転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。 作:コレクトマン
ヒアルマー採掘場での戦闘から帰還した後、ミレニアム艦内にはどこか重い空気が漂っていた。
封鎖機構の制圧艦隊、フロイトの乱入、ウイングゼロの暴走、そしてゼロシステムに飲まれたレイによる621への攻撃。結果だけ見れば全員が生還した。だが、だからといって何事もなかったように済ませられる話ではない。
特に、レイ自身はそのことをよく分かっていた。
整備に回されたウイングゼロは、ゼロシステム周りの点検と修復が行われている。叩き壊されたコンソールも含めて、技術班からは後で確実に小言を言われるだろう。
だが、その前に受けなければならないものがあった。
ウォルターからの叱責である。
「レイ。お前が自分の意思で621と敵対していたわけじゃないのはわかっている。予期せぬ何者かにゼロシステムという危険な代物を起動させられ、抑え込んでいたが飲み込まれた」
ウォルターの声は静かだった。
怒鳴るわけでもなく、責め立てるわけでもない。だが、その静けさが逆に重い。表情には大きな変化がないのに、その内側にある怒りと警戒がじわりと滲んでいる。
レイは逃げずに頭を下げた。
「それについては弁解のしようもない。本当にすまなかったウォルター……」
ゼロシステムに飲まれていた。
外部から何者かが干渉した可能性が高い。
それでも、結果として621に本気で殺意を向けた事実は消えない。エアを攻撃し、617や周囲を危険に巻き込んだことも同じだ。
ウォルターは少しだけ沈黙し、それから続けた。
「……まあいい。お前も本意ではないとはいえ、621を殺そうとしたことは変わりない。次もまた621を殺そうとすれば……」
「ない。100%ない。というかさせてたまるか」
レイは即座に否定した。
それは言い訳ではなく、断言だった。二度とゼロシステムに飲まれてたまるものか、という自分自身への戒めでもある。
ウォルターはレイをしばらく見つめ、それから静かに言った。
「……617はお前のことを気に入っている。死に急ぐような真似はするな。以上だ」
それだけ告げると、ウォルターはその場を後にした。
途端に、レイは椅子に深く沈み込むように息を吐いた。
「……あーっ。精神的に死ぬかと思った」
《お疲れ、レイ……》
傍にいた617が、いつもの淡々とした調子で声をかける。
「サンキューな、617」
《ウォルター、怒ると怖いでしょ?》
「静かなる怒りだな。表情では普通だが、内心はいつ爆発してもおかしくはない噴火寸前の火山だ」
あれは怒鳴られるより堪える。ウォルターの怒りは、感情を表に出さない分だけ逃げ場がない。レイは本気でそう思った。
『──COM:新着メッセージ、一件』
そんな重苦しい反省会が一段落したところで、621の通信端末に新たな着信が入る。
《……メッセージ? ラスティから?》
621が表示された送信元を確認する。
ほどなくして、録音メッセージが再生された。
『やあレイヴン。君の良き戦友、ヴェスパー部隊のラスティだ。久しぶりだな。壁越え以来か』
「ラスティからか?」
《うん。おそらく、封鎖機構のこととそれに関係する依頼》
621がそう答えた直後、近くにいた日本兵たちがなぜか一斉に顔を出した。
「「「やあ戦友」」」
「お前らじゃねえ」
レイが即座に突っ込む。
この状況でその茶々を入れる胆力だけは相変わらずだった。もっとも、621は気にせずメッセージの続きを再生する。
『……積もる話があるが、本題に入ろう。惑星封鎖機構が、とうとう実力行使に出た。連中はルビコン全域に制圧艦隊を展開。うちも既にいくつかの調査拠点を失った。ベイラムも同様の様だな』
ラスティの声はいつも通り落ち着いていたが、その内容は重い。
封鎖機構はヒアルマー採掘場上空から一時離脱しただけで、ルビコンから退いたわけではない。むしろ、各地へ制圧艦隊を展開し、企業の調査拠点を襲撃、制圧することで圧力を強めている。
レイは腕を組み、低く呟いた。
「ウイングゼロのローリングバスターライフルを受けて3割を削られてもまだルビコンを制圧する余力があるってことか」
《あれは例外……》
621がぽつりと返す。
確かに、あの艦隊被害はウイングゼロという規格外の存在が引き起こしたものだ。普通なら封鎖機構の大艦隊に対して、あれほど一方的な損害を与えられる戦力など存在しない。
つまり、封鎖機構の基礎戦力そのものはまだ十分に脅威であり続けているということだった。
『ルビコン解放戦線は、この状況をある意味では好機と捉えているようだが……私から言わせれば、甘く見積もりすぎている。このままでは、企業も解放戦線もそれから、独立傭兵も共倒れだろう』
ラスティの言葉は冷静だった。
封鎖機構が企業を叩くなら、解放戦線にとっては都合がいい。そう考える者もいるだろう。だが、それは短絡的すぎる。封鎖機構にとって排除対象は企業だけではない。ルビコンにいる全ての不法勢力、そしてコーラルを巡って動く全ての者が対象となる。
このままでは、誰も残らない。
《解放戦線……セレン、元気かな?》
621がふと呟く。
その名に、617がわずかに反応した。だが、今はラスティのメッセージが優先だった。
『君にアーキバス系列からの依頼を回しておく。「壁越えの傭兵」の力、ぜひとも貸してほしい』
そこでメッセージは終わった。
室内に短い沈黙が落ちる。
封鎖機構の本格介入。アーキバスからの依頼。ベイラムもまた被害を受けている。解放戦線も無関係ではいられない。
戦場は、また大きく動き始めていた。
レイは深く息を吐き、切り替えるように顔を上げる。
ウォルターへの謝罪が終わったと思えば、すぐに次の火種だ。
ルビコンは、本当に休ませてくれない星だった。
◇◆◇
ミレニアム艦内の休憩スペースには、相変わらず妙な空気が漂っていた。
ヒアルマー採掘場での一件から帰還し、レイがウォルターから静かなる説教を受けていた一方で、日本兵たちはいつも通りと言うべきか、緊張感があるのかないのか分からない会話を繰り広げていた。
「……聞いてくれよ。最初の方は俺の方がずっと勝ってたんだぜ? ところが急に奴が勝ちだして、気がついたらスッカラカンになっちまった……」
「お前吉田とやったことあるか? あいつは強いぞ」
「俺もいつもあいつにやられるんだよな」
「奴はインチキするって聞いてたんだけどな? ハハハッ……」
どうやら賭け事か何かで負けた話らしい。戦闘艦の中で、しかも直前まで大規模戦闘の後始末をしていたとは思えないほど、会話の内容は平常運転だった。
そのうちの一人が、疲れたように息を吐く。
「ふぅ……おい、煙草くれよ」
「本艦は禁煙である。ご理解ください」
どこからともなく即座に冷静な注意が入った。
そんな空気の中、ようやくレイが姿を現す。顔色は悪くない。だが、精神的にかなり削られたことだけは、誰の目にも明らかだった。
「お前たち、心配かけたな」
「……おおっ司令! ご無事でしたか!」
「ウォルターにミッチリ叱られてこの通りだよ。精神的に死にかけたわ」
レイは心底疲れた様子で肩を落とす。
ウォルターの怒りは静かだった。だからこそ重かった。怒鳴られるよりも、淡々と事実を突きつけられる方が逃げ場がない。レイとしても、ゼロシステムに飲まれて621を本気で殺しかけた事実は、今でも胸に重く残っている。
その時、艦内端末に通知音が響いた。
『──COM:新着メッセージ、一件』
《……ウォルターからメッセージ》
621が端末を確認する。
「何だって? 総員傾聴!」
日本兵の班長の声で、日本兵たちは一斉に姿勢を正す。妙なところで反応だけは速い。
ウォルターからのメッセージが再生された。
『ヴェスパーⅣから連絡があったようだな。俺の方にもベイラムグループの仕事が届いている。両社ともコーラル調査どころではなくなったようだ』
「当然ですよ」
「うるさいぞ、静かに聞け」
横から口を挟んだ日本兵を、レイが即座に黙らせる。
『621。依頼を確認しろ』
「「「了解!」」」
《……あなた達じゃない》
「すみません! ついっ……」
条件反射のように返事をした日本兵たちへ、621が静かに突っ込む。反省しているようには見えるが、たぶん次もやるだろう。
「ハァ……まだ喧しさは絶えないか……ん?」
レイが呆れ半分で息を吐いた、その時だった。
別回線から通信が入る。
『レイ、聞こえるか。聞こえるなら返事しろ』
「セレンか?」
《……セレン?》
621が僅かに首を傾げる。617がこの場にいる以上、その呼び名だけでは誰のことか分かりづらい。
『それだとお前のところのセレンと見分けがつかんだろう』
通信の向こうの声は、どこか呆れたようだった。
その声を聞いて、日本兵たちが同時に反応する。
「誰だ!?」(•ㅿ•`)初めて聞く人物。
「誰だ?」(-ω-?)前の周回にいない人物で余計にわからない。
「誰だっ!?」(;°Д° )わからな過ぎて焦る。
「喧しいぞお前ら! ……んで、なんて呼べばいい?」
レイがまとめて黙らせつつ問いかける。
通信の向こうで、少しだけ間が空いた。
『霞スミカ。それが、私の本名だ』
その名を聞いた瞬間、レイの内心が大きく揺れた。
(マジでAC4、fAのキャラだった……っ!?)
過去作に関わる存在。その名を聞いてしまえば、レイとしては動揺せずにはいられない。だが、それを表に出せばさらに面倒なことになる。
『……何かよからぬことを考えているか?』
「ソノヨウナコトガアロウハズガゴザイマセン……」
《レイ……片言になってる》
617の冷静な指摘が入る。
レイは咳払いで誤魔化した。誤魔化しきれているかどうかは怪しい。
『……まあいい。お前の周りにいる喧しい連中にも伝えておく。解放戦線から依頼二つが来ている。後で確認しておけ』
そう言って、通信は一旦区切られた。
艦内の端末に、複数の依頼内容が表示されていく。
依頼確認中……。
アーキバス系列、ベイラムグループ、そしてルビコン解放戦線。それぞれから送られてきた依頼を見比べながら、レイは内容を整理していく。
「アーキバスからは中央氷原にある封鎖機構が制圧したベイラムのヨルゲン燃料基地の襲撃。ベイラムからは同じく中央氷原にあるエンブレト坑道の破壊工作。そして解放戦線からはまた中央氷原。それもヒアルマー採掘場に封鎖機構の新型HCおよびLC機体の破壊だ。最後は中央ベリウス地方にある壁でヴェスパーⅦスウィンバーンの暗殺依頼だ」
依頼が多すぎる。
一つ一つでも十分に危険な任務だ。封鎖機構が本格的に動き始めた今、どの作戦地点も以前とは状況が違う。ましてや、企業と解放戦線から同時に依頼が来ているということは、それだけルビコン全体の緊張が高まっている証でもあった。
621は画面を見つめながら、冷静に判断する。
《坑道と封鎖機構のHC、LCの破壊の同時進行はできない。どっちかの依頼を受ける以外ない》
普通ならそうなる。
同じ中央氷原方面とはいえ、複数の危険任務を同時にこなすのは無茶だ。まして相手は封鎖機構の制圧艦隊によって増強された戦力である。単独で全部を受けるのは現実的ではない。
だが、レイはそこで首を横に振った。
「いや、その点は大丈夫だ。この時のための人海戦術だ」
「つまり、役割を分担するということだな」
自然に会話へ入ってきた閣下に、レイが微妙な顔をする。
「閣下……自然に入ってくると逆に怖いんだが……」
「気にするな。彼女から提案があるそうだ」
閣下の視線の先には、エアがいた。
エアは端末に表示された依頼群を確認し、静かに口を開く。
「レイヴン。私は彼らを使ってまとめて依頼を受けてはどうでしょう?」
《まとめて……? 大丈夫なの?》
621が問い返す。
確かに、人員がいるなら同時受注は不可能ではない。だが、依頼主側がそれを認めるかどうか、そして戦力として十分かどうかは別問題だ。
そこで617が短く補足する。
《ん……レイヴンの紹介で雇われたって言えば多分大丈夫》
「617の言う通り。レイヴンの名はある意味では有名人だ。封鎖機構を叩けば金が入るっていう独立傭兵たちの宣伝になる形を利用する」
レイが頷く。
今の621は、単なる独立傭兵ではない。壁越えを果たし、封鎖機構の強襲艦を撃破し、数々の戦場で結果を出してきた“レイヴン”だ。その名の下で雇われた戦力として動けば、依頼主側もある程度は納得しやすい。
そして何より、今のルビコンでは封鎖機構を叩く戦力が欲しい。多少の形式より、実効性が優先される状況だった。
《……分かった。依頼を全部受けるとして、誰がその依頼の場所に向かうの?》
621の問いに、レイは端末上の地図を拡大した。
「それを含めて話し合うつもりだ。役割を分担しないとな」
中央氷原、ヨルゲン燃料基地。
エンブレト坑道。
ヒアルマー採掘場。
中央ベリウス地方の壁。
それぞれが別の危険を抱えた作戦地点であり、それぞれに違う戦力と判断が必要になる。
封鎖機構が本格的に動き出した今、もう一人で全てを背負う段階ではない。
レイヴンの名を軸に、彼らは複数の戦場へ同時に動く準備を始めていた。
◇◆◇
ブリーフィングルームには、複数の作戦地点を示す地図と依頼情報が投影されていた。
中央氷原、ヨルゲン燃料基地。
同じく中央氷原、エンブレド坑道。
ヒアルマー採掘場。
そして中央ベリウス地方にある壁。
封鎖機構が本格的にルビコン全域へ圧力をかけ始めた今、企業も解放戦線も、もはや静観していられる状況ではなくなっていた。結果として、複数の依頼が同時に舞い込み、それらをどう処理するかが問題になっている。
レイは投影された地図を一瞥し、軽く息を吐いてから口を開いた。
「……さて、それじゃあ役割分担はこんな感じだ。621はヨルゲン燃料基地。617と数名の日本兵はエンブレド坑道。ヒアルマー採掘場と中央ベリウス地方は俺と数名の日本兵で同時進行する」
淡々と告げられた内容に、621がわずかに反応する。
《……大丈夫なの? 身体の負担大きくない?》
無理もない問いだった。
ヒアルマー採掘場と中央ベリウス地方。二つの作戦地点を同時進行で見るということは、レイ自身の負担が大きい。前回の戦闘ではゼロシステムに飲まれ、精神的にも肉体的にも消耗したばかりだ。さらにウォルターからの叱責も受けている。無理をしていい状態とは言い難い。
だが、レイは苦笑混じりに肩をすくめた。
「本当なら辛いが、そうも言ってられんからな。ウォルターに叱られた分の仕事をしないと個人的に帳消しにならないだろう。それぞれにオペレーターがつく。エアは621のサポート。観測班は617と日本兵たちのサポート。俺の方は……」
そこで、別回線から声が割り込んだ。
『それなら、私が引き受けよう』
「……マジか」
レイが思わず顔をしかめる。
通信に入ってきた声は、先ほど名乗った霞スミカだった。問題は、その通信がこちらの秘匿回線に当然のように割り込んできたことだ。
「なにっ? こちらの秘匿回線を傍受したのか?」
閣下の声に警戒が滲む。
だが、スミカは悪びれた様子もなく答えた。
『お前たちの秘匿回線の暗号は分かり易いからな』
ブリーフィングルームに、微妙な沈黙が落ちた。
それはつまり、こちらの通信暗号があっさり読まれたということだ。普通なら即座に問題視すべき事案である。
しかし、レイは額を押さえながら閣下を止めた。
「閣下。あまり追及しない方がいい。お互いに面倒くさい状況になるだけだ」
「……致し方ないか」
閣下は不満げではあったが、それ以上の追及は飲み込んだ。
今は通信の安全性を論じている場合ではない。依頼の分担と実行体制を決める方が先だ。スミカがサポートに入るというのなら、それはそれで戦力になる。
『そういうことだ。お前のサポートは私が行う』
スミカの声は淡々としていた。
レイは小さく息を吐き、ひとまず納得するしかなかった。
そこで621が、別の疑問を口にする。
《……レイのサポートの人はわかったけど、スウィンバーンはどうするの?》
「スウィンバーン? ああ、そのことなんだが……あえて生かしてこちら側にヘッドハンティングしてくる」
その一言で、閣下の眉が跳ねた。
「なんだと? 聞いておらんぞ!」
「今決めたからな。スウィンバーンはヴェスパー第七隊長であり、会計責任者でもある。ちょうどこっちにも会計スキルを持った人材が欲しいからな」
暗殺依頼を受けておきながら、目的は暗殺ではなく人材確保。
あまりにもレイらしい発想だった。依頼主からすれば裏切りに近いが、スウィンバーンという人物の性格と立場を考えれば、殺すより利用した方が得という判断なのだろう。
ヴェスパー第七隊長。
そして会計責任者。
戦闘力はともかく、企業内部の金の流れや管理に通じる人材は貴重だ。足立重工側も人員が増えてきた以上、会計や管理に強い人間は確かに欲しいところだった。
閣下もそこは理解したのか、少しだけ表情を落ち着かせる。
「なるほど。しかし、その様なことは事前に言っておけ。こちらの判断が遅れる」
「その点はすまん閣下。……とにかく、役割はこんな感じだ。何か意見は?」
レイが全体へ問いかけた、その時だった。
一人の日本兵が手を挙げる。
「司令、遅れながら報告があります。実は、インキュベーションパーティでとある独立傭兵にある機体のテストパイロットを引き受けて活動中です」
「……その報告を今したってことはスウィンバーンのか?」
レイの声が低くなる。
何となく嫌な予感がした。こういう報告は、大抵厄介事とセットでやってくる。
日本兵はやや気まずそうに端末を操作し、機体情報をモニターへ表示する。
「確実にヘッドハンティングした際に現れるかと……。こちらその機体です」
表示された型式番号を見た瞬間、レイの表情が引きつった。
「GAT-SO2R……。よりによって日本文化かぶれの奴が皮肉にもあの機体のテストパイロットかよ……」
モニターに映し出された機体データ。
その名と特徴を見たレイは、頭が痛くなるのを感じた。よりにもよって、その機体。その上、テストパイロットを引き受けている独立傭兵が関わってくる可能性がある。
スウィンバーンをヘッドハンティングするつもりで動くなら、当然それに絡んでくる相手も想定しなければならない。
閣下が画面を見据えながら呟く。
「……となると問題は、その機体に搭載されているステルスだな」
ブリーフィングルームの空気が、わずかに重くなる。
スウィンバーンの暗殺依頼。
それをヘッドハンティングに変えるレイの思惑。
そして、その場に現れる可能性があるステルス機能搭載のテスト機体。
ただ標的を探して捕まえるだけでは済まない。
中央ベリウス地方の壁での任務は、思っていた以上に厄介なものになりそうだった。
◇◆◇
ルビコンⅢ衛星軌道上。
先のヒアルマー採掘場上空での戦闘から一時撤退した封鎖機構の艦隊は、再編と損傷艦の応急修理を進めながら、ルビコン全域への再制圧作戦に向けて動き続けていた。
その中心に位置するのは、艦隊の中核を担う旗艦――“アポカリプス”。
巨大な艦内には生産ファクトリーが備えられており、今まさにOLGUを経由して本部から送られてきた設計図を基に、新たな機動兵器の生産が進められていた。
しかし、その設計図に目を通した艦長たちの表情は決して明るくない。
「本部から送られた設計図でファクトリーに作らせているが、一体どう言う仕組みだ?」
艦長はモニターに表示された機体構造図と動力炉の概要を見つめながら、低く呟いた。
そこに記載されていた技術は、封鎖機構がこれまで運用してきたLCやHCとは明らかに異質だった。延長線上の発展型ではない。別系統の技術体系が、突然持ち込まれたような違和感がある。
「わかりません。擬似太陽炉を使用した機動兵器なのはわかりますが、何故本部はこの様な物を送ってきたのでしょう?」
副官もまた、困惑を隠せない。
設計図の出所は本部。OLGU経由で正式に送られてきた以上、命令としては疑いようがない。だが、その内容を理解できるかどうかは別問題だった。
「知らん。だが一つだけわかるとすれば、この機体はあまりにも我々の常識を完全に破壊するに十分な火薬だ」
艦長の言葉には、期待よりも警戒が強く滲んでいた。
詳細データ上では、新型機は既存のLCやHCを大きく上回る性能を発揮するとされている。単純な機動力、出力、火力、継戦能力。そのいずれもが、現在の封鎖機構主力機を数倍の規模で凌駕する可能性があった。
だが、その一方で問題もある。
擬似太陽炉から生成、放出される赤い粒子には毒性が含まれているという記載があった。
高性能であると同時に、扱いを誤れば自軍にも牙を剥く危険物。艦長が表情を曇らせるのも当然だった。
「擬似太陽炉と呼ばれる物から生成される特殊粒子。それを圧縮してレーザー……いや、このタイプは粒子ビームか。ビームを撃つ粒子にしては未知数な粒子だな」
技術士官が解析データを確認しながら言う。
表示されている粒子挙動は、既知のエネルギー兵器や推進剤とは明らかに違っていた。攻撃にも使え、推進にも使え、機体制御にも影響を及ぼす。それだけでも十分に異常だ。
「その擬似太陽炉と呼ばれるものの別名が“GNドライヴ
報告する側でさえ、途中から言葉を持て余していた。
万能。
その単語で片づけるには危険すぎるが、そう表現するしかないほどの性能だった。
艦長はしばらく黙って資料を見つめ、それから重く口を開く。
「……要約するに、万能とも言えるような摩訶不思議な動力炉ということか。それも、その疑似太陽路を背中にむき出しで使う機体も封鎖機構の主力であるHCやLCがその新型に置き換わるということか」
既存兵器の更新。
言葉にすれば簡単だ。だが、実際には封鎖機構の戦術体系そのものを塗り替えることになる。今までのLCやHCを前提にした部隊運用が、根本から見直される可能性すらある。
その新型に与えられた型式番号は、GNX-603T、GNX-604T、GNX-704T。
いずれも、これまでの封鎖機構機とは異なる設計思想で作られた機体だった。
疑似太陽炉という、ありえないほどの性能を持つ動力炉。
その存在をどう表現すればいいのか、艦長にはうまく言葉にできなかった。
ただ一つ確かなのは、これが戦場に出れば、ルビコンの戦争はさらに別の段階へ進むということだった。
そこへ、別の報告が入る。
「疑似太陽炉のことで思い出したのですが。GFAS-X1の生産が完了したそうです」
艦長の視線がモニターから報告者へ移る。
「そうか。……何機だ?」
「15機が生産されました。一号機はリミッターを外していますので、除外とされますが……」
その報告に、艦長は僅かに眉をひそめた。
GFAS-X1。
通常の機動兵器という枠には収まらない、超大型機動戦略兵器。拠点攻撃、防衛線突破、広域破壊。そのどれにも対応できる規格外の兵器だ。
「その一号機を含めて15機。……確かに、その巨体さ故に防衛か拠点破壊に特化した超大型起動戦略兵器だからな」
艦長はそのデータを見つめながら、苦々しく呟く。
あれはLCやHCとは違う。ACに対抗するための兵器というより、戦場そのものを破壊するための存在だ。運用すれば確実に大きな戦果を挙げるだろう。だが同時に、投入された場所には甚大な被害が出る。
「その機体のペットネームは“
技術士官の言葉に、艦長は静かに目を伏せた。
「……可能なら、デストロイが使われる事態にならなければいいのだが」
それは軍人としての本音だった。
兵器は使うために作られる。だが、使われないまま終わる方がいい兵器というものも存在する。GFAS-X1、デストロイはまさにその類だった。
しかし、封鎖機構はまだ知らない。
遠くない未来、バートラム旧宇宙港にて、その一号機が実戦投入されることになることを。
そして、その背後にある黒幕――オールマインドたちの手によって、ルビコンを巡る戦火がさらに歪められていくことを。
GN-Xシリーズ。
GFAS-X1デストロイ。
封鎖機構に与えられた異質な新戦力は、まだ静かに生産ラインの中で眠っている。
だがそれらが戦場に現れる日は、確実に近づいていた。