悪役令嬢、宇宙《そら》に出る―断罪回避のその先で   作:想いの力のその先へ

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ふたりの男性《想い人》

 あの後、〈スピネル〉はじめとした第17戦隊は問題なくケルン衛星補給基地へと帰還。現在は第3ドックへ入渠、整備を受けています。

 戦隊員にしても、最低限の人員を残して、後は休息を指示。ほとんどの人員は――基地内限定とはいえ――休みで羽を伸ばしていることでしょう。

 ごぅん、ごぅん、と遠くで艦艇のエンジン音や、バチバチと整備のための火花が散る音を横に、あたくしは狭い、鉄骨が剥き出しの通路を使ってユリウス殿下との通信のため、基地内の機密用通信ベイへ――。

 

「あら、ヴァイス・アークライト大尉。ごきげんよう」

 

 移動しようとして、同じ戦隊所属。〈マラカイト〉艦長のヴァイス大尉と鉢合わせしました。でも、これ。鉢合わせというより……。

 

「おう、セレスティーネ・ラインベルク大尉も元気そうだな。直接顔を合わせるのは久しぶりだが、安心したよ」

 

 そう言ってヴァイス大尉は黒髪黒目、薄く生やした髭に似合う、男臭い笑みを浮かべました。

 彼、ヴァイス・アークライトはあたくしたちよりも年上の軍人で、もと軍学校の教官。あたくしたちの恩師でもあり、そして――。

 

「ひゃ、ぁ……! ちょっと、ヴァイス!」

 

 彼は自然に近づいてくると、あたくしの腰へ手を回し、抱き寄せました。もう、やっぱり。でも、ここは……。

 

「あまりお堅いことを言うなよ」

「いえ、そうではなく。ここ、人の目が……いえ、監視がありますわ」

「それもそうか」

 

 ちらり、とあたくしは天井に敷設されている半球体。監視カメラを示唆します。その言葉に納得した彼は、腰から手を離すと手首を握り、物陰へ。あたくしも彼に抵抗することなく、死角となる場所へともに移動して。

 

「んっ」

「ふ、ぅ……」

 

 ――ちゅう、と口付けを交わしました。

 実は、あたくしとヴァイス。恋仲であったりします。もちろん、彼と関係を持ったのは軍学校を卒業した後、ですが。まぁ、その前からある程度意識はしてましたけど。

 それはともかく、いくらここが死角であるとはいえ、誰かが通るかもしれない、という緊張が背徳感として背中をビクビク、と駆け巡ります。

 

 正直、あたくしも最初、彼と恋仲になるとは思っても見ませんでした。

 そも、あたくしは人とは違う特殊な体験をしています。それは前世、とでもいうべき記憶があること。そして、その前世でオルド皇国、という国を知っていたこと。……フィクションで、となりますが。

 

 ――星の王子と辺境令嬢-銀翼に誓う恋。

 

 そういう名の女性向け恋愛ゲーム。通称乙女ゲーがあったんです。その中でヴァイス・アークライトは攻略対象の一人でした。

 そして、その乙女ゲーの主人公の名はミリア・クロフォード。そう、あの娘こそが主人公。さらには、ライバルとなる悪役令嬢こそがあたくし、セレスティーネ・ラインベルクでした。

 

 だから、ミリアこそ恋仲になる、と思っていたのですけど……。まぁ、その場合。この場にヴァイスが、アークライト大尉がいなかったのは確かですね。

 なにしろ、大尉を軍学校からこちらへ、〈マラカイト〉艦長の席へ引っ張ったのはあたくし。正確に言うならラインベルク公爵家だったのですから。

 

「は、ふぅ……」

 

 ヴァイスと口を離し息を吐きました。その息に艶があったことに自分でも驚きます。何だかんだで、あたくしも無意識に彼を求めていたのでしょう。

 それだけに、少し申し訳ない気持ちになります。

 本来なら、彼はもっと高い階級についてもおかしくないだけの実績がありました。

 ですが、あたくしが戦隊長。第17戦隊の指揮官、ということで学校卒業後、大尉として抜擢された影響で、彼も大尉以上の階級へ就くことができませんでした。あたくし以上の階級になると、指揮系統がおかしくなってしまいます。同階級の大尉、というのもかなり無茶をしたほどです。

 ですが、そうしないと彼自身は属してないですが、平民たちの下士官派閥から、あたくしたちのラインベルク派閥が疎まれる可能性が高いです。だからこそ、要望が通った、ともいえます。もちろん、指揮権は戦隊長であるあたくしが上位、という取り決めはしました。そうしなければどのみち、指揮権がおかしくなってしまいますので。

 とにもかくにも、それゆえ、彼はいま、大尉という階級で頭打ちとなっています。

 

 それに恋仲、といってもあくまで私的な関係。どちらかというと、いまの状態のままでは公的に認められない関係というのが適切かもしれません。

 それは、身分の差が関係します。散々言っているようにあたくしはラインベルク公爵令嬢ですが、彼、ヴァイス・アークライトは平民。どうしても、結婚できるだけの身分差ではありません。

 それに、仮に彼があたくしと恋仲ではなく、他部隊に配属されたとしても大尉以上には上がれないでしょう。それも、彼が平民だから。

 このオルド皇国では旧来依然の身分主義が跋扈しています。だから、彼がいかに軍人として優れていても尉官以上には上がれないのです。

 

 そろり、とお尻に伸びるヴァイスの手をぺしり、と叩きます。さすがにこれ以上許すわけにもいきません。

 ……個人的に、あたくしも休息ならその先までしたい、というのはありますが。まぁ、立場上許されないのですが。

 

「ハハッ、さすがにダメかい?」

「あなたも分かってるでしょう、ヴァイス」

 

 そう、身分差ゆえに結婚できない。身体を許すわけにはいかない。だから、公爵家は彼に求めました。その身分差を崩すほどの功績を上げろ、と。

 そのために、彼をあたくしの補佐。同じ戦隊の艦長へ配属させたのです。功績を上げ、場合によっては娘を守るための肉壁になれ、と。

 もっとも、彼をこちらへ引き込んだのはそれだけが理由じゃありません。が、いまはそれよりも……。

 

「名残惜しいですが、こちらはまだ仕事中なので……」

「そうだったな、済まない」

 

 あたくしの言葉に頭をぼりぼり掻いて謝るヴァイス。まぁ、あたくしも久しぶり。だいたい一月ぶりの逢瀬で嬉しかったのですが……。

 ともかく、これ以上一緒にいると、今度はこちらが欲しくなってしまうので、早々にこの場を離れることにしました。

 でも、ヴァイスと触れた唇の感触を思い出し、顔が綻んでしまいます。

 

「ふふっ……」

 

 いけませんね。ユリウス殿下との通信の前に落ち着かないと。そう思いながら、あたくしは自らの気分を鎮めるのでした。

 

 

 

 

 

 機密用通信ベイへたどり着いたあたくしは、電気が点いてないことを確認します。いまは誰も使用していないようです。

 ぴ、ぴ、と認証コードを打ち込んだ後、ぎぃ、とノブを回し部屋に入り、電源を入れます。これで、いま、あたくしが使用していることが認知され、内部へ入られることはありません。

 むろん、無断使用なら突入される心配はありますが、今回は事前に申請を出しておきましたので問題ありません。

 

 あたくしはすぐにコンソールを操作。通信を立ち上げます。そして、あちらも待機していたのでしょう。即座に通信が確立されました。

 

『久しぶりだね、セラ』

 

 部屋上部のホログラムモニターに映る金髪碧眼の美丈夫。彼こそがこの国、オルド皇国の後継。オルド皇国皇子殿下のユリウス・オルドでした。

 

「はっ、お久しぶりです。中佐殿」

 

 あたくしは即座に中佐へ敬礼しました。しかし、中佐。ユリウス殿下は、にこり、と微笑みを浮かべてはいるものの……。

 

『しかし、良かったよ。君が無事で』

「……中佐殿」

『もし、君の身に何かあれば、と思うと僕は心配で、心配で』

「……殿下!」

『おっと、すまない』

 

 舌をちろり、と出して笑われます。相変わらず、というかなんというか。こういう空気を読まないところが苦手です。もう、あたくしたちは婚約破棄している、というのに……。

 この通信だってそうです。本来であれば、こんな雑談じみた報告は必要ありません。それを敢えて、ユリウス殿下の指示で行われています。そんな独占欲を持たれても困るのですが。

 こんな殿下ですが、件の乙女ゲーで攻略対象の一人。というよりメインキャラクターです。そして、あたくし。セレスティーネ・ラインベルクのもともと婚約者でありました。そんな状態で婚約破棄になったわけです。

 

 そも、婚約破棄もあたくしや殿下の意思ではありません。敢えて言うなら、時勢が許さなかった。そういうことです。

 

『さて、セレスティーネ・ラインベルク大尉。訓練航海について報告は受けている』

「はっ。お目汚しを――」

『構わない、構わないとも。それで聞いてるだろうが、改めて伝えておこう。君たち第17戦隊について、だ』

 

 やはり、来た。前線配備の指令でしょう。知らず知らずのうち、きゅ、と唇を結びます。これから、あたくしたちも本格的に前線へ出ることになる。

 

『どうやら、覚悟はできているようだね? ……セラ』

「中佐?」

『もし、本当に君がダメだと思うなら、僕の手で――』

「いけません、中佐!」

 

 それだけは認めてはいけない。そのようなことをすれば、早晩オルド皇国は立ち居かなくなる。それを許されるほど、オルド皇国に国力はないのです。

 

 ……なにしろ、オルド皇国は独立国家ではなく、とある大国の従属する属国なのですから。

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