転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。   作:コレクトマン

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エンゲブレド坑道破壊工作

 621が金色のスティールヘイズ・オルトゥスでヨルゲン燃料基地へ向かっていた頃。

 

 別の格納庫では、もう一つの任務に向けた準備が進められていた。

 

 薄暗いブリーフィングスペースに、数名の日本兵が集まっている。

 その中心に立つのは、独立傭兵セレン。

 

 機体名、LYNX。

 

 そして、その傍らでは、日本兵たちの代表として菊池が待機していた。

 

 端末に表示されているのは、ベイラムグループ系列企業――大豊から送られてきた依頼データだった。

 

 ただし、直接説明しているのは大豊の担当者ではない。

 

 表示された通信記録から響いたのは、聞き覚えのある豪快な声だった。

 

『独立傭兵セレン!G13レイヴンからの紹介でこの依頼を受けると聞いた。あの青き翼の天使ことフリーダムの片割れであることは割れている。貴様には、ベイラム同盟企業“大豊”からの依頼を受けてもらう』

 

 G6、レッド。

 

 ベイラム側の伝令役として、今回の依頼内容を読み上げているらしい。

 

 それを聞いた日本兵の一人が、腕を組んで頷いた。

 

『我が方はこのたび、惑星封鎖機構に対して陽動作戦を展開することを決定した』

 

「素晴らしい作戦だ」

 

《静かに……》

 

 即座にセレンの声が飛ぶ。

 

 日本兵は口を噤んだ。

 

 ただし、完全に反省した顔ではない。

 むしろ「陽動」「封鎖機構」「攻撃」といった単語に反応して、若干目が輝いている者すらいる。

 

 セレンはそれを横目で見ながら、通信記録の続きを再生した。

 

『作戦地点は中央氷原エンゲブレド坑道。ここは老朽化したウォッチポイントのひとつでもあり、近く封鎖機構が修繕に入る予定だという』

 

 端末に地形データが表示される。

 

 中央氷原の一角。

 氷と岩盤に覆われた坑道施設。

 

 かつてウォッチポイントとして機能していた場所の一つであり、今は老朽化によって一部機能が低下している。

 

 だが、封鎖機構にとっては放置できない施設なのだろう。

 

 修繕が予定されているということは、そこにはまだ使える設備が残っているということだ。

 

 続いて、依頼データ内に一枚の画像が表示された。

 

 坑道最奥部に設置された大型装置。

 周囲に配管とケーブルが張り巡らされ、岩盤に埋め込まれるように配置されている。

 

 センシングデバイス。

 

 封鎖機構がルビコンの監視網を維持するために用いる、重要装置の一つだった。

 

『貴様には当該坑道へと侵入し、補修対象のセンシングデバイスを破壊してもらいたい』

 

「皆殺し――」

 

《うるさいと撃つよ……?》

 

 セレンの声と同時に、チャキッ、と何かの安全装置が外れる音がした。

 

「……ゴメン!」

 

 日本兵が即座に謝罪する。

 

 周囲の兵たちも、今のはまずいとでも言いたげに視線を逸らした。

 

 セレンはしばらく沈黙した後、再び端末へ視線を戻す。

 

 今回の任務は殲滅戦ではない。

 

 坑道に侵入し、最奥にあるセンシングデバイスを破壊する。

 そして、封鎖機構の注意を引きつける。

 

 戦うことは避けられないが、目的は敵の全滅ではなく、工作任務の遂行だ。

 

『封鎖機構の注意を引き、近傍拠点から兵力を分散させる。これが狙いだ。独立傭兵セレン!確実な遂行を期待する!』

 

 そこで、G6レッドからのメッセージは終了した。

 

 端末画面が依頼概要へ戻る。

 

 作戦地点、中央氷原エンゲブレド坑道。

 目標、センシングデバイス破壊。

 目的、封鎖機構の戦力分散。

 

 陽動作戦としては分かりやすい。

 

 問題は、坑道内部という閉鎖空間での戦闘になることだ。

 

 大型火器の取り回し、視界不良、退路の確保。

 そして、坑道内にどれだけ封鎖機構の戦力がいるか。

 

 セレンはしばらく依頼内容を確認した後、静かに頷いた。

 

 出撃準備へ移る。

 

 セレンはLYNXへ乗り込み、日本兵たちの代表として菊池もまた自らのACへ向かった。

 

 その機体は、AC“ヤマト”。

 

 重厚な装甲を持つ二脚機であり、全体の色はくすんだ軍用色を基調としている。

 赤いパーツが要所に入り、肩部には重火器を背負うように装備している。

 

 右手にはWR-0777 SWEET SIXTEEN特殊ショットガン。

 左腕にはHI-32: BU-TT/Aパルスブレード。

 右肩にはEARSHOTグレネードキャノン。

 そして左肩には、DF-GA-09 SHAO-WEIガトリングキャノン。

 

 近距離の瞬間火力、閉所での制圧力、重装甲目標への爆発火力。

 坑道内での突破戦を考えれば、かなり攻撃的な構成だった。

 

 右肩装甲には、日本帝国を象徴する日の丸のエムブレムが入っている。

 それ自体は、菊池たちにとって誇りの象徴なのだろう。

 

 だが、問題は左肩だった。

 

 そこには、明らかに誰かの手で追加された文字があった。

 

 “日本帝国 六二一”。

 

 それだけなら、まだ分からなくもない。

 

 問題は、その間に描かれていたものだった。

 

 ふざけた顔文字。

 

 よりによって、そこに堂々と(^q^)が描かれていた。

 

《……大丈夫なの?》

 

 セレンが、機体を見上げながら言う。

 

 問いの意味は複数あった。

 

 作戦上の心配。

 菊池の戦闘能力への確認。

 そして、この左肩のエムブレムに対する純粋な不安。

 

 菊池は胸を張った。

 

「心配ない。我々は軍人でもあり、武士でもある。奴らの優位では、我々の戦意は止められない!」

 

《そう……分かった》

 

 セレンはひとまず納得した。

 

 少なくとも、菊池の士気に問題はない。

 

 むしろ、過剰なほど高い。

 

 だがその直後、菊池自身が自分の機体の左肩を見て硬直した。

 

「何だこれは……いったいどうなってんだ!?」

 

 格納庫に、菊池の叫びが響いた。

 

《これ……貴方が付けたわけじゃないの?》

 

「そんなはずはない!本当に誰だこの左肩のふざけたエムブレムを描いた奴!?」

 

 菊池が周囲を見回す。

 

 整備兵たちが視線を逸らす。

 

 日本兵たちも、明らかに犯人を知っているような顔をしながら口を閉ざしている。

 

 すると、格納庫の物陰から、妙に間延びした声がした。

 

「(^q^)俺が描いたー」

 

 その瞬間、菊池ともう一人の日本兵が同時に叫んだ。

 

「ダメだ!」

 

「ダメだ!」

 

「(^q^)チクショウ!」

 

 犯人は悔しそうに叫ぶが、反省している様子はまったくない。

 

 菊池は頭を抱え、セレンは小さく溜息をついた。

 

 作戦前から、既にいろいろと不安だった。

 

 だが、時間は待ってくれない。

 

 LYNXのシステムが起動し、ACヤマトのジェネレータにも火が入る。

 

 格納庫内に低い駆動音が響き、二機のACが出撃準備を整えていく。

 

 目的地は、中央氷原エンゲブレド坑道。

 

 目標は、最奥部のセンシングデバイス。

 

 封鎖機構の注意を引きつけるための陽動作戦。

 

 セレンはモニター越しに、隣のACヤマトを見る。

 

 重武装。

 高火力。

 そして、左肩にふざけた顔文字。

 

 頼もしいのか、不安なのか、判断に困る機体だった。

 

 それでも、菊池の声は迷いなく通信に乗る。

 

「ACヤマト、出るぞ!」

 

 セレンも操縦系を握り直した。

 

 坑道内での破壊工作。

 

 短時間で侵入し、破壊し、離脱する。

 

 その一点だけを意識しながら、LYNXとACヤマトはエンゲブレド坑道へ向けて出撃した。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 LYNXとACヤマトは、中央氷原エンゲブレト坑道の入口に到着した。

 

 氷と岩盤に囲まれた坑道は、外から見ても老朽化が進んでいるのが分かった。

 崩れかけた支柱、凍りついた配管、半ば埋もれた監視設備。

 

 だが、その奥には封鎖機構が修繕を予定しているセンシングデバイスがある。

 

 つまり、まだ機能を回復させる価値がある施設ということだ。

 

 坑道入口の前で、617はLYNXの各部状態を確認する。

 

 右手にはDF-GA-08 HU-BENガトリングガン。

 左手にはDF-ET-09 TAI-YANG-SHOU炸裂弾投射機。

 右肩にはBML-G2/P03MLT-06六連装ミサイルランチャー。

 左肩にはSONGBIRDS二連装グレネードキャノン。

 

 閉所で使うには危険な火力も含まれているが、封鎖機構のMT部隊を短時間で突破するには十分すぎる構成だった。

 

 隣に立つACヤマトも、重火器を背負ったまま坑道入口へ機体を向けている。

 

《目標地点に到着……》

 

 617が静かに告げる。

 

 周囲には、菊池のACヤマトだけでなく、爆破工作を担当する日本兵たちも待機していた。

 

「よしっ予定通りこの坑道の最奥にあるセンシングデバイスに爆弾を設置する」

 

《了解……》

 

 617は短く応じた。

 

 任務は単純だ。

 

 侵入。

 突破。

 爆弾設置。

 離脱。

 

 余計な戦闘は避けたい。

 

 できる限り迅速に、できる限り静かに、目的だけを達成する。

 

 そう考えていた617の隣で、菊池が通信を開いた。

 

「よしお前ら、行くぞ!」

 

「「「突撃ーーっ!!」」」

 

 その瞬間、坑道入口に向かってACヤマトがブーストダッシュを開始した。

 

 同時に、どこからともなく日本兵特有の突撃ラッパが鳴り響く。

 

 高らかに。

 勇ましく。

 そして、隠密性を完全に投げ捨てるように。

 

 ACヤマトはラッパの音を背負いながら、真正面から坑道内へ突っ込んでいった。

 

《……ラッパの所為で隠密どころじゃない》

 

 617は小さく呟いた。

 

 しかし、もう止めるには遅い。

 

 坑道内部にいた封鎖機構の部隊も、当然その異常な接近を察知していた。

 

「コード15、所属不明AC!」

 

「何だと……?何が目的だ!」

 

 封鎖機構のMT部隊が、坑道内の防衛ラインで反応する。

 

 照明の落ちた坑道内に、複数の機影が浮かび上がった。

 武装を構え、侵入してきたACヤマトへ照準を合わせる。

 

 だが、菊池はまったく怯まなかった。

 

「アメ公これでもくらえ!」

 

 もはや敵がアメリカかどうかすら関係ない叫びと共に、ACヤマトの右肩に背負ったEARSHOTグレネードキャノンが火を噴いた。

 

 轟音。

 

 狭い坑道内で炸裂したグレネードが、封鎖機構のMT部隊をまとめて吹き飛ばす。

 

 爆風が壁面を揺らし、天井から氷片と岩屑が降り注いだ。

 

 続けて、左肩のSHAO-WEIガトリングキャノンが回転を始める。

 

 重い発射音が坑道内に反響し、残ったMTの装甲を削り取っていく。

 

 そこへ、617のLYNXが追いついた。

 

 HU-BENガトリングガンを構え、菊池の射線から外れた敵機を正確に制圧する。

 

 敵が遮蔽物に隠れようとした瞬間、TAI-YANG-SHOUの炸裂弾を撃ち込み、爆風で引きずり出す。

 動きの止まったMTには六連装ミサイルを放ち、坑道の奥へ逃げようとする敵にはSONGBIRDSの二連装グレネードを叩き込んだ。

 

 菊池が前をこじ開け、617が隙を埋める。

 

 騒がしさを除けば、連携そのものは悪くなかった。

 

《……みんなうるさい。もう少し静かにして》

 

 だが、617の声は冷たかった。

 

「ダメだ!」

 

「ダメだ!」

 

「それはできかね――」

 

 次の瞬間、ダーンッ、と銃声が響いた。

 

 617のLYNXが、警告射撃として坑道の壁面を撃ち抜いていた。

 

 弾丸が装甲板のすぐ横を掠め、火花を散らす。

 

《レイから教わったけど……うるさくすると、撃つよ?》

 

 静かな声だった。

 

 だが、その静けさが逆に怖い。

 

 日本兵たちは一斉に固まった。

 

「すまん!悪かった」

 

「ゴメン……!」

 

「怖ぇ……怖ぇよ……」

 

 617はそれ以上何も言わず、前方へ視線を戻した。

 

 どうやら、彼女も日本兵の取り扱いに慣れてきたらしい。

 

 言葉で止まらないなら、武器で脅す。

 

 非常に分かりやすく、そして効果的な方法だった。

 

 その時、通信にG6レッドの声が割り込んできた。

 

『独立傭兵セレンに伝達!惑星封鎖機構の地上部隊がそちらに向かっている。想定より動きが早いが……。作戦を継続し、陽動を確実なものとせよ。以上!』

 

《封鎖機構がもう……》

 

 617はレーダー情報を確認する。

 

 坑道外周から複数の反応。

 封鎖機構の地上部隊が、こちらの侵入に気づいて動き出したらしい。

 

 陽動としては成功している。

 

 だが、増援が到着する前にセンシングデバイスへ辿り着き、爆弾を設置して離脱しなければならない。

 

「俺たちのやることは変わらない。急ぐぞ!」

 

 菊池の声が飛ぶ。

 

 ACヤマトが再び前進する。

 

 坑道内に展開していた封鎖機構のMT部隊が、さらに奥で防衛線を張っていた。

 

 通路の左右に配置されたMTが一斉に射撃を開始する。

 正面には重装型。

 後方にはミサイルを構えた支援機。

 

 閉所で足を止めれば、集中砲火を浴びる配置だ。

 

 617は即座に判断した。

 

《右側、潰す……》

 

 LYNXのHU-BENが唸る。

 

 右側のMT部隊へ大量の弾丸が叩き込まれ、装甲が削れていく。

 敵が姿勢を崩した瞬間、TAI-YANG-SHOUの炸裂弾が着弾し、爆風でまとめて吹き飛ばした。

 

 一方、菊池のACヤマトは正面から突っ込む。

 

 左腕のパルスブレードを展開し、重装型MTの懐へ飛び込んだ。

 

「どけぇぇぇっ!」

 

 青白い刃が振り抜かれ、重装型MTの装甲を裂く。

 

 直後、至近距離からSWEET SIXTEEN特殊ショットガンを叩き込む。

 

 爆発的な散弾が内部機構を破壊し、MTはその場で崩れ落ちた。

 

 後方の支援機がミサイルを放つ。

 

 だが、617の六連装ミサイルがそれを迎え撃つように発射される。

 

 誘導弾同士が坑道内で交差し、爆発。

 炎と煙が広がる中、SONGBIRDSの二連装グレネードが支援機をまとめて薙ぎ払った。

 

 封鎖機構の防衛線が崩れる。

 

 LYNXとACヤマトは、そのまま坑道の最奥部へ向かった。

 

 やがて、通路の先に巨大な空間が見えた。

 

 岩盤をくり抜いたような広い空洞。

 その中央に、配管とケーブルに囲まれた大型装置が鎮座している。

 

 老朽化しているとはいえ、装置の一部にはまだ光が灯っていた。

 

 封鎖機構が修繕対象としていた、センシングデバイス。

 

《見えた。アレが目標の……》

 

「アレだな。工兵、来てくれ!」

 

 菊池が通信を飛ばす。

 

 後方で待機していた工作担当の部隊が、即座に前進してきた。

 

『こちら工兵部隊、現地に到着!』

 

『陸上自衛隊、戦闘準備よし』

 

 日本兵たちが装甲車両と支援機材を伴って、センシングデバイスの周囲へ展開する。

 

 封鎖機構の残存反応はまだある。

 

 坑道内のどこかで、増援もこちらへ向かっている。

 

 時間はない。

 

「その目標に爆弾を仕掛けろ」

 

『了解、後のことは任せてください』

 

 工兵たちが一斉に作業を開始した。

 

 センシングデバイスの基部へ爆薬を設置し、配線を伸ばす。

 外装パネルの隙間に成形炸薬を差し込み、主要な接続部を狙って固定していく。

 

 617はその間、坑道の入口側へ機体を向けた。

 

《ん……じゃあ脱出経路の確保》

 

 彼女の声と同時に、LYNXのガトリングガンが回転を始める。

 

 菊池のACヤマトもまた、パルスブレードを構え直した。

 

 爆弾設置が終われば、次は脱出。

 

 封鎖機構の増援が来る前に、来た道を戻る必要がある。

 

 坑道の奥から、敵の反応が近づいてくる。

 

 617は照準を合わせた。

 

 工作任務は、まだ終わっていない。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

『こちら観測班。状況はどうだ?』

 

 坑道外に展開していた観測班からの通信が、ノイズ混じりに届いた。

 

 センシングデバイスのある最奥部では、工兵たちが爆薬の設置を急いでいた。

 配管の基部、外装パネルの隙間、岩盤に固定された支持フレーム。

 封鎖機構が修繕対象としていたその装置を確実に破壊するため、爆薬は複数箇所に分けて取り付けられていく。

 

 その間、617のLYNXと菊池のACヤマトは、坑道奥へ通じる通路に機体を向けていた。

 

 レーダーには、こちらへ向かってくる封鎖機構の反応がいくつも映っている。

 

 時間はない。

 

『こちら工兵。梱爆設置完了!』

 

 工兵の声が響いた瞬間、菊池が即座に号令を出した。

 

「よし、敵の増援が来る前に引き上げるぞ!」

 

 爆薬は仕掛けた。

 

 後は起爆可能な距離まで離脱するだけだ。

 

 だが、坑道内で作業していた兵士の一人が、思わず情けない声を漏らした。

 

『えぇ?この坑道の中で走るなんて勘弁してくれよ……』

 

『何をたるんどるんだ貴様っ!』

 

『さっさと行け!さっさとぉーっ!!』

 

 直後、別の兵士に怒鳴られ、工兵たちは慌てて機材を担ぎ直した。

 

 老朽化した坑道の中を、重い装備を持って走る。

 

 確かに楽ではない。

 

 だが、ここに残れば封鎖機構の増援に挟まれる。

 それどころか、仕掛けた爆薬の爆発に巻き込まれる可能性すらある。

 

 泣き言を言っている余裕はなかった。

 

『……もう走るのだけは嫌だ』

 

《ん……引き上げ》

 

 617は短く告げると、LYNXを反転させた。

 

 菊池のACヤマトもそれに続く。

 

 工兵たちを先に走らせ、その後方を二機のACが護衛する形で坑道を戻り始めた。

 

 だが、来た道をそのまま戻れるほど、封鎖機構も甘くはなかった。

 

「コード23。現着……だがこれは……!?」

 

 坑道の途中、増援として侵入してきた封鎖機構の部隊が、破壊されたMTの残骸と、撤退中の工兵たちを確認して混乱する。

 

 彼らからすれば、侵入者はセンシングデバイスを破壊するために奥へ進んだはずだった。

 だが、今目の前にいるAC二機は、既に引き返している。

 

 つまり、目的は達成された可能性が高い。

 

《無視して突っ切る……》

 

 617は敵部隊と正面から撃ち合う気はなかった。

 

 ここで足を止めれば、後続の増援が追いつく。

 目的は敵の殲滅ではなく離脱。

 

 LYNXはブーストを吹かし、坑道内を低く滑るように加速した。

 

「さいなら~」

 

 菊池のACヤマトが、妙に軽い調子で通信を飛ばしながら続く。

 

 だが、その右肩のEARSHOTグレネードキャノンは既に照準を合わせていた。

 

 進路上に展開しようとしていた封鎖機構のMTへ、榴弾が叩き込まれる。

 

 轟音。

 

 坑道内に爆発が反響し、MT部隊がまとめて吹き飛ばされた。

 

「コード15。目標ACを確認!しかし、坑道の入り口に向かっている?」

 

 封鎖機構の通信が混乱を帯びる。

 

 敵は交戦を避けている。

 目的地へ向かっているのではなく、入口へ戻っている。

 

 それが意味することに気づいた時には、既にLYNXとACヤマトは彼らの横を抜けていた。

 

《このままならいける……!》

 

 617はレーダーを確認しながら、坑道の構造を頭の中でなぞる。

 

 入口まではまだ距離がある。

 だが、速度を落とさなければ間に合う。

 

 問題は、前方に新たな敵反応が現れたことだった。

 

「観測班!レーダーに何か反応はないか?」

 

 菊池が外部の観測班へ確認を飛ばす。

 

『こちら観測班。新手の敵部隊が坑道内に入り込んだ。警戒されたし』

 

 坑道入口側からも、封鎖機構の部隊が侵入してきている。

 

 前から新手。

 後ろから追撃。

 

 挟撃される形だった。

 

 だが、617の判断は変わらない。

 

《構ってる暇はない。突っ切る……!》

 

「正面突破だ!!」

 

 菊池の声と同時に、ACヤマトがさらに加速した。

 

 坑道の向こう側に、新たな封鎖機構のMT部隊が見える。

 彼らは侵入者を阻止するため、通路を塞ぐように展開していた。

 

「コード31C!システムの判断は!?」

 

「“続行”……了解、排除執行する」

 

 封鎖機構側も引くつもりはない。

 

 砲口がこちらを向く。

 

 ミサイルが発射され、実弾が坑道内を走る。

 

 狭い通路での正面衝突。

 

 一瞬でも判断が遅れれば、工兵たちごと足を止められる。

 

《どいて……!》

 

 617のLYNXが前へ出た。

 

 右手のHU-BENガトリングガンが唸り、進路を塞ぐMTへ弾丸の嵐を叩き込む。

 装甲が削れ、敵機が姿勢を崩す。

 

 そこへ左手のTAI-YANG-SHOU炸裂弾投射機を撃ち込んだ。

 

 爆風が坑道内で膨れ上がり、複数のMTが壁へ叩きつけられる。

 

 敵の射線が乱れた瞬間、LYNXはその隙間を抜けた。

 

 続けて菊池のACヤマトが突っ込む。

 

「くたばれアメ公!!」

 

 叫びと共に、ACヤマトの左腕に装備されたパルスブレードが展開された。

 

 青白い刃が坑道内を走り、進路上のMTを斬り裂く。

 右手のSWEET SIXTEEN特殊ショットガンが至近距離で火を噴き、残った敵機を吹き飛ばした。

 

 さらに左肩のSHAO-WEIガトリングキャノンが回転し、追撃しようとした封鎖機構の部隊を弾幕で押し留める。

 

 工兵たちはその間を必死に走った。

 

 背後では、増援部隊がさらに追ってくる。

 前方には坑道入口から差し込む薄い外光。

 

 そこまで辿り着けば、あとは起爆するだけだ。

 

 617は後方の反応を確認しながら、LYNXのブーストを再加速させた。

 

 敵を倒しきる必要はない。

 

 今必要なのは、外へ出ること。

 

 爆破範囲から離れること。

 

 そして、センシングデバイスを確実に葬ること。

 

 坑道の出口が近づいてくる。

 

 氷原の冷たい光が、暗い坑道の先に広がっていた。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 坑道の出口が近づいてくる。

 

 暗い岩盤の通路の先に、中央氷原の白い光が見えた。

 

 背後からは封鎖機構の増援反応。

 前方には、脱出を阻止しようとする残存部隊。

 

 だが、617のLYNXと菊池のACヤマトは止まらなかった。

 

 LYNXのHU-BENガトリングガンが火線を吐き、進路を塞ぐMTの脚部を砕く。

 ACヤマトのEARSHOTグレネードキャノンが、坑道の壁ごと敵の防衛線を吹き飛ばす。

 

 その爆煙を突き抜け、二機は一気に外へ飛び出した。

 

 続いて、工兵たちも息を切らしながら坑道から脱出する。

 最後尾の兵士が転がるように外へ出た直後、坑道内から追撃の火線が走った。

 

 しかし、それはもう遅い。

 

 LYNXとACヤマトは坑道入口の外側に陣取り、封鎖機構の追撃を牽制するように武装を構えた。

 

「よしっ何とか脱出したな」

 

《ん……》

 

 617は短く応じ、機体の状態を確認する。

 

 APに問題はない。

 弾薬は消費したが、戦闘継続に支障はない。

 工兵たちも全員、爆破範囲から離脱している。

 

 通信回線に、観測班の声が入った。

 

『よくやった。これで作戦はひとまず完了か』

 

 だが、菊池はすぐに否定した。

 

「いや、まだだ。例の装置に仕掛けた梱爆を起爆させる」

 

《え……?タイマーじゃないの?》

 

 617が少しだけ首を傾げるように反応する。

 

 坑道最奥のセンシングデバイスには、工兵たちが爆薬を仕掛けた。

 通常ならば、タイマー起爆か、一定時間後の自動爆破と考えるのが自然だ。

 

 だが、菊池は落ち着いた声で答えた。

 

「タイマーの方はちゃんと仕掛けた。表向きのダミーとしてな。本命は遠隔操作による起爆さ」

 

 どうやら、封鎖機構が爆弾を発見し、タイマー式の爆薬を解除する可能性まで想定していたらしい。

 

 見つかりやすい場所に仕掛けたタイマー式の梱爆は、あくまで囮。

 本命は、封鎖機構の目が届きにくい場所へ仕込んだ遠隔起爆式の爆薬。

 

 もし封鎖機構がダミーを解除して安心したなら、その瞬間こそが起爆の好機になる。

 

 菊池は坑道入口へ視線を向けたまま、通信を飛ばした。

 

「工兵、爆弾を起爆しろ!」

 

『了解、爆破します!』

 

 一方、その頃。

 

 坑道最奥部、センシングデバイス周辺では、封鎖機構の部隊が爆弾の処理を終えていた。

 

「コード4。爆弾の処理完了」

 

 装置の基部に取り付けられていたタイマー式の爆薬は、既に解除されている。

 

 周囲には、破壊されたMTの残骸と、侵入者たちが残していった作業痕。

 センシングデバイスそのものはまだ健在に見えた。

 

「所属不明ACどもはデバイスに爆弾を設置していたのか?」

 

「至急システムにコード44を送り、襲撃して来た2機のACの照合を……」

 

 その報告が終わるより早く。

 

 センシングデバイスの奥、外装パネルの影に隠された箇所で、小さな信号が点った。

 

 次の瞬間、爆発。

 

 封鎖機構が解除したものとは別の爆薬が、装置の中枢に近い位置で炸裂した。

 

「何っ!?爆弾がまだあったのか!」

 

 センシングデバイスの基部が吹き飛び、内部に走っていた配管とケーブルがまとめて断裂する。

 

 赤い光が、裂け目から漏れ出した。

 

 最初は小さな輝きだった。

 

 だが、それは瞬く間に膨れ上がる。

 

「まてっ!コーラルの反応が著しく急上昇している。これは……!」

 

 装置の奥に溜まっていた高濃度のコーラルが、爆破によって一気に流出し始めていた。

 

 坑道という閉鎖空間。

 逃げ場の少ない岩盤の内部。

 そこへ、致死量に近い濃度のコーラルが放出される。

 

 封鎖機構の兵たちも、それが何を意味するか即座に理解した。

 

「……!撤退だ!この量だ。機体から出れば致死量レベルのコーラル濃度だ!かといって脱出に手間取れば……」

 

 言葉は、最後まで続かなかった。

 

 センシングデバイスの内部で、コーラルが連鎖的に反応した。

 

 赤白い閃光が坑道を満たす。

 

 封鎖機構の機体の視界が、光に塗り潰された。

 

 直後、衝撃。

 

 爆発とコーラル汚染が同時に広がり、坑道内に残っていた封鎖機構の部隊を呑み込んだ。

 

 通信は途絶えた。

 

 警告音も、退避命令も、途中で途切れる。

 

 彼らが自分たちの最期を正確に認識するより早く、機体ごと爆散し、意識は赤白い光の中に消えた。

 

 外では、坑道入口の奥から鈍い轟音が響いた。

 

 地面が揺れる。

 

 入口から赤い光が漏れ、続いて高濃度コーラルの残留が煙のように流れ出してくる。

 

 観測班が即座に数値を確認した。

 

『爆破に成功!』

 

 坑道内部のセンシングデバイスは破壊された。

 修繕どころか、施設そのものが機能を失ったと言っていい。

 

 さらに、坑道内へ突入していた封鎖機構の増援部隊も、コーラルの流出と爆発に巻き込まれて壊滅した。

 

 任務は完了。

 

 陽動としても、破壊工作としても、十分すぎる成果だった。

 

 菊池は坑道から流れ出る赤い残光を見つめながら、ぽつりと呟いた。

 

「改めて思うと、連中には不幸なことだったな」

 

《たぶん……致死量》

 

 617も、静かにそう答える。

 

 敵とはいえ、あの坑道内にいた者たちは逃げ場を失った。

 爆発に巻き込まれた者もいれば、コーラル汚染に呑まれた者もいる。

 

 だが、作戦は成功した。

 

 封鎖機構のセンシングデバイスは破壊され、近傍拠点の兵力も動かされた。

 

 大豊からの依頼は、達成されたのだ。

 

 LYNXとACヤマトは、赤く煙る坑道入口を背に離脱準備へ移る。

 

 中央氷原に吹く冷たい風が、流出したコーラルの残光を薄く散らしていく。

 

 その光景を最後に、617は機体を反転させた。

 

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