護って!いちごちゃん!〜いちごパンティは見えてるか〜 作:ろくさん
「新しい! イチゴパンティだよッ!!」
ヨウくんの、感情を排した、しかし張りのある声が、店内に響き渡った。
それは、BGMも、客たちのひそひそ話も、ミミの甲高い嘲笑も、すべてを切り裂く、
パシッ。
いちごの右手に、ポリ
寿司レーンの上を、マグロとイカの間をすり抜けてきた、奇跡の軌道。
「は……?」
ミミの笑い声が、止まった。
その目は、いちごがキャッチした「ブツ」に釘付けになっている。
「な、何アレ……。袋? え、まさか……」
ミミの視線が、いちごの
「うそ……パンティ?(笑) また?」
ミミは、この状況が理解できず、しかし、目の前のコスプレイヤーが「さらに頭のおかしなこと」を始めたと察し、再び、嘲笑のボルテージを上げた。
スマートフォンのカメラを、いちごの手元にズームさせる。
「ちょ、みんな、ヤバ! このおばさん、ここで履き替える気!? マジで!?」
ミミの
「キモすぎ! 痴女じゃん! 通報し……」
ミミが、その言葉を言い終わる前に。
いちごの、メロンソーダでベトベトになった身体から、凄まじい「怒り」のオーラが、湯気のように立ち上った。
(センス、終わってる……)
(小学生までだよね……)
侮辱の言葉が、脳内で反響する。
いちごは、握りしめた「新しいイチゴパンティ」の袋を、怒りを込めて、ビリビリに破り捨てた。
中から現れたのは、汚れなき、純白の生地に、鮮やかな赤いイチゴが散りばめられた、新品の「それ」だった。
「(……これが、私の)」
いちごの瞳が、燃えている。
「(これが、私の『大好き』で、『正義』の……しるし……!)」
(ここで、履き替える?)
(こんな、みんなが見てる前で?)
(この、配信カメラが回ってる前で?)
羞恥が、一瞬、怒りにブレーキをかける。
だが、ミミの、嘲笑う顔が、脳裏をよぎる。
(……うるさい)
(うるさいうるさいうるさい!)
(馬鹿にした! この女は、私の『イチゴ柄』を、笑った!)
(だったら……!)
「(見せてあげる……!)」
いちごは、意を決した。
その決意と同時。
彼女が握りしめた、新品のイチゴパンティから、淡い、ピンク色の光が、溢れ始めた。
「な、なに……? 光っ……」
ミミが、その異変に気づき、カメラを向ける。
「(今……!)」
いちごは、その光を「目眩まし」にするように、素早い、しかし、どこか官能的な動きで、濡れたスカートの裾に、手をかけた。
メロンソーダでベトベトになった、純白のコスチューム。
その下で、同じく、無惨に濡れそぼった「イチゴ柄」のパンティのゴム紐に、指をかける。
「(……っ!)」
いちごは、顔を真っ赤にしながらも、怒りの表情は崩さない。
光が、彼女の羞恥心を隠すように、さらに輝きを増す。
(こんな、汚れたままの
彼女は、汚されたパンティを、一気に、引きずり下ろした。
そして、それを、衣装のポケット(※ヨウくん回収用)に、ねじ込む。
一瞬、
そして。
光を放つ、新品の「イチゴ柄」を。
素早く、装着する。
清潔な、真新しい布地が、彼女の肌に、触れた。
その、瞬間。
「なっ!?」
「うおっ!?」
「ま、眩しい……!」
いちごの身体が、爆発的な光を放った。
さっきまでの、淡い光ではない。
店中の照明が、一瞬、停電したかのように、意味を失う。
光源は、プリティストロベリー。
彼女が、今まさに装着した「イチゴ柄」のパンティ、その一点から、凄まじいピンク色の光が、奔流となって溢れ出したのだ。
ミミは、あまりの眩しさに、咄嗟に腕で目を覆った。
スマートフォンのカメラも、露出オーバーで、画面が真っ白に飛んでいる。
光の中で、いちごの身体が、変貌していく。
メロンソーダで汚れた、白いコスチュームが、光の粒子となって、一度、霧散する。
そして、再構築される。
変身の「核」は、今、履き替えたばかりの、イチゴ柄のパンティ。
(……っ!!!)
いちごは、光の中で、信じられない「感覚」に、息を飲んだ。
履いたばかりのパンティが、熱を帯び、まるで、それ自体が、命を持ったかのように、彼女の身体を締め付け、変異していく。
「あ……っ!」
パンティの、サイドライン。
その布地が、ありえないほどの張力で、物理的に、吊り上げられていく。
腰骨を、遥かに越え、彼女の脇腹、そのラインに沿って、鋭角的に、上へ、上へ、と。
「(食い込んで……る……!)」
純白のイチゴ柄の布地が、彼女の太ももの付け根、その柔らかい内側に、深く、深く、食い込んでいく。
それは、もはや「パンティ」というより、肌に張り付いた「第二の皮膚」であり、「装甲」だった。
極限まで切り詰められた、超ハイレグスタイル。
その、変異した「イチゴ柄」を、
残りのコスチュームが、一瞬で、再構築された。
胸元のリボンは、戦闘機のようにシャープな形状に。
スカートは、短く切り詰められたチュチュに変わり、その下から、食い込むハイレグのラインが、惜しげもなく晒されている。
手には、肘上までのロンググローブ。
足は、膝上までの、鋭いピンヒールのロングブーツ。
そして、頭。
イチゴのカチューシャではなく、天を突くように伸びた、シャープな「ウサギの耳」。
光が、収束していく。
ミミが、おそるおそる腕を下ろすと、そこに立っていた「プリティストロベリー」の姿に、絶句した。
「は……? え……?」
さっきまでの、フリルをあしらった、どちらかといえば「可愛い」系の魔法少女は、どこにもいなかった。
そこにあったのは、怒りを、その食い込むハイレグのラインにまで宿した、苛烈な「執行者」の姿だった。
「プリティストロベリー……バニー」
地を這うような、冷たい声。
さっきまでの、必死だった少女の声ではない。
「な、なに……。格好、変わって……」
ミミは、その、あまりの変貌と、凄まじい気迫に、本能的な恐怖を感じた。
だが、彼女は「インフルエンサー(自称)」だ。
カメラが回っている手前、ここで引くわけにはいかない。
「(……ヤバ、こいつ、ガチだ)」
内心の焦りを、嘲笑で隠す。
「あはは! 何それ! ウサギ?(笑) イチゴの次はウサギとか、マジ、意味わかんないし! てか、何その格好! 超ハイレグじゃん! キモっ!」
ミミは、自撮り棒を、再び、いちご(バニー)に向けた。
「ほら、みんな、見て! この人、負け惜しみで、変身ごっこ始めたんだけど! イタすぎ! しかも、痴女!」
「……まだ、そんなことを言っているのですか」
いちご(バニー)は、冷たく、ミミの構えるスマートフォンを見下ろした。
「あなたの『武器』は、それだけですか」
「はあ!? このスマホ(配信)が、ミミの武器に決まってんじゃん! これで、アンタのそのイタい
ミミは、勝利を確信していた。
相手が、どれだけ強そうな格好をしようと、「ネットリンチ」という現代最強の武器の前には、無力だと。
「ほら、殴ってみなよ! やれるもんなら、やってみなよ、この痴女バニー!」
「……残念です」
いちご(バニー)は、静かに、右足のヒールで、床をコン、と鳴らした。
「あなたの『配信』は……」
「もう、終わっていますよ」
「は……? なに、言って……」
ミミが、意味を理解できず、自分のスマートフォンの画面を見た。
配信は、続いている。
(フォロワー33人、接続中)
(コメント:「痴女バニーウケる」「ミミしか勝たん!」)
「終わってねーし! バッチリ映って……」
ミミの言葉が、途中で、止まった。
彼女のスマートフォンの画面が、一瞬、ノイズに包まれ、次の瞬間、切り替わったのだ。
今、この瞬間の、いちご(バニー)の映像ではない。
『んー、テイスティング! ……あ、やっぱ、マグロの気分じゃなーい』
「え……?」
ミミの画面に映し出されたのは、さっき、
カウンター席のヨウくんが装着していた、メガネ(カメラ)からの、完璧な「証拠映像」だった。
「な、なにこれ!? なんで!? バグ!?」
ミミが、慌ててスマホを操作しようとする。
だが、スマホは、彼女の操作を一切受け付けない。
映像は、無慈悲にも、続く。
『こうしとけば、ミミ専用っしょ!』
湯呑みの飲み口を、ぺろりと舐め回し、棚に戻す、決定的な瞬間。
『んー! ガリ、うまー!』
共有のガリに、
「な、なんで……! や、やめて! 止まれ! 止まれよ!」
ミミの顔から、血の気が引いていく。
自分の「犯罪行為」が、今、リアルタイムで、33人のフォロワーに「配信」されている。
だが、地獄は、それだけではなかった。
「(……第二段階、移行)」
カウンター席で、ヨウくんが、冷静に、ノートPCのエンターキーを押した。
その瞬間。
店内の、壁にかかっていた、すべてのテレビモニターが、一斉に切り替わった。
それまで、マグロ解体ショーの映像や、ビールのCMを流していた、それらの画面が。
すべて、ミミの、あの、湯呑みを舐め回すドアップの映像に、切り替わったのだ。
「「「…………」」」
店中の、すべての客が、それを見た。
さっき、ミミに詰め寄っていた父親も。
メロンソーダをこぼされた、子供も。
遠くのテーブル席で、談笑していた、女子高生のグループも。
全員が、その、おぞましい光景を、大画面で、鮮明に、目撃してしまった。
「あ……あ……」
ミミは、自分のスマホと、店内のテレビモニターを、交互に見比べ、絶望に、膝が震え始めた。
もう、煽る余裕も、嘲笑う余裕も、どこにもない。
自分が、今、この店の中で、完全に「公開処刑」されている。
「いや……いやぁ……! ち、違う! ミミじゃない! これは、デマ! 合成!」
彼女は、意味不明な叫び声を上げながら、その場から逃げ出そうとした。
だが、その進路を、いちご(バニー)が、静かに塞いだ。
「逃しません。あなたは、このお店の『平和』を、めちゃくちゃにしました」
「う、うるさい! どけ! どけよ!」
ミミは、完全にパニックに陥り、最後の
「これやるから! どけよぉ!」
「(……愚かな)」
いちご(バニー)は、飛んでくるスマートフォンを、まるで、スローモーションのように、冷静に見つめていた。
(私の『
(私の『イチゴ柄』を、笑いものにした、その『
(すべて、ここで、
いちご(バニー)は、その場で、天に向かって、高く跳躍した。
その跳躍力は、
食い込むハイレグのラインが、彼女の可動域を、限界まで見せつけていた。
彼女の身体は、ミミが投げたスマートフォンよりも、高く、高く、舞い上がった。
そして、落下してくるスマートフォンの、その「液晶画面」一点を、完璧に、捕捉する。
「必殺!」
店内の時が、止まった。
ヨウくんのメガネ(カメラ)だけが、その一瞬を、完璧に記録していた。
「ストロベリッシュ・バニー……!」
いちご(バニー)の、鋭いヒールが、ピンク色の、怒りのオーラを纏う。
「ブロードキャスト・パニッシュ!!」
ドンッ!
空中で、いちご(バニー)のヒールが、スマートフォンの画面、ど真ん中を、正確に踏み抜いた。
バキバキバキッ! という、甲高い音と共に、スマートフォンの液晶が粉々に砕け散る。
ミミの「配信」は、物理的に、完全に、断ち切られた。
いちご(バニー)は、破壊されたスマホの残骸と共に、音もなく、床に着地した。
その着地の衝撃で、彼女の短いチュチュが、ふわりと舞う。
その下で、変異を遂げた、食い込むイチゴ柄が、誇らしげに、輝いていた。
「あ……あ……。わたしの、スマホ……。配信、が……」
ミミは、床に散らばった、スマートフォンの無惨な残骸を見て、そこに、へなへなと、座り込んだ。
彼女の「武器」も「盾」も、すべて、失われた。
店内に、完全な静寂が訪れる。
寿司のレーンが、カタン、コトン、と虚しく回る音だけが、響いていた。
やがて。
「「「うおおおおお!!」」」
誰からともなく、拍手が起こった。
さっき、ミミに詰め寄っていた父親が、手を叩いて叫んだ。
「すげえ! やったぞ!」
「かっこいい!」
「ざまあみろだ!」
店中の客から、大歓声が沸き起こった。
その時、店の入り口の自動ドアが、ウィーン、と開いた。
「通報があったのは、この店か!」
二人の、制服警官が、駆け込んできた。
(ヨウくん……! 完璧なタイミング!)
いちご(バニー)は、心の中で、相棒にサムズアップを送った。
「あ! お巡りさん! こっちです!」
店長が、震える指で、床に座り込むミミを指差した。
「この子が! 証拠は、あそこのテレビに!」
(※ヨウくんは、証拠映像を、テレビに静止画で残しておいた)
「う……うわああああん! 違うの! ミミは、ミミは、バズりたかっただけなのぉ!」
ミミは、警官に両脇を抱えられ、もはや「インフルエンサー」の仮面も何もない、ただの子供のように、泣きじゃくりながら、店から連行されていった。
その姿を、もう、誰も、スマホで撮ろうとはしなかった。
「……ふぅ」
いちご(バニー)は、その光景を見届けると、静かに、変身を解いた。
(※実際は、変身の光と共に、ハイレグの食い込みが元のパンティのラインに戻り、チュチュも元のスカート丈に戻った)
そして、人混みに紛れて、こっそりトイレに駆け込み、制服に着替え直した。
数分後。
カウンター席。
すっかり、元の活気を取り戻した店内で、制服姿のいちごと、メガネのヨウくんが、並んで、冷たくなった緑茶をすすっていた。
いちごの制服のスカートが、まだ、メロンソーダで、少しベトベトしている。
「ぷはー。一件落着、だね!」
「ああ。概ね、計算通りだ」
ヨウくんは、無表情のまま、自分の足元に落ちていた「何か」を、誰にも気づかれずに、拾い上げた。
それは、いちごが
彼は、それを、音もなく、ジップロック(サンプルNo.2用)に格納した。
「それにしても、ヨウくん、すごかったね! あのハッキング!」
「……企業秘密だ。それより、桃瀬さん」
「ん?」
「さっき、君が食べ残した、イクラ。乾いてるぞ」
「あ! 私のイクラ!」
いちごは、慌てて、すっかり乾いてしまったイクラの軍艦巻きを手に取った。
(……なんか、色々ありすぎて、お寿司の味、わかんなくなっちゃった)
いちごは、苦笑いを浮かべながら、そのイクラを、口に放り込んだ。
ご近所の