ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第10話 空白地帯の再会 (Reunion in the No-Man's-Land)

E-2エリアにおける「無血投降」の成功は

 

「ホッジポッジ隊」の立場を微妙に変えた。

 

彼らはもはや、ただの「負け犬」や「消耗品」ではなく

 

E-2エリア責任者バリス大尉にとって「使えるが、扱いの面倒なカード」となっていた。

 

 

【連邦側(ホッジポッジ隊)】

 

E-2エリア、前線司令部テント。

 

カツオ・イトウ少尉は、バリス大尉から新たな任務地図を受け取っていた。

 

「……イトウ少尉。貴様の『カボチャのスープ作戦』は、上層部では評価が分かれている」

 

バリスは、濁った目でカツオの報告書を眺めた。

 

「……『兵士を甘やかす』という者もいれば、『弾薬の節約になった』という者もいる。……俺個人の意見としては」

 

バリスは、地図の一点を叩いた。

 

そこは、E-2エリアから遥か東、オデッサ戦線と中央戦線の中間に位置する『空白地帯』だった。

 

「……貴様は、『戦わずに勝つ』方法を知っている、厄介な男だ」

 

「……恐縮です」

 

「皮肉だ。……任務を説明する。この『空白地帯』への長距離威力偵察だ」

 

バリスは続けた。

 

「上層部は、オデッサから東へ逃げた残党はいない、と判断している。だが、俺の『勘』が、どうも臭うと言っている。ハンス・シュタイナーのような強者が、まだ潜んでいる気がしてならん」

 

アキラ伍長が、隣で息をのむのが分かった。

 

「大尉。我々は、ハンス中尉の部隊と交戦した可能性があります」

 

「知っている。第7基地のワセン大尉からの報告書でな。だからお前たちにやらせるんだ」

 

バリスの目が鋭くなった。

 

「他の連中じゃ、奴らの『仕事』の痕跡は見逃すだろう。だが、貴様ら『寄せ集め』の目なら、奴らの『匂い』を嗅ぎ分けられるかもしれん」

 

バリスは、カツオの目を真っ直ぐに見た。

 

「いいか、これは『掃討』じゃない。『偵察』だ。もし奴らのようなプロに遭遇したら、戦闘は避けろ。即時撤退し、報告しろ。……貴様らの『無血』の手腕に期待する。行け!」

 

それは、カツオたちが初めて、誰かの『信頼』に基づいた任務を与えられた瞬間だった。

 

 

【ジオン側(穴熊部隊)】

 

同時刻。オデッサ掃討エリアから遥か東、地下数百メートル。

 

泥の岸辺に乗り上げた四機(ザクタンク、J型、旧ザク二機)は、沈黙していた。

 

地下水脈を抜けた代償は大きかった。

 

「……報告します」

 

“教授”ビタム曹長の声が、疲労でかすれている。

 

「全機、シーリング剤(防水処理)の不備により、関節部に浸水。エネルギー残量、各機平均4%。これ以上の地下移動は、完全に不可能です」

 

「せっかく……あんな思いして、ここまで来たのに……」

 

“ルーキー”クェン兵長が、旧ザクのコックピットで膝を抱える。

 

「……地上に出る」

 

ハンス・シュタイナー中尉が、即座に決断を下した。

 

「このエリアは、もはやオデッサではない。連邦の主力は西だ。ここは『空白地帯』のはずだ」

 

「だが中尉、地上に何がある?」

 

“ビッグX”准尉が、顔の傷跡を歪める。

 

「エネルギーが無けりゃ、俺たちはただの鉄クズだ。あの『寄せ集め』以下のな」

 

「だから、地上に出て『調達』するんだ」

 

ハンスは、シェルターから持ち出した、さらに古い地質図を広げた。

 

「この上は、旧体制時代の地熱発電所の跡地だ。もし、施設の一部でも生きていれば……あるいは、地上の送電線がまだ機能していれば、我々のMSにエネルギーを再チャージできる可能性がある」

 

(工兵の仕事は、奪うだけじゃない。生み出すことだ)

 

ハンスは、失った掘削アームの代わりに、ザクタンクの無事な通常マニピュレーターを見つめた。

 

「教授、地上への最短ルートを探せ。ビッグX、ルーキー、残り4%のエネルギーで、地上まで這い上がるぞ」

 

彼らは、最後の力を振り絞り

 

古い地熱発電所の通気孔を目指し、再び「穴熊」の仕事を開始した。

 

 

バリス大尉からの任務を受け、二日後。

 

「空白地帯」と呼ばれる、見渡す限りの荒野。

 

二機の陸戦型ジムが、砂塵を巻き上げながら進んでいた。

 

管制トレーラーのタカシとリツコは、後方で待機している。

 

「……コーチ。マジで何もいねえじゃんか」

 

アキラが、センサーを最大範囲に広げながらぼやいた。

 

「やっぱバリス大尉の『勘』とか、当てになんねえよ。腹減った」

 

しかし、カツオは違和感を覚えていた。

 

(静かすぎる。鳥も、獣の気配もなさすぎる……。まるで、誰かがこの土地に鎮座しているかのように……)

 

カツオは、ハンス中尉との戦いを思い出していた。

 

(あの人なら、この荒野のどこに潜む? 風下か? 太陽を背にする位置か?)

 

カツオは、心理学者の目で、見えない「プロ」の思考をトレースしていた。

 

その時、カツオの陸戦型ジムが、古い地熱発電所の残骸を捉えた。

 

「アキラ、あそこを調べる。旧発電所だ。隠れるには好都合だ」

 

 

一方、その発電所の地下。

 

ハンスとビッグXは、地上へ通じる巨大な通気孔の真下に到達していた。

 

「……ルーキー、教授は下で待機。俺とビッグXで、地上を偵察する」

 

ハンスは、通気孔の格子蓋(グレーチング)に機体を固定し、コックピットのハッチをわずかに開けた。

 

彼はセンサーではなく、自らの「目」で地上の光を見た。

 

砂塵が舞う、荒涼とした大地。

 

……そして。

 

「……中尉」

 

ビッグXが、別の通気孔から息をのむ。

 

ハンスの目にも、それが映っていた。

 

地平線の向こうから、こちらに向かってくる、二つの影。

 

低い姿勢で、警戒しながら進んでくる、見慣れたシルエット。

 

(……陸戦型ジム……。あの特徴的な、寄せ集めのパーツ……)

 

ハンスの額に、冷たい汗が流れた。

 

「……なぜだ。なぜ奴らが、ここにいる」

 

荒野の真ん中で、オデッサの最下層で出会った二つの運命が、再び交錯しようとしていた。

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