ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第12話 12時間の賭け、コーチの嘘 (The 12-Hour Gamble and the Coach's Lie)

「空白地帯」の夜明け。

 

砂塵の向こうに消えていく二機の陸戦型ジムを見送り

 

ハンス・シュタイナー中尉は、硬直していた全身の力を抜いた。

 

「……12時間、か」

 

隣のザクII J型から

 

“ビッグX”准尉の荒い息遣いと、歯噛みする音が漏れてくる。

 

「……屈辱だ、中尉。あの『寄せ集め(ホッジポッジ)』のガキに……情けをかけられたぞ……!」

 

「感傷に浸るな」

 

ハンスは、即座に思考を切り替えた。

 

「あれは情けではない。『取引』だ。あの『コーチ』は、我々がここで無様に死ぬことより

我々という『プロ』が生き延びた先に何を見るか、そちらに賭けた。

……学者肌らしい、悪趣味な『賭け』だ」

 

ハンスは、地下で待機する部下たちに通信回線を開いた。

 

「教授、ルーキー。聞こえるか」

 

『ちゅ、中尉!? ご無事だったんですか! 連邦の反応は……』

 

「ああ、ご無事だ。それどころか、『客』がエネルギー源の在処まで教えてくれた」

 

ハンスは、旧地熱発電所の送電鉄塔を見上げた。

 

「総員、作業開始。あの『コーチ』が提示した時間は12時間。

12時間以内に、この死んだ発電所から、四機分のエネルギーを『盗み出す』

……工兵の、本領発揮だ!」

 

 

【連邦側(ホッジポッジ隊)】

 

E-2エリアへの帰路。

 

“大食い”アキラ伍長の不満は、コックピット内に充満していた。

 

「……やっぱ納得いかねえよ、コーチ。なんで見逃した!?」

 

「何度も言わせるな、アキラ」

 

カツオ・イトウ少尉は、冷静に機体を操りながら答えた。

 

「俺たちの任務は『威力偵察』。敵の撃破は含まれていない」

 

「だが、あいつらエネルギー切れだったんだぞ!あのままなら、E-2のガキどもみたいに、狂って突っ込んでこたりもしなかった!」

 

「そうか?」

 

カツオは、静かに問い返した。

 

「あの『穴熊』のリーダー、ハンス中尉は、あの状況でも戦闘の意思を捨てていなかった。もし我々がトリガーを引いていたら、彼は最後の1%のエネルギーで、我々を道連れにするか、発電所を自爆させていた。俺はそう判断した」

 

カツオは、あることわざをを思い出していた。

 

――窮鼠猫を噛む。

 

「彼らは『プロ』だ。プロの誇りを土足で踏みにじれば、最も危険な反撃を食らう。俺は、その『リスク』を回避したまでだ」

 

「……コーチの理屈は、分かんねえよ」

 

アキラはそう呟いたあと、それ以上は口を閉ざした。

 

 

午前10時。E-2エリア、前線司令部。

 

カツオは、バリス大尉の前に立っていた。

 

「……以上が、空白地帯の偵察報告です」

 

「ほう」バリスは、濁った目でカツオの報告書を眺めた。

 

「なるほど、『敵影、確認できず』と。だが、『旧地熱発電所に、極めて不安定な高エネルギー反応を感知。周辺地盤にも影響の恐れあり。部隊の接近は危険と判断。工兵技術部隊による精密調査を具申する』……か」

 

バリスは、報告書から顔を上げ、カツオの目を真っ直ぐに見た。

 

「イトウ少尉。貴様が、穴熊の『匂い』を嗅ぎつけられないはずがない。……正直に言え。何があった」

 

「報告した通りです、大尉」

 

カツオは、一切の動揺を見せずに答えた。

 

「あの発電所は、素人が手を出すには危険すぎます。ハンス中尉のような『プロ』なら、あるいは手を出すかもしれませんが……我々『寄せ集め』には、荷が勝ちすぎると判断しました」

 

バリスは、長い沈黙の後、深く息を吐いた。

 

(……このガキ。「ウソ」は言っていない。「事実」を隠しているだけだ。あの醸造所の時と同じ目をしている)

 

「……分かった」

 

バリスは、カツオの報告書に『受理』のサインをした。

 

「貴様の『慎重な』判断を信じよう。工兵部隊の派遣は……そうだな、手続きやら根回しやらで、最速でも明日の朝になるだろう。それまで、貴様らは基地で待機だ。下がれ」

 

「はっ!」

 

カツオが敬礼し、テントを出ていく。

 

(……よし、12時間以上、稼げた!)

 

カツオの背中を見送りながら、バリスは独りごちた。

 

「……だが、少尉(コーチ)殿。私もそこまで甘くはない」

 

バリスは、別の通信端末を取り上げた。

 

「こちらバリス。観測班、小型の偵察ドローン(フライ・アイ)を一機用意しろ。……ああ。イトウ少尉が『危ない』と言う発電所だ。どれほど危ないのか、空から確認させてもらう。……今すぐだ」

 

 

【ジオン側(穴熊部隊)】

 

発電所地下、タービン室。

 

ハンスたちの作業は、まさに死闘だった。

 

「中尉! B系統の冷却水が漏れてます! このままじゃオーバーヒートする!」

 

“ルーキー”クェン兵長が、旧ザクのコンソールから悲鳴のような声を上げる。

 

「教授! 送電をA系統にバイパスしろ! ビッグX、お前のJ型のシールドで、漏水箇所を物理的に塞げ! 急げ!」

 

ハンスは、ザクタンクの無事な通常マニピュレーターで

 

剥き出しになった高圧ケーブルを掴み、自機を介して他のMSへと接続していた。

 

一歩間違えれば、パイロットごと感電死する荒業だった。

 

(耐えろ……! この『借り』を返さずには死ねん!)

 

12時間の猶予期限が、刻一刻と迫っていた。

 

 

12時間が経過しようとする、日没間際。

 

E-2エリアの管制室。

 

バリス大尉は、偵察ドローンが送ってくるリアルタイムの映像を、カツオと共に見つめていた。

 

カツオは、バリスに呼び出されたのだ。

 

「……イトウ少尉。貴様の言う通り、実に『不安定』そうな発電所だな」

 

モニターには、荒廃した発電所が映し出されている。

 

カツオの額に、冷や汗が滲む。

 

 

同時刻。発電所地下。

 

四機のMSのエネルギーゲージが、60%まで回復していた。

 

「……ここまでだ!」

 

ハンスが決断を下す。

 

「ケーブルを切り離せ! 全機、地上へ! これより東へ、最大速度で離脱する!」

 

 

E-2エリア管制室で、バリスとカツオがモニターを静観していた。

 

「……ん?」

 

バリスが、目を細めた。

 

「……イトウ少尉。あの通気孔の影……何か、動いていないか?」

 

モニターの映像が、わずかにズームアップされる。

 

その瞬間、発電所の影から

 

四機の黒い影――ザクタンク、J型、そして二機の旧ザクが、砂塵を巻き上げて姿を現した。

 

「……!」

 

カツオが息をのむ。

 

バリスが、ゆっくりとカツオを振り返った。

 

その目は、怒りよりも、冷たい『確信』に満ちていた。

 

「……『敵影、確認できず』、か。少尉(コーチ)殿」

 

 

一方、荒野を疾走する旧ザクのコックピットで

 

教授が叫んだ。

 

『中尉! 高速接近物体! 連邦の偵察ドローンです! 我々を捕捉しました!』

 

ハンス・シュタイナーは、モニターに映る小さなドローンを睨みつけた。

 

「……あの『コーチ』め……!最後の最後に、厄介な『宿題』を残していったか……!」

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