ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
「空白地帯」を疾走する四機のザクと
彼らを追尾する連邦の小型偵察ドローン「フライ・アイ」。
カツオの計算を超えたバリスの「勘」が、ハンスたちの逃走を妨害し始めた。
【ジオン側(穴熊部隊)】
「中尉! ドローンは、後方500メートル! 速度を上げています!」
“教授”ビタム曹長が、旧ザクの不完全なセンサー情報を叫ぶように伝えてきた。
(あの『コーチ』め、甘く見すぎたか!)
ハンス・シュタイナー中尉は、ザクタンクの操縦桿を握りしめた。
12時間かけて確保したエネルギーは、この高速移動で急速に減少していく。
「教授、ルーキー! 無駄弾は使うな! ビッグX、ドローンを叩き落とせ!」
「冗談じゃねえぞ、中尉!」
“ビッグX”准尉のザクII J型が、進行方向に向かって急停止した。
「あんな小さなゴミに、対MS用のマシンガンを当てるだと!? 弾薬がもったいねえ!」
ドローンは、ハンスたちの機体の真上
最も狙いにくい高さを保ちながら追尾していた。
その目的は戦闘ではなく、座標の伝達、つまり『後続の連邦部隊の誘導』だ。
「当てろ、ビッグX!援軍を誘導されたら、このエネルギーは意味を失う!」
ビッグXは憎々しげに舌打ちした。
彼はマシンガンを構えたが、その小さな標的に当てる自信はなかった。
「クソッ、目測が狂う! こんな時にヒート・ホークは届かねえし、足止めも……」
その時、ビッグXの隣を、ボロボロの旧ザクが一気に加速して抜けていった。
搭乗者は、“教授”ビタム曹長だった。
「教授! 何をする! 速度を落とせ!」
ハンスが叫ぶ。
教授は、通信を全周波数に開放した。
『――中尉! 奴らは俺たちの機体のデータを取っている! 旧ザクの速度、機動性、全てが連邦のデータベースに載っている!』
教授の機体は、まるで最後のダンスを踊るかのように、不規則なジグザグ走行を始めた。
『ドローンが解析すべきは、MSのデータだ! 我々の機動を解析させ、データを【攪乱】させます!』
教授の旧ザクは、必死にドローンの注意を引きつけたが
ドローンはあくまでハンスたち全体の座標を追尾している。
「無駄だ、教授!」
その瞬間、もう一機の旧ザクが、教授機の真横から滑り込んできた。
“ルーキー”クェン兵長の機体だ。
『教授! 俺の機体を盾に!』
「ルーキー! バカな真似はやめろ!」
ハンスが怒鳴る。
ルーキーは、旧ザクのマニピュレーターで、教授機の背中を掴んだ。
そして、MSの「手」で、あるものを掴み取った。
それは、修理のために機体に括りつけてあった、使用済みの大型工具箱だった。
ルーキーは、旧ザクの全出力を右腕に集中させ
その工具箱を、まるで野球のボールを投げるかのように、真上に放り投げた。
ヒュンッ!
それは、対MS戦闘とはかけ離れた、あまりにも原始的な『投石』だった。
正確無比なプロの投擲ではなかった。
だが、ドローンがルーキー機の不規則な動きに一瞬対応が遅れた
そのたった一瞬のズレを突いていた。
ガシャッ!
工具箱は、ドローンのローターに直撃し、金属片の悲鳴を上げて四散した。
『やった! 破壊しました!』
ルーキーの興奮した声が響く。
「……バカめ……」
ハンスは、ザクタンクのコックピットで、安堵と怒りが混じった息を吐いた。
【連邦側(ホッジポッジ隊)】
E-2エリア管制室。
バリス大尉のモニターが、ノイズと共に暗転した。
「……何が起こった」
「ドローンとの接続がロストしました! 映像途絶!」
オペレーターが叫ぶ。
カツオ・イトウ少尉は、バリスの隣でモニターを見ていたが、何も言わなかった。
彼は、ドローンが最後に送ってきた、ノイズ混じりの映像の断片を思い出していた。
(……MSが『手』で、何かを投げている……?)
バリスは、椅子を蹴り飛ばすように立ち上がった。
「畜生! 偵察ドローンは高価なんだぞ! 撃破されただと!? 相手はMSだ! 撃破手段がないはずだろう!」
「大尉」
カツオは、一歩前へ出た。
「偵察ドローンは、こちらに戦術データを与える前に破壊されました。しかし、彼らは我々が追っていることを知ったはずです」
カツオは冷静に続けた。
「そして、我々は彼らの座標を失いました。……彼らは、必ず次の『穴』へと逃げ込みます。再び見つけるのは困難です」
バリスは、カツオを睨みつけた。
「……貴様は、奴らが逃げることに賭けた。そして奴らは、貴様が設定した『猶予』を使い切って、今まさに逃げ切った。……そう言いたいのか?」
カツオは、否定も肯定もせず、直立不動の姿勢を保った。
「私は、任務である『危険因子の発見』と『即時報告』を怠りませんでした。報告のタイミングについては、今後の改善点とさせていただきます」
カツオは、表情をそのままに部屋を退出した。
バリスは、カツオの「知恵」と「度胸」に
怒りよりもむしろ、奇妙な敬意を抱き始めていた。
「……フン。これでは、まるで貴様が『
その日の夕方。
バリスは、カツオに新たな任務を命じた。
「イトウ少尉。貴様らは、明日、第217補給大隊の部隊とは別のルートで、東の『空白地帯』へ向かう」
「……偵察任務ですか?」
「違う」
バリスは、地質図を広げ、ある地点を指差した。
「奴らが使う『穴』は、地下だ。地上を追っても無駄だ。東へ続く、古い『鉱山鉄道』のトンネルがある。貴様らは、そこを起点として、『地質学者』と組んで地下から奴らの痕跡を追え」
「地下へ……」
カツオが息をのむ。
「ああ。貴様は奴らの行動パターンを知っている。その心理学と、タカシのAIを駆使しろ」
バリスは、最後に皮肉を込めて言った。
「……それに、貴様なら、地下で奴らを見つけても、無駄な戦闘はしないだろうからな。『コスト』が安い」
カツオは、静かに敬礼した。
「ホッジポッジ隊、任務を承知しました」
これで、「ホッジポッジ隊」の戦場は、完全に「地下」へと移されることが決まった。
それは、彼らの『師』であり『敵』であるハンスたち『穴熊部隊』が最も得意とする領域だった。