「第二の皮膚」であり、「装甲」だった。

極限まで切り詰められた、超ハイレグスタイル。

 

その、変異した「イチゴ柄」を、中心(コア)として。

残りのコスチュームが、一瞬で、再構築された。

 

胸元のリボンは、戦闘機のようにシャープな形状に。

スカートは、短く切り詰められたチュチュに変わり、その下から、食い込むハイレグのラインが、惜しげもなく晒されている。

手には、肘上までのロンググローブ。

足は、膝上までの、鋭いピンヒールのロングブーツ。

そして、頭。

イチゴのカチューシャではなく、天を突くように伸びた、シャープな「ウサギの耳」。

 

光が、収束していく。

ミミが、おそるおそる腕を下ろすと、そこに立っていた「プリティストロベリー」の姿に、絶句した。

 

「は……? え……?」

 

さっきまでの、フリルをあしらった、どちらかといえば「可愛い」系の魔法少女は、どこにもいなかった。

そこにあったのは、怒りを、その食い込むハイレグのラインにまで宿した、苛烈な「執行者」の姿だった。

 

「プリティストロベリー……バニー」

 

地を這うような、冷たい声。

さっきまでの、必死だった少女の声ではない。

 

「な、なに……。格好、変わって……」

 

ミミは、その、あまりの変貌と、凄まじい気迫に、本能的な恐怖を感じた。

だが、彼女は「インフルエンサー(自称)」だ。

カメラが回っている手前、ここで引くわけにはいかない。

 

「(……ヤバ、こいつ、ガチだ)」

内心の焦りを、嘲笑で隠す。

 

「あはは! 何それ! ウサギ?(笑) イチゴの次はウサギとか、マジ、意味わかんないし! てか、何その格好! 超ハイレグじゃん! キモっ!」

 

ミミは、自撮り棒を、再び、いちご(バニー)に向けた。

「ほら、みんな、見て! この人、負け惜しみで、変身ごっこ始めたんだけど! イタすぎ! しかも、痴女!」

 

「……まだ、そんなことを言っているのですか」

 

いちご(バニー)は、冷たく、ミミの構えるスマートフォンを見下ろした。

 

「あなたの『武器』は、それだけですか」

 

「はあ!? このスマホ(配信)が、ミミの武器に決まってんじゃん! これで、アンタのそのイタい暴力行為()を、ぜーんぶ、世間に晒してやんだから!」

 

ミミは、勝利を確信していた。

相手が、どれだけ強そうな格好をしようと、「ネットリンチ」という現代最強の武器の前には、無力だと。

 

「ほら、殴ってみなよ! やれるもんなら、やってみなよ、この痴女バニー!」

 

「……残念です」

 

いちご(バニー)は、静かに、右足のヒールで、床をコン、と鳴らした。

 

「あなたの『配信』は……」

 

「もう、終わっていますよ」

 

「は……? なに、言って……」

 

ミミが、意味を理解できず、自分のスマートフォンの画面を見た。

配信は、続いている。

(フォロワー33人、接続中)

(コメント:「痴女バニーウケる」「ミミしか勝たん!」)

 

「終わってねーし! バッチリ映って……」

 

ミミの言葉が、途中で、止まった。

彼女のスマートフォンの画面が、一瞬、ノイズに包まれ、次の瞬間、切り替わったのだ。

今、この瞬間の、いちご(バニー)の映像ではない。

 

『んー、テイスティング! ……あ、やっぱ、マグロの気分じゃなーい』

 

「え……?」

 

ミミの画面に映し出されたのは、さっき、自分(ミミ)が、鉄火巻きのシャリを舐め、皿に戻す、その瞬間だった。

カウンター席のヨウくんが装着していた、メガネ(カメラ)からの、完璧な「証拠映像」だった。

 

「な、なにこれ!? なんで!? バグ!?」

 

ミミが、慌ててスマホを操作しようとする。

だが、スマホは、彼女の操作を一切受け付けない。

映像は、無慈悲にも、続く。

 

『こうしとけば、ミミ専用っしょ!』

 

湯呑みの飲み口を、ぺろりと舐め回し、棚に戻す、決定的な瞬間。

 

『んー! ガリ、うまー!』

 

共有のガリに、直箸(じかばし)を突っ込む、衝撃的な映像。

 

「な、なんで……! や、やめて! 止まれ! 止まれよ!」

 

ミミの顔から、血の気が引いていく。

自分の「犯罪行為」が、今、リアルタイムで、33人のフォロワーに「配信」されている。

 

だが、地獄は、それだけではなかった。

 

「(……第二段階、移行)」

カウンター席で、ヨウくんが、冷静に、ノートPCのエンターキーを押した。

 

その瞬間。

店内の、壁にかかっていた、すべてのテレビモニターが、一斉に切り替わった。

それまで、マグロ解体ショーの映像や、ビールのCMを流していた、それらの画面が。

すべて、ミミの、あの、湯呑みを舐め回すドアップの映像に、切り替わったのだ。

 

「「「…………」」」

 

店中の、すべての客が、それを見た。

さっき、ミミに詰め寄っていた父親も。

メロンソーダをこぼされた、子供も。

遠くのテーブル席で、談笑していた、女子高生のグループも。

全員が、その、おぞましい光景を、大画面で、鮮明に、目撃してしまった。

 

「あ……あ……」

 

ミミは、自分のスマホと、店内のテレビモニターを、交互に見比べ、絶望に、膝が震え始めた。

もう、煽る余裕も、嘲笑う余裕も、どこにもない。

自分が、今、この店の中で、完全に「公開処刑」されている。

 

「いや……いやぁ……! ち、違う! ミミじゃない! これは、デマ! 合成!」

 

彼女は、意味不明な叫び声を上げながら、その場から逃げ出そうとした。

だが、その進路を、いちご(バニー)が、静かに塞いだ。

 

「逃しません。あなたは、このお店の『平和』を、めちゃくちゃにしました」

 

「う、うるさい! どけ! どけよ!」

 

ミミは、完全にパニックに陥り、最後の武器(だったはずのもの)――自撮り棒の先に付いたスマートフォンを、いちご(バニー)に向かって、力任せに投げつけた。

 

「これやるから! どけよぉ!」

 

「(……愚かな)」

 

いちご(バニー)は、飛んでくるスマートフォンを、まるで、スローモーションのように、冷静に見つめていた。

(私の『正義(ジャスティス)』を、侮辱した、その機械(ぶき)

(私の『イチゴ柄』を、笑いものにした、その『記録(データ)』)

(すべて、ここで、消去(デリート)します)

 

いちご(バニー)は、その場で、天に向かって、高く跳躍した。

その跳躍力は、常人(いちご)の、ものではない。

食い込むハイレグのラインが、彼女の可動域を、限界まで見せつけていた。

 

彼女の身体は、ミミが投げたスマートフォンよりも、高く、高く、舞い上がった。

そして、落下してくるスマートフォンの、その「液晶画面」一点を、完璧に、捕捉する。

 

「必殺!」

 

店内の時が、止まった。

ヨウくんのメガネ(カメラ)だけが、その一瞬を、完璧に記録していた。

 

「ストロベリッシュ・バニー……!」

 

いちご(バニー)の、鋭いヒールが、ピンク色の、怒りのオーラを纏う。

 

「ブロードキャスト・パニッシュ!!」

 

ドンッ!

空中で、いちご(バニー)のヒールが、スマートフォンの画面、ど真ん中を、正確に踏み抜いた。

バキバキバキッ! という、甲高い音と共に、スマートフォンの液晶が粉々に砕け散る。

ミミの「配信」は、物理的に、完全に、断ち切られた。

 

いちご(バニー)は、破壊されたスマホの残骸と共に、音もなく、床に着地した。

その着地の衝撃で、彼女の短いチュチュが、ふわりと舞う。

その下で、変異を遂げた、食い込むイチゴ柄が、誇らしげに、輝いていた。

 

「あ……あ……。わたしの、スマホ……。配信、が……」

 

ミミは、床に散らばった、スマートフォンの無惨な残骸を見て、そこに、へなへなと、座り込んだ。

彼女の「武器」も「盾」も、すべて、失われた。

 

店内に、完全な静寂が訪れる。

寿司のレーンが、カタン、コトン、と虚しく回る音だけが、響いていた。

 

やがて。

「「「うおおおおお!!」」」

誰からともなく、拍手が起こった。

さっき、ミミに詰め寄っていた父親が、手を叩いて叫んだ。

「すげえ! やったぞ!」

「かっこいい!」

「ざまあみろだ!」

店中の客から、大歓声が沸き起こった。

 

その時、店の入り口の自動ドアが、ウィーン、と開いた。

 

「通報があったのは、この店か!」

 

二人の、制服警官が、駆け込んできた。

(ヨウくん……! 完璧なタイミング!)

いちご(バニー)は、心の中で、相棒にサムズアップを送った。

 

「あ! お巡りさん! こっちです!」

店長が、震える指で、床に座り込むミミを指差した。

「この子が! 証拠は、あそこのテレビに!」

(※ヨウくんは、証拠映像を、テレビに静止画で残しておいた)

 

「う……うわああああん! 違うの! ミミは、ミミは、バズりたかっただけなのぉ!」

 

ミミは、警官に両脇を抱えられ、もはや「インフルエンサー」の仮面も何もない、ただの子供のように、泣きじゃくりながら、店から連行されていった。

その姿を、もう、誰も、スマホで撮ろうとはしなかった。

 

「……ふぅ」

いちご(バニー)は、その光景を見届けると、静かに、変身を解いた。

(※実際は、変身の光と共に、ハイレグの食い込みが元のパンティのラインに戻り、チュチュも元のスカート丈に戻った)

そして、人混みに紛れて、こっそりトイレに駆け込み、制服に着替え直した。

 

数分後。

カウンター席。

すっかり、元の活気を取り戻した店内で、制服姿のいちごと、メガネのヨウくんが、並んで、冷たくなった緑茶をすすっていた。

いちごの制服のスカートが、まだ、メロンソーダで、少しベトベトしている。

 

「ぷはー。一件落着、だね!」

 

「ああ。概ね、計算通りだ」

 

ヨウくんは、無表情のまま、自分の足元に落ちていた「何か」を、誰にも気づかれずに、拾い上げた。

それは、いちごが変身(換装)する際に、床に落としてしまっていた、例の「メロンソーダまみれのイチゴ柄パンティ」だった。

彼は、それを、音もなく、ジップロック(サンプルNo.2用)に格納した。

 

「それにしても、ヨウくん、すごかったね! あのハッキング!」

 

「……企業秘密だ。それより、桃瀬さん」

 

「ん?」

 

「さっき、君が食べ残した、イクラ。乾いてるぞ」

 

「あ! 私のイクラ!」

 

いちごは、慌てて、すっかり乾いてしまったイクラの軍艦巻きを手に取った。

(……なんか、色々ありすぎて、お寿司の味、わかんなくなっちゃった)

いちごは、苦笑いを浮かべながら、そのイクラを、口に放り込んだ。

 

ご近所の平和(と、回転寿司の衛生)は、今日も、かろうじて護られたのだった。

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