転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。   作:コレクトマン

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ヨルゲン燃料基地襲撃

 

 ヨルゲン燃料基地。

 

 惑星封鎖機構がルビコンにおける補給拠点として確保したその施設は、つい先日までベイラムのコーラル調査拠点だった。

 

 だが、封鎖機構の制圧艦隊がルビコンへ到達したことで状況は一変した。

 

 企業勢力の一角であるベイラムが保持していた拠点は、一夜にして封鎖機構の管理下へ落ちた。補給線を断つ意味でも、今後の作戦展開においても、そこを叩く価値は大きい。

 

 そして今、その依頼内容を確認しているのが、強化人間C4-621だった。

 

《ラスティから送ってきた依頼内容……と》

 

 ガレージの端末に映し出された依頼データを前に、621は静かに目を通す。

 

 依頼主の名義はアーキバス系列、シュナイダー。

 

 そして、その説明役として映像通信に現れたのは、ヴェスパーⅣ、ラスティだった。

 

『やあ戦友。アーキバス系列、シュナイダーから君に依頼がある。早速だが、説明に入ろう』

 

 いつものように穏やかで、どこか親しみすら感じさせる声。

 

 だが、その内容は決して軽いものではなかった。

 

『惑星封鎖機構のルビコンにおける補給拠点。ヨルゲン燃料基地を叩いて欲しい。目標は最奥にあるエネルギー生成プラント』

 

 画面に基地の地形データが表示される。

 

 山岳地帯に築かれた大規模な燃料基地。その内部には複数の燃料貯蔵タンクと、防衛用のMT部隊、さらに封鎖機構のLCらしき機影も確認されている。

 

 最奥部には、今回の主目標であるエネルギー生成プラント。

 

 そこを破壊すれば、封鎖機構の補給能力に大きな打撃を与えられる。

 

『これを潰せば……そうだな。連中の制圧艦隊の足止めにはなるだろう。当該基地は、つい先日まではベイラムのコーラル調査拠点だった。それが封鎖機構の艦隊襲来で……一夜にしてこの通りだ』

 

 淡々とした説明の裏に、状況の異常さが滲んでいた。

 

 ベイラムは弱小組織ではない。

 

 ルビコンに展開する企業勢力の中でも、アーキバスと並ぶ巨大勢力だ。物量と火力を信条とし、ミシガン率いるレッドガン部隊を擁する軍事企業。

 

 そのベイラムが保持していた拠点が、わずか一夜で奪われた。

 

 それだけで、封鎖機構の艦隊規模と投入戦力の大きさが分かる。

 

「封鎖機構の艦隊の規模的に考えれば、ベイラムもタダでは済まなかった様です」

 

 エアの声が、621の意識に響く。

 

 その声には冷静な分析と、わずかな緊張が混じっていた。

 

《アレは本当に例外すぎるくらいに多かった》

 

 621は、記憶の中にある光景を思い返す。

 

 ルビコンの空を覆うほどの封鎖機構艦隊。

 

 巨大な制圧艦が次々と降下し、空から地上へ圧力をかけてくるあの威容。企業の部隊であっても、正面から押し潰されればただでは済まない。

 

 封鎖機構は、ただの治安維持組織ではない。

 

 ルビコンという惑星そのものを封じ込め、コーラルに関わる全てを管理しようとする巨大な力だ。

 

「それは、周回する中での記憶からですか?」

 

《うん。でも、イレギュラーは封鎖機構だけじゃないけどね……》

 

 621は小さく息を吐くように答えた。

 

 このルビコンでは、本来の流れから外れたものがいくつも存在している。

 

 自分自身の周回記憶。

 

 エアとの早すぎる接触。

 

 そして、ルビコンに存在するはずのない日本の兵士たち。

 

 企業、解放戦線、封鎖機構。

 

 その三つ巴の戦場に、さらに別の異物が混じっている。

 

 ならば、これから起こる出来事も、自分の知る流れと同じとは限らない。

 

『今回は基地に点在する燃料貯蔵タンクにも破壊報酬を設定させてもらった。連中を叩くと金になる。そう宣伝してくれるとありがたい』

 

 ラスティの説明が続く。

 

 表示されたマップ上に、燃料貯蔵タンクの位置がいくつもマーキングされる。

 

 主目標はエネルギー生成プラントの破壊。

 

 だが、それ以外にも基地内に点在する燃料タンクを破壊すれば、追加報酬が発生する。

 

 621としても、報酬が増えるなら断る理由はない。

 

 それに、封鎖機構の補給能力を削るという意味でも、可能な限り破壊しておくべき対象だった。

 

 依頼内容の確認を終え、621が出撃準備へ移ろうとした時だった。

 

 ガレージの出入口付近から、聞き慣れた声が飛んでくる。

 

「おう、六二一に赤いの! 実は六二一に乗ってもらいたい機体がある」

 

 そこにいたのは、日本兵の一人だった。

 

 作業服の上から装備を引っかけたような格好で、片手を上げながらこちらへ歩いてくる。

 

 その呼び方に、エアがわずかに反応した。

 

 赤いの。

 

 もはや彼らの中では、エアの呼称として完全に定着しつつあるらしい。

 

《機体? loader4じゃダメなの?》

 

 621は首を傾げる。

 

 これまでの任務で使用してきたloader4は、決して最新鋭というわけではない。

 

 だが、621にとっては扱い慣れた機体であり、各種調整も進んでいる。少なくとも、今回の燃料基地襲撃で不足を感じるほどではなかった。

 

 むしろ、知らない機体にいきなり乗せられる方が危険だ。

 

 戦場に出る以上、機体の癖を把握しているかどうかは生死に直結する。

 

「まあ実験を兼ねての機体だからな。案内するぞ。こっちだ」

 

 日本兵はそれだけ言うと、詳しい説明もせずに格納庫の奥へ向かって歩き出した。

 

 621は一瞬だけ沈黙する。

 

 実験を兼ねての機体。

 

 その言葉だけで、不安材料としては十分だった。

 

 エアもまた、621と同じように警戒を強めているのが分かる。

 

「……レイヴン。彼らの技術力は確かですが、説明が大雑把すぎます」

 

《それは同感》

 

 しかし、ここで無視するわけにもいかない。

 

 日本兵たちは、これまでもルビコンの戦況に奇妙な形で介入してきた。

 

 あり得ない物資。

 

 あり得ない装備。

 

 そして、621の知る歴史には存在しない選択肢。

 

 今回の機体も、その一つなのだろう。

 

 621は端末の依頼データを閉じ、格納庫の奥へ向かって歩き出した。

 

 ヨルゲン燃料基地襲撃。

 

 それ自体は、周回の記憶にある任務だ。

 

 だが、その任務にどんな機体で出撃するのかまでは、もう自分の記憶通りではない。

 

 ガレージの照明が、奥へ進む621の背を白く照らす。

 

 その先に待つものが、頼れる切り札なのか。

 

 それとも、ただの厄介な実験機なのか。

 

 答えはまだ、見えていなかった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 格納庫の奥へ進むにつれ、周囲の空気が変わっていく。

 

 通常の整備ベイとは違う、どこか物々しい区画。

 

 装甲板や武装コンテナ、予備パーツが積まれた一角を抜けた先に、その機体はあった。

 

 照明に照らされ、機体の輪郭が浮かび上がる。

 

 細身でありながら鋭く、推進力を重視した高機動型のシルエット。

 脚部、腕部、胴体の構成は、621の記憶にも強く刻まれているものだった。

 

 だが、その色だけが致命的におかしい。

 

「こいつが、六二一が乗ってもらう機体だ」

 

 日本兵が、どこか得意げに親指で示した。

 

 その先に鎮座していたのは、AC。

 

 しかも、ただのACではない。

 

《これは……スティールヘイズ・オルトゥス!?》

 

 621の意識に、驚愕が走った。

 

 スティールヘイズ・オルトゥス。

 

 V.Ⅳラスティが駆る機体、スティールヘイズの後継とも言うべき軽量級高機動型AC。

 脚部のラインも、機体全体のバランスも、記憶にあるそれと酷似している。

 

 いや、酷似どころではない。

 

 機体そのものは、間違いなくオルトゥスだった。

 

 ただし。

 

《でも……なんか色が嫌っ》

 

 621は思わずそう漏らした。

 

 そう。

 

 色が、最悪だった。

 

 全身が金。

 

 それも上品な金属色ではない。

 

 格納庫の照明をやたらと反射し、見る角度によってギラギラと主張してくる、あまりにも派手な金色。

 

 高機動機らしい鋭さや精悍さを、全力で台無しにしている。

 

 もしこれをラスティが見たら、どんな顔をするだろうか。

 

 少なくとも、いつもの爽やかな声で「戦友」とは呼んでくれない気がした。

 

「まあ特殊コーティングでの性質上金ピカなのは仕方ないってことで理解してくれ」

 

 日本兵は悪びれもせずに言った。

 

 理解してくれ、と言われても難しい。

 

 機体性能以前に、視覚情報があまりにも強すぎる。

 

「何だか混乱してきました……」

 

 エアの声にも、明らかな戸惑いが滲んでいた。

 

 レイヴンの認識を通じて見ている彼女からしても、この金色のオルトゥスは衝撃が強かったらしい。

 

 確かに、戦場に出れば目立つ。

 

 恐ろしく目立つ。

 

 偽装も隠密も投げ捨てたような外観だ。

 

 ヨルゲン燃料基地を襲撃するという任務の性質を考えれば、本来なら目立たない色の方がいい。

 

 だが、日本兵はそんな疑問を先回りするように、機体の装甲部を軽く叩いた。

 

「それに、ただの金ピカじゃない。対ビーム、及びレーザーに対して効果が発揮するコーティングなんだ。司令曰く、名前を“ヤタノカガミ”だ!」

 

《ヤタノカガミ……?》

 

 621は、その名を反芻する。

 

 ヤタノカガミ。

 

 聞き慣れない響きではあるが、日本側の命名であることは分かる。

 

 特殊コーティング。

 

 対ビーム、対レーザー。

 

 その説明だけで、今回の任務に投入する理由はある程度察せられた。

 

 惑星封鎖機構の戦力には、レーザー兵装を扱うLCやHCが存在する。

 さらに、状況によっては高出力レーザーによる迎撃もあり得る。

 

 燃料基地という場所柄、被弾箇所によっては誘爆の危険も高い。

 レーザーへの対策を持つ機体を投入する意義は確かにある。

 

 問題は、その結果がこの金ピカということだった。

 

「それと、ちょっとした裏話なんだがよ。この特殊装甲はうちの量産機であるM1アストレイ十機分のコストがかかるって代物だ」

 

 日本兵がさらりと付け加える。

 

 それを聞いた瞬間、エアの気配が固まった。

 

「それは……ある意味で無駄遣いなのでは?」

 

 至極もっともな指摘だった。

 

 量産機十機分。

 

 ただの試験コーティングにしては、あまりにも重い数字である。

 

 それを一機のACにコーティングしている時点で、運用思想がどこかおかしい。

 

 いや、おかしいのは今さらかもしれない。

 

 ルビコンにいないはずの日本兵が、オルトゥスを再現し、謎の特殊コーティングを施し、621に乗せようとしている時点で、既に常識からは大きく外れている。

 

 日本兵はエアの呆れを気にした様子もなく、今度は機体の周囲に展開された武装ラックを示した。

 

「大丈夫だ。武装はこっちでチョイスしておいた。右手にMG-014 LUDLOWマシンガン。左腕にVvc-774LSレーザースライサー。右肩のウェポンラックに予備武装のWR-0777 SWEET SIXTEEN特殊ショットガン、最後に左肩にはEL-PW-01 TRUENOニードルミサイルだ」

 

 提示された武装リストが、端末に表示される。

 

 右腕部には、扱いやすく連射性能に優れたLUDLOWマシンガン。

 

 左腕部には、近接戦闘用のVvc-774LSレーザースライサー。

 

 右肩にはウェポンラックを介して、予備武装としてSWEET SIXTEEN特殊ショットガン。

 

 左肩にはTRUENOニードルミサイル。

 

 火力、牽制、近接、瞬間的な削り。

 

 構成そのものは悪くない。

 

 むしろ、燃料基地のMTやLC、さらに高機動目標への対応まで考えれば、かなり実戦的な組み合わせだった。

 

 ただ、問題はそこではない。

 

《……オルトゥスの原型がレーザースライサーとニードルミサイルしかない》

 

 621は、端末の武装リストを見ながら呟いた。

 

 スティールヘイズ・オルトゥス。

 

 その名を冠しながら、武装構成はかなり別物になっている。

 

 外観はオルトゥス。

 

 装甲は謎の金色特殊装甲。

 

 武装は日本兵チョイス。

 

 もはや、これはラスティの機体というより、日本側が勝手に魔改造したオルトゥスもどきである。

 

 ラスティが見たら本当にどう思うのか。

 

 621の中で、その疑問が少しずつ大きくなっていった。

 

「性能的に大丈夫だから安心しろ! 一応ジェネレータは大豊製のDF-GN-08 SAN-TAIを使用している。そんで拡張機能にはアサルトアーマーにしておいた」

 

 日本兵は胸を張って説明する。

 

 DF-GN-08 SAN-TAI。

 

 大豊製の高容量ジェネレータであり、EN容量と供給性能に優れたパーツだ。

 高機動機であるオルトゥスに搭載するには重量面の癖もあるが、出力面では頼りになる。

 

 アサルトアーマーも、今回の任務では有効だろう。

 

 燃料基地の密集した敵部隊を一気に吹き飛ばすこともできる。

 近距離戦で囲まれた際の切り返しにも使える。

 

 性能面だけを見れば、決して悪くない。

 

 むしろ、かなり考えられている。

 

 だが、それでも金色の外観がすべてを台無しにしていた。

 

 621はしばらく沈黙した。

 

 機体のスペックを確認する。

 

 脚部反応、ブースタ出力、ジェネレータ容量、武装重量、FCS適性。

 

 戦える。

 

 問題なく戦える。

 

 むしろ、loader4よりも高機動戦には向いている。

 

 ヨルゲン燃料基地の広い地形を駆け抜け、燃料タンクを破壊しながら最奥のエネルギー生成プラントへ向かうなら、この機体は十分に適している。

 

 それでも、納得したくない何かがあった。

 

 主に見た目の問題で。

 

「……仕方ありませんレイヴン。時間も迫っているので不本意ですが、この機体でいきましょう」

 

 エアが静かに告げる。

 

 その声は冷静だったが、どこか諦めが混じっていた。

 

 任務までの時間は限られている。

 

 ここでloader4への換装を要求し、準備をやり直す余裕はない。

 それに、日本兵たちがわざわざこの機体を用意した以上、何らかの意図があるのは確かだ。

 

 対レーザー特殊装甲、ヤタノカガミ。

 

 その性能を試す場として、封鎖機構の燃料基地襲撃は都合がいい。

 

 621は、金色のオルトゥスを見上げた。

 

 格納庫の照明を反射し、無駄に神々しく輝く機体。

 

 強い。

 

 おそらく強い。

 

 しかし、見た目がひどい。

 

《……この機体。ラスティが見たらドン引きするかも》

 

 そう呟く621に、日本兵は苦笑しながら肩をすくめた。

 

 エアは否定しなかった。

 

 むしろ、否定できなかった。

 

 整備兵たちが最終チェックを終え、金色のスティールヘイズ・オルトゥスが起動準備に入る。

 

 装甲表面に走る光が、格納庫の床に反射する。

 

 まるで戦場へ向かう黄金の像。

 

 あるいは、誰かの趣味を全力で誤解した結果生まれた悪夢。

 

 621はコックピットへ乗り込み、システムを起動する。

 

 機体各部の反応が、意識に接続されていく。

 

 腕部駆動、脚部出力、ジェネレータ始動。

 

 表示される機体名は、確かにスティールヘイズ・オルトゥス。

 

 だが、今の姿を見れば、誰もそれをラスティの機体と同じものだとは思わないだろう。

 

 ハッチが閉じ、外界の光が遮断される。

 

 代わりに、メインモニターへ出撃ルートが表示された。

 

 目標はヨルゲン燃料基地。

 

 最奥のエネルギー生成プラント。

 

 そして、点在する燃料貯蔵タンク。

 

 任務内容は変わらない。

 

 変わったのは、乗っていく機体だけだ。

 

 621は操縦系統を確認し、静かに息を整えた。

 

 黄金のオルトゥスが、出撃カタパルトへと移動を開始する。

 

 その姿を見送る日本兵たちは、なぜか妙に満足げだった。

 

 対して、エアの声にはまだ困惑が残っている。

 

 それでも、もう行くしかない。

 

 金色の装甲をまとった異形のオルトゥスは、ヨルゲン燃料基地へ向けて出撃した。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ヨルゲン燃料基地。

 

 封鎖機構がルビコンにおける補給拠点として接収したその施設は、荒涼とした大地の中に巨大な人工物として横たわっていた。

 

 複数の配管、燃料貯蔵タンク、監視設備、防衛用のMT部隊。

 そして、その最奥に位置するエネルギー生成プラント。

 

 昼の光を受け、基地全体が薄く白んで見える。

 

 その中へ、金色のスティールヘイズ・オルトゥスが降下した。

 

『ミッション開始です。封鎖機構の駐屯部隊排除しつつエネルギープラントを目指しましょう』

 

 エアの声が、通信回線越しに響く。

 

 機体の各部は正常。

 

 ブースタ、ジェネレータ、武装接続、FCS。

 どれも問題なく作動している。

 

 だが、621の意識は機体性能とは別の一点に向いていた。

 

《うぅ……昼間だから余計に目立ってる》

 

 金色。

 

 ただでさえ悪目立ちする装甲色が、昼間の陽光を受けてさらに輝いている。

 

 高機動ACらしい鋭利なシルエットも、全身を覆う金色の特殊コーティングのせいで、戦場における威圧感とは別方向の存在感を放っていた。

 

 隠密性など欠片もない。

 

 こちらが視認する前に、向こうがこちらを見つける。

 

 そんな状況だった。

 

「コード15。所属不明機体と会敵した」

 

「企業の雇用戦力と推定。AC単機」

 

「あまりにも目立つ色だ。排除執行する」

 

 案の定、封鎖機構のMT部隊が即座に反応した。

 

 基地外縁部に配置されていたSG型MTが、こちらへ機体を向ける。

 砲口が金色のオルトゥスを捉え、警告もなく射撃が始まった。

 

 621は舌打ちする代わりに、機体を前へ出した。

 

 右手のMG-014 LUDLOWが火を吹く。

 

 軽快な連射音と共に放たれた弾丸が、先頭のMTの装甲を叩き、姿勢を崩したところへさらに追撃を叩き込む。

 

 敵機が爆散する。

 

 直後、別方向からの射線。

 

 621はクイックブーストで機体を横へ滑らせた。

 

 地面をえぐる弾痕。

 

 金色の機体が、燃料基地のコンクリート舗装を蹴って一気に距離を詰める。

 

 左腕のVvc-774LSレーザースライサーが起動し、光刃が展開された。

 

 すれ違いざまの一閃。

 

 MTの胴体が斜めに裂け、爆炎を上げて崩れ落ちる。

 

『やはり色合い的に目立ちすぎていますね。道中に燃料貯蔵タンクがあります。それらを破壊して追加報酬を得ましょう』

 

《……二度と。もう二度と日本兵が進める機体には乗らない》

 

 621はそうぼやきながらも、動きに迷いはなかった。

 

 正面のMTをマシンガンで制圧し、横合いから接近してくる敵にはTRUENOニードルミサイルを発射。

 

 鋭く射出されたニードルが敵機に突き刺さり、遅れて発生した衝撃が装甲を内部から破壊する。

 

 封鎖機構の防衛線に穴が開いた。

 

 621はそのまま燃料貯蔵タンクのある区画へ向かう。

 

 巨大な円筒状のタンクが、複数並ぶように設置されていた。

 配管と固定具に囲まれたそれは、基地の補給能力を支える重要施設の一部だ。

 

 右手のLUDLOWが唸る。

 

 弾丸がタンクの外装を穿ち、続けてSWEET SIXTEENへ持ち替える。

 

 至近距離から放たれた特殊ショットガンの散弾が、燃料貯蔵タンクを一気に破壊した。

 

 巨大な爆炎が上がる。

 

 オルトゥスはその爆風を背に、次の目標へ飛んだ。

 

『燃料貯蔵タンクの破壊を確認。引き続き追加報酬を稼ぎましょう』

 

《そうだね。……おっと、LC機体》

 

 前方の高台に、新たな反応。

 

 通常MTよりも大型で、機動性と火力を備えた封鎖機構のLCが、こちらへ向けて展開していた。

 

 機体が浮上し、兵装を構える。

 

「コード5。所属不明AC。排除執行を開始する!」

 

 LCの射撃が始まる。

 

 実弾兵装とレーザーが混在した攻撃。

 

 621は即座に判断を切り替えた。

 

《確かヤタノカガミは対ビーム、対レーザーには効果的だったけど実弾は別だよね》

 

『彼らの説明ではそうですが……』

 

《だったら、レーザー以外の攻撃は当たらないようにしよう》

 

 621はブースタを吹かし、低く滑るように移動した。

 

 LCの実弾が空を切る。

 

 レーザーの照準が金色の機体を追うが、621は直撃の寸前で機体を捻り、射線を外す。

 

 無理に装甲性能を試す必要はない。

 

 避けられる攻撃は避ける。

 

 当たるべきでない攻撃は当てさせない。

 

 それが621の戦い方だった。

 

 LCが距離を保とうと後退する。

 

 だが、オルトゥスの加速はそれを許さない。

 

 TRUENOニードルミサイルを撃ち込み、相手の姿勢制御を崩す。

 そこへクイックブーストで踏み込み、左腕のレーザースライサーを振るう。

 

 光刃がLCの装甲を抉った。

 

 反撃の砲口がこちらを向く前に、右手のLUDLOWが弾丸を叩き込む。

 

 LCの脚部が砕け、機体が傾いた。

 

 最後にSWEET SIXTEENを至近距離で撃ち込む。

 

 爆発。

 

 封鎖機構のLCが、黒煙を上げて沈黙した。

 

「馬鹿な……AC単機で……!コード78を……送信……」

 

 途切れる通信。

 

 621はそれを聞き流し、次の目標を確認した。

 

 燃料基地の奥へ進むほど、敵の密度は増していく。

 MT部隊だけではなく、追加のLC、固定砲台、監視ドローンまで配置されていた。

 

 だが、その全てを相手にして足を止める必要はない。

 

 目標はエネルギー生成プラント。

 

 そして追加報酬対象である燃料貯蔵タンクの破壊。

 

『見えますか、レイヴン。ドーム屋根が目標の生成プラントです』

 

 エアの示す先。

 

 基地最奥部に、半球状のドーム屋根が見えていた。

 

 巨大な配管がそこへ集まり、周辺には複数の防衛部隊が展開している。

 

《見えてる。ここは一気に燃料タンクを破壊しつつ、目標に向かおう》

 

 621は加速した。

 

 金色のオルトゥスが、燃料基地の構造物の間を駆け抜ける。

 

 道中の燃料タンクをLUDLOWで撃ち抜き、密集したものにはアサルトブーストで接近してSWEET SIXTEENを撃ち込む。

 爆炎が連鎖し、封鎖機構の補給設備が次々と破壊されていった。

 

「コード5!所属不明AC!」

 

「狙いはプラントか。排除執行。これ以上やらせるな」

 

「了解。排除執行する」

 

 封鎖機構の部隊が、プラント防衛のために動く。

 

 前方のMT部隊が足止めを狙い、側面からLCが射線を取る。

 

 さらに、遠方の高所に別の機影。

 

 その砲口が、静かにこちらを捉えていた。

 

『……っ!狙われています!回避を!』

 

 エアの警告と同時に、狙撃型LCの高出力レーザーが放たれた。

 

(狙撃型LC!?くっ……!今のAP残量的に問題ない。ここは受けるしか……)

 

 回避が間に合わない。

 

 621は瞬時にそう判断した。

 

 実弾ならば危険だった。

 だが、これはレーザー。

 

 ヤタノカガミの性能が説明通りなら、耐えられる可能性がある。

 

 金色の装甲に、レーザーが直撃した。

 

 眩い閃光。

 

 だが、装甲は焼き抜かれなかった。

 

 次の瞬間、レーザーの軌道が不自然に折れ曲がった。

 

 光が金色の装甲表面で弾かれ、放たれた方向とは別角度へ跳ね返る。

 

 跳ね返ったレーザーが、側面に展開していた封鎖機構のMTを巻き込み、まとめて焼き払った。

 

「なにっ!?レーザーが跳ね返って……!?」

 

『今の現象はいったい……?』

 

《レーザーが……跳ね返った?》

 

 621自身も、一瞬だけ動きを止めかけた。

 

 対ビーム、対レーザーに効果があるとは聞いていた。

 

 だが、減衰や拡散ではない。

 

 反射。

 

 撃たれたレーザーそのものを弾き返す装甲。

 

 その異常な効果に、エアの声にも驚きが混じる。

 

 そこへ、日本兵からの通信が割り込んだ。

 

『そいつがヤタノカガミの最大の特徴だ!撃たれたビームやレーザーがその方角に弾く特殊コーティングだ』

 

『……何でもありなのですね』

 

 エアが、半ば呆れたように呟いた。

 

 無理もない。

 

 特殊装甲と聞いてはいたが、実際の挙動は想像以上だった。

 

 封鎖機構の高出力レーザーを受け、耐えるどころか跳ね返す。

 

 それはもはや、防御というより敵の攻撃を利用した反撃だった。

 

《でも……少し命拾いした》

 

 621はすぐに意識を戦闘へ戻した。

 

 いくらヤタノカガミが強力でも、万能ではない。

 

 実弾は防げない。

 

 ミサイルも、爆風も、近接攻撃も別だ。

 

 ならば、頼りきりにはしない。

 

 使える時に使い、基本は避ける。

 

 それでいい。

 

 狙撃型LCが次弾を撃つ前に、621はTRUENOを発射した。

 

 ニードルミサイルが高台の敵機へ突き刺さり、衝撃で砲身が跳ね上がる。

 その隙に接近し、レーザースライサーで斬り裂いた。

 

 狙撃型LCが崩れ落ちる。

 

 その背後で、最後の燃料貯蔵タンクが爆炎を上げた。

 

『全ての貯蔵タンクの破壊を確認。それなりの金額になりそうです。後は、本命のプラントを』

 

《もう近くにいる》

 

 プラントは目前だった。

 

 ドーム屋根の下部にある開口部から、内部構造の一部が見えている。

 

 エネルギー生成プラントの中枢。

 

 そこへ通じるルートを封鎖するように、最後の防衛部隊が展開していた。

 

『目標のプラントを確認』

 

《後は破壊するのみ》

 

 621は機体を前へ出す。

 

 封鎖機構の通信が飛び交う。

 

「コード5!敵ACを捕捉した」

 

「システムに増援を要請。コード78」

 

 増援要請。

 

 だが、遅い。

 

 今から呼んでも間に合わない。

 

《……邪魔!》

 

 621はアサルトブーストで一気に距離を詰めた。

 

 正面のMTを蹴散らし、右手のLUDLOWで牽制。

 横から割り込んでくるLCには、レーザースライサーを叩き込む。

 

 敵機が怯んだ瞬間、SWEET SIXTEENに持ち替え、至近距離で発射。

 

 散弾が装甲を砕き、LCが爆散した。

 

 防衛線が崩れる。

 

 金色のオルトゥスは爆炎を突き抜け、プラント内部へ飛び込んだ。

 

『プラントのコアを確認。破壊しましょう』

 

 エアの声と同時に、照準が中枢部へ重なる。

 

 巨大なコアが、赤い光を脈動させていた。

 

 621は迷わない。

 

 LUDLOWの連射で外装を削り、TRUENOのニードルを撃ち込む。

 コア表面に亀裂が走った。

 

 さらに左腕のレーザースライサーを展開。

 

 金色のオルトゥスが踏み込み、光刃を振り抜く。

 

 切断されたコアが一瞬だけ強く輝き、次の瞬間、内部から崩壊した。

 

 轟音。

 

 エネルギー生成プラントが連鎖的に爆発し、ドーム屋根の内側から炎が噴き上がる。

 

 基地全体に警報が鳴り響く。

 

 封鎖機構の補給拠点、その中枢が破壊された。

 

 621は爆炎を背に、機体を反転させる。

 

 任務目標は達成。

 

 燃料貯蔵タンクも全て破壊済み。

 

 後は離脱するだけだった。

 

 だが、621は警戒を解かなかった。

 

 この任務の流れを、彼女は知っている。

 

 プラントを破壊した後、本当に厄介な相手が現れることも。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

『目標のプラント破壊を確認……』

 

 エアの声が、爆炎と警報音の中に響いた。

 

 ヨルゲン燃料基地最奥部。

 ドーム状の屋根を持つエネルギー生成プラントは、既に内部から崩壊を始めていた。

 

 切断されたコアから赤い光が漏れ、配管を伝って火花が走る。

 その直後、施設全体を揺らすような爆発が起こり、黒煙と炎がドームの隙間から噴き上がった。

 

 封鎖機構がルビコンで確保していた補給拠点。

 その中枢は、今まさに機能を停止した。

 

 621の操る金色のスティールヘイズ・オルトゥスは、爆風を背にプラント区画から後退する。

 

 燃料貯蔵タンクは全て破壊済み。

 駐屯部隊も大部分を排除。

 主目標であるエネルギー生成プラントも破壊した。

 

 任務としては、これで完了と言っていい。

 

 だが、そこで別の通信が入った。

 

『見事だ。やはり使いこなしているようだな』

 

 低く、落ち着いた声。

 

 その声を聞いた瞬間、エアがわずかに反応する。

 

『っ!閣下……ですか?』

 

『ああ。だがまだ祝勝を上げる時ではない』

 

 通信に割り込んできたのは、日本側の司令官だった。

 

 どこか満足げな響きを含みつつも、その声音に油断はない。

 むしろ、ここからが本番だとでも言うような気配があった。

 

 621も同じだった。

 

 プラント破壊を確認しても、機体の構えを解かない。

 右手のLUDLOWはすぐに撃てるよう保持し、左腕のレーザースライサーも再展開可能な状態を維持する。

 

 ブースタ残量、AP、弾薬残数、EN出力。

 

 視界の端で流れる情報を確認しながら、621は周囲の地形とレーダーへ意識を向けた。

 

《エア。レーダーに何か機影はない?もしかしたら……》

 

 その言葉に、エアは即座に索敵範囲を広げた。

 

 通常の残存部隊ではない。

 燃料基地の防衛に配置されていたMTやLCとは違う反応。

 

 もし周回の記憶通りなら、このタイミングで現れる。

 

 封鎖機構が送り込む、特務機体。

 

 そして、その予感はすぐに現実となった。

 

『……レイヴン。遠方上空に機体反応、高速で接近しています!』

 

 レーダー上に、新たな反応が二つ。

 

 かなりの速度でこちらへ向かっている。

 

 通常のMTではない。

 LCとも違う。

 機体反応の鋭さ、接近速度、そして迷いのない進路。

 

 明らかに、621を目標としている。

 

《やはり来た……!》

 

 621は、金色のオルトゥスをプラント区画の開けた場所へ移動させた。

 

 炎上する施設。

 崩れ落ちた配管。

 黒煙に覆われた空。

 

 その向こうから、二つの影が降ってくる。

 

『面白くなってきた』

 

 日本側の司令官の声には、戦況を楽しむような響きすらあった。

 

 だが、621にとっては笑い事ではない。

 

 この二機を相手にするには、油断はできない。

 いや、普通ならばAC単機で相手取るには危険すぎる敵だ。

 

 封鎖機構の特務機体。

 

 エクドロモイ。

 

 その二機編成が、燃料基地上空から一気に降下してきた。

 

「コード23。現着」

 

 通信が開く。

 

 感情の薄い、機械的な声。

 

「ウォッチポイントからの報告通りだな」

 

 もう一機の声が続いた。

 

 機影が黒煙を裂いて姿を現す。

 

 一機は、接近戦を重視した高機動型。

 鋭い機動で距離を詰め、近距離で獲物を仕留めるタイプ。

 

 もう一機は、距離を取りながら火力支援を行う遠距離型。

 味方の突撃を援護し、相手の回避先を潰すように動く。

 

 単独でも厄介だが、二機が組めば危険度は跳ね上がる。

 

 近距離型が追い立て、遠距離型が退路を撃つ。

 遠距離型を狙えば、近距離型が割り込んでくる。

 

 封鎖機構の執行部隊として、敵ACを排除するために調整された組み合わせだった。

 

『敵は敗北を目前にして、絶望的な賭けに出たようだ』

 

 司令官が、静かに言う。

 

 だが、その言葉とは裏腹に、封鎖機構側の判断は決して無謀ではなかった。

 

 ヨルゲン燃料基地の中枢を破壊された時点で、封鎖機構にとってこの拠点の機能維持は不可能に近い。

 ならば、せめて襲撃を実行したACだけでも討ち取る。

 

 しかも、それがウォッチポイントで封鎖機構に損害を与えた“レイヴン”ならば、優先して排除する価値は十分にある。

 

『封鎖機構の特務機体、”エクドロモイ”。近距離型と遠距離型の連携に注意を』

 

 エアが分析結果を告げる。

 

 その声には緊張があった。

 

 ただし、恐怖ではない。

 

 621がこの敵を知っていることを、エアも理解している。

 それでも、知っていることと簡単に勝てることは違う。

 

 エクドロモイ二機は、プラント跡地を挟むように展開した。

 

 一機が地上近くを滑るように動き、もう一機がやや高度を取って射線を確保する。

 

 その動きに無駄はない。

 最初から連携を前提にした配置。

 

 621は機体の姿勢を低くし、ブースタ出力を調整する。

 

 金色の装甲が炎の光を反射し、戦場の中で異様に輝いた。

 

「識別名“レイヴン”」

 

 近距離型が、こちらを捉える。

 

「リスト上位、優先排除対象だ」

 

 遠距離型の砲口が、金色のオルトゥスへ向けられる。

 

 その瞬間、空気が張り詰めた。

 

 燃え盛るプラント。

 崩壊した燃料基地。

 黒煙の向こうに浮かぶ封鎖機構の特務機体。

 

 任務は終わった。

 

 だが、戦闘はまだ終わっていない。

 

 621は静かに照準を合わせる。

 

 この二機の動きは知っている。

 

 突撃のタイミングも、射撃支援の癖も、連携の崩し方も。

 

 だが今の自分が乗っているのは、いつものloader4ではない。

 

 金色の特殊装甲をまとった、魔改造されたスティールヘイズ・オルトゥス。

 

 そして、その装甲には、まだ完全には把握しきれていないヤタノカガミがある。

 

 621は、操縦桿を握り直した。

 

 次の瞬間、近距離型エクドロモイが地面を蹴る。

 

 遠距離型の火線が、それに合わせて放たれた。

 

 戦場の空気が、再び爆ぜた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 近距離型エクドロモイが、地面を蹴った。

 

 瞬間、機体が視界から消える。

 

 いや、消えたように見えただけだ。

 圧倒的な加速で距離を詰め、金色のオルトゥスの懐へ潜り込もうとしている。

 

 同時に、遠距離型エクドロモイが高度を取り、プラズマビームの砲口をこちらへ向けた。

 

 青白い光が収束する。

 

 さらに肩部からミサイルがばら撒かれ、複数の誘導弾が弧を描いて迫る。

 

 前方からは近距離型。

 

 上空からは遠距離型。

 

 レーザーランスとサブマシンガンによる強襲。

 プラズマビームとミサイルによる制圧。

 

 二機のエクドロモイによる連携攻撃が、レイヴンへ襲いかかった。

 

「“レイヴン”……またしても余計なことを」

 

「傭兵一人がここまでやるとは想定外です」

 

「今度こそ消しておく必要がある。システムがそう判断した」

 

 封鎖機構の通信が、戦闘回線に混ざって聞こえる。

 

 その声に含まれていたのは、ただの敵意ではなかった。

 

 既に知っている相手への警戒。

 

 以前から排除対象として登録されていた存在への反応。

 

 それを聞いたエアが、わずかに息を呑む。

 

『……レイヴン。今の通信は前のレイヴンが?』

 

《多分そう。レイヴンはあくまで借りた名前》

 

 621は迫るミサイル群をクイックブーストでかわしながら答えた。

 

 レイヴン。

 

 その名は、元々自分のものではない。

 

 撃墜された独立傭兵のライセンス。

 拾った名。

 借りた翼。

 

 だが、今この戦場で、封鎖機構が排除対象として認識しているのは間違いなく自分だった。

 

『前のレイヴンが何者にしろ、今は彼女がレイヴンだ』

 

《それもそう……!》

 

 近距離型のレーザーランスが突き出される。

 

 金色のオルトゥスは機体を捻り、紙一重でそれを避けた。

 

 だが、回避先には遠距離型のプラズマビーム。

 

 まともに受ければ、いくらヤタノカガミがあっても姿勢を崩される。

 621はあえて高度を落とし、地面すれすれを滑るように機体を走らせた。

 

 プラズマが背後の施設残骸を焼き、爆炎が上がる。

 

 その爆風を利用して、621は機体を反転させた。

 

 右手のLUDLOWが火を吹く。

 

 狙いは近距離型ではない。

 その背後、わずかに射線を合わせていた遠距離型の砲口。

 

 連射された弾丸が遠距離型の照準を逸らす。

 

 その一瞬。

 

 近距離型の突撃タイミングがずれた。

 

「パターンが変わった?」

 

「注意しろ。こいつの動きは想定外の動きをしてくるぞ!」

 

 封鎖機構の声に、初めて明確な動揺が混じる。

 

 621はその隙を逃さない。

 

 エクドロモイの連携は強力だ。

 

 近距離型が相手を追い込み、遠距離型が退路を潰す。

 互いの射線と突撃軌道を前提にした、効率的な狩りの動き。

 

 だが、その動きを知っていれば、崩すことはできる。

 

 近距離型がレーザーランスで再び突進する。

 

 621は後退しない。

 

 むしろ、真正面から踏み込んだ。

 

 相手の突撃軌道に合わせて、わずかに機体を横へずらす。

 レーザーランスの穂先が金色の装甲を掠め、火花を散らす。

 

 直後、左腕のVvc-774LSレーザースライサーが展開された。

 

 光刃が弧を描く。

 

 近距離型エクドロモイは即座に回避しようとしたが、621はそれを読んでいた。

 

 TRUENOニードルミサイルを至近距離で発射。

 

 回避機動に入ったエクドロモイの側面へ、ニードルが突き刺さる。

 

 遅れて発生した衝撃が機体の姿勢を崩した。

 

 そこへSWEET SIXTEEN。

 

 右肩のウェポンラックから引き出した特殊ショットガンが、至近距離で火を噴いた。

 

 散弾が装甲を食い破り、近距離型のフレームを砕く。

 

 それでもエクドロモイはサブマシンガンを向けようとした。

 

 だが、遅い。

 

 621はさらに踏み込み、レーザースライサーを振り抜いた。

 

 光刃が近距離型エクドロモイの胴体を切断する。

 

「やはり……ただの独立傭兵……では……」

 

 通信が途切れる。

 

 近距離型エクドロモイが、火花を散らしながら崩れ落ちた。

 

 爆発。

 

 一機撃破。

 

「コード31C。少尉が撃破されました。……了解、続行します」

 

 残った遠距離型エクドロモイは、即座に高度を取り直した。

 

 撤退ではない。

 任務続行。

 

 封鎖機構の執行部隊らしく、味方が撃破されても判断に迷いはない。

 

 プラズマビームの砲口が再びこちらを捉える。

 ミサイルが展開され、金色のオルトゥスを包囲するように飛来した。

 

《遅い……!》

 

 621はアサルトブーストを起動した。

 

 金色のオルトゥスが、爆炎と黒煙を突き破って加速する。

 

 ミサイル群を引きつけ、急上昇。

 

 誘導弾が追尾してくる。

 

 遠距離型エクドロモイは距離を保とうと後退するが、オルトゥスの加速はそれを上回った。

 

「エクドロモイに……付いてくる……だと……!?」

 

 遠距離型の声に、驚愕が走る。

 

 621は止まらない。

 

 プラズマビームが放たれる。

 

 正面から迫る青白い光。

 

 ヤタノカガミの装甲が反応し、光を弾く。

 

 レーザーの軌道が逸れ、背後の残骸を焼いた。

 

 その間に、621は一気に間合いへ入る。

 

 遠距離型エクドロモイが砲身を振り、再照準しようとした。

 

 だが、もう遅い。

 

 621は拡張機能を起動した。

 

 アサルトアーマー。

 

 金色のオルトゥスを中心に、圧縮されたエネルギーが膨れ上がる。

 

 次の瞬間、パルス爆発が戦場を飲み込んだ。

 

 至近距離で放たれた衝撃波が、遠距離型エクドロモイの装甲を砕き、内部機構を焼き切る。

 

 機体が大きく傾いた。

 

 そこへ、LUDLOWの連射とTRUENOの追撃。

 

 ニードルが突き刺さり、遠距離型のフレームが限界を迎える。

 

 爆発。

 

 空中で火球が膨れ上がり、封鎖機構の特務機体は黒煙を引きながら墜落した。

 

 戦場に、一瞬の静寂が落ちる。

 

 燃え盛るプラント。

 破壊された燃料タンク。

 沈黙したMTとLCの残骸。

 

 そして、二機のエクドロモイの残骸。

 

『特務機体……2機とも撃破しました』

 

 エアの声が、結果を告げる。

 

 その響きには安堵と、わずかな驚きが混じっていた。

 

 621は機体の状態を確認する。

 

 APはまだ残っている。

 弾薬も最低限はある。

 ヤタノカガミは、少なくとも対レーザー防御として十分すぎる効果を示した。

 

 問題は、見た目だけだ。

 

 その問題があまりにも大きいのだが。

 

 そこへ、日本側の司令官から通信が入った。

 

『よくやった。これでルーズベルト大統領も交渉の席に着くだろう』

 

《ルーズ……誰?》

 

 621は反射的に聞き返した。

 

 戦闘直後の緊張が、一瞬で妙な方向へずれる。

 

 エアも困惑したように言葉を挟んだ。

 

『あの……そのような人物はこの世にはいないのですが……』

 

『……何っ?』

 

 通信の向こうで、司令官が本気で驚いたような声を上げた。

 

 戦場に残っていた重苦しい空気が、少しだけ崩れる。

 

 封鎖機構の燃料基地は沈黙した。

 

 特務機体エクドロモイも撃破された。

 

 シュナイダーからの依頼は完遂。

 追加報酬対象も全て破壊済み。

 

 金色のスティールヘイズ・オルトゥスは、炎上するヨルゲン燃料基地を背にゆっくりと高度を上げた。

 

 任務は成功。

 

 だが、621の胸中に残った結論は、ただ一つだった。

 

《……やっぱり、次はloader4で出たい》

 

 エアは、今度も否定しなかった。

 

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