来世は平和な世界がいいと言ったがこれは違うだろ 作:曇らせスキー4545世
からん、カフェにお客さんが入ってきたと伝えるベルの音が鳴る。さて、誰が来たのかと目を向けるとそこには満面の笑みを浮かべて此方に駆け寄ってくるピンク色が特徴的な子、この世界で初めての友達──カービィがやってきていた。
「やあ、カービィ」
カービィの笑顔に釣られるように笑って手を振ると同じようにわぁいと声を上げて手を振り返してくれる。
「さっきの見てたよ。今日は君が一番だったのかな?」
「!」
そう尋ねるとカービィはニッ、と笑って手を挙げる。この様子を見るにカービィが今日のホームラン王だったのだろう。
ギャラクティックホームラン王──度々隕石が落ちてくるポップスターでは割とメジャーな遊びだ。
内容は酷く単純。落ちてきた隕石をどこまで打ち返せたかの距離を競うゲームだ。しかも記録になるのは一光年から。それ以下はもれなく失格だ。
イカれてるのかな? 年がら年中戦ってた前世でもこんな訳の分からんゲームはないし、距離の最小単位が光年の時点で頭の螺子だいぶ外れていらっしゃる。
そもそも星の危機レベルの隕石を野球バット一本で破壊もせずに打ち返すこと自体どうかしている。何なんだこのポップスターの原住民。
「今日は一万光年先までかっ飛ばした? へ、へぇ、スゴイネー」
どうやらカービィは一万光年もかっ飛ばして新記録を叩き出したらしい。
……どうなってんのかなぁこの世界。光の速度で飛ばしても一万年かかる距離だからこそ一万光年なのにほんの数十分前にかっ飛ばした隕石の飛距離を観測出来てるんですかね。相変わらずこの世界物理法則が仕事をしていない。恐らく神と一緒にバカンスにでも行ってるのだろう。
纏めて消えればいいのに。
「ま、新記録出したみたいだからお祝いに美味しいものをあげよう」
「──♪」
そう言うとカービィは嬉しそうに笑った。
カービィとは春風が吹いていたころからのそこそこ長い付き合いだ。彼は食べ物であれば何でも好きではあるが、その好きの中にも大小があるということは知っている。例えば数多ある食べ物中でもデザートのような甘い物が好きだ。特にイチゴのケーキを好んでいる節がある。
どちらかというと彼は子供舌なのではないかと今までの食事の反応から推察している。
ただ、一つだけ甘いものでなくとも彼にとっての大好物というものがあってそれが──
「はい、マキシムトマトだよ」
表面にMの字が書かれたトマトをカービィの前に差し出すと途端に目を輝かせ始めた。
このトマト割と希少なだけあってとても美味しい。あと体力増強性能が半端じゃないくらいに強い。前にこれを食べたポップスターの住人がムキムキになったくらいには凄い。……やばい薬でも入ってんじゃないだろうなこれ。
それはさておきこのマキシムトマトだが、普段であれば調理してからお出しするのだが、どうやらカービィはこのトマトだけはそのまま食べるほうが好きなようなのだ。
なのでカービィに対してだけはこのトマトはそのままの状態で提供する。今日は新記録更新のお祝いに3個も付けちゃう。
「──♪」
握り拳大の大きさのトマトを一口でぱくりと食べるカービィに思わず口が綻ぶ。苦労してグルメットまでいって確保してきた甲斐があったというものである。
ちなみにグルメットというのは食べ物が自生している果樹園のことだ。食べ物と言っても果物だけではない。ハンバーグ、寿司、オムライスなど調理された加工品なんかもそこら中に自生しているのだ。
果樹園って一体なんだ????
カービィもたまにそこに行ってグルメレースなる遊びをしているらしい。やってることは拾い食い競争だそうだ。……普通の遊びだな!
少なくともこのポップスターの原住民達は爆弾を使った遊びをしたがるので拾い食い競争はまともだ。本当にまともか?
そんな事を考えていると名残惜しそうに最後の一つのマキシムトマトを手に取って頬張るカービィの姿が見えた。相変わらず食うの早いなこの子。
せっかくだしついでに出しとくか。
「はい、おまけね」
そう言ってカービィの目の前に出したのは新商品として売り出そうかと考えている試作品──イチゴのショートケーキハイパーメガトンデラックス昇天ペガサスMIX盛り級である。
特徴は何と言ってもこの盛りに盛られたトッピングの山。どう考えても普通ならば乗り切らないほどに乗せたトッピングの量はなんと土台のショートケーキの約八倍の量。最早ショートケーキの上にホールケーキを乗っけているようなものである。
自分で作っててどうやって載っけてるんだ? と思いながら作り上げた逸品。単なる馬鹿の料理ではあるが、大喰らいの多いポップスターではウケるのではと思って作ったのだが──もう食べきってる!?
ちょっと目を離した隙に先程のハイパーメガトン……名前長くない? ショートケーキをぺろりと平らげてお腹? らしき部分を擦っているカービィの姿があった。
沢山食べて満足したらしいカービィは手持ちのコインスター500枚を置いて帰るらしい。そもそもこれはお祝い品だから金を取るつもりもなかったのだが、どうやら先の大会で優勝したお金を持っていても仕方がないらしい。
いわゆる宵越しの銭は持たないというやつだ。旅人である彼らしい。
「──?」
「ん? エアライドはやらないのかって?」
エアライド──最近またしても空から降り注いできた謎のマシンを使ったレース──は私には到底出来ないだろう。そもそもエアライドマシンの車体の大きさ的に私では普通に乗ることすら難しい。
後昔、似たようなことがあってエアライドが流行ったことがあったのだが、その時の惨状を見て絶対やらないと決めている。
伝説のエアライドマシン、ハイドラを完成させたカービィがそれはもう惨い殺戮劇を広げたのだ。苦労して育てたであろうマシンを後ろから突撃して一撃破壊しては別の子のマシンに突撃。それを繰り返した結果、カービィ以外の子のエアライドマシンは初期マシンのライトスターという悲惨な結末を迎えていた。
最終決戦? ……デスマッチで嫌な事件が起きたね、とだけ。
という諸々の事情がある為エアライドに参加するつもりはないのである。そのことを伏せてやるつもりはないと伝えるとカービィは目に見えてしょぼくれていた。
すまんな、でも命は惜しいから。
「でもまあ……観戦とか応援とかはさせてもらおうかな」
「──! ──♪」
その一言でカービィは目をキラキラと光らせて満面の笑顔を浮かべた。よほど嬉しいのか今にも踊り出しそうなほどだ。
絶対に見に来てね! と言うとカービィはカフェの入り口に向かった。どうやら新しく建設中のエアライドのシティにお手伝いに行くらしい。
扉から出る最後まで手を振るカービィに手を振り返すと彼は最後にまた笑ってからワープスターに乗って飛び去った。
……今日は星の危機レベルの隕石が落ちてきただけで済んだ平和な日だったなぁ。
そんなことを窓からカービィが飛んでいく姿を見ながら思った。
──いや星の危機レベルの隕石4つも落下してきたのは普通に大事件だな?
どうやら自分が思っている以上にポップスターに染まっていること気がついて愕然とした。ここの価値観に染まるのは本当にまずい!
ギャラクティックホームラン王:スターアライズのミニゲーム。都市の危機、国の危機、星の危機の順に難易度が上がる。基本単位は光年から。一番やさしいものでも都市の危機レベルの隕石なのでポップスターはもう滅茶苦茶。
メガトンパンチとかいう星割りのミニゲームがある時点で大概?それはそう。
「あなた」はカービィ達ポップスターの住民達と話しているが、実のところカービィ達に対して言葉自体は伝わっていない。けれど何となく伝えたい事は分かるらしい。そしてそれは「あなた」もまた同じである。