【本編完結】時間の悪魔はデンジとレゼを幸せにしたい 作:もく
騙されたな!ガハハ!
54話 2人の幸せのその先で
結婚式場のざわめきの中で、クロはぼんやりと天井を見上げていた
なにかを思い出そうとしたわけじゃない
けれど、さっき天使が読んだあの一文を聞いた瞬間、曖昧だった記憶の輪郭が急に鮮明になっていった
3年前
まだ何も始まっていなかった頃
あの日、クロはヒカリと向かい合っていた
「契約についてだが、100年分の寿命を“与える”。その寿命は能力使用や普通に生きてるだけで減っていくものだ。それが残ってるうちは多少消費が増えても、ある程度は自由に時間を操れる」
ヒカリは顎に手を当て、真面目な顔で頷く
「なるほど……」
クロは続けた
「あとはお前次第だな。それ使い切ったら契約は終了。普通の人間として生きることになる」
「ふーん……でもそんなにいい条件出しちゃってよかったの? 契約している間は、デフォルトの僕の寿命は減らないんでしょ?」
「まあそうだが。お前が俺の望む2人を救ってくれるなら、正直なんでもいい」
ヒカリは少し考えてから、軽い調子で言った
「契約するなら対価を差し出すよ。万が一僕が失敗してその寿命がゼロになった時、君は僕の体を奪って魔人になるとかどう?」
「……まあそれでいいが」
「あと契約追加」
「なんだ」
「さっきの“寿命を与える”のところは忘れる」
クロは眉をひそめた
「なんでだ?」
ヒカリは笑った
「たぶん僕、追い詰められた状況のほうが強いし。未来の僕まで騙して『実はまだ生きられまーす』とか『おっぱっぴー』ってやってみたいなって。君も忘れててもらうことにしようかな? 成功したら思い出す、とか」
「……それは明確に条件をつけないと成立しないぞ」
「んー、じゃあこうしよう。君が救いたい2人が、ちゃんと再会して、その先へ進めた証ができた時。つまり——その二人の結婚式」
クロはしばらく黙ってから言った
「……わかった。契約成立だ」
あの日、2人はもう一つの契約を交わしていたのだ
そして今
式場でクロはゆっくりと笑った
(まんまと騙されたな。俺も、お前も)
天使のスピーチが終わった直後、デンジがクロの前に立つ
「どういうことだよ。なんで教えてくれなかったんだよ」
「悪かった。まさか天使が読むとは思わなかった」
クロは肩をすくめる
「けどな……ここにいる全員はヒカリ含めて見事に3年前のあいつに騙されたんだ」
空気が止まる
「ヒカリはまだお前らと生きられる」
「……は?」
クロは契約の内容を説明した
ヒカリ自身の本来の寿命はこの3年間、一切減っていないこと
消費していたのは“与えられた100年分”だけだったこと
そしてその契約は今この瞬間、成立を迎えたこと
「3年前のあいつは、たぶんかなり寿命を残せると思ってたんだろうな。まさかここまで大事になるとは思ってなかったんだろう。せっかくの式をぶっ壊しちまってすまない」
数秒の沈黙
そして、デンジが笑った
「なんだよ。ヒカリ生きてんのか」
あまりにもあっさりと言うデンジ
「じゃあこれで全員ハッピーで終われるな! ヒカリのとこ行こうぜ!」
レゼも笑う
アキは小さく息を吐いた
天使は「……ほんとバカばっか」と呟きながらも、どこか安堵していた
クロは頷く
「ああ……行くぞ」
ヒカリは草原に寝転び、目を閉じていた
風が静かに吹いている
(これでいい)
そう思った、その時
複数の足音がこちらに近付いてきた
「何勝手に逝こうとしてんだよ、バーカ」
目を開ける
クロが立っている
その後ろに——みんな
「みんな……なんでいるの!?」
アキが冷静に言う
「式で遺書を読ませるな」
「読むなって書いたよ!?」
天使がむっとする
「大事なこと隠してた罰だよ。僕の涙返して」
「いや返せ……ん? 天くん泣いちゃったの?」
「うるさい……」
レゼが前に出る。
「ほんとに無茶しすぎ。でも……ありがとう」
デンジが笑顔で言う
「ってわけで、これからもよろしくな!」
ヒカリは瞬きをする
「うん……ん? これからって?」
クロが腕を組む
「お前が記憶から消した契約だ。お前自身の寿命はこの3年間、全く減ってない」
「……え?」
クロの簡潔な説明の後、天使が静かに言う
「君にも幸せになる権利はあるって言ったよね。今度は自分のために生きてよ」
ヒカリは空を見上げる
「参ったな……1人で静かに死ぬつもりが、過去の自分に邪魔されるなんて……」
デンジが手を差し出す
「ま、これからまだ生きられるんだから十分だろ? 行こうぜ!」
ヒカリは少し笑って、その手を取った
「……うん!」
8年後
デンジとレゼの間には娘が生まれていた
名前は
自分たちの未来を繋いでくれた存在への感謝を想ってつけた名だ
そして家にはもう1人
ナユタ
かつての支配の悪魔の転生した存在だった
今は成長して中学生になり、ミクと遊んでいる
遠くで爆発音が響く
残念ながら今日はデンジの出動日だった
「わりい……行かなきゃ」
「いってらっしゃい」
レゼが微笑み、軽くキスをする
「ズルいぞレゼ!」
「ママずる〜い!」
ナユタとミクが騒ぐ
デンジは二人を抱き上げ言う
「今日もパパは平和を守ってくっからな!」
そして外へ駆け出しスターターを引く
ブゥン!
チェンソーのエンジン音が鳴り響く
それを遠くで聞きながら、避難誘導をしていた1人の公安のデビルハンターの青年が呟いた
「いってらっしゃい、デンジ」
変わらない日常、溢れきった幸せが
この世界を、静かに、確かに、満たしていた
避難誘導を終えた青年のもとへ足音が近付く
クロだった
青年、ヒカリは笑顔でそれを迎える
ヒカリはあの後公安のデビルハンターに復職、公安のトップはアキがやることになっていた
2人は並んで歩き始める
もう契約者同士ではない
その姿は親しい友人のようだった
「で、マキマが言ってた“ずっと上の存在”ってのはなんだったんだ?」
「今それ聞く?もういいじゃん、終わったことなんだしさ」
「ダメだ、教えろ」
引かないクロにヒカリは微笑みつつ答えた
「はいはい」
「僕は君が認識していた外の世界のさらに外の存在、人間たちが神や天使や悪魔って崇める存在だよ」
「で、その天使様が何の用で来たんだよ」
「この世界で生きて別の結末を見ること、それが僕の目的だった」
「へえ……」
クロは特に驚きはしなかった
「この結末はどうなんだ?」
ヒカリは微笑む
「いいと思うよ。僕という異物が残っちゃったけど」
クロは鼻で笑う
「いいからお前は大人しくこの世界で生きろよ」
「わかってるって」
空は青い
世界は続いていく
救われた未来が、ちゃんと未来になっていく
これが彼らの選んだ結末
そして——
始まりの続きだった
以上となります!
当初の結末が前回のもので、アンケートでいう50%のハッピーエンドでした(まあ主人公死んでますけどデンレゼ救われてるんでハッピーエンドですよね)
で、今回の話はちょっと強引にヒカリを生かす結末となりました
書き直す前から1話には契約の続きとして隠してある会話を作ってはいたのでどこかで書こうとは思ってたんですが、案の定前回のアンケートでチギャウが大量発生することになったので予定通りすぐ投稿することになりましたね
完結してない以上2部に続けることはできないのでここで本当におしまいとなります
あと天使ヒカリの真のエンディングと台詞で匂わせてた呪術廻戦編置いときますね
よかったらそちらもご覧ください
https://syosetu.org/novel/393402/3.html
https://syosetu.org/novel/403585/
最後に評価だけでもよろしくお願いします
改めて本当にありがとうございました