護って!いちごちゃん!〜いちごパンティは見えてるか〜   作:ろくさん

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第4章:砂場の王! 5歳の暴君(キング) その1

 

「――以上。サンプルNo.2(メロンソーダ汚染)の初期分析を終了する」

 

放課後のオタ研部室。

ヨウくんが、白衣のまま、ノートパソコンのエンターキーを、カチリ、と厳かに押した。

ディスプレイには、ジップロック(厳重密封)に入れられた、例の「メロンソーダまみれのイチゴ柄」を、あらゆる角度から三次元スキャンしたデータが、ゆっくりと回転していた。

 

「分析、終了……じゃないよ!」

 

桃瀬いちごは、机に突っ伏していた数学のドリルから顔を上げ、抗議の声を上げた。

 

「あの! 私のあずかり知らぬところで! 私のパンティ(お古)を、そんな、研究材料みたいにしないでくれる!?」

 

「これは、君の二段変身のメカニズムを解明するための、重要な基礎研究だ」

 

「基礎研究……」

 

「そうだ。第一章(VS山田)の『油性グリース』による汚損と、第三章(VSミミ)の『糖分・着色料()』による汚損。この二つのサンプルを比較分析した結果……」

 

ヨウくんは、無表情のまま、恐るべき考察を口にした。

 

「君の怒りゲージは、『油性』よりも『水性』の汚れ。そして、『黒』よりも『(イチゴと)補色関係にある緑』の汚れに対して、より高い反応(ブースト)を示す可能性が……」

 

「もういい! いいから! やめて!」

 

いちごは、顔を真っ赤にして、両手で耳を塞いだ。

アホ毛が、ぷるぷると、羞恥と怒りに震えている。

(この男……! 相棒だけど、やっぱり、ただの、ド変態のスケベだ!)

 

「……わかった。分析結果の口頭発表は、レポートにまとめて、後日、君のロッカーに入れておこう」

 

「それもやめて! 証拠隠滅して! 燃やして!」

 

「(……サンプルを? 燃やす? とんでもない)」

ヨウくんは、口には出さず、ただ、無表情のまま、メガネの位置をクイ、と直した。

 

「はぁ……。疲れた……」

 

いちごは、再び、机に突っ伏した。

ここ数週間、立て続けに「迷惑住民」と遭遇し、変身し、戦ってきた。

アドレナリンがほとばしる「お仕置き」の瞬間は、確かに快感だったが、代償として、精神的疲労(主にパンティを侮辱されるストレス)も、蓄積していた。

 

「(……今日は、平和だといいな)」

 

窓の外は、雲一つない、完璧な秋晴れ。

こんな日は、難しい数学のことや、迷惑住民のことも忘れ、のんびりと散歩でもしたい。

 

「……そうだ。ヨウくん、私、パトロール行ってくる!」

 

「パトロール?」

 

「うん! 例の『いちごパーク』! あそこ、日当たり良くて、気持ちいいんだよねー。ちょっと、ベンチで、のんびり、してくる!」

 

いちごは「のんびり」の部分を強調した。

もはや、パトロールという名の「サボり」宣言である。

 

「(……なるほど。『いちごパーク』か)」

ヨウくんの脳裏に、あの、初めての変身で記録した、奇跡のローアングルデータが蘇る。

 

「……わかった。任務(パトロール)を許可する」

 

ヨウくんは、すっ、と立ち上がると、部室の隅にあるロッカー(機材用)から、小さなドローン(手のひらサイズ)を取り出した。

 

「え、なにそれ」

 

「偵察用だ。君が『のんびり』している間も、公園の平和は、多角的に観測する必要がある」

 

「(……それ、私を監視するってことじゃない?)」

 

いちごは、ジト(じとめ)でヨウくんを見上げた。

 

「……違う。あくまで、公園の、だ」

 

ヨウくんは、無表情のまま、ドローンのプロペラを指で弾いた。

 

「(……まあ、いいか。変なことしなきゃ)」

 

いちごは、深く考えるのをやめた。

カバンを掴むと、部室のドアに向かう。

 

「じゃ、行ってきまーす!」

 

「ああ。……桃瀬さん」

 

「ん?」

 

「今日は、確か……白地に、小粒の赤、だったな」

 

「…………」

 

いちごは、何も言わず、無言で、持っていた数学のドリルを、ヨウくんの顔面に向かって、全力で投げつけた。

 

---

 

カラン、コロン。

古い商店街を抜け、住宅地の間を抜ける。

「いちごパーク」は、いちごが『プリティストロベリー』に覚醒した、始まりの場所だ。

あの時、迷惑カメコを撃退した時の高揚感。

子供たちの、純粋な歓声。

それが、彼女の「ヒーロー」としての、原点だった。

 

(ふふん)

いちごは、ニチアサアニメ『スウィートハート』の主題歌を、鼻歌で歌いながら、公園の入り口をくぐる。

(やっぱり、ここは空気が美味しい)

(……あれ?)

 

いちごは、違和感に気づき、足を止めた。

公園の、中央。

子供たちが、一番、大好きな場所。

そこにあるはずの「砂場」が、異様な光景に、変貌していた。

 

「な……なに、あれ……」

 

砂場が、低い、泥の「城壁」で囲まれている。

入り口らしき場所には、段ボールに、クレヨンで、こう書かれていた。

 

『これより なか は「しょーた・きんぐだむ」。おう(ぼく) の きょかなく はいるべからず。(すなっく は べつ)』

 

(……しょーた、きんぐだむ?)

 

いちごは、首をかしげた。

砂場の、中央。

そこには、お菓子の「空き箱」で作った、歪んだ「玉座(※ただのバケツ)」が置かれ、一人の、五歳くらいの男の子が、ふんぞり返って、座っていた。

頭には、金色の折り紙で作った、王冠。

手には、プラスチックの、赤いスコップ。

 

「(……王様、のつもり、かな?)」

 

微笑ましい、子供の「ごっこ遊び」。

そう思って、いちごは、見過ごそうとした。

だが。

 

「こらー! すなっく・びー!」

 

王様(ショータくん)が、甲高い声で叫んだ。

城壁()の内側で、二人の、小さな女の子が、ビクッ! と肩を震わせる。

 

「な、なに……ショータくん……」

 

「『なに』 じゃない! きんぐだむ の ほうりつ だいさんじょう!『おしろ(うんこ) の よこ で うさぎ を つくってはいけない』! しってるだろ!」

 

ショータくんが、玉座(バケツ)から飛び降りると、女の子が、健気に作っていた、小さな「砂のウサギ」を、その足で、グシャリ、と踏み潰した。

 

「あ……!」

 

女の子の目に、みるみる、涙が溜まっていく。

 

「(……え?)」

いちごの、足が、止まる。

(今……あの子、いじめた……?)

 

「きんぐだむ に ひつような のは! もっと、おおきい『ひっさつうんこ(※泥団子)』だ! さあ、つくれ! はたらけ、すなっくども!」

 

ショータくんは、女の子たちを、赤いスコップで、ぺしぺし、と叩き始めた。

女の子たちは、泣き出すのを、必死に堪えている。

どうやら、この「王様」に逆らうと、もっと、ひどい目に遭うと、知っているようだった。

 

「…………」

 

いちごの、アホ毛が、ぴくん、と反応した。

 

(……あれは、「ごっこ遊び」じゃない)

(あれは、ただの……「いじめ」だ)

 

いちごは、カバンをベンチに置くと、砂場(キングダム)に向かって、まっすぐ、歩いていった。

 

「あのー、ちょっと、いいかな? 王様」

 

「んあ?」

 

ショータくんが、怪訝な顔で、いちごを見上げた。

 

「なんだ、この おばさん」

 

「(お、おばさん……!?)」

いちごの、額に、青筋が浮かぶ。

(ダメだ、桃瀬いちご。相手は五歳児。キレたら負け……!)

 

「お姉さん、だよ。ねえ、王様。どうして、あの子が作ったウサギさん、壊しちゃったの?」

 

「はあ? おうさま の しごと は、くに を まもる こと だから だ!」

 

「国を、守る?」

 

「そうだ! うさぎ なんか つくったら、きんぐだむ が、よわそう に みえるだろ! よわそう に みえたら、となり の こうえん の『けんじ(ライバル)』が、せめてくるんだぞ!」

 

(設定が、無駄に、壮大……!)

いちごは、眩暈(めまい)がした。

 

「そ、それは、それとして! 女の子を泣かせちゃ、ダメでしょ! 謝りなさい」

 

「……はあ?」

 

ショータくんは、心底、意味がわからない、という顔で、いちごを見返した。

そして、次の瞬間。

その顔が、怒りで、真っ赤になった。

 

「こ、この……! おうさま に、あやまレ、だと!?」

 

ショータくんは、ワナワナと震えながら、手にした、赤いスコップを、高々と、振り上げた。

 

「むれいもの! この おう の つるぎ、『えくすかりばー』の サビ に してやる!」

 

「(エクスカリバー!?)」

 

「すなっくども! であえー! この、はんぎゃくしゃ(おばさん) を やっつけろ!」

 

ショータくんが、女の子たちに、命令する。

だが、女の子たちは、泣きそうな顔で、お互いを見るばかりで、動かない。

 

「な、なんだ! おまえらまで、はんらん か!」

 

「(……ダメだ、こりゃ)」

いちごは、深く、ため息をついた。

(この子、自分が『王様』だって、本気で、信じこんでるタイプだ……!)

 

「しょうがない。王様。お姉さんが、遊んであげる」

 

「あそぶ? ちがう! これは、せんそうだ!」

 

「はいはい、戦争ね」

 

いちごは、スカートの裾が汚れないように、軽く屈むと、王様(ショータくん)の、両脇に、ひょい、と手を入れた。

 

「え? な、なに……」

 

「はい、たかーい、たかーい!」

 

「うわあああっ!?」

 

いちごは、そのまま、ショータくんを、軽々と、持ち上げた。

五歳児の、軽い身体が、宙に浮く。

 

「な、なにすんだ! お、おろせ! おうさま を、たかい たかい するなー!」

 

「ほらほら、飛行機だよー、ぶーん」

 

「いやあああ! プライド が! おう の プライド があああ!」

 

いちごは、そのまま、ショータくんを、砂場(キングダム)の「外」に、そっと、降ろした。

 

「はい、おしまい。じゃあ、みんな、仲良く……」

 

「う……う……」

 

ショータくんが、うつむいたまま、プルプルと、震えている。

 

「(あ、やば。泣かせちゃった……?)」

 

いちごが、慌てて、しゃがみ込もうとした、その時。

 

「うわああああああん! ママにいいつけてやるうううう!」

 

ショータくんは、伝家の宝刀(最終兵器)を、絶叫した。

そして、いちごが、呆気に取られている、その隙に。

 

「こうなったら、くらえ!」

 

ショータくんは、砂場の、一番、水を含んで、黒くなっている部分の「泥」を、エクスカリバー(スコップ)で、力一杯、すくい上げた。

 

「ひっさつ! うんこおおお!」

 

「え? ちょ、まっ……!」

 

いちごが、制止する間もなかった。

ショータくんが、渾身の力で、振り抜いた、赤いスコップ。

その先端から、水気をたっぷり含んだ、黒い、泥の(ひっさつうんこ)が、放物線を描いて、飛んできた。

 

スローモーション。

いちごは、咄嗟に、顔をかばおうと、腕を上げた。

だが、泥の塊は、腕をすり抜け。

 

べちゃっ。

 

という、非常に、不快な音を立てて。

いちごの、純白の、アトラクションヒーローのコスチューム……ではなく。

今日は、オフだった。

いちごの、お気に入りの、私服。

白い、フリルのついたブラウスの、ど真ん中に、命中した。

 

「「「…………」」」

 

公園の、時が、止まった。

泣いていた女の子も、泣き止んだ。

ヨウくんの、偵察ドローン(※木陰に隠れていた)の、プロペラ音だけが、虚しく響く。

 

いちごは、ゆっくりと、自分の、胸元を見た。

そこには、無惨にも、べったりと。

子供の、悪意(としか思えない)の象・・・「ひっさつうんこ(泥)」が、広がっていた。

 

「(う……そ……)」

 

「(……あ、おろしたて、だったのに……)」

 

アホ毛が、怒りで、ピーン! と、逆立った。

 

「ぎゃはははは! めいちゅう! おばさん の むね に、うんこ が ついたぞー!」

 

ショータくんが、腹を抱えて、笑い転げている。

 

「(……ヨウくん)」

 

いちごは、静かに、ポケットの、通信機(※ヨウくんが改造した生徒手帳)の、スイッチを入れた。

 

『……こちら、ヨウ。すべて、観測している』

 

通信機の向こうから、冷静な声が返ってくる。

 

対象(ターゲット):ショータくん(5)。脅威レベル:E。迷惑レベル:B+。

……桃瀬さん。その汚れ(うんこ)は、水性だ。君の怒りゲージに、高反応(ブースト)が、期待できる』

 

「(……分析、ありがとう!)」

 

いちごは、泣き止んだ女の子たちに向かって、振り返った。

そして、できる限りの、優しい笑顔(※目は笑っていない)を、作った。

 

「みんな! 今から、本物の『魔法』を、見せてあげる!」

 

「え? まほう?」

 

「そう! だから、あっちの、滑り台の陰に、隠れててくれるかな? ちょっと、危ないから!」

 

「「はーい!」」

 

女の子たちが、素直に、滑り台の裏に、駆け出していく。

それを見た、ショータくんが、鼻を鳴らした。

 

「まほう? なんだそりゃ。おばさん、あたま、おかしくなったのか?」

 

「……おかしくなったのは、どっちでしょうね」

 

いちごは、静かに、泥まみれのブラウスのまま、公園のトイレ(多目的用)へと、向かった。

 

「あ! にげるなー!」

 

ショータくんが、エクスカリバー(スコップ)を振り回して、追いかけようとする。

 

「待て! このさき は……」

 

トイレの、入り口。

いちごが、そのドアノブに、手をかけた、その時。

トイレのドアが、内側から、ギイ、と開いた。

 

「え?」

 

「……遅かったな、桃瀬さん」

 

そこには、なぜか、先回りしていた、ヨウくんが、無表情で、立っていた。

その手には、プリティストロベリーの衣装が、完璧に畳まれて、捧げ持たれていた。

 

「よ、ヨウくん!? なんで!?」

 

「ドローンで、君の動向と、(ショータくん)の『攻撃(うんこ)』を、予測した。先読みして、部室から、衣装を、運んできた」

 

「(さ、さすが、妖精さん……! 仕事が、早すぎる……!)」

 

「ほら、早く」

 

「う、うん!」

 

いちごは、ヨウくんから衣装を受け取ると、多目的トイレの個室に、飛び込んだ。

 

「(……くそっ! どろ、くさい!)」

泥まみれのブラウスを、乱暴に脱ぎ捨てる。

(あの、クソガキ……! 王様だか、何だか、知らないけど……!)

(女の子を、泣かせて!)

(人の、お気に入りの服を、汚して!)

 

(絶対に、許さない……!)

 

コスチュームの、冷たい生地が、怒りで火照った、いちごの肌に、触れる。

力が、みなぎってくる。

 

「おーい! おばさーん! でてこーい!」

 

外で、ショータくんが、トイレのドアを、エクスカリバー(スコップ)で、ガンガン叩いている。

 

「でてこないと、この ドア にも、うんこ、ぬっちゃうぞー!」

 

その、挑発が、最後の一押し(トリガー)だった。

 

バンッ!!

トイレのドアが、内側から、勢いよく、蹴り開けられた。

 

「なっ!?」

 

ショータくんが、目を、見開く。

そこに立っていたのは、さっきまでの、泥まみれの「おばさん」では、なかった。

 

夕日を背に、純白のコスチュームが、輝いている。

 

「(……来た)」

トイレの影で、ヨウくんが、メガネ(カメラ)の、録画ボタンを、押した。

 

「だ、だれ……?」

 

ショータくんが、あまりの変貌に、後ずさる。

プリティストロベリーは、怒りに燃える瞳で、小さな「王様」を、見下ろした。

 

「さっきまでの、(お姉さん)は、もういません」

 

いちごは、完璧な、決めポーズを取った。

 

「愛と正義の! プリティストロベリー!」

 

「……え?」

 

ショータくんの、動きが、止まる。

その、ポーズ。

その、衣装。

それは、彼が、毎週、日曜の朝、テレビに齧り付いて、目に焼き付けている、憧れの、ヒロイン……

 

「……え? え? 『すいーとはーと』……じゃない……」

 

ショータくんは、混乱していた。

だが、その「ホンモノ」が放つ、オーラに、気圧されていた。

 

「ご近所の平和(この公園)を乱す、小さな暴君(あなた)に!」

 

いちごが、ビシッと、ショータくんを、指差す。

 

「お仕置き、です!」

 

「(……お、おしおき……?)」

 

ショータくんの顔が、恐怖や、反抗ではなく。

じわじわと、別の感情(・・・・)に、染まっていく。

 

「(……あれ?)」

いちごは、相手の、予期せぬ反応に、戸惑った。

(この、クソガキ……。なんで、ちょっと、嬉しそうなの……?)

 

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