雛芥子の芽吹く頃 作:西楚の一平卒
銀行ができていた。
正確には、前からあった。私が気づいていなかっただけらしい。昔の銀行とは少し違う。建物は古いものを修理して使っていて、入口の硝子には端の方にひびが残っている。看板は新しい。中を覗けば窓口があり、人が並び、お金を預けたり、貸したり、別の場所へ送ったりしてくれるらしい。
便利ね。
お金を預けたら、後で返してもらえる。そんなことが当たり前になるまで、随分かかった。
銀行の向かいにはパン屋がある。その隣は服屋。少し先には食堂があり、道路には車が走り、歩道を人が歩いている。電柱から伸びた線が建物へ入り、夕方になれば灯りが点く。道路の端にはまだ古い亀裂が残っていて、建物にも補修した跡がある。新しい煉瓦と古い煉瓦では色が違うし、壁の一部だけ妙に綺麗な店もある。
全部直ったわけではない。でも、直している。そういう街になった。
私はパン屋へ入った。
「いらっしゃいませ」
焼きそばパンはなかった。
残念。
代わりに餡パンを取って会計を待っていると、入口の鈴が鳴った。入ってきたのは大きな人だった。背丈は二メートルくらい。頭まで鱗に覆われ、顔は人間より蜥蜴に近い。鼻が低く、口が前へ突き出していて、歯も鋭い。太い尻尾がズボンの後ろから出ていた。
最近、こういう人も増えた。昔からいたけれど、もっと珍しかった気がする。
「これと、これ」
「……はい」
店員の声が少し硬くなった。大きな人がパンを二つ置く。店員は普通に値段を言い、お金を受け取り、お釣りを返した。
「ありがとうございました」
大きな人が出ていく。
それだけ。
少しして、奥から別の店員が顔を出した。
「怖いな」
「聞こえるよ」
「もう出たって」
「別に何もしてないでしょう」
「分かってるけどさ。あの顔で睨まれたら」
「睨んでないって」
「そうだけど」
私は餡パンを受け取った。
「ありがとうございました」
「うん」
外へ出る。さっきの人が少し先を歩いていた。
誰も追い出さない。石も投げない。殴らない。同じ店で物を買える。同じ道を歩ける。随分よくなった。でも、嫌われないとは限らないらしい。
人間ってそんなもんよね。
餡パンの袋を開ける。一口食べた。甘い。悪くない。たまにはいいかも。
少し歩いたところで、工事をしていた。
珍しくはない。この辺りではどこかしら壊しているか、直している。今日は古い建物の一部を取り壊しているらしい。道の半分に柵が置かれ、その向こうで何人かが働いていた。
「まだ上げるなよ!」
大きな声がした。
見る。
太い梁の下に男がいた。しゃがんだまま、両手で梁を支えている。身体は普通に見えるけれど、あれを一人で持っているなら普通ではないのだろう。
「こっち外す! そのまま!」
「分かった!」
別の人が梁の端を確認している。男は持ち上げない。ただ支えている。
「よし、上げろ!」
合図が出た。
男が立ち上がる。太い梁が一緒に持ち上がった。周りの人が下へ入り、素早く何かを外していく。
「そこで止めろ!」
「ここ?」
「そこ! 動かすな!」
止まった。随分細かい。
その隣では、手のひらから白いものを出す女の人がいた。粘土みたいなものを壁の隙間へ詰めている。少し離れたところには同じものを塗った煉瓦が置かれ、別の男が金槌で叩いていた。
「こっちはいいな」
「じゃあ使う?」
「待て。昨日の分も見る」
「はいはい」
女の人は手を止めた。
使えるから使う、というわけでもないらしい。
少し眺めていたけれど、別に面白いものでもなかったので歩き出す。
前から人が走ってきた。
「逃げろ!」
何人もいる。何だろう。
横へ避ける。
「銀行だ!」
「強盗!」
ああ。
さっきの銀行。
振り返ると、入口から人が飛び出してきた。頭から布を被り、片手には袋。もう片方の腕が妙に大きい。
違う。大きくなった。
右腕だけが膨らみ、人間の胴体ほどの太さになる。振り回した腕が入口脇の柱へ当たり、鈍い音と一緒に表面が砕けた。硝子が割れ、人が悲鳴を上げる。
「退け!」
強盗が道路へ出た。
太い腕を横薙ぎにする。その先に逃げ遅れた女の人がいた。
血を出そうとして、止めた。
少し遠い。間に合うけど。
面倒。
それより先に、大きな影が動いた。さっきの蜥蜴みたいな人だった。
女の前へ入り、両腕を交差する。強盗の腕がまともにぶつかった。鈍い音が響き、大きな身体が靴底を擦りながら少し下がる。それでも倒れない。
「早く!」
女が走る。
蜥蜴の人も後ろへ下がった。腕の鱗が何枚か割れている。血も少し出ていた。
「てめえ!」
強盗が腕を振り上げる。
警笛が鳴った。
「警察だ! 動くな!」
盾を持った警察官が何人も走ってくる。強盗は逃げようとした。警察官が道を塞ぎ、太い腕が盾へぶつかる。二人ほど後ろへ押されたけれど、今度は崩れなかった。横から別の人が棒のようなものを強盗の脚へ絡ませ、何人かで引く。転んだところへ盾が重なった。
しばらく暴れていたけれど、人数が多い。
そのうち動かなくなった。
強盗の腕も元の太さへ戻っていく。
終わったらしい。
警察の人たちは強盗を拘束し、銀行の人や周囲にいた人へ話を聞き始めた。壊れた入口の近くでは誰かが硝子を掃いている。救急の人も来た。
さっき助けられた女が、蜥蜴の人のところへ戻っていた。
「ありがとうございました」
「いや」
「腕、大丈夫ですか?」
「これくらいなら」
本人はそう言っているけれど、警察官が近づいてきた。
「すみません。少しお話を」
「あ、はい」
「先ほど、異能を使用しましたね?」
「え」
蜥蜴の人が自分の腕を見る。鱗。太い。最初からそういう身体なのだろう。
「……これ、どうやって?」
警察官が止まった。
「ああ、いえ。その……能動的な使用は控えてください」
「何もしてませんけど」
「犯人の攻撃を受け止めていましたよね」
「立ってただけです」
そうね。
立っていただけだ。
強盗が殴った。この人は硬かった。それだけ。
「この人、私を助けてくれたんです!」
女が間へ入った。
「分かっています。逮捕するという話ではありません。事情を確認したいだけです」
「じゃあ何が駄目なんですか?」
「駄目だとは――」
警察官が困っている。
蜥蜴の人も困っている。
助けられた女も困っている。
少し離れたところでは、別の人たちが見ていた。
「でも、すごいな」
「あれ食らって平気なのか」
「異形ってやっぱ違うんだな」
「怖え」
蜥蜴の人の尻尾が少し動いた。
何も言わなかった。
警察官に呼ばれて、向こうへ歩いていく。助けられた女もついていった。
私は餡パンを食べる。少し冷めていた。
翌日、同じ道を通った。
銀行の入口には板が張られていた。営業はしている。正面が壊れたので、横の扉から入るらしい。昨日割れた硝子を片づけている人がいて、道路には白い印が付けられている。そのうち直すのだろう。
昨日の工事現場も動いていた。
「上げるぞ!」
「待て、まだ!」
「はいはい」
梁を持った男が止まる。
合図を待つ。
「よし!」
上げた。
昨日と同じ。
パン屋も開いている。
「いらっしゃいませ」
焼きそばパンがあった。
よかった。
◇
また捕まった。
「またですか」
「またよ」
「今月二回目ですよ」
「そうだっけ」
「そうですよ」
「詳しいわね」
「仕事ですから」
警察の人が溜息をついた。
今回は三人。一人は遠くから空気を固めて飛ばす。もう一人は触れた相手の身体を重くする。最後の一人は普通の銃を持っていた。
最初の二人が私を動けなくして、三人目が撃つつもりだったらしい。
撃たれた。
肩に。
血が飛んだ。痛かった。でも、まあ。肩だったので誤魔化せた。
撃った人は、私が普通に腕を動かしたら驚いていた。
「外れた」
と言っておいた。
通ったかは知らない。
その後は三人まとめて血で縛った。相手が先に撃ったことは何人も見ている。銃も残っている。たぶんすぐ帰れる。
待つ。
暇。
面会だと言われた。
また和也かな。
和也だった。
「こんにちは」
「こんにちは」
少し見ないうちに、随分変わった。
服が違う。
スーツ。
似合っていないわけではない。でも、見慣れない。
「就職したの?」
「第一声それですか?」
「違うの?」
「まあ……似たようなものです」
和也が座る。机に置いた鞄も前より立派になっていた。
「また捕まったんですね」
「またよ」
「何人?」
「三人」
「増えてるじゃないですか」
「日によるわね」
「天気みたいに言わないでくださいよ」
そう言われても。来る日は来る。来ない日は来ない。
「怪我は?」
「撃たれた」
「え!?」
「肩」
「大丈夫なんですか!?」
「大丈夫」
「見せてください」
「嫌」
「なんで」
「服脱がないと見えないから」
「あっ、いや、そういう意味じゃ」
慌てた。
何を想像したのだろう。
「治療は?」
「した」
嘘ではない。
自分で。
「ならいいですけど……」
まだ何か言いたそうだったけれど、私はスーツの方を見る。
「それで、その服」
「ああ」
和也が自分の襟へ触れた。
「政治の方に行こうと思ってます」
「そう」
「……それだけ?」
「何かいる?」
「もう少し驚きません?」
「なんで?」
「なんでって」
和也が困った。
勝手に調べて、勝手に悩んで、勝手にスーツを着た。私が驚くところは特にない。
「最初は、役所に話を持っていけばいいと思ってたんです」
「うん」
「駄目でした」
「そう」
「いや、全然駄目ってわけじゃないんです。話を聞いてくれる人もいるし、問題だと思ってる人もいる。でも、法律を変えるとなると、それだけじゃ足りない。賛成する人を集めて、反対する人と話して、役所とも警察とも消防とも話して、それぞれ言ってることも違って」
「面倒ね」
「面倒です」
即答だった。
「だから、もう少し直接関われるところに行こうと思ってます」
「政治家?」
「……最終的には」
「そう」
「まだ候補にもなってませんよ」
「じゃあ無職?」
「違います」
「そう」
「その納得の仕方やめてもらえません?」
難しい。
和也は溜息をついて鞄を開けた。
紙が出てきた。
やっぱり。
「それで、前に話してたことなんですけど」
「何だっけ」
「自由にするだけじゃ駄目だって話です」
「ああ」
思い出した。
「少し考えました」
「うん」
「前に俺、仕事なら異能を使えるのに、道に出たら駄目なのは変だって言ったでしょう」
「言ってたかも」
「言いました」
「そう」
「それで、逆に考えたんです。なんで仕事なら使えてるんだろうって」
和也が紙を一枚出した。
「工場とか工事現場を見て回りました。話も聞いて」
「暇なのね」
「最近忙しいんですよ」
「じゃあ、なんでそんなことしてるの?」
「必要だからです」
「大変ね」
「はい」
疲れている理由が分かった。
「仕事で異能を使ってる人って、好き勝手に使ってるわけじゃないんですよ。どのくらい持ち上げられるか、何ができるか、どういう時に使うか。職場によって違いますけど、だいたい周りが把握してる。本人も仕事のやり方を教わってるし、勝手に動かしたら怒られる」
昨日見た工事現場を思い出した。
梁を持った男。
持てるのに、合図があるまで持ち上げなかった。
「見たことある」
「何を?」
「工事」
「そうですか」
「重いの持ってた」
「……そうですか」
「上げるなって言われたら止まってた」
「そういう話です」
「そう」
「もっと何かないんですか」
「何が?」
「いや、いいです」
忙しい人だ。
「つまり、異能を使ってること自体が問題なんじゃなくて、使い方を知ってて、周りも分かってて、何をするか決まってる場所なら、もう普通に使えてるんです」
「そうみたいね」
「だったら、それを他でもできないかって」
「他?」
「救助とか、災害とか」
和也が紙へ指を置く。
「例えば火事です。水を出せる人がいたとして、勝手に突っ込ませるんじゃなくて、消防と一緒に訓練する。どのくらい水を出せるのか、建物の中でどう使うのか、誰の指示を聞くのか決めておく。力が強い人なら、瓦礫を動かす訓練をする。持ち上げられるから持ち上げるんじゃなくて、どこを動かしていいか分かる人と一緒に動く」
「面倒そう」
「必要なんですよ」
「そう」
「そのためには、資格みたいなものがいると思います」
「資格」
「訓練を受ける。自分の異能で何ができるか確認する。どういう状況なら使っていいか決める。事故を起こした時に誰が責任を取るのかも決める」
「使っていい人を決めるの?」
「……最初はそう考えました」
「違うの?」
「ちょっと違う気がしてます」
和也が紙を捲った。
「『使っていい人』だと、使うことと使わないことを簡単に分けられる前提になるでしょう」
「そうなの?」
「炎を出すとか、物を動かすとかなら分けられます。でも、身体そのものが異能の人もいる」
「ああ」
「異形型です。腕が四本ある人に二本使うなとは言えないし、翼がある人に翼を消せとも言えない。身体が硬い人だって、硬くなるんじゃなくて最初から硬いなら、どこからが異能の使用なのか分からない」
「この前、言われてたわよ」
和也の手が止まった。
「何がです?」
「異能を使うなって」
「誰が?」
「警察の人」
「誰にです?」
「蜥蜴みたいな人」
「……異形型の人に?」
「たぶん」
和也が額を押さえた。
「何してたんです、その人」
「立ってた」
「立ってた?」
「女の人の前に」
「それだけ?」
「殴られてた」
「……誰に?」
「銀行強盗」
和也が顔を上げた。
「最初から話してくださいよ」
「聞かれなかったから」
「どこの銀行です?」
場所を教える。
和也が紙へ書き始めた。
「何でまたそういう現場にいるんですか……」
「パン買いに行っただけよ」
「パン」
「餡パン」
「そこ重要です?」
「焼きそばパンがなかったから」
「聞いた俺が悪かったです」
分かればいい。
「その人は何をしたんです?」
「逃げ遅れた女の人の前に立った。強盗が殴った。硬かったから平気だった」
「それで警察に?」
「異能を使ったでしょうって」
「……それは無理でしょう」
「本人も言ってた」
「でしょうね」
「これ、どうやって、って」
和也が少し笑った。
すぐ真顔に戻った。
「そういうのも決めないと駄目ですね」
「何を?」
「何が『使用』なのか。少なくとも、身体としてそこにあるだけのものまで禁止するのは無理です」
「そう」
「でも、翼があるからって人混みで羽ばたいて何でも飛ばしていいかっていうと、それも違うでしょうし」
「そうね」
「……増えた」
「何が?」
「考えることが」
「大変ね」
「誰のせいですか」
「あなた?」
「今回は半分くらいあなたです」
「聞いたのはそっちでしょう」
「そうでした」
認めた。
偉い。
和也は新しい紙へ何か書き足した。
「警察が使えば?」
「はい?」
「異能」
「ああ。それも考えました」
「駄目なの?」
「駄目とは言いませんけど、警察官一人一人が違う異能を使い始めたら、訓練も装備も手順も全部変わるんですよ。誰が何をできるかで配置も変わるし、その人が辞めたら同じことができなくなる」
「そうね」
「それに、強い異能を持ってる人ほど警察で偉くなる、なんてことにもなりかねない」
「ああ。
昔みたい。
口には出さなかった。
「警察の人とも話したんですけど、今は同じ訓練をして、同じ装備を使って、同じ手順で動けるようにする方を優先したいって意見が多いです。俺も、その方がいいと思ってます」
「じゃあ誰が使うの?」
「別にする」
和也が言った。
「警察とは別に、異能を使うことを前提にした仕事を作る」
「仕事」
「救助とか、災害対応とか。危険な異能犯罪が起きた時の補助もそうです。訓練を受けて、何ができるか把握されていて、決められた範囲で異能を使える人」
「へえ」
「まだ案ですけど」
「そう」
「……反応薄いなあ」
「何て言えばいいの?」
「せめて『いいんじゃない』とか」
「いいんじゃない?」
「今言われても嬉しくないです」
面倒ね。
「でも、全部それで済むわけじゃないんですよね」
「そうなの?」
「異形型の話もそうです。資格を取れば差別されなくなるわけじゃないし、身体にずっと出てる異能を全部同じ決まりで扱えるわけでもない。犯罪に使う人がいなくなるわけでもないし、資格を取らずに勝手に人を助ける人だって出ると思います」
「そう」
「犯罪者を止めるために、どこまで力を使っていいのかも難しいです。止めるのと、罰するのは違いますから」
「殴りすぎる人?」
「そうです」
前に新聞で見た。
「その辺は、もっと考えないと駄目です」
「全部解決するの?」
和也が私を見る。
少し考えた。
「しません」
「異形の人への差別も?」
「なくせません」
「犯罪者は?」
「いなくなりません」
「勝手に人を助ける人は?」
「たぶん、います」
「決まりを守らない人も?」
「いるでしょうね」
「そう」
駄目じゃない。
別に。
「でも、減らせるものはあります」
和也が紙を揃えた。
「水を出せる人が、火事を見ながら何もできないことは減らせる。力の強い人が、助けられる人を前に立ってるだけなのも減らせる。何をしたら危ないのか知らないまま手を出す人も減らせる。全部じゃなくても、今よりは」
「そう」
「それで全部良くなるわけじゃないです」
「うん」
「でも、それで良くなるところはある」
そう。
それでいいのだろう。
たぶん。
昔もそうだった。一つ決めたら全部上手くいったわけではない。水の取り分を決めても泥棒はいなくならなかった。市場で使う金を決めても人は喧嘩した。殴らずに話を終わらせる決まりを作っても、殴る人間はいた。
それでも、前より少しだけ殴らなくて済むようになった。
そういうものだった。
「政治家になるの?」
「なります」
「大変ね」
「大変です」
「やめないの?」
「やめません」
「そう」
なら、そうするのだろう。
「恩は返せそう?」
和也が目を丸くした。
「……あなたから聞くんですか、それ」
「聞いたら駄目?」
「いや」
少し笑った。
「まだですね」
「そう」
「でも、少しは近づいてると思います」
「そう」
「今度は焼きそばパンで返したって言わないんですね」
言われて思い出した。
「飽きたから」
「そんな理由ですか?」
「うん」
「こっちは人生の進路決めかけてるんですけど」
「私のせいじゃないでしょう」
「半分くらいあなたのせいです」
「違うわよ」
「じゃあ何割です?」
「焼きそばパン一個分」
「安いなあ……」
和也が笑った。
面会の時間が終わる。紙を鞄へ戻し、立ち上がった。
「じゃあ、また来ます」
「捕まってたらね」
「捕まってなくても会えますからね?」
「そうだっけ」
「そうですよ!」
和也が出ていった。
私は椅子に残る。
少しして、警察の人が来た。
「確認取れましたよ」
「帰っていい?」
「いいです。三人とも、あなたを狙ったと認めました。銃を使った方も」
「そう」
「……本当に肩、大丈夫なんですか?」
「大丈夫」
「弾、当たったんですよね?」
「掠っただけよ」
嘘。
でも、もう傷はない。
「ならいいんですが」
立ち上がり、廊下を歩いて外へ出る。
街は明るかった。
人が歩いている。車が走っている。銀行がある。警察がある。工事現場では、重いものを持てる人が合図を待ってから持ち上げている。
昔は、持てる人が持った。
今は、待てと言う人がいる。
面倒になった。
その代わり、屋根は少し落ちにくくなったのかもしれない。
たぶん。
私はパン屋へ寄った。
焼きそばパンはまだあった。