ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
偵察ドローン(フライ・アイ)の破壊から二日。
「ホッジポッジ隊」は、E-2エリアの喧騒と
再び東の「空白地帯」
――ハンス・シュタイナーが消えた荒野――
に戻ってきていた。
彼らの目の前には、古い山肌に口を開けた、黒い穴。
旧体制時代に掘られた「鉱山鉄道」のトンネル入り口があった。
そして、その入り口の前で腕を組み
忌々しそうにジムを見上げている一人の老人がいた。
「……彼が、バリス大尉の言っていた専門家か」
カツオ・イトウ少尉は、管制トレーラーから降り、その老人に敬礼した。
「連邦軍のドクトル・オーウェンですね。私はホッジポッジ隊のイトウ少尉です。本任務の誘導、よろしくお願いし――」
「やめろ、若いの」
老人は、カツオの敬礼を手のひらで制した。
その目は、地層のように幾重にも重なったシワの奥で、鋭く光っていた。
「私は軍属ではない。この戦争で『
ドクトル・オーウェン。
この地域で、戦前から地質調査を続けてきた第一人者。
バリスが軍の権限で(おそらく無理やり)徴用した、偏屈な地質学者だった。
「……コーチ。なんかあのジジイ、ワセン大尉より感じ悪くねえか?」
陸戦型ジムのコックピットから、アキラ伍長がぼやく。
オーウェンは、カツオの背後にそびえ立つ二機の陸戦型ジムを睨みつけた。
「この鉱山鉄道に、そんな鉄の巨人で入るだと? 正気か? あそこは『悪魔の喉笛』と呼ばれてる場所だ。地盤は緩く、有毒ガスが溜まってるかもしれん。いつ崩落してもおかしくない。……生き埋めになりたいなら、止めんがな」
(困難な交渉だ……)
カツオは、心理学者の目で、この老人の「動機」を探った。
彼は、軍人を憎んでいる。
だが、それ以上に「地質」を愛している。
「ドクトル」
カツオは、敬称を変えて話しかけた。
「先生のおっしゃる通りです。我々軍人は、この大地のことを何も知らない。……ですが」
カツオは、トンネルの闇を真っ直ぐに見据えた。
「我々が追っているのは、ただの残党ではありません。彼らのリーダーは、我々と同じく『プロ』です。彼は、地質を知り尽くした『
オーウェンの目が、ピクリと動いた。
「先生の知識がなければ、我々は彼を追えません。そして、無知な我々がこのトンネルに入れば、それこそ崩落させ、先生の『聖域』を破壊してしまうかもしれない」
カツオは、学者に頭を下げた。
「……どうか、我々に『地下』のルールを教えてください。彼を追うために」
オーウェンは、カツオの顔を数秒間値踏みするように見つめ、やがて、深くため息をついた。
「……フン。口だけは達者なようだな、『コーチ』とやら。……いいだろう。だが、俺の指示に従えん時は、その鉄の巨人を置いてでも、即座に撤退してもらう。それが条件だ」
「ホッジポッジ隊」の編成が変わった。 陸戦型ジム二機(カツオ、アキラ)が、ヘッドライトだけを頼りに先行。
その後ろを、管制トレーラー(タカシ、リツコ)が
ドクトル・オーウェンを助手席に乗せて続く。
ゴゴゴゴ……
MSが、狭いトンネルの壁に肩を擦りながら進む。
天井からは水が滴り、レールは赤錆びていた。
「……コーチ。マジで、こんな狭いとこ入んのかよ……」
アキラの陸戦型ジムが、閉所恐怖症のように、わずかに動きを鈍らせた。
「息が詰まりそうだぜ……。腹も減った」
『アキラ! 集中しろ!』
トレーラーから、タカシ軍曹の緊迫した声が飛ぶ。
『AI、リアルタイムマッピング開始!……すごい、このトンネル、一本道じゃない。無数の横穴が……』
『ガスセンサー、反応あり! メタン濃度、上昇中!』
リツコ伍長が叫ぶ。
『両機、内部循環を最大に!』
「ドクトル。何か気づくことは」
カツオが通信で問う。
オーウェンは、トレーラーの助手席で、壁の地層を食い入るように見つめていた。
『……これだ。壁を見てみろ、イトウ少尉』
オーウェンの声には、わずかな興奮が混じっていた。
『壁面に、新しい【
それも、MS用の大型ピックによるものだ。
……間違いない。あんたたちの言う『工兵(ハンス)』は、ここを通った』
ハンス・シュタイナー。
彼は、この鉱山鉄道の「正規ルート」ではなく、古い地質図だけを頼りに壁を「掘削」してショートカットし、別の坑道へ抜けていたのだ。
『……なんて奴だ』
オーウェンが呻く。
「この地層の脆い『節理』だけを狙って、最小限の力で掘り進んでいる。
……これは、ただの工兵じゃない。
カツオは、その「穴」の奥を見据えた。
「行くぞ。ここから先は、奴らの『庭』だ。タカシ、マップを更新。リツコ、崩落の兆候を見逃すな。アキラ、絶対に俺から離れるな」
ホッジポッジ隊は、ついに「穴熊」が掘った穴を追って、本当の「最下層」へと侵入していく。