どうか、あなたの物語が見つかりますように。
新しい車内に慣れないながらも運転し始めて数三十分が経過した。
車内はとんでもないくらいの空気になっていた。とにかく僕が鼻歌を歌わないと何とか出来ないのがあまりにも酷すぎるくらいには。それにその空気が一本の殺意という問題があまりにも後ろ二人のその殺意の根本に向けられている視線も大問題だった。
「えっと……清水君、車酔いとかしないよね」
「……する訳ないだろ」
「そっか、頼むからその視線を何とかしてくれると助かるんだけど」
「はぁ?殺せねぇ代わりにこうして殺意向けるのもダメなのかよ」
「……テンマ、こいつやっぱり殺そう」
「リチャード、私も同意見だった」
「……」
清水は黒いローブ越しからこちらを紫色の瞳で睨み付けながら、まるで殺意を向けることは自分にとって当然の権利であるという様にヘラヘラと言う。それに対して僕に対して恩を感じているテンマと、普通に清水を敵対視しているリチャードの二竦みによって清水の企みは引き止められている。
もちろん清水はファタールの『契約』を破る事は出来ない。そもそも、契約や都市の『魔法』の力だ。
これを破る奴なんて恐らくいない……筈である。
「……それより、あんたはこれからどうする気なんだ。俺を連れて」
そして件の清水幸利は、僕に対してこの先の目的を聞いてくる。
ちなみに、清水幸利が今の僕……目の前にいるのが『相馬 アキラ』である事を気が付けていないのは『八時のサーカス』のリーダー、オズワルドが遺してくれた幻影の能力だ。
これのお陰で僕はあまりバレにくくなってるし、そもそもこいつは他人を覚えるとかいう事をしない。僕自身もあまり喋る人間じゃないからこいつから『こんな奴いたか?』と忘れ去られているんだろう。
そんな中で、僕とは知らずに話しかけてくる。
「(下手に思い出されて思惑を悟られるよりかはマシか……)僕達は冒険者だ。依頼があったらそれを遂行する。僕達は君の隣で刀を抜こうとしてるテンマの依頼でウルの街で仕事をしていただけでね……これからフューレンに戻る予定だよ」
「へぇ、いい事聞いた」
「…やっぱりこいつ殺しておいた方が良かったんじゃないの?」
「同意…」
「血の気盛んなんだから……」
実際2人の血の気の高さは勘弁して欲しい所があるから、困り者である。
だが怪しくはなくなったとは言えない。清水幸利はもちろんだが清水幸利を利用したであろう存在については探らなくてはならない。
「ひとつ聞くけどさ、君を利用する魔人の中に赤色の翼を持った人と変な仮面を付けてる人いなかった?」
「あ……?……ああ、いたな。確かゼホンと、エリナって名前だった」
「(『血染めの夜』と『人形師』は確定か……)他には?」
「俺を誘ってきたのは、その二人だ……それ以外は多分、そいつの部下とかだろ」
「なるほどね」
やはりあの二人が裏で動いているのは間違いない事が判明した。
しかし問題は増えた。魔人側に彼らがいるという情報を伝えた所で……という状況。
まず人形師……ゼホンが厄介なんだ。
彼は非常に卓越した人形を制作する事ができる、それも『まともな思考、知能』がないというデメリットを除いてその肉体に刻まれていた身体能力や戦闘技術がしっかりと引き継がれているのだ。
この戦闘能力は、なんと戦闘を繰り返す度に人間の様に強化される。
しかも、セボンがねじれ化した影響かこの人形達はセボンの元を離れて操作できるという訳だ。
末恐ろしい能力ではあるが、所詮は人形である。
「一先ずは……こっちに目を通さないと」
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天職:闇術師/?????
筋力:210
体力:370
耐性:200
敏捷:370
魔力:1280
魔耐:1090
技能:闇術[+思考洗脳][+傀儡操作][+恐怖統率][+悪意付与][+精神汚染][+心身重篤]・心身看破・闇魔術適性[+詠唱短縮]・並列詠唱・言語理解
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テンマ 20歳 女 レベル:64
天職:暗器使い/?????
筋力:580
体力:1180
耐性:300
敏捷:1970
魔力:390
魔耐:320
技能:暗器術[+殺人剣閃][+短剣投擲][+鉄扇打撃][+斬糸展開][+刃鞭曲撃]・縮地[+瞬閃][+縮脚][+震脚][+無呼吸]・呼吸[+瞬間][+循環][+過呼][+過集]・気配感知・隠業[+幻景]・言語理解
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清水君とテンマの情報の整理をしたい。
まず、清水君は戦闘というより交渉や国関係の人間関係の動きに関与できる。
魔物に対しての洗脳技術を考えると、一瞬とはいかずとも肉壁を時間を置けば大量に作れる点は魅力的だし即戦力を作れるのは僕としても目を見張るものがある。
ただし本当に戦闘スキルがないという点は、彼のフラストレーションを貯める可能性がある。
何せ彼は勇者を超えて『目立ちたい』『認められたい』という思いが強いのだ。
そんな彼が戦闘で役に立たない、なんて事が起きれば謀反を起こされてもおかしくないだろう。まぁそんな事したら契約でスキルとか臓物が奪われるだけなんだけど……それくらいくれてやる!と意気込んできそうなのが彼の怖い所だ。
一方、テンマの方を確認してみる。
暗殺者ではなく『暗器使い』という職業だった。
おそらく暗殺者ではなく暗殺に使う様な武器を沢山使うのが得意という訳だ。シ協会らしいというか、テンマさんらしいというか……
だがスキル項目を確認してみると、呼吸という項目があるのが分かる。
どうやら、通常の行動に呼吸のスキルを挟むと出力が2倍になるとか、なんとか。
ステータスの偏り方を確認するに、魔術にはあまり向いていなくて近接戦闘や武装による妨害がメインの運用になると思う。
テンマさんの強さ自体はシ協会に入っていた時の剣技や経験がある。ステータスとスキル以外にもしっかりと彼女の支えになる骨組みがある為あまり心配はいらないと感じる。
「ひとまず、これから共に働くんだから自己紹介してもらっていいかな?」
「自己紹介?…小学校じゃあるまいし」
「必要なら、する」
「じゃあ頼もうかな」
少しだけ間を置いて、テンマさんが自分の経歴について話し出した。
「テンマ。これからお世話になるんだから、秘密とかも無しで行く。
私はこの世界とは別の世界―――都市という場所からこの世界に流れ着いた、暗殺組織〝シ協会〟に所属してた。
その後、私と一緒にこの異世界に来たシ協会の上司のユジン課長と、ヴァレンティンと冒険者のチーム〝死の境界〟を作ってここで暮らしてた。今は、このアキラのチームにいる。これからよろしく」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
ファタールとリチャードが頷き、「今度は俺の番かよ、何時の罰ゲームだよ……」と悪態を付きながらため息を漏らす清水君の声が聞こえてくる。
が、本人は乗り気ではないもののしっかり言われた程度にはやろうとしてくれたのか、僕以外の皆から「早くやれよ」と同調圧力的な視線を送られたのを見て堪忍したのか更に深いため息を漏らして口を開いた。
「……
ほら、あるだろ。例えば〝俺はお前に逆らえない〟みたいな魔術。そういうのを俺は相手の心理に魔術で触れて自然に従属させたり、上下関係を作って逆らえなくさせたりする。洗脳って言えば悪人みたいになるから、暗示みたいなもんだと思えばいい。
それで……俺はそこの女と同じ世界じゃないが、別の世界……〝地球〟って場所からこの世界の神様だったか。〝エヒト〟って奴の意思によって召喚されたらしい。
「説明が雑過ぎるんじゃないか」
「うるせぇな……これ以上何を言えっていうんだ?仲良くしていこうぜ、とか?俺がそんな言葉吐くキャラに見えるかよ」
「ははっ、見えないかも」
「だったら期待すんな」
やっぱりというか、清水君自体は他と馴れ合う気はない。そりゃあ、ファタールの契約上仕方なく連れ回されているだけだ。今はファタールだけに従うだけで、他のメンバーと馴れ合うつもりはないだろう。
が、ファタールはその様子を見て特に何も言わない。恐らく自然に絆される事を見込んでいる……のだろうか?
「(ファタール、ちょっといい?)」
「(はい)」
ファタールに対して〝念話〟を使用すると、軽く応えてくれる。
ハジメ君にもこれを定期的に使っているが、この〝念話〟というスキルの非常に有能な性能に驚いている。相手を正確に認識出来て、居場所に対して見当がついているのならどんなに離れていても相手と念話が出来る。もちろん、魔力を消費してしまうので現実と同じく長電話はあまり宜しくないがそれでも脳を使って相手と電話して情報交換を出来るアドバンテージや念話相手と自分しか反応出来ない秘匿性を考えてもこのスキルは情報戦の一歩先をいっていると言っても過言ではない。
「(清水君については君が責任を取ると言ってくれたから、一応納得はしたけど……彼、大丈夫だと思う?戦闘面の方針とか考えてる?)」
「(考えております)」
「(あ、考えてたんだ)」
まさかの回答が返ってきた。どう見ても、清水君のステータスは戦闘向きではない。
これをどう有利に使うんだろう、と考えていたのだ。
「(それで、彼の性格的に戦闘面とかも使ってあげないといけないけどそこについて聞かせてくれないかな?)」
「(まず、彼には〝心身看破〟というスキルがあります)」
「(あるね。これが何か?)」
「(恐らく相手の考えている事が嘘か真かを見極める……というより、相手が〝何を考えてこちらについてどう行動するか〟が何となく分かるのでしょう。だからあの時、清水幸利は愛子さんを迷いなく人質に仕掛けました)」
「(……なるほど)」
要するに、相手の心身を読んで『この後こう動きたいんだよな』という相手の心理に対して先手を打つ事が出来るという訳だ。
情報戦ならば真っ先に使いたいスキルである。
「(そこから考えるに……清水幸利はこのパーティーになかった問題を解決してくれる筈かと)」
「(問題?何があったっけ……EGOの問題?)」
「(いえ、そうではなく……〝エヒト〟の従属能力についてです)」
「(!―――そう来たか)」
そういえば、エヒトは何処まで対象を自分の部下としておけるのだろうか。
間違いなく自分が作ったものに対しては、確実に部下にできる。自分の作ったものが自分の作ったものではなくなるというのは、事実を塗り替えられない限りありえない。故に基本叛逆されることはないだろう。
が、例えば自分が作った世界に自分が作った訳では無いが自分の世界に入ってきた人間がいる場合、これは自分の力が働く相手であるのだろうか?という点だ。
一番のイレギュラー的存在である僕と、今の所情報が足らず生死不明のアルガリアを除いて話をするのなら、まず僕とアルガリアを除いて残響楽団は全員死んだ後、この世界に魂が流れ着いている。そしてその魂をエヒトに見つけられ、従属させられている。
魂の状態になった時点で逆らえないという事だろうか?しかし、魂というよく分からない状態について僕もよく分からない。見たことがないからだ。
ファタールを作った時に感じる物凄い不定形で、雲を掴んでみろという無理難題をやっている感覚が魂を作って操っている感覚なら正直、これを一人一人にやるのが面倒くさい気がする。
が、相手は僕達の知らないスケールである〝神〟という存在だ。それらを片手間でやるくらい出来るだろう。
僕が6級フィクサーだったら、相手はA社の〝調律者〟である。それにどう対抗しろと言うのだ?
まぁ、6級フィクサーならA社の代名詞である〝調律者〟くらいは知っている……というアドバンテージしかない訳だ。分からない事が多過ぎる。
もし、もしそれをだ。
操られていたり、エヒトが干渉していると〝心身看破〟で見抜ける場合は話が変わってくる。
「(もしこれが効果アリの場合、エヒトが送り出してくるスパイについて分かる。が、それは同時にこれからは仲間を疑わないといけなくなる訳なんだよな……それに、この世界に〝転移させられて〟、〝ステータス〟という概念を植え込まれた以上、僕達もエヒトの何らかの術に掛けられていると考えてもいい訳だし……)」
そう思うと、背筋がゾクッと震える。
他人に心臓を握られているような気分に、少し吐き気が登ってきた。しかし既のところで口を抑えて上手く隠す。
万が一は自分で自害する決意は出来ているが最低2回、手遅れになる前に何かの対策は取らなければならない。
反逆者の情報や神代魔法を集めなければ、そう簡単にこの世界を救う事は出来ない。気の長い道のりではあるが……
「(アキラ様?)」
「(―――大丈夫。少し思い耽ってただけだよ。
一先ず方針は決まった。まずはフューレンに向かって報酬をハジメ君と一緒に受け取ろう。
そしてハジメ君と改めて方針を話して、これからは神代魔法と一緒にエヒトや教会についても情報をかき集める事にしないと。
神の対策は早急に付けないといけない。別に裏切り者が出た訳じゃない、ただこれくらいの事を考えておかなければならないという問題は出てきた訳だし。
これから忙しくなるね)」
「(ええ、そうなりますね)」
少しファタールの安心した声が聞こえてくる。
そういえば……清水君に巡って少し喧嘩した感じになってたな。あの時は少し自分でも混乱してたから、強く当たっていた気がしてくる。
「(ファタール、清水君についてだけど……)」
「(はい)」
「(これからも君に任せるよ。契約相手は君だし……ファタールなら、必ず責任をもってやれると信じてるから。
君の言葉を僕は理解しているから、彼の言葉に負けないで頑張って欲しい。
それと……強い言葉で当たった風に言っちゃって、ごめん。君は僕の仲間なんだから、僕がそんな言葉を吐いても反論して欲しい。
おかしい事はおかしいと言ってくれないと、頭がおかしくなってしまいそうだからさ)」
「(……ええ。もちろんですとも)」
ファタールの言葉に対して、ふぅと一息をついてからハンドルに置いた手に力を込める。
これから一切の油断は出来なくなる。本格的に勇者組に干渉してくる魔人側も、エヒト側も気にしないといけない。
清水君は契約上大丈夫とはいえ、あともう一人情報戦に強い仲間が欲しくなってくる。
それこそセブン協会の人達とか……
「(いっその事、この世界にいるか調べてみるか……フューレンのギルドのツテを使えば調べられそうだ)」
そう思いながら新たな仲間である、元シ協会所属のテンマと闇術師の清水君を含めた僕達一行は中立商業都市フューレンへと向かうのだった。
フィリップ、誕生日おめでとう!
更新遅れてすいませんでした。