ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle-   作:Ginさん

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第14話 地下への入口 (Welcome to Underground)

偵察ドローン(フライ・アイ)の破壊から二日。

 

「ホッジポッジ隊」は、E-2エリアの喧騒と泥濘(ぬかるみ)を離れ

 

再び東の「空白地帯」

 

――ハンス・シュタイナーが消えた荒野――

 

に戻ってきていた。

 

彼らの目の前には、古い山肌に口を開けた、黒い穴。

 

旧体制時代に掘られた「鉱山鉄道」のトンネル入り口があった。

 

そして、その入り口の前で腕を組み

 

忌々しそうにジムを見上げている一人の老人がいた。

 

「……彼が、バリス大尉の言っていた専門家か」

 

カツオ・イトウ少尉は、管制トレーラーから降り、その老人に敬礼した。

 

「連邦軍のドクトル・オーウェンですね。私はホッジポッジ隊のイトウ少尉です。本任務の誘導、よろしくお願いし――」

 

「やめろ、若いの」

 

老人は、カツオの敬礼を手のひらで制した。

 

その目は、地層のように幾重にも重なったシワの奥で、鋭く光っていた。

 

「私は軍属ではない。この戦争で『聖域(サンクチュアリ)』である地層がどれだけ破壊されたか、あんたたち軍人に説教される筋合いもない」

 

ドクトル・オーウェン。

 

この地域で、戦前から地質調査を続けてきた第一人者。

 

バリスが軍の権限で(おそらく無理やり)徴用した、偏屈な地質学者だった。

 

「……コーチ。なんかあのジジイ、ワセン大尉より感じ悪くねえか?」

 

陸戦型ジムのコックピットから、アキラ伍長がぼやく。

 

オーウェンは、カツオの背後にそびえ立つ二機の陸戦型ジムを睨みつけた。

 

「この鉱山鉄道に、そんな鉄の巨人で入るだと? 正気か? あそこは『悪魔の喉笛』と呼ばれてる場所だ。地盤は緩く、有毒ガスが溜まってるかもしれん。いつ崩落してもおかしくない。……生き埋めになりたいなら、止めんがな」

 

(困難な交渉だ……)

 

カツオは、心理学者の目で、この老人の「動機」を探った。

 

彼は、軍人を憎んでいる。

 

だが、それ以上に「地質」を愛している。

 

「ドクトル」

 

カツオは、敬称を変えて話しかけた。

 

「先生のおっしゃる通りです。我々軍人は、この大地のことを何も知らない。……ですが」

 

カツオは、トンネルの闇を真っ直ぐに見据えた。

 

「我々が追っているのは、ただの残党ではありません。彼らのリーダーは、我々と同じく『プロ』です。彼は、地質を知り尽くした『工兵(ハンス)』です。……彼は、先生が守ろうとしている『大地』そのものを利用し、その知識を『武器』にして、この地下を逃げているんです」

 

オーウェンの目が、ピクリと動いた。

 

「先生の知識がなければ、我々は彼を追えません。そして、無知な我々がこのトンネルに入れば、それこそ崩落させ、先生の『聖域』を破壊してしまうかもしれない」

 

カツオは、学者に頭を下げた。

 

「……どうか、我々に『地下』のルールを教えてください。彼を追うために」

 

オーウェンは、カツオの顔を数秒間値踏みするように見つめ、やがて、深くため息をついた。

 

「……フン。口だけは達者なようだな、『コーチ』とやら。……いいだろう。だが、俺の指示に従えん時は、その鉄の巨人を置いてでも、即座に撤退してもらう。それが条件だ」

 

 

「ホッジポッジ隊」の編成が変わった。 陸戦型ジム二機(カツオ、アキラ)が、ヘッドライトだけを頼りに先行。

 

その後ろを、管制トレーラー(タカシ、リツコ)が

 

ドクトル・オーウェンを助手席に乗せて続く。

 

 

ゴゴゴゴ……

 

 

MSが、狭いトンネルの壁に肩を擦りながら進む。

 

天井からは水が滴り、レールは赤錆びていた。

 

「……コーチ。マジで、こんな狭いとこ入んのかよ……」

 

アキラの陸戦型ジムが、閉所恐怖症のように、わずかに動きを鈍らせた。

 

「息が詰まりそうだぜ……。腹も減った」

 

『アキラ! 集中しろ!』

 

トレーラーから、タカシ軍曹の緊迫した声が飛ぶ。

 

『AI、リアルタイムマッピング開始!……すごい、このトンネル、一本道じゃない。無数の横穴が……』

 

『ガスセンサー、反応あり! メタン濃度、上昇中!』

 

リツコ伍長が叫ぶ。

 

『両機、内部循環を最大に!』

 

「ドクトル。何か気づくことは」

 

カツオが通信で問う。

 

オーウェンは、トレーラーの助手席で、壁の地層を食い入るように見つめていた。

 

『……これだ。壁を見てみろ、イトウ少尉』

 

オーウェンの声には、わずかな興奮が混じっていた。

 

『壁面に、新しい【削岩(さくがん)】』の跡がある。

 

それも、MS用の大型ピックによるものだ。

 

……間違いない。あんたたちの言う『工兵(ハンス)』は、ここを通った』

 

ハンス・シュタイナー。

 

彼は、この鉱山鉄道の「正規ルート」ではなく、古い地質図だけを頼りに壁を「掘削」してショートカットし、別の坑道へ抜けていたのだ。

 

『……なんて奴だ』

 

オーウェンが呻く。

 

「この地層の脆い『節理』だけを狙って、最小限の力で掘り進んでいる。

 

……これは、ただの工兵じゃない。芸術家(アーティスト)の仕事だ」

 

 

カツオは、その「穴」の奥を見据えた。

 

「行くぞ。ここから先は、奴らの『庭』だ。タカシ、マップを更新。リツコ、崩落の兆候を見逃すな。アキラ、絶対に俺から離れるな」

 

ホッジポッジ隊は、ついに「穴熊」が掘った穴を追って、本当の「最下層」へと侵入していく。

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