悪役令嬢、宇宙《そら》に出る―断罪回避のその先で   作:想いの力のその先へ

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銀河連邦宇宙軍

 ユリウス殿下との通信から早くも二ヶ月経ちました。

 あの後すぐに、というわけではありませんが、いま、あたくしは〈スピネル〉艦上の人となり、航海路哨戒の任についています。エンジンの唸りとともにわずかに揺れる船体にも慣れてきたほどです。

 

「ミリア、現状は?」

「はい、艦長。問題ありません。静かなものですよ」

 

 ピピ、という音がコンソールから響き、ホログラムに表示されたレーダーを監視しつつヘッドセットを押さえています。少しでも、音を聞き漏らさないようにするためです。そんな状態でミリアは報告してきました。彼女が言うように今のところ海賊艦が襲撃、という事態は起こっていません。ですが、油断はできません。それはケルン―トリアナ間、というより我が国の立地が関係します。

 

「各員、念のため目視での確認も厳に。いつ送り狼が現れても不思議ではありませんからね」

 

 あたくしは通信も含めて、激をとばします。

 

 立地の関係。それにはまず、オルド皇国がどういう位置にいるか説明しなければなりません。

 そも、オルド含め、三つの星系は形だけで見ればそれぞれが隣り合う、いわゆる三角形の形になっています。

 ちょうど連邦からはそのように割譲されたわけです。

 それだけ聞けば、オルド皇国にとっても都合の良い形です。問題なのはオルド皇国含め、土地が銀河系外縁に位置すること。そして、内側に拡がるよう連邦の領土があります。

 

 つまり、もし海賊の襲撃があるなら、一番に襲撃されるのはオルド皇国。早い話が、皇国は連邦の盾になるよう星系を割譲された、ということです。

 特にケルン、トリアナ星系は最前線。となる形で、かつ、オルドの盾となる位置。即ち、皇国はこの航路を最優先で守らないといけないわけです。

 

「それにしても……」

「どうしました、航海長?」

「いえ、話で聞きましたけど、トリアナの港湾でデモが発生したとか。やっぱり、不安なんでしょうかね?」

 

 舵を取りながらの雑談。本来なら注意すべきなのでしょうが。

 

「えぇ、そうですね。ケルン、トリアナが割譲されて二年。しかし、皇国が完全に掌握したとは言いづらい状況です。だからこそ、皇国はひとつでも戦隊を巡回させさせ、民心を安心させたい、と心を砕いているんですよ」

 

 マリナが言うようにトリアナ港湾で先日、デモが発生しました。まぁ、星間国家として実績がなにもないオルド皇国に編入された上、防衛兵力が心もとない。と、なれば不安に思うのも無理ありません。

 しかも、それが最前線に位置するならなおさらです。

 一応、オルド皇国も連邦の傘に守られているとはいえ、それが完璧である、なんて保証もありませんから。

 

「だからこそ、我々が哨戒に出されている。ということですよね、艦長?」

「えぇ、そうです砲術長。実情はどうであれ、これで面目は保てます」

 

 きぃ、と席を動かして確認してくるノアに、そう返します。正直、危険な行為ではあります。しかし、それをせざるを得ないほどには民心の不満が高まっている、ということです。

 皇国の方も本音で言えば、もう少し防備を固めたいのです。それが如実に現れているのがあたくしたちの母港となっているケルン衛星補給基地です。

 

 あれは補給基地、なんて銘打っていますが、実際は宇宙要塞。防衛拠点として設計されています。なにしろ、拠点兵装として、艦艇よりも巨大な重力波衝撃砲や、いまだ艦艇サイズまで小型化できていないタキオン粒子圧縮砲など、これでもか。言うほどの武装を施されてます。

 タキオン粒子圧縮砲に関しては、連邦戦艦の主砲として搭載されている、といえば威力の方は想像できるのではないでしょうか?

 

 それと同等の基地をトリアナ外縁にも建造する計画も立ち上がっています。もっとも、物資、並びに資金不足で計画は遅々として進んでいませんが。

 まぁ、艦の整備計画と同時進行しているのですから、無理からぬことではあります。

 

「それに、〈スピネル〉は我が国で少ない重力波衝撃砲搭載艦ですからね。そういった意味でもプロパガンダになります」

 

 そう、なんだかんだで〈スピネル〉の重力波衝撃砲は最新鋭装備。他の艦、とくにオルド皇国建造艦の主兵装はフォトンレーザー、並びにレールキャノンが主流です。

 それに空母運用ノウハウもありませんから、第17戦隊は実験艦隊。という側面も強いのです。

 

「……艦長!」

 

 唐突なミリアの叫び。声が完全に切羽詰まっています。彼女はヘッドセットを押さえつけ、コンソールを、データを食い入るように見つめていました。

 そして、そのデータがこちらにも送られてきます。そこには明らかなレーダーの乱れが撮されていました。

 

「パッシブセンサー、並びにレーダーに感! なに、これ……。いえ、何者かがワープしてきます!」

「総員、警戒!」

 

 あたくしの号令とともに約20万㎞先に、広範囲の空間の歪みが検知されます。そして、それは徐々に形を帯びていき――。

 

「ビフレスト級正規空母12、ネリス級軽空母28、フリスト級巡洋艦、ヘルモーズ級駆逐艦他多数! 味方IFFがどんどん増えていく。これは……」

 

 ミリアが呆然と報告してきました。あたくしだって驚いています。レーダーに青い光点。味方シグナルが暴力的に増えていきます。あまりのことに目の前の光景に圧倒されました。これは、間違いなく……。

 

「連邦第5軍、第5艦隊。なぜこんなところに……?」

 

 そう、アンドロメダ銀河連邦主力のひとつ。主に空母打撃を目的とした第5軍の艦隊のひとつでした。

 しかし、この光景を見て、改めて思います。かつてのレガリア戦役。他の属国は、よく叛乱を起こそうと考えたな、と。

 あたくしは、はぁ、と緊張を解くよう息を吐いて、背もたれに身を預けます。

 

「なんにしても末恐ろしいわね。こんな艦隊があと35個もある、というんだから」

「まったくです……」

 

 気のせいか、ノアの声もひきつっていました。無理もありません。

 なにしろ、銀河連邦の軍団は6個艦隊構成。それが6軍団あるのですから、単純にいま、目の前にいる艦隊の30倍以上の兵力があるわけです。もちろん、軍団によって艦隊編成も変わりますから、一概に、とは言えないのですが。

 しかも、それとは別にイリス女帝直属の近衛軍。ロア公爵直属の親衛軍までいるのですから、どう考えても戦いにすらなりません。

 あのレガリア戦役ですら、初期に首都星を内部から襲撃されたため被害が拡大しましたが、それ以降叛乱軍側は目立った戦果をあげていないのです。しかし、それも目の前の戦力を見れば、納得というものでしょう。

 

「しかし、なぜ第5軍がこんなところに……?」

 

 あたくしが首をかしげていると、先方から通信が入った。それを受け取ったミリアから報告が入る。

 

「……第5軍、第5艦隊からです! ……えっ、と。現在、我が艦隊。海賊艦隊撃滅に向け進行中。オルド皇国艦隊は備えられたし。以上です!」

「備えられたし……? あぁ、そういう。全艦、第2種戦闘配備。近隣の艦隊にも通達を。取り零しが来た場合、こちらで殲滅する必要がある!」

 

 わざわざ、あの大艦隊がそう言うなら、かなり大規模な根城があるのでしょう。もしかしたら、訓練航海で出会った海賊艦は先遣隊だったのかもしれません。

 指示をとばすとともにサイレンが艦内に響き、人間の動きが慌ただしくなります。〈ヘリオライト〉でも赤色が灯り、一部の艦内ハッチが開いていきます。哨戒用の航宙機を出すようです。

 少し気が早いようにも思えますが、注意するに越したことはありません。

 あたくしは、いえ。〈スピネル〉もこれから起きるであろう戦闘に備え、気を引き締めるのでした。

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