オリキャラ。オリ展開。注意してください。
「んー! じゃあそろそろ終わりにしようかしら」
ケピ帽を被る女が、戦車の上で優雅に腰掛けながらそう言った。
彼女の名前はマリー。
BC自由学園、戦車道チームの隊長を務める少女である。
陽の光を反射する金色ロングヘア。透き通るような端正な顔立ち。見る者の視線を奪う美貌を、彼女は備えていた。
「安藤隊、射撃訓練はそこまで!」
「押田隊、機動訓練はもういいだろう!」
同じくケピ帽を被る、二人の女が声を張り上げた。
彼女たちはどちらもマリーの副官を務め、BC自由学園が誇る副隊長コンビである。
二人の呼び掛けで、戦車のエンジンが次々と止まり、中からぞろぞろと生徒が姿を現した。
グラウンドには土と熱が漂い、訓練の余韻が残っている。
「フィードバックは頼んだわね、二人とも。今
日は外せない用があるから」
マリーが軽やかに言い残すと
「分かり──」
「分かりました、マリー様!」
黒髪の女が、もう一人の金髪の女を押し退け、嬉々として言い放つ。
それを聞いたマリーはぴょんと軽やかに戦車から飛び降りる。そしてスカートの裾をさっと整えると、更衣室へと向かっていった。
彼女の背中が見えなくなったところで、金髪の女──押田は深く息を吐いて、周囲の生徒を見渡した。
「マリー様が不在のため、フィードバックは私と安藤君がする。着替えが済んだ後、B棟の101教室に集合せよ」
言い終わった後、みんなから疲れきったような「はーい…」という返事が返ってくる。
今日はマリーの都合でスパルタ訓練だったのだ。
「──して、押田君」
「何だい、安藤君?」
押田は、安藤と呼ばれる女に向き直った。
「マリー様は毎週決まって、ああして早退しているが、何故なのだろうか?」
「これは驚きだな。マリー様と付き合いが短い故、受験組はご存知無いのか」
「む。その程度で優位に立てたと思える簡単な脳ミソで羨ましいよ、エスカレーター組は」
「なんだと!?」
BC自由学園は、大きな派閥争いがあった。エスカレーター組と受験組で派閥が形成され、生徒たちは皆、仲がとても悪かった。
「この英国の──っと、まただな」
怒りを露にしようとした安藤だったが、咄嗟に矛を納め、帽子をとった。
「すまない。またやってしまったよ、押田君」
「こちらこそすまない、安藤君」
二人はわざとらしく謝り合った。
「──で、マリー様はどこへ向かっておられるのだ? 私たちは同行しなくても良いのか?」
「大丈夫だ。マリー様はいつものように菓子を食されに行っただけだ」
「菓子? そんなもの学園に蓄えがあるではないか!」
「いや、只の菓子ではないらしいのだ、マリー様にとって──」
*
学園を出て、街の外れへ足を向けると、そこには小さな洋菓子店がぽつんとあった。
フランス語で書かれた看板が掲げられ、外壁には繊細な模様がいくつも描かれている。
まるで寓話の一頁のようにメルヘンな外観のお店。
マリーはその店に用があった。
がしかし、正面口から入ろうとせず、裏口へまわる。関係者意外立ち入り禁止と書かれたボードを無視して、ためらいもなく扉を押し開けた。
入った瞬間、甘い砂糖とバターの香りが鼻をくすぐり、マリーはとたんに笑顔になった。
「ルイ! 来たわ!」
「ん。おはよう」
中はキッチンであり、ステンレスの台にはボウルやペティナイフ、開きかけのレシピ本が散らばっていた。
そしてその奥で、椅子をベッド代わりに眠っていた男が、身を起こした。
彼の名はルイ。
この洋菓子店の一人息子であり、父の跡を継ぐため修行中の若きパティシエだ。
彼とマリーの関係を一言で表すのならば、幼馴染である。
ルイの父がマリーの家に菓子を卸していた縁で、幼いころから屋敷で遊んでいた。そんな近しい仲だった。
「もう“おはよう”じゃなくってよ」
ファー付きのセンスを、ルイに向けるマリー。
「ん。そうか。夕方か……昨日からずっと徹夜で作ってたから~」
ルイは蛇口をひねってコップに水を注ぎ、ごくりと飲み干す。
ひと息つくと、カッと目を開かせ、ようやく正常に戻った。
「よし、回復」
「じゃあ始めましょう。私、とっても楽しみにしていたのよ!」
「そうか」
少し照れたように頭をかきながら、ルイは大きな冷蔵庫を開けた。
冷気を纏いながら、かわいらしい装飾を施した皿に並んだお菓子を取り出す。
「まずは、いつもの」
そう言って差し出したのはマカロン。
淡いパステル色の小さなお菓子たちが、皿に整然と並べられていた。表面は光を受けて煌めき、中心のクリームがちらりと顔を出している。
ピスタチオ、フランボワーズ、シトロン。
それぞれの甘やかな香りがキッチンを満たしていた。
「ふふっ、小さくてかわいい」
マカロンを一つ、手に取るマリー。
「私、マカロンのこういうところが好きなの。まるでパリの街並みのようにカラフルで、見ているだけで心が踊るわ♪」
「そうだな」
「それじゃあ早速」
マリーが目を輝かせながら、マカロンを一つ、ぱくりと食べた。
「ん~♥️ 噛んだ瞬間に、マカロンの甘い世界観が広がる~。外はさくさくと、でも中は甘いクリームがとろけて、まるで包囲殲滅戦のようだわ。外郭を砕けば、内側から甘味が溢れてくる。もうここからは逃げられないのね」
マリーは目を細め、頬を押さえながら言った。
「C'est très bon(とっても美味しいわ!)」
「…ありがとう」
ルイはフランス語を理解していなかったが、なんとなく褒められた気がしたので、礼を言っておくことにした。
「でも、マカロンはあまり自信無かった」
「そうなの? こんなに美味しいけれど」
ひょいとまた一つ、マカロンを口にしながら、彼女はルイを見た。
「只の試作品だ。店のショウケースに並べも出来ねぇよ…。まあそんなことどうだっていい。次のは?」
「もちろん頂くわ!」
次に出されたのは、モンブランだった。
栗色、いや栗のクリームが渦を描くように重なりあい、山を築かせている。その頂点には栗の実がちょこんと飾られていた。
「モンブランね!大好きよ! もう好きすぎて、モンブランになら抱かれても良いくらいだわ」
「何言ってんだ」
フォークをマリーの前に置くと、彼女はすぐに手に取り、一口いった。
「~この濃厚なマロンペースト。このマロンクリーム。栗の甘みが存分に出ているわ。王道ね。余計なことをせず、栗本来の旨味だけで勝負しているのね、ルイ!」
「…ああ。そっちの方が好きだろ?」
「ええ!」
フォーク片手にマリーは、とろけそうな笑顔を向けた。
「Quel Bonheur!(とっても幸せよ!)」
だからフランス語は分からない。
「最後の菓子は………」
ルイが冷蔵庫を開け、中に手を伸ばすが、唐突に静止した。なにやら、取り出したくない様子だった。
「どうなさったの?」
「いや……今から出すのって失敗作なんだよな。だから、その…」
「もう! いいから出しなさい」
マリーが皿をフォークで叩き、催促する。ルイはしぶしぶ、中からケーキを出した。
「これはなに?」
「オペラっていうお菓子。難易度の高いお菓子で、挑戦してみたんだが、駄目だった」
「オペラね。知っているわ」
皿の上に置かれたそれは、ケーキと呼ぶには値しない何かだった。
層は崩れ、クレームは飛び散り、チョコもバラバラ。
本来はキラリと輝くグラサージュが特徴のオペラの面影は無く、まるで地面に一度落としたような無様な姿であった。
「…下手くそだろ。そもそも原型が無ぇ」
くぐもった声で、ルイは言った。
「だから食わなくても──」
「いただきます!」
マリーはフォークを突き刺し、クリームとともにスポンジを救い上げ、一口、頬張った。
「ん! これは生地の層に、ほろ苦いコーヒーとバタークリームの味。舌の上で、苦味と甘味が混ざりあっているわ。あ。最後にはカカオの少しビターな味わいもひょっこりと顔を出したわ。まるで縦深戦ようね。苦味が戦線を押し広げていて、層の奥へと甘味が進んでいる。美味しいが幾重にも重なっているわ~」
マリーはそう言うと、幸せそうにオペラを食べ続けた。
ルイはその光景を眺めながら、ふと口に出す。
「そんなに旨いか?」
「ええ! 最高に美味しいわよ」
「…そうか」
短い返事の後、ルイは少しだけ言葉を探すように、沈黙した。
開いたままのレシピ本を指先でいじりながら、やがてぽつりと呟いた。
「俺さ。本当はさ、そこまでお菓子作りって好きじゃないんだよな」
「ほうなの?」
ほっぺたにケーキを詰めながら、返答するマリー。
「ほん…そんな風には見えないわ」
「本当だよ。技術も優れてないし、どっちかっていうと食う方が好きだし…」
「じゃあどうしてお菓子作りをしているの?」
マリーが小首を傾げると
「そうだな──」
息を整え、ルイは椅子に腰かけ
「マリーが食べてくれるから」
静かに、そう呟いた。
フォークのカチャカチャ音だけが静かに響く。
そして食べ終わり、マリーはふわりと笑った。
「そうなの! 私もルイのケーキだから、最高に美味しいのよ!」
彼女は口にクリームをつけながら、満面の笑みで言い放った。
「…ふっ。そうか。じゃあまた今度も作る」
「ええ。楽しみにしているわ!」
そうして二人は笑いあった。
*
そして数時間後。
「もう帰るんだな」
「ええ。また試合が迫っていて、明日も朝から練習なの」
マリーは鏡の前でえりを直し、帽子の角度を整える。
「戦車道か」
「ええ」
「もう隊長さんだもんな、マリーも」
「まったく大変なのよ。みんな仲が悪くて、嫌になってしまうわ」
「ははは…また観に行くよ」
「絶対よ!」
「ああ」
そう言葉を交わし、マリーは店の出口へ歩き出す。
ドアの前で足を止め、ノブに手をかけようとした瞬間、くるりと振り向いて
「Je craque pour toi !」
とルイにフランス語で言った。
だからフランス語は分からないって。
「なんて?」
「………別に。"またね" って言ったのよ!」
「そうか」
そうして、マリーはそそくさと帰っていった。
「さあて! もう一つくらい、ケーキ作るかな」
こうして今日も、この店は甘い香りに包まれた。
以上です。ありがとうございました
ガルパンを最近やっと全話観まして、久しぶりにアニメにハマりましたね
好きなキャラは西隊長とローズヒップ、マリー様です
というか好きなキャラしかいねぇ!
もっとガルパンの小説を書きたいと思った(小並感)