ガンダム一年戦争外伝 オデッサの最下層 -Underdogs' Chronicle- 作:Ginさん
「遭難」という名の命令違反から、6時間が経過した。
カツオ・イトウ少尉とアキラ伍長の陸戦型ジム二機は
中央山脈の猛吹雪の中で、死の淵をさまよっていた。
【連邦側(ホッジポッジ隊)】
「……コーチ! マジで死ぬぞ、これ!」
アキラ伍長の陸戦型ジムが、膝まで積もった雪に足を取られ、大きく体勢を崩した。
コックピット内に響くアラート音が、彼の苛立ちを増幅させる。
「外気温、マイナス32度! ヒーター全開にしてんのに、指先が凍えてきた!
腹も減った! もう一歩も動けねえ!」
「……アキラ、叫ぶな。エネルギーの無駄だ」
カツオの陸戦型ジムも、機体の関節部が白く凍りつき、動きが明らかに鈍くなっていた。
タカシのAIサポートも、リツコの的確な索敵もない。
頼れるのは、旧式のセンサーと、凍えそうな自分自身の五感だけだった。
(……判断ミスだったか)
カツオは、心理学者としての冷静さを失いかけていた。
ハンスへの「借り」を返すという、ある種の自己満足的な動機。
それは、この絶対的な「自然」という脅威の前で、あまりにも無力だった。
「エネルギー残量、7%……。このままヒーターを使い続ければ、あと2時間で
俺たちはこの『
「クソッ!」
アキラがコックピットを殴りつける。
「ハンスどもは、どこ行きやがったんだ! あの『顔に傷のある野郎(ビッグX)』に
一発お見舞いする前に、俺たちがスクラップかよ!」
カツオは、かろうじて動くセンサーを、最大範囲に設定した。
(何か……何でもいい。熱源、人工物、風をしのげる洞窟……)
だが、猛吹雪がセンサーを乱し、有効なデータは何も得られない。
「……アキラ。機体を停止させろ」
「はあ!? 止まったらマジで死ぬぞ!」
「このまま動いても同じだ。エネルギー消費を最小限にし、吹雪が弱まるのを待つ。
……それが、俺たちにできる唯一の『戦術』だ」
二機の陸戦型ジムは
雪に埋もれるようにして、荒れ狂う吹雪の中で沈黙した。
【ジオン側(穴熊部隊)】
同時刻。
気象観測所。
そこは、雪山の地獄とは別世界の、束の間の『天国』だった。
「……おお……」
“ルーキー”クェン兵長は、旧ザクの整備も忘れ
観測所の備蓄食料庫で見つけた古いコンソメスープの缶詰を
地熱で動くコンロで温め、その湯気を貪るように吸い込んでいた。
「……あったかい……。生き返ります、中尉……」
「浮かれるな、ルーキー」
“ビッグX”准尉が、ヒート・ホークを背負ったまま、観測所の窓から外の吹雪を睨んでいた。
「こんな雪じゃ、あの『寄せ集め』どもも、追っては来れんだろうがな」
「油断するな」
ハンス・シュタイナー中尉は、観測所の古い地図を広げ、周辺の地形を頭に叩き込んでいた。
「あの『コーチ』は、俺たちを追うことを諦めん。……教授、通信機はどうだ」
“教授”ビタム曹長が、旧式の長距離アンテナの制御盤の前で、疲れた顔を上げた。
『……ダメです、中尉。地熱発電の出力が不安定すぎる。この吹雪で、アンテナも凍結している。信号が、
「そうか……」
ハンスは立ち上がった。
「ビッグX、教授。俺とルーキーで、外のアンテナの氷を落としてくる。
お前たちは、この観測所の周囲に『
……あのコーチ殿が、万が一ここまでたどり着いた時の、『挨拶』代わりだ」
ハンスは、ルーキーの旧ザクと共に
猛吹雪の中、観測所の屋根に設置された巨大なパラボラアンテナへと向かった。
吹雪の中で待機し、意識が朦朧とし始めていたカツオ。
その時、陸戦型ジムのコックピットの通信機が、わずかなノイズを拾った。
『――ザザッ……ルーキー、そこじゃない! アンテナの軸が……(ザー)……』
「……!」
カツオは、凍える手でコンソールのボリュームを最大にした。
『……(ザー)……中尉! こっちの氷、厚すぎます! J型のヒート・ホークがあれば……』
『……馬鹿を言え! あれは戦闘用だ! こんな作業でエネルギーを使うな! 素手でやれ!』
「……アキラ!」
カツオが、隣で沈黙していたアキラの陸戦型ジムに呼びかける。
「アキラ! 起きろ! 敵の通信を傍受した! ごく近距離だ!」
「……(ザー)……コーチ……? もう、カボチャの夢でも見てるのか……」
「違う! 奴らだ! ハンスだ! この近くに、奴らの『拠点』がある!」
カツオは、最後の力を振り絞り、陸戦型ジムのセンサーを最大出力で起動させた。
吹雪が、わずかに弱まった一瞬。
センサーが、北東方向、距離3キロの丘の頂上に
微弱な「熱源」と「人工物」の反応を捉えた。
気象観測所。
そして、その屋根の上で作業する、二機のMS(ザクタンクと旧ザク)のシルエット。
「……見つけた……」
カツオの目が、再び『狩人』の光を取り戻す。
一方、観測所の屋根。
アンテナの氷を落とす作業をしていたハンスのザクタンクが、ふと動きを止めた。
『中尉? どうしました?』
ルーキーが尋ねる。
「……いや」
ハンスは、南西の、何もないはずの吹雪の向こうを睨みつけていた。
「……気のせいか。……今、連邦のMSが使う、指向性の索敵電波を一瞬感じたような……」