転生したらCパルス変異波形だったので、ガンダムを作ります。   作:コレクトマン

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ストックが尽きました。しばしお待ちを……


特務機体の排除、ヴェスパーⅦの暗殺

 621がヨルゲン燃料基地へ向かい、617と菊池たちがエンゲブレド坑道へ出撃していた頃。

 

 残されたレイと数名の日本兵たちもまた、別の依頼に向けて動き出していた。

 

 格納庫の一角。

 簡易ブリーフィング用の端末に、解放戦線経由で送られてきた依頼情報が表示される。

 

 今回は依頼が二つ。

 

 一つは、ヒアルマー採掘場に駐屯している惑星封鎖機構の新型HCと、随伴するLC二機の破壊。

 もう一つは、中央ベリウス地方の壁に派遣されているヴェスパー第七隊長、スウィンバーンの暗殺。

 

 依頼内容を読み上げる声は、淡々としていた。

 

『お前たち、解放戦線からの依頼が二つある。一々メッセージでの説明では時間がかかる。……よってまとめて簡略に説明する。一つ目の依頼はヒアルマー採掘場に駐屯している封鎖機構の新型HCと随伴のLC2機の破壊。もう一つは中央ベリウス地方の壁に派遣されているヴェスパー第七隊長スウィンバーンの暗殺だ。……といっても、貴様らはそのスウィンバーンを活かすつもりなんだろう?』

 

 その言葉に、レイが片眉を上げる。

 

「霞スミカ……アンタいったいどっからそんな情報を仕入れているんだ?」

 

『秘密事項だ。分かったら出撃準備しろ』

 

 即答だった。

 

 詳しく聞くな、と声だけで告げている。

 

 日本兵の一人が腕を組み、何かを考えるように唸った。

 

「フム……。俺は思うに……」

 

「田村。余計な詮索はするな。逆に彼女の逆鱗に触れるぞ」

 

「マジかっ!」

 

 田村と呼ばれた兵士が、露骨に肩を跳ねさせる。

 

 レイは軽く溜息を吐き、端末に表示された作戦地点を確認した。

 

 中央ベリウス地方の壁。

 そしてヒアルマー採掘場。

 

 二つの戦場は離れている。

 

 ならば、当然戦力を分ける必要がある。

 

 レイはスウィンバーンの方へ向かう。

 彼を本当に殺すつもりはない。むしろ目的はその逆だ。

 

 アーキバスの会計責任者。

 ヴェスパー第七隊長。

 そして、状況次第ではこちら側に引き込めるかもしれない人材。

 

 暗殺依頼という名目を利用し、表向きの筋を通しつつ回収する。

 

 その一方で、ヒアルマー採掘場のHCとLC二機は、日本兵たちが処理する予定だった。

 

 少なくとも、そのはずだった。

 

「(^q^)イクゾッ! 俺に続け!」

 

「了解!」

 

「了解!」

 

「……今回は珍しくアイツの意見が通ったな?」

 

 妙に勢いのある声が、格納庫内に響いた。

 

 レイが嫌な予感を覚えるより早く、別の通信が割り込んでくる。

 

「あーっあー。えっと? 聞こえてるかな?」

 

 軽い声。

 

 緊張感の欠片もない声。

 

 だが、その声を聞いた瞬間、日本兵たちの表情が一斉に引きつった。

 

「ゲッ!? その声は……」

 

「いやいや、仲間外れは良くないなぁ? 司令官殿~っ」

 

 主任だった。

 

 いつの間に通信回線へ入り込んだのか。

 そもそも、どこから話しているのか。

 

 その時点で既に嫌な予感しかしない。

 

「お前がミッションに参加すると結局ロクでもないことが起きるんだよ……!」

 

「あっそうなんだ……で? それが何か問題?」

 

「問題しかないわバカ野郎!」

 

 レイの怒号が飛ぶ。

 

 だが、主任の声に反省の色はない。

 

 むしろ、楽しそうですらあった。

 

「……とまあいっても、既にヒアルマー採掘場に着いてるんだけどねwww」

 

「ファッ!? お前いつの間に!?」

 

 格納庫の空気が凍った。

 

 端末には、ヒアルマー採掘場付近の識別反応が表示される。

 

 そこに一機のACが映っていた。

 

 AC“ハングドマン”。

 

 青を基調とした機体色。

 滑らかな曲面を持つVP系フレームを中心に構成された、どこか重厚でありながら不気味な印象を与える機体。

 

 右腕にはVP-66LSレーザーショットガン。

 通常射撃ではレーザー散弾をばら撒き、チャージショットでは爆発するエネルギー弾を撃ち出す武装。

 

 左腕には、オールマインド製の実弾バズーカ、44-141 JVLN ALPHA。

 

 背部にはSONGBIRDS二連装グレネードキャノン。

 さらにもう一方には、IA-C01W2: MOONLIGHT。レーザーの斬撃を飛ばし、チャージ時には横一文字の薙ぎ払いを放つ特殊兵装。

 

 近距離、中距離、爆発火力、そして斬撃。

 癖の強い武装を詰め込んだ、いかにも主任らしい構成だった。

 

「じゃ、そういう事だからスウィンバーンっていうゴミムシ、よろしくね~」

 

「……あの焼け野原が!」

 

 レイが歯噛みするように呻く。

 

 ヒアルマー採掘場に向かうはずだった日本兵たちは、完全に出鼻を挫かれていた。

 

 主任が既に現地へ到着している以上、今さら追いかけても間に合わない。

 それどころか、下手に近づけば巻き込まれる可能性すらある。

 

「お労しや、司令……」

 

 誰かがぽつりと呟いた。

 

 その声には、心からの同情が滲んでいた。

 

 レイは頭を押さえたくなる気持ちを堪えながら、作戦の切り替えを判断する。

 

 ヒアルマー採掘場は、主任に任せるしかない。

 いや、任せるというより、もう勝手に始められている。

 

 ならば自分たちは本来の目的通り、中央ベリウス地方へ向かう。

 

 スウィンバーンの確保。

 

 こちらを確実に進めるしかなかった。

 

 その頃、ヒアルマー採掘場では。

 

 冷えた岩肌と採掘施設の残骸が広がる中、ACハングドマンが単機で立っていた。

 

 周囲には封鎖機構の警戒網。

 整備途中と思われる新型HCの反応。

 随伴するLC二機も、近傍で待機している。

 

 本来なら、複数機で当たるべき戦場。

 

 だが、主任はまるで散歩にでも来たかのように、軽い調子で機体を進ませていた。

 

「ん~楽しみだ。……さてと、じゃあっいっちょ行きますか!」

 

 ハングドマンのセンサーが赤く光る。

 

 右腕のレーザーショットガンが起動し、背部のSONGBIRDSがゆっくりと角度を変えた。

 

 ヒアルマー採掘場の封鎖機構部隊は、まだ気づいていない。

 

 今から自分たちの前に現れるのが、敵のACではなく、もっと性質の悪い災害であることに。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 ヒアルマー採掘場。

 

 中央氷原の一角に広がるその採掘施設は、既に封鎖機構の管理下に置かれていた。

 

 採掘用の大型設備、資材搬送用のレール、各所に設けられた防衛用の監視装置。

 その奥には、封鎖機構が新たに配備したHCと、随伴するLC二機の反応がある。

 

 本来ならば、日本兵たちが部隊を組んで慎重に攻めるはずだった。

 

 だが、そこに現れたのは一機のAC。

 

 主任の駆るハングドマンだった。

 

「あらら……警備がざる過ぎるね~。あっホイ~っと!」

 

 まるで散歩でもするような軽い調子で、ハングドマンは採掘場の外縁を抜けた。

 

 青い装甲が施設の照明を鈍く反射する。

 右腕のVP-66LSレーザーショットガンが低く構えられ、左腕のJVLN ALPHAが重々しく揺れる。

 

 封鎖機構の監視網が、ようやく侵入者を捉えた。

 

「……!? コード15! 所属不明AC……」

 

 警告が飛ぶ。

 

 だが、遅い。

 

 ハングドマンは既に施設内部へ入り込み、MTに攻撃を仕掛けて一瞬で蹴散らした。

 

「んん~どっちにしようか」

 

 主任は楽しそうに呟いた。

 

 目標は複数。

 随伴LC二機。

 そして、整備調整中の新型HC。

 

 本来なら最も警戒すべきは、戦闘準備を整えたLC二機だろう。

 

 だが、主任の視線は別のものを捉えていた。

 

 野外整備区画。

 

 装甲板の一部を開き、調整中だったHC。

 

 封鎖機構の執行機体として高い性能を持つそれは、今は完全な戦闘態勢ではない。

 

 だからこそ、狙う。

 

「……じゃあとりま、HCに挨拶っと」

 

 ハングドマンが足を止めた。

 

 背部のSONGBIRDSがせり上がり、砲口が整備中のHCへ向く。

 

 その状態で、主任はわざわざ通信を開いた。

 

「……あーあー。えっと、封鎖機構の人、聞こえてるかな~?」

 

 ふざけた声だった。

 

 敵地に単機で侵入しているとは思えないほど、緊張感がない。

 

「なにっ? 敵襲だと!?」

 

 HC側の通信に、明確な動揺が走る。

 

 整備兵とパイロットが慌ただしく反応する。

 だが、装備の再接続も、機体の再起動も、完全には間に合わない。

 

「ゴメン、時間無いから用件だけ。君たちにプレゼント♪」

 

 直後、SONGBIRDSが火を噴いた。

 

 二連装グレネードキャノンから放たれた砲弾が、整備区画へ叩き込まれる。

 

 轟音。

 

 爆炎が広がり、整備用の足場が吹き飛んだ。

 HCの装甲に爆風が直撃し、機体が大きく揺れる。

 

「ぐぅっ!? ふざけた真似を……! コード15、所属不明AC! おそらく企業に雇われた独立傭兵と推定」

 

「あっそうなんだぁ……」

 

 主任は、まるで他人事のように返した。

 

 次の瞬間、ハングドマンが距離を詰める。

 

 右腕のVP-66LSが閃いた。

 レーザー散弾がばら撒かれ、HCの外装と周囲の整備機材をまとめて焼く。

 

 HCが反撃しようと腕部を動かす。

 

 しかし、主任はその挙動を見て笑った。

 

 左腕のJVLN ALPHAが火を噴く。

 

 実弾バズーカの重い一撃が、HCの胸部装甲を叩き潰した。

 

 爆発。

 

 続けざまに、MOONLIGHTと入れ替えてレーザー刃を起動する。

 パルスブレードと同じ薄緑色のレーザーの斬撃が空間を裂き、整備途中のHCの脚部を切断した。

 

 HCは膝から崩れ落ちる。

 

「馬鹿な……! 寄せ集めに……執行機体が……!?」

 

 通信に、信じられないという響きが混じった。

 

 だが、主任はその声すら楽しんでいるようだった。

 

「こっちだーハッハッハ!」

 

 ハングドマンが採掘場の構造物の間を走る。

 

 正面から叩き潰すのではない。

 わざと見える位置へ出て、わざと射線を誘い、敵を苛立たせるように動く。

 

 整備中のHCをいたぶるように削りながら、主任は周囲の反応も確認していた。

 

 LC二機が接近してくる。

 

 これで揃った。

 

「コード31C特務少尉が墜とされました」

 

「AC単機で……この独立傭兵はいったい……!」

 

 封鎖機構の声に、焦りが混じる。

 

「詮索は後だ。排除執行する!」

 

「……了解」

 

 LC二機が連携で主任のハングドマンを墜とそうと試みる。

 

 その瞬間、主任は動きを変えた。

 

 ふざけたような回避機動から、一転して鋭く踏み込む。

 

「へぇ? 中々やるじゃない、それなりにはさ!」

 

 接近してきた一級士長のLCが、迎撃のために火器を構えた。

 

 だが、ハングドマンの方が早い。

 

 VP-66LSのチャージショットが放たれる。

 

 爆発するエネルギー弾がLCの足元で炸裂し、機体の姿勢を崩す。

 そこへSONGBIRDSの砲撃が重なる。

 

 二発のグレネードがLCの装甲を吹き飛ばした。

 

 LCは辛うじて姿勢を立て直そうとする。

 

 だが、主任は既に懐に入っていた。

 

 MOONLIGHTの斬撃が横薙ぎに放たれる。

 

 青白い光がLCの胴体を裂き、内部機構を焼き切った。

 

「機体が……! 持たない……!?」

 

 LCが爆発する。

 

 一機目、撃破。

 

「一級士長が墜とされました! コード……」

 

「あ、ヤバイヤバイ、ギャハハハハ!」

 

 残ったLCが報告を上げようとした瞬間、ハングドマンが急加速した。

 

 JVLN ALPHAの下部に取り付けられている銃剣を突き刺す。

 

 逃げる間も、反撃する間もない。

 

 突き刺すと同時にゼロ距離からの実弾バズーカの一撃がLCの装甲を粉砕し、続けてVP-66LSのレーザー散弾が傷口へ叩き込まれる。

 

 さらに、SONGBIRDSの追撃。

 

 爆炎がLCを包み込んだ。

 

 通信は途中で途切れた。

 

「そんな……! こうも、一方的に……!?」

 

 封鎖機構の残存部隊が呆然とする。

 

 HCは落ちた。

 

 LC二機も、ほとんど瞬殺に近い形で撃破された。

 

 採掘場の防衛戦力は、たった一機のACによって崩壊した。

 

 しかも、そのACの操縦者は、最初から最後までふざけた調子を崩していない。

 

「申し訳ないけど、仕事でね。……まっ! そんなことを言ってももう死んじゃってるんだけどな? ギャハハハハ!」

 

 主任の笑い声が、炎上するヒアルマー採掘場に響く。

 

 壊れたHCの残骸。

 爆散したLC二機。

 沈黙する封鎖機構の通信。

 

 主任は満足げにハングドマンを旋回させると、燃え上がる採掘場を眺めた。

 

 任務目標は達成。

 

 封鎖機構の新型HCと随伴LC二機は撃破された。

 

 だが、それは作戦というより、災害が通り過ぎた後に近かった。

 

 ヒアルマー採掘場に残ったのは、主任の笑い声と、封鎖機構の残骸だけだった。

 

「……アレ?」

 

 主任が現場から離脱する前にある物を見かけるまでは……

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 主任がヒアルマー採掘場で好き放題に暴れている頃。

 

 中央ベリウス地方へ向かっていたレイたちは、別の意味で消耗していた。

 

「あーもう滅茶苦茶だよ……」

 

 通信越しに届く主任の行動報告。

 

 勝手に出撃し、勝手に現地へ到着し、勝手に交戦を始めている。

 しかも、本人は悪びれるどころか楽しそうですらある。

 

 流石のレイも愚痴が漏れた。

 

 アンドロイドボディである以上、本来なら胃など痛むはずがない。

 だが今だけは、存在しないはずの胃がキリキリと痛んでいるような錯覚すら覚える。

 

「今度アイツの尻尾を捕まえたら、ひどい目に遭わせてやる……!」

 

「止めておけ。主任はアレがデフォなんだ。こっちがなれないと身が持たないぞ」

 

「(^q^)クソッ! ストレスがヤバイ! チクショウ!」

 

 日本兵たちも同じだった。

 

 彼らもまた主任のでたらめな行動力に振り回され、レイと同様に、ないはずの胃を痛めている。

 

 ヒアルマー採掘場の方は、もはや主任に任せるしかない。

 正確には、任せたくなくても勝手に任せる形にされた。

 

 ならば、こちらはこちらの任務を進めるしかない。

 

 レイは深く息を吐き、意識を切り替えた。

 

「……切り替えよう。スウィンバーンの居場所は?」

 

「偵察部隊より報告です!」

 

 日本兵の一人が端末を操作する。

 

 壁の上から観測を続けていた偵察部隊が、目標の位置を特定したらしい。

 

 レーダー上に新たなマーカーが表示される。

 

 中央ベリウス地方の壁、その外周部。

 そこに、ヴェスパー第七隊長スウィンバーンの機体反応があった。

 

「丁度夜警に出ていたタイミングか。ある意味都合がよすぎるな」

 

 レイは表示された位置情報を確認する。

 

 スウィンバーンは部隊本隊からやや離れた位置にいる。

 しかも周辺では既に小規模な戦闘が発生していた痕跡がある。

 

 おそらく、夜警中に不法侵入者か解放戦線の偵察部隊と接触したのだろう。

 

 孤立に近い状態。

 

 捕捉するには好機だった。

 

「司令、今が好機かと……」

 

「わかっている。お前たちは万が一に備え、奴が現れるまでレーダーを監視してくれ」

 

「「「了解!」」」

 

「(^q^)ハイッ!ワカリマシタ!」

 

 日本兵たちが即座に配置へ散る。

 

 レイはデスティニーへ乗り込み、システムを起動した。

 

 装甲各部に光が走り、メインカメラが点灯する。

 翼状の推進器が開き、デスティニーが静かに浮上した。

 

 目標はスウィンバーン。

 

 ただし、目的は暗殺ではない。

 

 表向きは暗殺依頼。

 実際には、ヘッドハンティングのための接触。

 

 そのためには、まず相手に「どうしようもなく追い詰められた」と思わせる必要がある。

 

 デスティニーは壁の上から飛び出し、指定地点へ向かった。

 

 スウィンバーンのいる地点では、既に戦闘が終わっていた。

 

 地面には破壊された機体の残骸が転がり、煙が細く立ち上っている。

 その近くに、一機の四脚型ACがいた。

 

「次から次へと不法者……よくもまあ飽きないものだ」

 

 ヴェスパー第七隊長、スウィンバーン。

 

 彼のAC“ガイダンス”は、撃破した襲撃機の残骸を調べていた。

 

 四脚特有の安定した姿勢で機体を固定し、センサーを向ける。

 どこか見下すような態度が、機体の動きにすら現れているようだった。

 

「……アレか」

 

 レイは上空からスウィンバーンの機体を目視で確認した。

 

 ガイダンスはまだこちらに気づいていない。

 

 スウィンバーンは残骸の解析に意識を向けていた。

 

「この機体構成は解放戦線ではない……? なるほど、ベイラムか。時代遅れの斜陽グループめ……」

 

 その呟きを聞きながら、レイはデスティニーの左ウェポンラックへ意識を向ける。

 

 懸架している大型ビームランチャーを展開。

 出力を調整し、照準を合わせる。

 

「ステンバーイ……ステンバーイ……」

 

 撃墜しては意味がない。

 

 損傷させる。

 驚かせる。

 抵抗しても勝てないと思わせる。

 

 そのギリギリの威力へ落とす。

 

 照準がガイダンスの胴体部へ重なる。

 

「……発射」

 

 大型ビームランチャーから、赤を中心とした外郭が白いビームが放たれた。

 

 夜の壁を裂くように伸びた光が、スウィンバーンのガイダンスに直撃する。

 

「おわっ!? ……なっ何事だ!?」

 

 ガイダンスが大きく揺れ、スウィンバーンの声が跳ね上がった。

 

 レイはそのまま高度を落とし、デスティニーを視界内へ入れる。

 

「スウィンバーン。恨みはないが墜とさせてもらう」

 

 もっとも、墜とすつもりはない。

 

 胸中でそう付け加えながら、レイは次の射撃姿勢に入る。

 

「まて! 背後から奇襲するとは! 何という卑劣!!」

 

「いやっしらんがな……」

 

 思わず素で返した。

 

 暗殺対象として派遣されている相手に、背後から撃つなと言われても困る。

 

 だが、スウィンバーンは本気で怒っているらしい。

 

 ガイダンスが武装を構え、こちらへ向き直る。

 

 レイは軽く会話に付き合いながらも、戦い方は徹底していた。

 

 ヒットアンドアウェイ。

 

 正面から潰すのではなく、相手が反応するたびに距離を外し、武装を削り、機動力を奪っていく。

 

「貴様は……まさか例の堕天使か!?」

 

「堕天使? デスティニーのことか」

 

「くっ……よもやガンダムタイプに狙われるとは!? だが、卑劣な貴様には指導が必要だ!!」

 

 スウィンバーンが叫び、ガイダンスが攻撃を開始した。

 

 四脚の安定性を活かした射撃。

 肩部武装による牽制。

 距離を取りながら、こちらを削ろうとする動き。

 

 決して弱くはない。

 

 ヴェスパー第七隊長の名は伊達ではなく、戦闘中の判断も悪くなかった。

 

 だが、それでも相手が悪すぎた。

 

 デスティニーの機動力は、ガイダンスの照準を上回る。

 

 残像を残すように空を滑り、射線を外し、逆にビームを撃ち込む。

 スウィンバーンが足を止めようとすれば、レイは既に別方向へ回り込んでいる。

 

 性能差が、あまりにも大きい。

 

「劣勢!? このスウィンバーンが劣勢だと!?」

 

「まあ自分で言うのもなんだが、機体性能差があるのが原因だと思うぞ。それでも粘ったアンタもすごいけど……」

 

 レイの言葉は本心だった。

 

 スウィンバーンは弱くない。

 

 普通のAC相手なら、十分に戦える腕もある。

 だが、今相手にしているのはACではなく、ガンダムタイプの機動兵器。

 

 しかも、レイが操るデスティニーだ。

 

 スウィンバーンも、それを理解し始めたのだろう。

 

 ガイダンスが突然、肩部の武装以外を切り離した。

 

 不要な武装を捨て、重量を落とす。

 同時に、拡張システムの一つであるパルスアーマーを展開した。

 

 淡い光の防壁がガイダンス全体を包み、防御態勢に入る。

 

「まっまて! 落ち着け……! いいか? 私はヴェスパー第七隊長……つまり会計責任者でもあるということだ」

 

「おやおや……で?」

 

 レイは追撃の手を止めた。

 

 予想通りの流れだった。

 

 追い詰められたスウィンバーンは、戦闘力ではなく立場と金を使って交渉に出る。

 

「部隊の入出金については、私に管理権限がある」

 

 スウィンバーンが説明を続ける。

 

 その間にも、ガイダンスを覆っていたパルスアーマーは時間切れを迎え、光を失って消えていった。

 

 防壁は消えた。

 

 それでもスウィンバーンは、必死に言葉を重ねる。

 

「見逃してくれれば悪いようにはしない。分かるな?」

 

「分かるけど……そもそも俺はアンタをヘッドハンティングしに来たんだ」

 

「……なに?」

 

 スウィンバーンの声が止まる。

 

 予想していなかった言葉だったのだろう。

 

 殺しに来たのではない。

 雇いに来た。

 

 だが、今の状況でそれを理解するのは簡単ではない。

 

 レイは淡々と続けた。

 

「それと、仮にお前を見逃してもスネイルのことだ。ヴェスパーの名を汚したアンタを再教育センターに送られるのは目に見えている」

 

「そ……そんな馬鹿な!?」

 

 スウィンバーンの声に、明確な絶望が滲む。

 

 だが、レイはそこで蜘蛛の糸を垂らすように、あえて希望をちらつかせた。

 

「だからだ、スウィンバーン。ここは敢えて俺と交戦し、撃破を免れる条件という脅しで指定された口座に資金を強制的に振り込まされたってことにして、その責任を取るために自らヴェスパーⅦを辞任して再教育センターに出頭することをスネイルに報告するんだ」

 

「なっ!? それではどの道再教育センター行きに変わりは……」

 

「まあ落ち着け。その再教育センターに搬送される所に特殊部隊を向かわせてアンタを回収という名の救出する。それなら問題ないだろ?」

 

 スウィンバーンが沈黙する。

 

 状況を頭の中で整理しているのだろう。

 

 レイに脅された。

 撃破を免れるために、資金を強制的に振り込まされた。

 その責任を取り、自ら隊長職を辞任。

 再教育センターへ出頭する。

 

 表向きには、ヴェスパーの体面を保つ形になる。

 

 そして実際には、搬送途中でこちらが救出する。

 

 筋は通る。

 

 少なくとも、今この場で殺されるよりは遥かに良い。

 

「……なるほど。素晴らしい提案だ! 私としたことが早とちりしてしまった」

 

「……というわけで、今指定した口座のデータを送った。そこに良くても500.000COAMを振り込んでくれ」

 

「50万? 意外と額としては少ない……いやっ何でもない」

 

 スウィンバーンは慌てて言葉を飲み込んだ。

 

 今ここで余計なことを言えば、本当に撃たれるかもしれないと悟ったのだろう。

 

 ガイダンスの通信経由で、指定口座への送金処理が始まる。

 

 レイはその確認を待ちながら、デスティニーの対艦刀ビームソード“アロンダイト”を展開した。

 

「これでよし。後は……」

 

「ん? 何だ、何をするつもり……」

 

 スウィンバーンが問いかけるより早く、デスティニーが動いた。

 

 アロンダイトのビーム刃が振り抜かれる。

 

 次の瞬間、ガイダンスの左腕が切断された。

 

「おわーっ!? 貴様、どういう教育を受けてるのだ!?」

 

 スウィンバーンの悲鳴が響く。

 

 だが、レイは冷静だった。

 

「この方が脅されたという証拠にもなる。俺という危険な奴相手に五体満足で戻ったら怪しまれるだろうに」

 

「そ……そうか。そう……なのか?」

 

 スウィンバーンは若干戸惑っていた。

 

 理屈は分かる。

 

 だが、納得しきれない。

 

 そんな声だった。

 

 その間に、振り込み完了の通知が届く。

 

 指定口座への50万COAMの入金が確認された。

 

 レイはアロンダイトを収め、デスティニーを少し後退させた。

 

「それじゃあ、後で救出部隊が迎えに行く。それまで待っていろ」

 

「わ……わかった」

 

 スウィンバーンは、左腕を失ったガイダンスをかろうじて立たせたまま頷き、そのまま帰投する。

 

 表向きには、彼は暗殺者に襲撃され、脅迫され、資金を横領させられた被害者となる。

 

 そして、その責任を取るために自らヴェスパー第七隊長の座を辞し、再教育センターへ出頭する。

 

 その途中で、こちらが回収する。

 

 作戦は、ここまでは予定通り。

 

 レイは最後に周囲の反応を確認した。

 

 今のところ、追加の敵影はない。

 

 だが、妙な胸騒ぎがあった。

 

 スウィンバーンを生かした。

 

 その選択を、良しとしない者がいるかもしれない。

 

 デスティニーのセンサーが、夜の壁の上空を走査する。

 

 冷たい風が吹き抜ける中、レイはまだ警戒を解かなかった。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 スウィンバーンのガイダンスが、左腕を失ったまま後退していく。

 

 通信越しに聞こえる彼の声には、まだ動揺が残っていた。

 それでも、レイの提示した筋書きは理解したらしい。

 

 この場では撃破を免れた。

 その代償として、指定口座に資金を振り込まされた。

 責任を取る形で、ヴェスパー第七隊長を辞任し、再教育センターへ出頭する。

 

 そして、その移送途中でこちらが救出する。

 

 表向きには、スウィンバーンは襲撃者に脅され、命からがら逃げ延びたことになる。

 

 左腕を失ったガイダンスは、その証拠として十分だった。

 

 レイはデスティニーのコックピット内で、スウィンバーンの反応が離れていくのを確認する。

 

 周囲は雪が吹雪いていた。

 

 中央ベリウス地方の壁の上。

 夜の冷気と白い雪が視界を薄く覆い、先ほどまでの戦闘音が嘘のように静まり返っている。

 

 不気味な静けさだった。

 

「スウィンバーンを見逃したからそろそろ来るはずと思うが……」

 

 レイは呟きながら、デスティニーのセンサーを広域に広げた。

 

 原作の流れを知っている。

 

 スウィンバーンを見逃せば、現れる者がいる。

 

 依頼の不履行を咎める、独立傭兵。

 

 その名を思い浮かべた直後だった。

 

『司令! 敵機、6時付近! 退避してください!』

 

 日本兵たちからの警告が飛ぶ。

 

 だが、それよりも早く、背後の闇から緑色のレーザーが襲いかかった。

 

 デスティニーの警告音が鳴る。

 

 レイは反射的に左腕を振り上げ、手甲部のビームシールドを展開した。

 

 展開された光の盾に、緑のレーザーが叩きつけられる。

 

 閃光。

 

 衝撃がデスティニーの腕部を揺らした。

 

 だが、盾は抜かれない。

 

 ビームシールドが攻撃を受け止め、光を散らしながら防ぎ切った。

 

「……来たか!」

 

 レイはデスティニーを反転させる。

 

 その背後。

 

 何もなかったはずの空間が、ゆらりと歪んだ。

 

 雪の幕の中に、輪郭が浮かび上がる。

 

 光学迷彩技術、ミラージュコロイド・ステルス。

 

 それを解除しながら、一機の機体が姿を現した。

 

 GAT-SO2R。

 

 “NダガーN”。

 

 足立重工製の機体であり、潜入、奇襲、暗殺を前提とした特殊戦仕様機。

 

 黒と緑を基調とした機体が、吹雪の中に静かに立っていた。

 

 ただし、レイの知るNダガーNとは一部が違う。

 

 本来、左腕に装備されているはずのピアサーロック“ハーケンファウスト”はない。

 

 代わりに取り付けられているのは、オールマインドが開発したプラズマヨーヨー。

 

 44-143 HMMR。

 

 奇襲用の特殊装備を、AC系の近接武装へ差し替えた、明らかにこの世界の戦場に合わせた改修だった。

 

 そして、その機体を駆る者の声が響く。

 

「信義により立つ任務の不履行、万死に値する。三途の渡しの六文銭 しかと受け取れい!」

 

 独立傭兵、六文銭。

 

 スウィンバーンを見逃したレイを、任務を違えた者として討つために現れた刺客。

 

 だが、レイは怯まなかった。

 

 むしろ、吐き捨てるように言う。

 

「……死にに来たかよ、似非忍者!!」

 

 デスティニーの右手に、対艦刀ビームソード“アロンダイト”が握られる。

 

 巨大な刃にビームが走り、吹雪の中で青白く輝いた。

 

 レイは翼を広げ、スラスターを一気に噴かす。

 

 デスティニーが雪煙を巻き上げながら、NダガーNへ斬りかかった。

 

 六文銭もまた退かない。

 

 NダガーNの腰部から、GES-D07G+対装甲刀が抜き放たれる。

 

 対ビームコーティングを施された実体刃。

 

 それが、迫るアロンダイトへ正面から合わせられた。

 

 激突。

 

 ビーム刃と対装甲刀がぶつかり合い、火花と光が吹雪の中へ散った。

 

 デスティニーの推力が押し込む。

 

 だが、NダガーNは脚部を踏ん張り、機体を沈ませるようにして衝撃を受け止めた。

 

 鍔迫り合い。

 

 至近距離で、二機のカメラアイが向かい合う。

 

 緑のレーザーで奇襲し、ステルスを解除した忍びの機体。

 

 対して、紅白の光を背負い、アロンダイトを構えるデスティニー。

 

 レイは奥歯を噛みしめる。

 

 スウィンバーンの確保は成功した。

 

 だが、その選択を許さない者が、ここに現れた。

 

 六文銭の声が、鍔迫り合いの中で低く響く。

 

 吹雪が強まる。

 

 夜の壁の上で、任務不履行を咎める刺客と、スウィンバーンを生かしたレイの戦いが始まった。

 

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