悪役令嬢、宇宙《そら》に出る―断罪回避のその先で   作:想いの力のその先へ

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セラの覚悟

 機密用通信ベイでユリウス中佐のあまりにも危険な物言いに対し、あたくしが慌てて止めた後。聞かれていない、と分かっていながらも嫌な汗が止まりません。 

 そも、以前この立場になると聞きたくないものが聞こえてくる。と、あたくしは言いました。それは決して、第17戦隊の前線配備のことだけではなかったのです。

 

 そして、それはこの世界の人間では絶対に気付けないこと。あたくしが星の王子と辺境令嬢—銀翼に誓う恋という乙女ゲームを知るからこその差異。

 そもそも、かの乙女ゲームでは学園生活の三年間が範囲でした。ですが、当たり前の話ですが、学校を卒業したからといって物語が、人生が終わるわけではありません。

 そして、それが現実となった以上、その後の世界も生きていくのは当然の話。それまでは良いのです。だけど、まさか、物語で語られていない部分で苦労させられるのは想定外でした。

 

 現在と乙女ゲームとの一番の違い。それはやはり、舞台であるオルド皇国が属国となっていることでしょう。しかし、それも仕方ありません。

 我々の宗主国。名をアンドロメダ銀河連邦と言いますが、かの星間国家はその名の通り、アンドロメダ銀河の過半数以上を統治下に置く超大国。我々、オルド皇国の形式上の星間国家とは規模が違いすぎるのです。

 

 なにしろ、本来オルド皇国は星間国家ではなく単一恒星系の恒星国家でしかありませんでした。それが終わったのは五年前の皇国歴2192年。ちょうど、あたくしたちが軍学校に入学した年。連邦で大規模な叛乱が発生しました。

 連邦の皇族がほぼ族滅するほどの大叛乱。その大叛乱を鎮めた偉大な御方。現連邦に於いて宇宙軍総司令の座に就くおじさま。ロア・アレクセイ・レガリア・ヴォルフ公爵閣下の名に因んで、レガリア戦役と評される戦争。

 その戦争に於いて、我らオルド皇国は他の属国が叛乱に荷担するなか、唯一連邦側で参戦しました。そして、結果は当然、というべきか連邦の勝利。

 その結果、オルド皇国は恩賞という形で首都星系の他に、大陸型惑星を主星とするケルン星系。海洋型惑星を主星とするトリアナ星系を割譲されました。

 

 ……割譲された、までは良いのです。ただ、オルド皇国本来の国力。さらにレガリア戦役での戦力の消耗で、オルド皇国はとてもじゃありませんが、航路を維持できるだけの戦力がありませんでした。

 だからこそ、オルド皇国は少しでも早い戦力増強が必要でした。実態は訓練未了の戦隊ですら前線に配備しなければならない程のお寒い限りであっても。

 

 そして、それがあたくしたち。セレスティーネ・ラインベルクとユリウス・オルドの婚約にも影響しました。一言で言えばあたくしとユリウスが学校首席と次席。

 そんな優秀な人材を後方で遊ばせておく余裕などいまのオルド皇国にはありません。ですが、万一にでもユリウス殿下を前線に出し、戦死されては国家の危機です。

 つまり、消去法的にあたくしが前線に、指揮官として赴くのは既定路線でした。そういう意味ではあたくしが首席だった、という事実は追い風になったでしょう。優秀だから前線に置く、という言い訳がたつのですから。

 

 まぁ、そのように人的資源が払底しつつある皇国ですが、もちろん、というか箱物。艦船や艦載機なども足りていません。そちらもほぼ連邦の供与に頼っているのが実情。

 一応、ケルンには鉱物資源が、トリアナには海洋資源が豊富なので急ピッチで採掘を進め、自国でも少なからず生産をしています。第17戦隊の艦艇に関してはその自国製の物でもあります。

 正確にいうと少し違うのですが。

 

 時に、先ほどあたくしはロア・アレクセイ・レガリア・ヴォルフ公爵閣下のことをおじさま、と評しました。

 本来であれば、あまりにも失礼な言いぐさですが、それをお目こぼしされる程度の実情があたくしにはあります。

 ……レガリア戦役が起きる少し前、約半年前でしょうか。その時既に属国だったオルド皇国は、少しでも国威を高めようと二ヶ国間での婚姻を画策していました。そして、その槍玉に上がったのがあたくし、公爵令嬢のセレスティーネ・ラインベルク。

 そして、お相手が当時、連邦国軍。6つある軍団の第一軍団提督であったおじさま。ロア公爵閣下でした。

 しかし、進めようとした矢先にレガリア戦役の勃発。また、その前の時点でもおじさまは年齢を理由に固辞されていました。まぁ、あたくしが15歳。おじさまが43歳ですから、そういう意味では不思議ではありません。

 それにおじさまにはあたくしより歳上の、養子縁組した養女がいましたから、なおさらでしょう。さすがに自身の娘より歳下の妻を娶る、というのは悪評が立ちます。

 

 まぁ、婚姻自体はご破算となりましたが、それを理由に交流を持つことはできました。その結果、ヴォルフ公爵家とは悪くない関係を築けています。

 おじさまの義娘。当時、連邦から22歳の若さで騎士爵を受勲した才媛。現在、おじさまの後釜として第一軍団提督の地位にあるリディア・フォン・ヴォルフ提督とは親しい間柄となりました。

 その縁を使い、一部の艦艇。我が第17戦隊の艦艇を含むものはヴォルフ公爵領にある造船所で建造されています。皇国と連邦の技術の合の子、というわけです。

 そして、それで得られた技術をもとにこちらの造船技術を発展させています。

 

 また、おじさま。ロア公爵閣下は皇族でほぼ唯一の生き残り――一応、ヴォルフ公爵家は皇族の縁戚――でレガリア戦役後に即位したイリス・ユーニクス・レガリア・アンドロメダ女皇帝陛下の後見人として辣腕を奮っておられます。これは、言い換えれば、あたくしたちのバックに連邦自体がついている、ということ。

 

 ……だからこそ、先ほどのユリウス殿下の言葉は危険でした。彼は善意であたくしを前線から離そうとした。でも、あたくしは結果を示さないといけないのです。

 リディア提督との縁故も、ロア公爵閣下の後ろ楯も、あたくしが成果を出してこそのもの。堕落して、受けて当然などと高慢になれば、間違いなく縁を切られます。そんなものと縁を結ぶ必要などありません。あたくしが同じ立場でもそうします。

 だからこそ、あたくしは歯を食い縛ってでも前線へ立たねばなりません。それが最善の選択である、と知っているから。

 だからあたくしは、襟元を正し、中佐を、ユリウス殿下を見上げます。決意をもって、覚悟をもって。

 

「中佐殿、お気持ちは結構。あたくし、いえ。小官は覚悟をもって職務へ当たります」

『セラ……。いや、セレスティーネ・ラインベルク大尉』

 

 不思議と声は震えませんでした。むしろ、覇気すら乗っていたと断言できます。そんなあたくしの覚悟が分かったのでしょう。ユリウス殿下は頭を振り、そして命令を下されました。

 

『本日をもって、第17戦隊はケルン衛星補給基地へ正式配備。主任務はケルン―トリアナ回廊の交易路警備となる。質問は?』

「ありません」

『ならば、健闘を祈る。……こんなところで死んでくれるなよ、セラ』

 

 そこまで言って、殿下。参謀本部との通信が切れました。口許が自然と、きつく結ばれます。

 

「当然よ。こんなところで死んでたまるものですか」

 

 本来破滅するはずだった人生が繋がったというのに、こんなところで死んでなんていられない。

 あたくしは、あたしは今度こそ。今度こそ、前世で得られなかった幸せを得るんだ。日本人の佐伯瀬那ではなく、オルド皇国の公爵令嬢、セレスティーネ・ラインベルクとして。今度こそ。

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